聖獣として異世界召喚されました!?

ゆなか

9

「ミーガルド様……すみませんでした」


 三人並んでいる内の真ん中に座っていたお兄様ねえさまが、被っていたカツラをズルリと外しながら頭を下げてくる。


「「すみませんでした……」」


 釣られる様に、他の二人のお兄様ねえさまもカツラを外し、私に頭を下げる。


 三人のお兄様ねえさまは、あっという間にドレスを着た男性三人組となった。


 謝ってくれるのは良いけど……思ったよりも早めに謝罪されてしまった為にノリノリで用意した女教師モードが無駄になってしまった。


 彼等のしょんぼりしている様子からすると、何か訳がありそうだ。


 ふむ……。
「謝罪は受け入れました。皆さんはどうしてこんな事を?」
 小首を傾げると……
「「「聞いてくれますか!?」」」
 ズイッと三人に迫られた。


 人生初。しかも三人の男性に迫られてるというのにも関わらず、全く嬉しくないという展開。


「えーと……近いです」
 私は引きつった笑みを浮かべた。
 素に戻ったドレス姿の男性に迫られる行為は何と言うか……圧が凄い。
 しかも三人分ときた。


 取り敢えず、これ以上好きでもない人に迫られたくはないので、ソファーに座る事を提案してみた。
 すると、すんなりと快諾してもらえたので、早速テーブルを挟んで私と三人に別れて座った。
 向かい側のソファーが窮屈そうに見えるが、気にしない。
 私の安全の為にも一人で座りたい。
 それでなくとも今の私は小さいのだから……簡単に潰されてしまう。……ゾッ。


 さて……、まだまだ目が慣れない三人のドレス姿の男性達。
 左から順に『アイン』『ツヴァイ』『ドライ』さんと言うらしい。
 貴族の彼等の家名は長ったらしく覚え切れないのでカットする。


「それで?皆さんの姿は趣味ですか?」
 私的には、無害であればどんな性癖を持っていようが構わない。
 偏見はない方だと思う。


 私の働いていたショップには、隅にランジェリーのコーナーがあったのだが、そこに男性が一人で買いに来る事がよくあった。
 彼女や奥さんへのプレゼントなのか、はたまた商売用なのか、趣味なのかは分からないけどが……お金を出して買って頂けるのであれば文句はない。


 私の言うとは、お金も払わずにそれを自分の物にしようとする行為である。
 身に着けていた古いランジェリーや洋服と商品を交換して行く人もいるし、タグを売場に残して商品だけをお持ち帰りする人もいた。
 ……何で証拠を残すのか。私には意味が分からない。
 万引き自慢? 指紋鑑定されたいの?


 他には……自分の趣味を他人に無理矢理共有させる行為も有害だ。
 例えるなら、全裸にコートだけを着た変質者だろうか?
 中身を見せるな!迷惑だ!そんなの見たい人にだけ見せなさい。


 おっと、話がズレた。


「違う!これは…!!」
 アインさんが真っ赤な顔で慌てている。


「そ、そうだ!私達はただ……!!」
「そ、そう!恋人が欲しいだけなんだ!!」
 ツヴァイさんとドライさんもアインさんに続く。


 ……はい?
「ええと……まさか、貴方達は女性の気持ちが知りたくてこんな事をしているのですか?」


 コクコクコクコク。
 三人は物凄い勢いで首を縦に振っている。


「「「……全然モテないんです」」」
「えっ……嘘!……ていうか、皆さん貴族なのに婚約者さんとかいないのですか?」
「我が邸は恋愛結婚推奨派だから……」
「私の所もだ」
「俺も」


 ……驚いた。
 貴族なのに政略結婚じゃない家もあるんだ……。


 騎士団に所属しているアインさん、ツヴァイさん、ドライさん。
 二十三歳を越えた三人は、家督を継ぐ為にも恋人が欲しいそうなのだ。


 騎士団に入るという事はこの世界の男子の憧れである。
 しかも、この三人は第一王子直属の騎士団員という、更に難関を突破した優秀な人達だそうだ。
 騎士なだけでもモテるのがこの世界の定石なのに、何故彼等はモテないのか。


 私はアインさん達の顔を順番にジッーと眺める。


 三人共顔はそれなりに整っているし、筋肉質な体型も良い。
 家柄も良いし、特に問題はないだろう。
 女性達から声を掛けられそうなものだが……?


「……何でモテないんでしょうね?」
 首を捻るしかない。
 まさか妖怪のせい……とか?


 三人は『少しでも女性の気持ちが分かる様に』と、【乙女の会】なるものを開いていたのだ。
 女性になりきり、その心を知る。カツラもドレスもその為だと言う。
 身も心も女性になる事でモテる様になるのでは?……と。


 ……発想が斜め上過ぎて、どこから突っ込んだものか……。
『女性の気持ちを理解したい』と思った所は評価しよう。


 だが……。
「それで、モテない原因は分かりましたか?」
 そう尋ねると、三人は気まずそうに一斉に私から視線を反らした。


 ……はいはい。


 それもそうだろう。
 特定の女性の気持ちを知りたいのならまだしも、不特定多数の女性の気持ちが男に理解出来るとは思わない。女心は複雑なのよ?


