アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

05.本当に危険なのは?

 話をまとめると、と個性的な面々を前に若干四苦八苦している様子だったヘルフリートが締める一言を放つ。


「今からは、とにかく湿地帯の出口へ向かうという事で良いか? 残念だが、クエストは失敗だな。ウィザード系ロードと戦える戦力を揃えて戻って来る他無いだろう」
「それが良いよねっ! さ、ここって正直危険だし早く出よっ!」
「袋のネズミだナ、考えてみレバ……」


 満場一致で逃げ出す事に決定した。メイヴィスは肩に掛かっていただけのローブを着直す。少しサイズが大きいせいで、座り込んだりするとずり下がってくるのだ。もっと成長すると見込んで購入したのだが、とんだ当て外れである。
 ――が、洞窟の出入り口に視線を移し、そこで初めて気付いた。


「ぎゃっ!? い、いつからそこに……!」
「うわっ、出た!」


 覗き込む、眼球のない眼窩。酷く乾燥しているイメージのある、大きな頭蓋骨が洞窟の入り口からじいっとこちらを見つめていた。一体いつからそこにいたのだろうか。ウィザード系、などと言われるだけあって知能が高いに違い無い。ホラーとは何であるのかを心得すぎである。


 ぎゃっ、と先程とは違って実に驚いたと言わんばかりの悲鳴を上げたナターリアが助走無しで地面を抉るように蹴った。地面が抉れる破壊的な音が響いた、瞬きの刹那には覗き込んでいる髑髏へと強烈な跳び蹴りをお見舞いする。
 軽い音を立ててスケルトン・ロードが転がって行くのが分かった。何て蹴りなのだろうか、とても真似出来そうにない。


「い、今だよっ! こっち!」
「流石は獣人カ……」


 入り口付近に立っているナターリアに誘導される形で洞窟の外へ。丁度そのタイミングで、体勢を立て直したらしいスケルトン・ロードが人体の構造的にあり得ない挙動で腕を振り回す。
 何故だろう。攻撃して来ていると言うより、何か儀式の為の舞のような――


「魔法を撃って来るゾ! 退避ッ!!」


 真横でエサイアスの悲鳴にも似た警告が聞こえてきた。ひんやりと冷たい彼の手が腕を掴み、よく分からないまま引き摺られるようにしてその場から避難させられる。
 ナターリアとヘルフリートが何事か揉めているような声を発していたが、エサイアスに付いて走るうちに、その声は遠くなりやがて聞こえなくなってしまった。


 どのくらい走っただろうか。息が切れ、これ以上走ったら死ぬ、とまで考えたあたりで強制的にメイヴィスは立ち止まった。


「ちょ……っ、ちょっと、待って、下さい……!!」
「アッ。ああ、すまナイ。逃げるのに夢中になっていタ」


 息を整えながらそっと周囲を見回す。
 ナターリアとヘルフリートの姿が見当たらない。とはいえ、自分とは違って身体能力がアホみたいに高い連中の集まりだ。あの動きの速くないスケルトン・ロードにうっかり捕まるという事も無いだろう。
 それよりも、自分というお荷物を引き受けてしまったエサイアスへの同情の念が絶えない。最近ではすっかり忘れていたが、錬金術師など現地ではただのアイテムボックスである。


「エサイアスさん、すいません。私なんかと逃げる事になっちゃって」
「構わナイ。お前のアイテムには毎度助けられていル。人なんて適材適所ダ、悲観する事は無いゾ」
「……いや、私、クエストを舐めてました。何で毒対抗アイテムしか持って来なかったんだろ……。流石に間抜け過ぎるわ……」
「休んダカ? オレ達はナターリア達を待たズに、外へ出ヨウ。あの身軽な連中は簡単に湿地帯から抜けるハズだ」
「はい、了解しました」


 息が整った。ただし、身体は気怠さで一杯だ。雨に濡れたローブは重いし、明日は間違い無く全身筋肉痛である。


 そんな身体に追い打ちを掛けるかのように、近くの茂みがガサガサと揺れた。顔をしかめたエサイアスが臨戦態勢に入る。


「トカゲか……?」
「大きさ的には、多分そうですよね」
「仕方ナイ、応戦スル」
「毒を浴びたら、すぐに言って下さいね!」


 そういえば、ナターリア達には『毒を浴びないようにするアイテム』しか持たせていない。分けて解毒剤を持たせると邪魔だと思ったし、はぐれるなんて完全に想定外。毒を浴びた者に順次、アイテムを渡すつもりだった。
 お守りの効果は永久ではない。何度か毒を浴びる攻撃を受ければ、何れは効果が切れてしまう事だろう。
 スケルトン・ロードは恐らく1体のみ。上級魔物なのでそうそうゴロゴロと転がってはいないはずだが、毒トカゲは逆に爆殖している状態だ。
 ――あれ、もしかして、マズイのはナタ達の方?



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