乙女ゲームのモブに転生したので縁結び相談室を作る
07.待ち伏せ・下
――やっぱりサイモン一派、恐すぎる。
濃厚な闇の気配を感じ取り、ジリジリと後退る。教会の中へ入ってしまえばドラホスがいるはずなので酷い事にはならないだろう。尤も、逃げ込むのが間に合えばの話であるが。
ところで、とにこやかな表情のラスボスことサイモンが再度口を開く。今度はエルヴェも止めはしなかった。
「君はここで何をしていたんだ? シリルから聞いたけれど、依頼だって? 相談員なのにね」
「ええ、まあ……」
彼は一度だけ相談室に来たが、それ以来に見掛けていない。とっくに興味を失ったものと思っていたが私が相談員であると忘れていないようだ。つまり顔と名前、業務内容を知られているという意味。
それだけで苦い気分になり、小さく息を呑んだ。彼との付き合い方は認知されない、それに限る。見覚えがあるな、と言われている時点で最も良い付き合い方からは掛け離れてしまったも同然だ。
「どんな依頼だったのかな? 僕も相談室を利用したいと思っていてね。気になるんだよ」
「ええ? 嘘くさー!」
キャハキャハと笑うシリルは楽しげだ。しかし私が言いたい事を全て代弁してくれたのにはやや感謝である。
「――……すいません。相談内容は個人情報なので、お話できかねます」
「そう? ふふ、口が固くて良い子だね。相談員さん」
「良い子! 良い子だって、良い子!!」
とうとうシリルが腹を抱えて笑い出した。ホットな笑いを提供されたシリルの横で、黙っているヴェルデの周辺気温は氷点下だ。笑われているサイモンは胡散臭い笑み――全員の温度感が違い過ぎてどこに合わせればいいのかさっぱり分からない。分かる事と言えば、シリルと一緒になって笑っては首が飛ぶという事だけである。
なおもサイモンは言葉を続ける。
「ドラホスから頼まれたそうだね。からかって悪かったよ、実は一般人目線での視察が入る事は知っていたんだ」
「趣味が悪いですね」
「君って相談室にいない時はえらく喧嘩腰なんだね、知らなかったよ。まあともかく、君が視察をしようがしまいが、教会に何らかのアドバイスをしようが何も変わらないから気にしなくて構わないよ」
「……? はあ?」
「人が神を信仰するのは恐怖心から解放される為さ。入りやすい入り口になろうが、内装を改良しようが。人が増える事なんて無いのだから、気に病む事はない」
「そ、そうですか」
正直な所、私の助言だか何だかで人が増減しようと気にしない。相談に応えただけであって、その後を保証するものではないからだ。
それを理解しているのかいないのか、スッと目を開いたサイモンと目が合う。
「人は恐怖心を拭う為に神へ縋る。教会に人が増えたら世も末さ。迷える子羊の群れが出来上がってしまうからね」
「……」
「君も。救われたいのならば教会の門を叩くと良い。そうだな……誰かに命を狙われている、とか。ね? 待っているよ」
酷く含みのある言い方だった。まるで、これから絶対に悪い事が起こるという不安を煽るような言い草。普段ならば脅して教会の信者を増やそうとしている、と結論づけただろう。
ただあまりにも彼の発言は心当たりがあり過ぎた上、タイミングが良すぎた。
何故なら私――シキミではなく、このリオールという肉体には刻一刻と死亡イベントの期日が迫っているのだから。
私の動揺を感じ取ったのか、女性ウケするあの爽やかな笑顔を浮かべてみせたサイモンは「それじゃあ」と手を振った。もう行っていい、満足した。という意味だろうか。片手をひらひらと振る彼を凝視する。
「――おや、シキミちゃん。帰らないのかな? 見送っているのだけれど。ああ、恐がらせてしまったかな? お家まで送って差し上げようか?」
「私の名前、知ってたんですね」
「僕は子羊の名前を全て記憶しているよ。君も例外では無いさ」
「……自分の足で帰れます。さようなら」
――この狼男め。
