アルケミストの恋愛事情
02.シノとグレアム
「えーっと、急にアレなんですけど、何故ヒルデさんはここに……?」
気になり過ぎたのでやっぱり聞いてみる事にした。真面目な表情の彼女は神妙そうな面持ちで頷く。まさかとは思うが、彼女も恋愛沙汰を起こしているのだろうか。意外ではあるが、慈善事業以外に興味があるのならそれはそれで健全なので大変喜ばしい事でもある。
「実はナターリアに語学の為と誘われてしまったのです。グレアムさんとシノさんのお話はとても勉強になりますね」
「真面目か!? ヒルデさん、多分これそういう集まりじゃないです!」
ナターリアに上手く言いくるめられてここまで連れてこられたようだ。随分と真剣な顔をしているが、一体何を吹き込まれたのか。不安は膨らむばかりである。ヒルデガルトにとって、ナターリアはあまり良いお友達ではないかもしれない。
ナターリアの強引さに恐怖さえ覚えていると、再び猫を被り直した彼女はここぞとばかりに2人へ質問する。
「そういえばぁ、お二人ってあまり一緒に居るところをみないけれど不安とかはないのかなっ?」
確かに。お付き合いしていると公言しているグレアムとシノは一緒に行動している頻度そのものは少ない。シノはそもそも鍛冶士見習いだし、グレアムもデザイナーとしてクエストを引き受けているなど別々の依頼をこなしているからだ。
加えて、どちらも戦闘向きではないので専ら討伐戦など多くの人数が参加するクエストに出る事も少ない。であれば、ギルド内で全く異なる行動を取るのは当然の事だ。
ナターリアの核心を突くというか、痛いところを突くような一言にグレアムが苦笑する。そりゃそうだ、何てことを堂々と訊くのか。
ただ彼が苦笑している間に、シノが鼻を鳴らして獣人の素朴な問いに応じた。
「別に不安や心配は無いな」
「そうねぇ、アタシ達、相思相愛だものね!」
「……まあ、これは信頼関係ってやつかな。他に好きな女が出来たとしても、私とさよならしてからお付き合いするような性格だし」
「あらやだ! そんな事にはならないから安心してちょうだい!」
「どうかな。お前に限らず、私は絶対なんて言葉を信仰しないようにしているからね」
――信頼関係。
何て素晴らしい響きなのだろう。2人の間で認識の齟齬もあるようだったが、最終的には浮気はしないとこの場で宣言しているようなものだ。この安定感は羨ましい限りである。
ヒルデガルトの言う通り、意外と為になる会なのかもしれない。認識を改めていると、思いの外強い力でナターリアに背を叩かれた。
「どう? どう、メヴィ。アンタもこうなりたくないの?」
「アロイスさんと?」
「それ以外に誰がいるってのさ」
――アロイスさんと私が……目の前の2人みたいに……。
想像を試みるも、それさえ背徳的、罪悪感さえ湧いてしまい頭を横に振る。いやいやいや、自分は彼に釣り合うような人間性を持ってはいないし、何よりアロイスにシノ達のような恋愛感情があるとは到底思えない。
彼のこちらに対する認識と言うのは限りなくペットに近い、もっと言うなれば手の掛かる小さな子供のようなものだろう。
その後も何度かイメージを脳内で作り上げてはみたものの、コレジャナイ感が酷かったので止めた。どうあってもこのイメージはおかしい。
「やっぱり、私には相応しくない光景かな。アロイスさんの隣に私が立っているだけでも、何だか浮いて見えるのに」
「そう? 最近は随分と様になってきたと思うけどね」
「どういう意味で……。ギルドのみんなの目が慣れてきたんでしょ」
そういえば、と不意にヒルデガルトが首を傾げる。
「アロイス殿は一緒ではないのですか?」
「あ、はい。別件で戻って来ているので、そっちに行っちゃいました」
「そうですか。まあ、アロイス殿もそれなりに多忙という事ですね」
「でも、3日以内には戻ると言っていたので、用事があるなら問題無く会えると思いますよ」
「ああいや、私からアロイス殿へは何の用事も無いので大丈夫です」
