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ハリネズミのジレンマ

篠原皐月

第18話 合鍵

 ある日の昼下がり。伊達眼鏡をかけて、とある喫茶店に入った貴子は、さり気なく店内を見回して、店員に頼んで自分に都合の良い席に座らせて貰った。そして観葉植物の鉢植えが並んでいる仕切り越しに、通路を挟んで窓際にある斜め前方のテーブルの様子を、こっそり観察し始める。


(何だかねぇ……。私、こういう覗き見趣味は無いんだけど……)
 もし隆也がそれを聞いたら、「弟のデートを尾行した人間が口にする台詞か!?」と一喝されそうな事を真剣に考えつつ、貴子は溜め息を吐いた。


(これがやに下がってる下品なオヤジだったら、ざまーみろって冷笑してやるんだけど……。田崎さんは良い人だから、真剣に存在していない『難病の息子さん』を心配してるし。気の毒過ぎるわ)
 そして再度溜め息を吐いてから、今度は相手の女性を冷ややかな目で見やる。


(田崎さん、真面目に遺言書まで作っちゃったしね。『息子の病気治療の為の生前贈与』なんて文言がばっちり入ってるから、後から言い逃れできないのに、平気で誓約書に承認の署名捺印しちゃうんだ……)
 苦々しく思いながら貴子は頼んだカフェオレを一口飲んでから、心の中で自分自身に言い聞かせる。


(まあ、先に貰う物貰ってトンズラすれば良いと思ってるんだろうけど、今回はそうはいかないわよ?)
 そうこうしているうちに、向かい合って座っている男女のうち、女性だけ紙袋を手にそそくさと店を出て行った為、貴子は小さく舌打ちした。


(全く、しおらしい顔して。どうやって先に出る旨の説明をしたんだか。差し詰め『一刻も早く、手術の費用の工面ができたと、息子に知らせてやりたい』とか? しかも口座から足が付かない様に、大金を現金一括払いとはね。……少しは疑って下さいよ、田崎さん)
 多少呆れながら貴子が目を向けると、1人テーブルに残った田崎は、妙にすっきりとした顔で、コーヒーを味わっていた。そしてカップの中身を飲み終わったのか、伝票を手にしてゆっくりと立ち上がった。そこで貴子も冷めたカフェオレを勢い良く喉に流し込み、伊達眼鏡を外してバッグにしまってから、伝票片手に立ち上がる。


(やれやれ。わざと田崎さん達と同じグループに突っ込んだのは私だし、最低限の責任は取らないとね)
 そんな事を考えながら、貴子はレジの前で会計を済ませようとしていた田崎に声をかけた。


「田崎さん」
 その声に振り向いた田崎は、貴子の姿を認めて驚いた顔になった。
「あ、宇田川先生。奇遇ですね。今日はこちらの方にお買い物か何かですか?」
「いえ、偶然ではないです。実は先程から田崎さん達の様子を窺ってまして」
 真顔での台詞に田崎は当惑したが、すぐに自分なりに好意的に解釈した。


「それは……。先生にはこのひと月程、個人的な事で色々とご心配かけてしまったみたいで、申し訳ありませんでした。幸い娘達も納得してくれて、円満に解決を」
「いえ、円満なんかじゃありません。実はあの女は、詐欺グループの一員です。田崎さんに彼女を紹介した末永さんも、その一員ですし」
「え?」
 貴子の言った内容をすぐに理解できず、田崎は混乱した。しかし徐々に理解すると同時に、あっさりと認めたく無かったのか、引き攣った笑みを見せつつ問い返す。


「嫌だな、先生。今の話は、何の冗談ですか?」
「私としても、冗談で済ませられるなら良いんですが。末永の後に同じグループに編入した西脇さんが、警視庁の刑事だと言ったら、納得して頂けますか?」
 そうとどめを刺された田崎は中途半端な笑いを消して、その顔にはっきりとした怒りの色を浮かべた。


「……つまり? 私は餌になったわけですか?」
「平たく言えばそうなります。警察は原則囮捜査はできませんが、この場合、偶々捜査官の間近で詐欺行為が行われていたのを発見したという事に」
「ふざけるな!!」
「……つぅ」
「お客様! お止め下さい!」
 淡々と話していた貴子を田崎は怒声と共に突き飛ばし、彼女は背後の仕切りの壁にぶつかった。そしてウエイトレスの悲鳴が店内に響く中、貴子は田崎に胸元を掴まれて恫喝される。


