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アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

09.魔女と呼ばれた人間

 そんな心配は杞憂に終わった。上の階に戻ってみれば、何事も無かったかのように余所様の家のリビングで寛ぐ見知った人達。シオンを含め、館で出会った全員がそこにいた。主のフィリップは姿が見えないが、真昼なので就寝中なのだろう。今日で依頼が完遂した場合、完成品だけは見て欲しいが難しいだろうか。


 メイヴィスの姿に気付いたアロイスが穏やかな顔を手向ける。その手には紅茶のカップを持っていた。
 長閑な雰囲気であるにも関わらず、気のせいか重苦しい空気が立ち込める。騎士サマがいつも以上に穏やかな空気を出しているのが態とらしく感じるのは気のせいではないだろう。
 しかし、こちらもこちらで仕事を終えなければ。アロイスその人に迷惑が掛かってしまう。


「メヴィ、どうかしたのか?」
「あ。あらかた、工程が完了したので魔法が使える――ドレディさんに手伝って貰おうと思って。呼びに来ました」
「あら。私に用だったのね」


 茶菓子に手を伸ばしていたウィルドレディアがその手を引っ込め、ソファから腰を浮かせる。


「お願いします、ドレディさん」
「ええ。けれど、私で大丈夫かしら? ギルドでは魔女だの何だのと呼ばれているけれど、私は普通の人間なのよ。魔力量が足りないかもしれないわ」
「えっ……」
「さっき、イアンに造って貰った範囲結界の魔法を再起動するのよね?」
「そうですね、そうなります」
「であれば、やっぱり私では魔力が足りないわ。数秒しか保たせられないけれど、いいかしら?」
「いやっ、流石に1分は無いと厳しいかと」
「……困ったわね。今から私だけベネット邸に戻って、イアンを呼んで来た方が良いかしら?」


 ――いや、ドレディさんはマズい!!
 イアンはともかく、師匠のルーファスに警戒されている。イアンだけが屋敷にいれば良いが、彼もいた場合は面倒事に発展しかねないだろう。
 同様の理由でアロイスを行かせる訳にもいかない。彼を行かせた場合は、護衛風情に良家のお嬢様を呼びに行かせた、と不敬扱いされる可能性があるからだ。


「では、ご主人様――フィリップ様を起こして参りましょうか?」


 不意に代替案を提出したのはシオンだった。トレイを持った手は綺麗に胸元に揃えられ、立ち姿は凜然としている。
 そんな彼女の提案に難色を示したのは魔女だった。


「良いのかしら? 貴方のご主人様とやら、吸血鬼なんでしょう? 真昼に起こしでもしたら、とても不機嫌になるんじゃない?」
「ご自分の事ですから、苛立ちはしても文句は言わないかと。そもそも、昼にメイヴィス様達が来る事はお伝え済みです。起こされるという覚悟は、多少なりともしているかと」
「そう……。貴方がそう言うのであれば、止めはしないけれど。どうするの、メヴィ?」
「や、アロイスさんも急いでるみたいですし、フィリップさんにお願いします」


 ちら、とアロイスの様子を伺う。彼は眉間に小さく皺を寄せ困ったような顔をしていた。


「俺の予定の事なら考慮しなくていい。相手方に合わせて貰う」
「あら? 随分と強気なのね、アロイス。物理的に首が飛びかねないわよ、そんな事を言っていたら」
「えっ!?」


 ウィルドレディア、と騎士が強めに魔女を諫める。聞いた事も無いような、若干の苛立ちを含んだ声に背筋が粟立つ。


「不安にさせるような事を言うな。メヴィ、心配する必要は無い。ただの誇張表現だ」
「え、いや、はい。出来るだけ急ぎますね。フィリップさん、起こしてきて貰っていいですか? シオンちゃん」
「ええ。かしこまりました。メイヴィス様は、どうぞ先に工房へ。そこまでご主人様をお連れ致します」


 色々な意見が飛び交っていたが、真に客であるメイヴィスの意見をあっさり聞き入れたシオンがきびきびと部屋から出て行く。その背中を見送り、アロイスが感心したような声を上げた。


「俺達の話を全部聞いていたが、客であるメヴィの言葉だけを聞いて出て行ったな。優先順位を弁えている」
「私達は客ではないもの。客である天才錬金術師の付属品よ、騎士サマ」
「そうだな。……ああ、そうだとも」


 ――私には理解出来ない、含みのある会話だなあ。
 それらの全てを聞こえなかった事にし、メイヴィスはリビングを後にした。ともあれ、工房へ一旦戻るとしよう。

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