乙女ゲームのモブに転生したので縁結び相談室を作る

ねんねこ

11.報酬の交渉

 ***


 30分後。疎らながらも屋敷を探索していた仲間達が全員、玄関ホールに到着した。当然、始まるのは報告会だ。危険な魔物がいたという情報を仲間に共有する。


「――そういえば、変な魔物ならこっちも倒したな」


 神妙そうな顔をして言ったのはアリシアだ。彼女と一緒に探索していたベティもまた、深く頷く。


「包帯グルグル巻きのミイラみたいな奴だったよ。なあ、アリシア?」
「そうそう。腐敗臭が酷くて鼻が曲がりそうだったわ」
「えっ、そうか? 鼻が良いんだな……。確かに少しだけ卵の腐ったような臭いはしたけど、鼻が曲がる程には感じなかったぞ」


 話を聞いていたルグレが首を縦に振る。


「見た事の無い魔物でしたら、僕とシーラも出会いましたよ」
「うん。何だか……頭から白い布を被っただけみたいにも見える、雑なフォルムのゴースト……」


 ――ハロウィンイベントセットじゃん!!
 報告を聞いた私はすぐに何のイベントが思い当たり、心中で叫んだ。ジャック・オ・ランタンを含むゴースト系魔物3種はハロウィンイベント時に実装された期間限定の討伐魔物である。
 ゲームではそうだったが、現実の時間帯はちっともハロウィンに掠っていない。よって、何故この屋敷に足を踏み入れてハロウィンイベントゴーストに出会うのかさっぱり分からないのが恐怖を掻き立てる。主にゲーム機がフリーズした時にも似た恐怖感だ。


 薄ら寒い恐怖を打ち消すかのように、アリシアが手を打ち鳴らす。


「まあ何でも良いけど、戻ろうか。討伐までしてやったんだ、サイモンにはがっぽり報酬を支払って貰わないと」
「大人しく払ってくれるかな……アリシア」


 シーラの問いに対し、アリシアが一層笑みを深くする。酷い悪人面だった。


「アイツ、性格は滅茶苦茶悪いけど馬鹿ではないからさあ。金も持ってるし、追加料金くらい支払うって。私達とやり合う方が面倒だって多分知ってるからさ」
「ええ、アリシアの言う通りです。一先ず、逃げられないよう彼とは一度顔合わせする必要がありますが」


 満足げに頷くルグレは当然のようにアリシアを擁護している。彼の言動は基本的に彼女の為だけに並べ立てられるものなので右から左へ抜けて行ってしまうが。


「喋るのも良いが、さっさとここから出るぞ。またウルフなんかに絡まれたら面倒だ」


 オルヴァーの一声で一仕事終えた感が溢れる。
 そのまま、屋敷の外に出た。


「――あっ」


 待ち構えるように外に立っていた人物を見て、私は目を丸くする。というのも、そこには屋敷の持ち主――サイモンがいつもの胡散臭い笑みを浮かべていたからだ。
 とはいえ、これは彼の屋敷。持ち主がいた事に関して言えば、何らおかしな話ではない。
 誰もがサイモンの出現に困惑する中、いち早く口を開いたのはやはりサイモンその人だった。


「お疲れ様。屋敷の調査をしてくれていたらしいね。様子を見に来たのだけれど、丁度終わった所だったかな?」
「随分と良いタイミングだな」
「これはオルヴァー殿。そんなに恐い顔をして、どうかしたのかな?」


 ――今来た、っていうのは多分嘘。
 漠然とそう思う。というか、外で私達が出て来るのをずっと前から待っていたに違いない。奴はそういうキャラクターだ。


 妙な空気になってしまった。が、それを意に介さずアリシアが声を張り上げる。


「よう、会いたかったよサイモン。お前の屋敷さ、調査のついでにヤバい魔物も討伐してやったから追加料金と慰謝料払ってくれよ。あんな魔物がいるなんて聞いてない」
「ああ、構わないよ。ついでに掃除もしてくれるだなんて、君達が僕のクエストを受けてくれて良かった」
「やけにあっさりだな……。何を企んでる?」


 トントン拍子で進む会話。まるで用意されていた台本のような滑らかさに、オルヴァーが眉根を寄せて問い掛ける。対してサイモンは聖職者然とした、見る者が見れば詐欺師のような笑みのままだ。


「企むだなんて。僕は純粋に君達の働きに感謝しているだけさ。ところでさ、アリシア。屋敷にどんな魔物が出たか聞いておいていいかい? 勿論、その分は報酬を上乗せするよ」
「あん? 私達にレポートでも提出しろって言うわけ?」
「そう」
「それは別のクエストだな。打ち合わせの内容次第だ」
「検討してくれるって事かな。助かるよ」


 個別シナリオの時から薄々感じてたけど、この屋敷に魔物を嗾けたのってサイモン本人ではないだろうか。
 あまりにも良すぎる救援のタイミング。今回もメンバー総入れ替えで当たったはずなのに、しっかり外で待機していた訳だし。それに、何と言うかハロウィンの魔物達は自然発生するという設定ではない。
 去年のハロウィンにでも、捕まえて屋敷に幽閉していたのではないだろうか。わざわざ時季外れなのに魔物達が屋敷にいた理由も不明だし。


 何よりゲームの方ではサイモンが直々に、ヒロインへそのクエストには行かない方が良いと忠告しに来るのだ。
 ――やっぱりヤベー奴じゃん、関わらないようにしとこ。恐いし……。


 何にせよクエストが無事に終わり、五体満足で帰る事が出来て良かった。今日の教訓を活かし、明日以降も健全に元気に生きて行こう。
 生のありがたみを噛み締めた私は心中で信じもしない神に礼を言った。

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