聖獣として異世界召喚されました!?
17
ふふっ。家〇婦は見た!状態である。
そんな私の視線の先には、緊張で顔を強張らせているツヴァイさんが映っている。
私は両手を握り締めながら、心の底からツヴァイさんを応援している。
頑張れー!!男を見せろー!!
ツヴァイさんが差し出した本を受け取ったアイリーンさんが、一瞬だけ驚いた様に瞳を見開いたのを私は見逃さなかった。
その瞳は直ぐに細められ、好奇心いっぱいのキラキラとしたものに変わったのだ。
そんな瞳をアイリーンさんから向けられている事に、真っ赤な顔のツヴァイさんには気付く余裕などない。
まあ……仕方ないか。
逃げ出さなかった事だけでも偉い。
褒めてつかわそう。うん、うん。
私はコッソリと『盗聴』と唱え、二人の会話を盗み聞きし始めた。
****
「それだ!!」
指示棒を向けられたツヴァイさんは、瞳を丸くしたままポカンと口を開いている。
「筋肉以外のツヴァイさんの良い所!」
「私から筋肉を……取るのですか?」
「筋肉は忘れなさい!!」
「はい!!」
「前に言ったじゃないですか!ツヴァイさんはお菓子作りの才能があると!!」
「え?あー……ミーガルド様はそうおっしゃってくれましたね」
ポリポリと頬を掻きながら恥ずかしそうな顔をするツヴァイさん。
「それなんですよ!」
「それって……まさか……?!」
やっと私の言いたい事に気付いたツヴァイさんは、ガッと大きな音を立てながら椅子から立ち上がる。
「いやいやいやいや!無理ですって!!」
「しー!静かに」
そんなツヴァイさんを宥めながらも、ニヤリと笑う。
「そういう訳なので、これからカウンターに行ってお菓子作りの本を借りて下さい」
「……そんな事したら逆効果です!嫌われますよ!?」
ツヴァイさんの顔が哀しそうにくしゃりと歪む。
「多分、大丈夫です!『ギャップ萌え』作戦で行きましょう!」
「も……萌え?……って『多分』じゃないですかぁぁ!!」
えーい!
大の大人が泣き言を言うんじゃない!!
「合言葉は?」
「……くっ。……『当たって砕けろ』です」
「宜しい!」
ツヴァイさんは崩れる様に椅子に座り直し、そのまま机に突っ伏した。
****
………というのが、ここまでの経緯である。
何とか回復したツヴァイさんを無理矢理にあの場に送り出し、私はハラハラ、ドキドキしながら二人の行動を見守っているのだ。
『お菓子作りの本ですか。婚約者様のお使いでしょうか?』
おっと、盗聴先の声が聞こえて来た。
感度は良好だ。このまま様子を伺おう。
『い、いえ。これは……私の……』
『え?ハーレイ様のですか?』
ハーレイとはツヴァイさんの家名である。
『はい。実はお恥ずかしながら……お菓子作りが趣味なのです』
少しずつ状況に慣れて来たのか、ツヴァイさんからたどたどしさが消え始めていた。
ツヴァイさんは、案外本番に強いタイプなのかもしれない。
『お菓子作り……ですか』
『はい。……似合わないですよね。男なのに』
そう自嘲気味にツヴァイさんが笑うと、アイリーンさんは大きく首を振った。
『い、いいえ!そんな事はありません。素敵な趣味だと思います!!』
おや?なかなかに良い食い付きではないだろうか?
『……そうですか?』
『はい!素敵です!!』
弱気なツヴァイさんに対して、速攻否定のち全肯定をしてくれたアイリーンさん。
これはひょっとしなくても……?
『もし……あなたが迷惑でなければ……お菓子を焼いて来ても良いでしょうか?』
攻めるツヴァイさん。
今までの消極的さは影を潜め、グイグイとアピールをしております。
『……嬉しいです!』
それに対して心から嬉しそうに笑うアイリーンさん。
ちょ……ここ図書室!二人共声が大きいよ?!
と、思ったが私達三人しかいない様だから……良いか。
キョロキョロと辺りを見回したが誰の姿も見えなかったのだ。
すみませんが、もしどなたかいらっしゃいましたら……空気を読んで下さい。
……ええ。勿論、心の中で『リア充爆発しろ!』と唱えるのは自由ですよ?
お互いに見つめ合い、二人の世界に入り込んでしまったツヴァイさんとアイリーンさん。
これ以上は当て馬にしかならなそうだったので、私はこっそりと退散する事にした。
二人がこのまま順調に愛を育めますように……。
そう心から願いながら。
私は盗聴を止めて、そのまま図書室の奥へと向かった。
先程入った個室とはまた別な所にある部屋が、私の本来の目的地である。
表向きの図書室は、手続きをすれば誰でも借りられるが……この場所はそうはいかない。
司書のアイリーンさんでも許可が無ければ立ち入れない。
私はポケットの中を探り、金色に光る鍵を取り出し……ジッと見た。
これはヨハネス様に借りた【資料庫】の鍵である。この中には国に関わる大事な資料が眠っているのだそうだ。
私の探している神関係の資料もここにある。
……と、変げふん……クラウディスが教えてくれたのだ。
彼は与えられた特権でこの資料庫に入り、調査をしたのだが大きな情報は得られなかった。
あのクラウディスでも見つけられなかった物が見つかるとは思わないが……。
私は自分の目でも確かめたかったのだ。
私は金色の鍵を使って、資料庫の鍵を開けた……。
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