「詭弁もいいところだろうが。貴様、親身になって相談に乗るふりをして、陰で笑ってやがったな!?」
「そんな事はありませんが……。普段理性的な田崎さんが、どうしてああも簡単に騙されるのか、不思議に思っていました。何かの折りの参考になるかも知れないので、あの女との詳細なやり取りを、教えて頂けませんか?」
「……何だと?」
「お客様! 暴力行為はおやめ下さい!」
 段々田崎の顔が怒りで赤くなってきたのは分かってはいたものの、貴子は敢えてそのまま話を続ける。


「例のお金を持って行った女は、今頃捕まっている頃ですし、後から捜査員が田崎さんに事情を聞きに来ると思います。その時に被害届を」
「黙れ!!」
「……つうっ!!」
「きゃあっ!!」
 あくまでも冷静に語る貴子の態度にとうとう怒りが振り切れたのか、田崎が貴子の服から手を離し、その顔を勢い良く殴りつけた。それをまともに受けて倒れ込んだ貴子は、咄嗟に床に手を付こうと両手を伸ばしたが、その前にレジを乗せてある会計用の台が至近距離に有ったのを失念しており、その角で額の生え際を強打する。


「お客様! 大丈夫ですか!?」
 ガツッと鈍い音がその場に響いた為、貴子が額を押さえて床にうずくまった事も相まって、ウエイトレスが顔色を変えて貴子同様床に座り込んで状態を尋ねてきた。しかしその問い掛けに、すぐ答えられる精神的余裕は、その時の貴子には無かった。


(痛っ……、血が出てる? 失敗したわ……)
 反射的に押さえた手をゆっくりと外してみると、しっかりと流れ出た血が付いていた為、痛みもあって貴子は顔を歪めた。そこに慌てた感じの、新たな人物の声が割り込む。


「先生!? どうしたんですか、その怪我は?」
「西脇さん……」
(面倒な所で、出て来ないでよ……)
 思わず見上げた先に西脇の顔があった為、貴子は溜め息を吐きたくなった。対する西脇は貴子の手と額を見てはっきりと顔色を変えてから、些か険しい顔付きになって、真っ青になって立ち尽くしている田崎を見やる。


「まさか……、田崎さん?」
「あ、いや……、これは、その……」
 そこでしどろもどろで弁解しようとしている田崎を尻目に、貴子は内心で気合いを入れて立ち上がり、伝票をレジの横に置きながらウエイトレスに声をかけた。


「すみません、お騒がせしました。お会計をお願いします」
 そこで指名を受けたウエイトレスが、伝票を手にしながら恐る恐る確認を入れてくる。


「あの……、お客様、大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと皮が剥けて血が出ただけよ。見た目ほど痛くは無いから、気にしないで」
「はぁ……」
 まだ幾分心配そうな顔付きの彼女相手に、貴子が会計を済ませると、西脇が申し出てきた。


「先生、病院までお送りしますか?」
 しかし貴子は笑って手を振る。
「嫌だ、パトカーで病院に乗り付けたら、何事かと思われますから。これから仕事だから仕事場まで移動して、その近くの病院で処置して貰う事にします。西脇さんは自分のお仕事をして下さい。それでは失礼します」
「はぁ……、お大事に」
 まだ若干懸念を含んだ眼差しで見送られた貴子は、その店から外に出て、完全に店から見えなくなる位置まで歩いてから、取り出した綺麗なハンカチで傷の周囲を軽く押さえつつ呻いた。


「……いったぁ」
 そして、結構な痛みを実感しつつ、疲れた様に愚痴っぽく呟く。
「皮膚が相当抉れたかも。跡、残っちゃうかしらね」
 しかしそこで溜め息を一つ吐いた後は、貴子はちらりとも愚痴めいた事は口にせず、痛みを堪えながら病院に向かった。


 夜になって所轄署から戻った部下を出迎えた隆也は、早速その西脇から、日中の首尾についての報告を受けた。
「課長、例の広域結婚詐欺グループの捜査ですが」
「ああ、逮捕状は請求できたし、今日現場を押さえると報告を受けていたが。どうなった?」
「主だったメンバーは、全員身柄を確保しました」
「そうか。それは何よりだ。これで上への面子も立つだろう」
 そこで満足そうに頷いた隆也だったが、西脇が多少言い難そうに報告を続ける。


「それが……、課長」
「何か問題でも?」
「何故か現金の受け渡し場に、宇田川先生がいらしてまして……」
「何だと?」
 思わず目を細めて問い返した隆也だったが、目の前の相手はブツブツと自問自答する。


「いや、そもそも、被害者と容疑者が顔を合わせる日時を、言葉巧みに先生が聞き出して、こちらに情報提供して貰ったから、ご存じなのは当然と言えば当然なんだが……」
「西脇、さっさと話せ」
 口調に僅かに苛つきを滲ませた上司に、西脇は慌てて意識をそちらに向けて報告を続けた。


