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アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

04.上位の魔物

 ――正直な話。
 アロイスと組むようになってから、自分の気は抜けていたのだと思う。以前にシノもそう言ったが、彼の物理的な強さは常軌を逸しており、それは戦闘職ではない錬金術師の感覚を狂わせる。
 自分一人でさえなければ、誰かがどうにかしてくれる、無意識にそう思っていたのだろう。実に情けない話だ。


 だからこそ、それが出現した時、戦闘職3人に全て任せておけば大丈夫だろうと思った。根拠も無しにそう思ってしまったのだ。


「……えっ。え!?」


 初めに悲鳴じみた声を上げたのはナターリアだった。
 感覚が鋭敏な彼女はそれが目と鼻の先に迫っている事に比較的すぐ気付いたと言える。


 軽く薄い足音。ガシャリ、という何となく聞いているだけで本能的な恐怖を覚えるようなそれはそうそう聞く事など無い音だったはずなのに不思議と何の足音であるのかをすぐに連想出来た。
 骨と骨が擦れ、肉が無いせいで奏でられる音達。
 魔物学者曰く、『究極のヌード』ことスケルトンの奏でる骨特有の音だ。


 スケルトンなんて下級魔物、敵では無い。ただし、その認識は次の瞬間には塗り替えられる。湿地帯、立ち並ぶ変わった木々達の隙間を縫って現れたのはとても人のものとは思えない大きな骨格を持ったそれだった。
 髪も生えていない立派な頭蓋骨には王者たる証しの冠を。服は着ていないというのに、王のように煌びやかなマントを羽織り、ロード系の魔物である事を示す黄金のリングを左手に着けている。また、逆の右手にはヘルフリートくらいの大きさがあるロッドを携えていた。


「スケルトン――ロード系か! この場合、キング・スケルトンと言うべきか、或いはスケルトン・ロードと呼ぶべきか……」
「言ってる場合じゃないよっ! 撤退、てったーい! 死人がでちゃうっ!」
「同感だナ、とにかく、ヤツの居ない所へ!」


 状況把握が追い付かないメイヴィスがどうすべきか迷い、硬直している間にナターリアから片腕で持ち上げられる。そのまま俵でも担ぐように担がれた。腹に負荷が掛かり、肺の空気が変な音を立てて漏れ出す。


 ナターリアに担がれたままに、例のスケルトン・ロードを見やる。
 ゆっくりと進路変更を始め、追って来る気満々のそれ。上級魔物。奴が羽織っているあのマントは――あれならば、ローブを作る為の布たり得るのではないか。


「ね、ねえ。誰かあれ、倒せないんですか?」
「何を言い出すンダ、いきなり……怪我人が出るだけジャ済まない、相手をしたくないナ」
「そ、そうですか……」


 エサイアスから胡乱げな目を向けられてしまった。ヘルフリートが盛大な溜息を吐き出す。


「アロイス殿がいれば、また違っただろうが……この面子で、ウィザード系魔物を狩るのは難しいだろうな。魔法耐性が高いのはエサイアス殿だけだ」
「メヴィ、お前、魔法をカットするアイテムは持っていないのカ?」
「えーっと、私用の結界魔石なら1つ……」
「それを手放したら君が危険だろう。とにかく、早くあれから離れなければ」


 名残惜しいが、誰かを危険に晒してまで素材の収拾をしようと考えるのは、ギルドのルールに違反する。
 仕方ないですね、とメイヴィスは僅かながら残念そうな声を発した。


 ***


 そして話は冒頭に戻る。
 ここは例のスケルトン・ロードから逃げるようにして見つけた、雨を凌げる自然の洞窟だ。勿論、例の上級魔物に出会えば無事では済まないというデメリットも抱えてはいる。


「――取り敢えず、私達だけではどうしようも無いですし、ギルドに救援要請送りますね」


 言うが早いか、メイヴィスはポケットから白い紙片を取り出し。現状を簡易に書き綴って、とある手順に沿い紙を折る。複雑な形に折られたそれは、手を離すと白い鳥のようになって飛んで行った。
 あれは紙に疑似生命を吹き込む魔法が掛けられている。かなり脆いので、簡単に落とされてしまうが一直線にギルドへ飛んで行くので今の所、一番の救援要請に使える手段だ。


「メヴィ、それって何日くらいで助けが来るのっ?」
「状況と手隙人数にもよると思うけど、3日くらい? もっと掛かるかも」
「脱出を目標に動いた方が良いんじゃないかなっ! 餓死しちゃう」


 ――全くである。



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