気になり過ぎたのでやっぱり聞いてみる事にした。真面目な表情の彼女は神妙そうな面持ちで頷く。まさかとは思うが、彼女も恋愛沙汰を起こしているのだろうか。意外ではあるが、慈善事業以外に興味があるのならそれはそれで健全なので大変喜ばしい事でもある。
「実はナターリアに語学の為と誘われてしまったのです。グレアムさんとシノさんのお話はとても勉強になりますね」
「真面目か!? ヒルデさん、多分これそういう集まりじゃないです!」
ナターリアに上手く言いくるめられてここまで連れてこられたようだ。随分と真剣な顔をしているが、一体何を吹き込まれたのか。不安は膨らむばかりである。ヒルデガルトにとって、ナターリアはあまり良いお友達ではないかもしれない。
ナターリアの強引さに恐怖さえ覚えていると、再び猫を被り直した彼女はここぞとばかりに2人へ質問する。
「そういえばぁ、お二人ってあまり一緒に居るところをみないけれど不安とかはないのかなっ?」
確かに。お付き合いしていると公言しているグレアムとシノは一緒に行動している頻度そのものは少ない。シノはそもそも鍛冶士見習いだし、グレアムもデザイナーとしてクエストを引き受けているなど別々の依頼をこなしているからだ。
加えて、どちらも戦闘向きではないので専ら討伐戦など多くの人数が参加するクエストに出る事も少ない。であれば、ギルド内で全く異なる行動を取るのは当然の事だ。
ナターリアの核心を突くというか、痛いところを突くような一言にグレアムが苦笑する。そりゃそうだ、何てことを堂々と訊くのか。
ただ彼が苦笑している間に、シノが鼻を鳴らして獣人の素朴な問いに応じた。
「別に不安や心配は無いな」
「そうねぇ、アタシ達、相思相愛だものね!」
「……まあ、これは信頼関係ってやつかな。他に好きな女が出来たとしても、私とさよならしてからお付き合いするような性格だし」
「あらやだ! そんな事にはならないから安心してちょうだい!」
「どうかな。お前に限らず、私は絶対なんて言葉を信仰しないようにしているからね」
――信頼関係。
何て素晴らしい響きなのだろう。2人の間で認識の齟齬もあるようだったが、最終的には浮気はしないとこの場で宣言しているようなものだ。この安定感は羨ましい限りである。
ヒルデガルトの言う通り、意外と為になる会なのかもしれない。認識を改めていると、思いの外強い力でナターリアに背を叩かれた。
「どう? どう、メヴィ。アンタもこうなりたくないの?」
「アロイスさんと?」
「それ以外に誰がいるってのさ」
――アロイスさんと私が……目の前の2人みたいに……。
想像を試みるも、それさえ背徳的、罪悪感さえ湧いてしまい頭を横に振る。いやいやいや、自分は彼に釣り合うような人間性を持ってはいないし、何よりアロイスにシノ達のような恋愛感情があるとは到底思えない。
彼のこちらに対する認識と言うのは限りなくペットに近い、もっと言うなれば手の掛かる小さな子供のようなものだろう。
その後も何度かイメージを脳内で作り上げてはみたものの、コレジャナイ感が酷かったので止めた。どうあってもこのイメージはおかしい。
「やっぱり、私には相応しくない光景かな。アロイスさんの隣に私が立っているだけでも、何だか浮いて見えるのに」
「そう? 最近は随分と様になってきたと思うけどね」
「どういう意味で……。ギルドのみんなの目が慣れてきたんでしょ」
そういえば、と不意にヒルデガルトが首を傾げる。
「アロイス殿は一緒ではないのですか?」
「あ、はい。別件で戻って来ているので、そっちに行っちゃいました」
「そうですか。まあ、アロイス殿もそれなりに多忙という事ですね」
「でも、3日以内には戻ると言っていたので、用事があるなら問題無く会えると思いますよ」
「ああいや、私からアロイス殿へは何の用事も無いので大丈夫です」
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