「申し訳ありません。喫茶店で金を受け取った容疑者を店の外に出たところで確保してから、被害者に説明がてら被害届を出して貰う為、所轄署に同行して貰う旨をお願いする為に店に向かいましたら、先生が被害者に、殴り倒された所に遭遇しまして」
「……それで?」
 それを聞いた隆也は一瞬目つきを鋭くしたが、すぐにいつもの表情に戻って続きを促した。


「一部始終を見ていた店員の話では、二人がレジ付近で揉めた後、被害者が殴りかかって、先生が倒れた拍子にレジ台の角で頭を強打したそうで」
「怪我でもしたか?」
「額の打ち付けた所の皮膚がえぐれて出血して、周囲も結構腫れていましたが、本人は割と平気な顔で『病院で処置して貰ってから仕事に行く』と仰るので、そのまま別れました。被害者はそれで動揺したのか真っ青になって、こちらが申し出た通り署まで同行してくれて、被害届も素直に出して頂きましたが」
 そこまで聞いた隆也は、軽く溜め息を吐いて部下を労う言葉をかける。


「そうか。ご苦労だった。詳細を纏めて、後日報告書を上げてくれ」
「分かりました。それでは失礼します」
(あの馬鹿、何をやっている……)
 目の前から西脇が姿を消すと同時に、隆也は舌打ちしたいのを堪えつつ、こっそり貴子にメールを送ってみたが、何故かその日に限って返信がないまま時間が過ぎて行った。




「はぁ……、流石に今日はちょっと疲れたわね。……え?」
 その日、貴子が仕事を終えてマンションに帰り着くと、エントランスの壁に寄り掛かる様にして、仏頂面で腕組みしている隆也の姿を認めて面食らった。
 対する隆也は、貴子のこめかみの辺りに割と大きく貼られているガーゼを見て不機嫌さに拍車がかかったが、その事には言及しないまま相手を盛大に睨みつける。


「遅い。この俺を一時間近く待たせるとは、良い度胸だな」
「何やってるの? 今日来るなんて、言ってないわよね?」
「連絡はした。電話もメールも繋がらなかったのは、そっちの怠慢のせいだ」
「電話とメール?」
 怪訝な顔をして考え込んだ貴子だったが、その理由をすぐさま思い出した。


「そう言えば、病院に行った時、電源を落としてそのままだったわね」
「そう言えば、じゃあないだろう。さっさと開けろ」
 貴子の口にした理由を聞いて、心底呆れた表情になった隆也は組んでいた腕を解き、自動ドアを指差しながら催促したが、貴子は眉を顰めて相手を手で追い払う素振りをした。


「あのね……、生憎と、今日は疲れてるから、あんたの相手をする暇はないの。さっさと帰ってくれる?」
「そうはいくか。こんなみっともないヘマしやがって。西脇から聞いたぞ。頭を打ち付けた挙句、顔に傷をつけるとは何事だ。この間抜け女」
(そう言えば、上司だったのよね……。洗いざらい報告済みか)
 自分でも(確かに間抜けだったかも)と冷静に考えつつ、(でもこいつに馬鹿にされるいわれは無いわよ)と内心で腹を立てた貴子は、冷たく相手を見やった。


「だから何。あんたは医者じゃないし、この場合、全くお呼びじゃないんだけど?」
 しかし隆也は淡々と言い返す。
「お前が誰かと同居してるなら話は別だが、一人暮らしだろうが」
「それが?」
「頭の怪我は後から症状が出てくる事もあるんだ。一人でいて、急に具合が悪くなったらどうする」
「はぁ?」
 思わず間抜けな声を出し、(何か変な事を聞いたわ)と怪訝な顔をしてから、貴子は疑わしげに確認を入れた。


「何? あんた、もしかして、私の事を心配して、ここまで様子を見に来たわけ?」
「そんなわけあるか。自分の部下と被害者を庇った挙句怪我をした、とんでもなく馬鹿な女を笑いに来ただけだ」
「何の事かしら?」
 素っ気なく言い放った隆也に、貴子はすっとぼけたが、隆也は気にする事無く平然と話を続けた。


