アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

09.シノと魔石粉

 気を取り直して。ヤスリで魔石を粉状にしている間に考えた、魔力発散を防ぐ方法についてだ。出来れば、外へと出て行く魔力を押さえ込みつつ、リサイクル出来る設計にしたいと考える。


 以前、雪猿を討伐した際に手に入れた雪玉、その外郭はその役割を担うに打って付けではないだろうか。
 まずは医療用の極小針で中の雪――というか、液体を取り除く。そして空いた外郭に、魔石の液体を詰める。密閉率が高いこの素材であれば、魔石の多大な魔力を無駄にすること無くリサイクルしながら扱う事が出来るのではないだろうか。


 俄然やる気が出て来た。
 鼻歌さえ唄いながら、メイヴィスは作業に取りかかる。基本的に時計を見ないタイプなので、気がついた時には時間がかなり進んで日付が変わっている事もザラなのだが、学習しないのでその事実はすっかりと忘却していた。


 ***


「――ウワッ! 7時だ……!!」


 研究に没頭し、イメージが形になってきた所で休憩を取ろうと時計を見たところ、午後7時だった。午前7時の可能性があり得なくも無いところが涙を誘う。慌ててロビーへ上がろうと工房を出ると、丁度やって来たらしいシノと衝突しそうになった。


「シノさん!」
「おう、メヴィ。お前がなかなか戻って来ないってアロイスの奴が首傾げてたよ」
「えっ、ホントですか!?」
「まあ、私の用はそんな事じゃなくてさ。どう? 素材になりそうなもの、見つかった?」
「ああそれなら! 何と魔石の粉を作ってみました!」
「へぇ。魔石の粉、魔石粉ってところか。本当なら是非とも見てみたいけれど、ちなみにどうやって作った訳?」
「ごめんなさい、機密事項だから詳しくは教えられないけど、かなり錬金術よりの手法だから、鍛冶とは相性が悪いかもしれないですね」
「オーケー、私達には作れないって事ね。幾らで買おうか?」
「や、お裾分け。大した量じゃないから、足りなかったら言って欲しいです」


 密封した袋をシノに持たせる。彼女は興味深そうにそれを眺めた後、魔石粉の袋をポケットにねじ込んだ。


「どのくらいで完成しそうですか?」
「そうさな……。上手く構想が固まれば3日? まあ、急ぎじゃないんだろ」
「あっはい。アロイスさんの怪我が治る事が優先なので、完治するまで戻る予定はありません」
「はいはい。で、メヴィ。お前は自分の杖を造るって言ってなかったっけ?」
「今ちょっと最終調整に入っていまして。2日は放置しなきゃ駄目なんですよね」


 ふうん、とおざなりな返事をしたシノはニッと嗤った。何かを企んでいる笑みだ。


「とにかく、上でアロイスが待ってたから。じゃ」
「はーい、お疲れでーす」


 手を振ってシノと別れる。
 ――とにかく、来週からの私は役立たずを脱却だ!


 なお、あまりにも上へ戻らなかったせいで行方不明扱いされ、大捜索が行われていた。おかしいな、一歩も工房から出ていないというのに。



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