「気になる女性はいないのですか?」
「「「…いません」」」
「……因みに、皆さんの趣味は?」


 私の偏見だが、騎士団に入っている人は脳筋なイメージが強い。
 鍛える事に生き甲斐を感じていて、トレーニングばっかりしている様な、だ。


「「「筋トレと剣の稽古です!」」」


 ……テンプレか!!


「もし……女性が話し掛けてきてくれたら、何を話題にしますか?」


「「「筋トレと稽古の話です!」」」


 ……うん。分かった。
 三人がモテないのは間違いなく筋肉のせいだ!!


 そうすると、三人の考えた方向性は間違っていなかったのかもしれない。
 先程の評価に少しだけ加点をしてあげよう。


 だが、今のままでは駄目だ。
 ただ単に女性になりきってどうするのだ!


「皆さんがモテないのは、女性の気持ちを考えずに自分の事を押し付けているからです!!」


 スッとソファーの上に立ち上がり、女教師モードに戻った私は、ビシッと指示棒を三人に突き付けた。


「筋肉に興味のない女性に筋肉の話題を振り続けるのはセクハラ行為です!!」
「「「セクハラ?!」」」
「まずは悩筋をどうにかして下さい!!業務以外の筋トレ禁止!!先ずは筋トレ以外の趣味を作ること!!」
「えっ!?」
「そんな!!」
「横暴だっ!!」
 三人は口を尖らせてブーブーと抗議をしてくる。


「一生独身でいたいのなら止めませんが?」
 私はそんな三人をジロリと睨み付けた。


「「「うっ……」」」
「それでも良ければどうぞお好きに?」
 私の冷やかな視線を受けた三人はばつが悪そうに顔を俯かせた。


「本来ならば、皆さんを丸ごと受け入れてくれる女性がいれば良いのでしょうが……そんな奇特な女性は存在していませんよね?」
「「「……はい」」」


 私は興奮した気持ちを落ち着ける為に、フーッと大きく息を吐いた。


「そうですね……例えば、【乙女の会】は皆さんで用意されてるそうですが……」
 私はそう切り出しながらチラリと室内を見渡した。


「さっきのテーブルの上にあった綺麗なお花は誰が選んだのですか?」
 私が少し離れたテーブルを指せば、アインさんが目を丸くしてパチパチさせた。
「……私です。実は綺麗な花を見るのが好きなんです」


「美味しい紅茶やお菓子は?」
「……私です。お茶は特別にこだわりがあって……お菓子も作れます」
 ツヴァイさんがおずおずと言う。


「ドレスやカツラ、装飾品は?誰が選んでいるのですか?」
「それは…私が」
 ドライさんが小さく挙手をした。


 そんな三人を見て私は満足気に笑った。


「ちゃんと、あるじゃないですか」
 にこやかに笑う私に三人は複雑そうな眼差しを向けてくる。
 私はそんな三人の視線を敢えて無視して話を続けた。


「女性との話題ですよ。アインさんは『お花』。ツヴァイさんは『お茶とお菓子』。ドライさんは『ドレスや装飾品』。どれも立派な話題になりますね」
「そんな……!女々しいじゃないですか!」
「そうですよ!」
「男らしくない!」
「そんな事はありません!必要なのは『興味』と『共感』です。興味のない話題を長々と続けられるのは苦痛でしかありません。それが共感出来る内容ならどうですか?相手の方は、また皆さんと話したいと思ってくれるのではないでしょうか?」


 好きな相手の話ならまだしも、好意すら持っていない相手の筋肉自慢なんて、無駄な時間でしかない。


 だから……。
「女性の話を『聴いて』下さい。耳と目と心を傾けて下さい。女性が何を望んでいるのか心で感じて下さい。きちんと自分の話を聴いてくれる相手を嫌う女性はいません。それに、意外と皆さんの様な男性を好む女性は沢山いますよ?」


『傾聴』は、コミュニケーションの基礎だ。
 日本であろうと異世界であろうと変わらないだろう。


「じゃあ皆さん、頑張って来週までに気になる人を見つけて下さいね?」
 私はパチンと両手を合わせてにっこり笑う。


「合言葉は『玉砕上等!!』です」
「……玉砕?」
「はい!当たって砕けろ!」
「砕けたらまずいのでは……?」
「そんな弱腰でどうする!!」
「でも……」
「可愛い恋人が欲しいのか?!いらないのか?!」
「「「欲しいです!!」」」
「だったら、死ぬ気で頑張りなさい!!」
「「「はい!!先生!!」」」
「あ、結果次第ではお仕置きですからね?」
 ニヤッと意地悪な顔でそう付け加えた。


「はっはっはー!では、諸君の検討を祈る!!」
「「「ミーガルド様ぁー!!」」」
 悲痛そうな雄叫びを上げる三人を放置し、私はさっさと部屋から出て行ったのであった。


 ふふふ。良い事をした!!

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