心中で悪態を吐いた私は警戒心たっぷりにサイモン一派の横を通り抜け、ギルドへ戻る為の道を歩き始めた。
濃厚な闇の気配を感じ取り、ジリジリと後退る。教会の中へ入ってしまえばドラホスがいるはずなので酷い事にはならないだろう。尤も、逃げ込むのが間に合えばの話であるが。
ところで、とにこやかな表情のラスボスことサイモンが再度口を開く。今度はエルヴェも止めはしなかった。
「君はここで何をしていたんだ? シリルから聞いたけれど、依頼だって? 相談員なのにね」
「ええ、まあ……」
彼は一度だけ相談室に来たが、それ以来に見掛けていない。とっくに興味を失ったものと思っていたが私が相談員であると忘れていないようだ。つまり顔と名前、業務内容を知られているという意味。
それだけで苦い気分になり、小さく息を呑んだ。彼との付き合い方は認知されない、それに限る。見覚えがあるな、と言われている時点で最も良い付き合い方からは掛け離れてしまったも同然だ。
「どんな依頼だったのかな? 僕も相談室を利用したいと思っていてね。気になるんだよ」
「ええ? 嘘くさー!」
キャハキャハと笑うシリルは楽しげだ。しかし私が言いたい事を全て代弁してくれたのにはやや感謝である。
「――……すいません。相談内容は個人情報なので、お話できかねます」
「そう? ふふ、口が固くて良い子だね。相談員さん」
「良い子! 良い子だって、良い子!!」
とうとうシリルが腹を抱えて笑い出した。ホットな笑いを提供されたシリルの横で、黙っているヴェルデの周辺気温は氷点下だ。笑われているサイモンは胡散臭い笑み――全員の温度感が違い過ぎてどこに合わせればいいのかさっぱり分からない。分かる事と言えば、シリルと一緒になって笑っては首が飛ぶという事だけである。
なおもサイモンは言葉を続ける。
「ドラホスから頼まれたそうだね。からかって悪かったよ、実は一般人目線での視察が入る事は知っていたんだ」
「趣味が悪いですね」
「君って相談室にいない時はえらく喧嘩腰なんだね、知らなかったよ。まあともかく、君が視察をしようがしまいが、教会に何らかのアドバイスをしようが何も変わらないから気にしなくて構わないよ」
「……? はあ?」
「人が神を信仰するのは恐怖心から解放される為さ。入りやすい入り口になろうが、内装を改良しようが。人が増える事なんて無いのだから、気に病む事はない」
「そ、そうですか」
正直な所、私の助言だか何だかで人が増減しようと気にしない。相談に応えただけであって、その後を保証するものではないからだ。
それを理解しているのかいないのか、スッと目を開いたサイモンと目が合う。
「人は恐怖心を拭う為に神へ縋る。教会に人が増えたら世も末さ。迷える子羊の群れが出来上がってしまうからね」
「……」
「君も。救われたいのならば教会の門を叩くと良い。そうだな……誰かに命を狙われている、とか。ね? 待っているよ」
酷く含みのある言い方だった。まるで、これから絶対に悪い事が起こるという不安を煽るような言い草。普段ならば脅して教会の信者を増やそうとしている、と結論づけただろう。
ただあまりにも彼の発言は心当たりがあり過ぎた上、タイミングが良すぎた。
何故なら私――シキミではなく、このリオールという肉体には刻一刻と死亡イベントの期日が迫っているのだから。
私の動揺を感じ取ったのか、女性ウケするあの爽やかな笑顔を浮かべてみせたサイモンは「それじゃあ」と手を振った。もう行っていい、満足した。という意味だろうか。片手をひらひらと振る彼を凝視する。
「――おや、シキミちゃん。帰らないのかな? 見送っているのだけれど。ああ、恐がらせてしまったかな? お家まで送って差し上げようか?」
「私の名前、知ってたんですね」
「僕は子羊の名前を全て記憶しているよ。君も例外では無いさ」
「……自分の足で帰れます。さようなら」
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