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アルケミストの恋愛事情

ねんねこ

05.スポンサーの話

 ***


 アロイス、ヒルデガルトと別れたメイヴィスは地下の工房に足を運んでいた。今日買った物を組み合わせて、自ら魔道ローブに適した布を生成出来ないかと考えたのだ。


「あれ、シノさん? グレアムさん? うちに何か用ですか?」
「よお、メヴィ。お前が面白そうな事やってるってグレアムがそう言うから、見物――じゃなかった、手伝いに来たぞ」
「さっきぶりねぇ、メヴィ!」


 ――うちの工房はカップル禁制なんですけど。
 そう言いたかったが、手伝いに来たと言われてしまえば引き攣った笑みで「有り難うございます」、と言う他無かった。ニヤニヤとシノが嗤っている。グレアムを連れていれば断られない事をよく分かっている顔だ。


「まあ、立っているのも何ですし、中にどうぞ」
「お邪魔するわね。って、どうしたの? かなり散らかってるみたいだけど」


 最後に入って来たメイヴィスは部屋の惨状を見て、誰に憚ること無く盛大に溜息を吐いた。1ロール買った布が横倒しになり、棚のガラスを粉々に砕いていた。
 茫然と立ち尽くしていると、グレアムが相当重いであろう布1ロールを片手で持ち上げ、壁に立て掛ける。見た目は少しゴツイ綺麗なお姉さんだが、やはり男性は男性。いや、それにしたって力が強すぎる気もするが。


「ガラス片、片してやるよ。箒とちりとりは?」
「あ! 待って下さいシノさん、それ、修復するんで! ああ、欠片が全部あると良いけど……」


 触ったら怪我をしそうなガラス片。破壊されている欠片を見るに、足りないパーツは無さそうだが目分量などアテには出来ないだろう。
 柄杓で大釜の中に満ち満ちた素材液を一掬いし、割れた棚から灰色の指示液を直接柄杓に投入する。ぶつぶつと詠唱魔法を展開しながら、柄杓に掬った液体を割れたガラス片に掛ける。
 粘性のある素材液が指示液の指示に従い、ガラス片を包み込んで球状になった所で詠唱していた魔法を展開。液体を触れること無く床から浮かせ、割れた棚のガラスに液体ごと割れたガラス片を押し付ける。


 果たして、修復作業は見事に実を結んだ。
 割れていたのが嘘のような滑らかさで、指紋一つないガラスが鎮座している。しかし、再生成時に余分な汚れやゴミが落ちてしまったのでその一部分だけが新品のように輝いている。


「お前、本当に優秀なんだけど生まれだけがなあ……。ま、それはエルトンさんにも言える事だけど」


 シノのぽつりと溢した言葉に、メイヴィスは皮肉げな笑みを浮かべた。


「いやいや、私、師匠に出会わなかったら錬金術師にはなってないですから。今の苦労とジリ貧生活は最早必然ですよ。お奇麗な生活をしているのに、錬金術を学ぼうだなんて普通は思いませんって!」
「そうねえ。アタシも、前はローブを作ったりする店で働いていたけれど――王属専門のお話を蹴ったら、辞めさせられちゃったのよねえ。注文された物だけ作るだなんて、冗談じゃないわあ」
「うわ、専属技術者ってそういう感じなんですか? まあ、私の所にそういうお誘いが来た事は無いですけど」


 王族専属技術者――非常に名誉な職ではあるが、グレアムのように『極めている』者にとってみれば退屈な仕事なのかもしれない。何せ、専属になってしまうとそれ以外の仕事は請け負えないのだから。
 ふふ、とグレアムは上品な笑みを浮かべる。


「今にアナタ達も分かるわ。結局はフリーでやっている方が、技術の向上には向いているってね。金の為にやっているのなら、美味しい話なんでしょうけど」
「というか、私は金を無限排出してくれるスポンサーが欲しいんですよね。まあ、錬金術師に払うそれなんて、無いでしょうけれど」
「どうかしら。いるものよ、世の中には物好きが。人間の中にはいないかもしれないけれど」


 金を無限排出してくれるスポンサー――そんなの、王族に見初めて貰ったって無理だ。王家が必ずしも安定しているかと言えば、そうではない。よもや、彼等に目を着けられて国外に出たり、フリーで活動出来るはずもないだろう。
 金を求めれば自由を手放す事になり、自由を求めれば先立つものが必要になる。世の中とは円滑に回らないように出来ているのだろう。



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