「この場合、西脇の代わりに殴られたのはついでだな。詐欺事件は、被害者が被害届を出さないと立件できない。だが結婚詐欺にあったなんて外聞が悪いと、被害届を出さないケースが多々あって、なかなか送検できないのが実態だ」
「一般的にはそうでしょうね」
「加えて、手続きを要請した場合、騙されたと知って逆上した被害者が、説明する立場の西脇に暴行を加える可能性もある。その場合最悪、公務執行妨害に問われる可能性もあるが、お前相手に逆上したら単なる傷害罪。更にお前が申告しなかったら、そもそも罪には問えない。……お前、暴行を受けたと、訴える気は皆無だろう?」
 そう言って貴子の顔を窺いながら確認してきた隆也だったが、彼女は平然と言い返した。


「何の話? この怪我は偶々、荷物を持って階段を下りていた時、足を踏み外して手摺に額をぶつけただけよ。箱の中身が愛用の調理器具だったから、咄嗟に手を離せなくてね」
 そう言って肩を竦めた貴子に、隆也もこれ以上突っ込むのを止めた。


「そうか。ところで例の被害者、どうしてだか真っ青になりながら、西脇の要請を受けて被害届を出してくれたらしいぞ。勿論、詐欺グループも、一網打尽にできたしな」
「そう。じゃあこれ以上、詐欺の被害が出なくて良かったわね。お休みなさい」
 そう言ってさっさと隆也の目の前を通り過ぎようとした貴子だったが、素早く片手を掴まれて、軽く引っ張られる。


「本調子じゃないのは分かってる。今日は何もしないから泊めろ」
「……分かったわよ」
 すこぶる真面目に、半ば脅迫された貴子は、それ以上突っぱねるのを諦めて、溜め息交じりに了承した。そして自動ドアのロックを解除し、ガーゼで保護してある部分を隠すかの様に、不機嫌そうに隆也から顔を逸らしつつ、無言でエレベーターに乗り込む。
 対する隆也も怪我の具合を尋ねる事などせず、無表情で彼女の後に付いて行き、いつも通り部屋に入った。


 それからは無駄口を叩かず、二人は手際良く寝る準備を済ませたが、隆也が遅れて寝室に入ると、先にベッドに腰掛けていた貴子が、面白く無さそうな表情のまま、壁際の方を指差しながら促した。
「ほら、さっさと向こうに行って」
 それに隆也は思わず渋面になる。


「お前……、この期に及んでも、俺より先に起きるつもりか?」
「起きるんじゃない?」
 当然の如く言われた為、隆也は溜め息を一つ吐いただけで、それ以上何も言わずにベッドに上がった。そしていつも通り奥に隆也が横になり、彼に背を向ける形で手前に貴子が横になって寝ようとしたが、身体に布団を掛けたところで、背後から不機嫌そうに隆也が声をかけてくる。


「……おい」
「何? 眠いんだけど?」
「今度、ここの合鍵をよこせ」
 背中を向けたまま応じた貴子だったが、予想外の事を言われた為、身体を半回転させて隆也と向き合いながら、怪訝な顔で尋ねた。


「どうしてあんたに、そんな物を渡さなくちゃいけないのよ?」
「これまでの男には、渡していたんだろうが?」
「どうして男にそんな物、渡さなくちゃいけないのよ?」
「渡した事が無いのか?」
「……ここに来てからはね」
 微妙に噛み合わない会話に、隆也は思わず戸惑った表情になった。そしてふてくされている様にも見える貴子に、少々険しい口調で質問を続ける。


「じゃあ、誰もここの合鍵は持っていないのか? 本当に何か不測の事態があったら、どうするつもりだ。ここは分譲マンションだろう? 管理室や管理会社で、マスターキーは保管しているとは思うが」
 そう隆也が問い詰めると、貴子は不承不承と言った感じで答える。


「一応……、弟は持っているわ」
 それを聞いた隆也は、すかさず考えを巡らせる。
「弟? 母方の上の方だよな? 都内で独り暮らしをしている筈だし」
「ええ。祐司の方。でも……、そうか。この機会に、鍵は返して貰おうかな……」
「どうして鍵を返して貰う必要がある?」
「え?」
 誰に言うともなく小声で呟いた貴子に、隆也が怪訝な顔で問い掛けた。そこで貴子は自分が考えていた事を、無意識に口に出していたらしい事に気付き、小さく舌打ちしてから神妙にその理由を告げる。


「だって……、暫く連絡が付かないって様子を見に来たら、姉の変死体を見つけた、なんて事になったら気の毒過ぎるわよ。後始末を頼む為に、鍵を渡した訳じゃないんだし」
 貴子は正直に考えていた事を口にしたが、それを耳にしても隆也はドン引きする事無く、事も無げに言ってのけた。


「何だ、そんな事を気にしているのか。それなら尚更、返して貰った鍵を、そのまま俺によこせ」
 如何にも(何をつまらない事を言ってる)的な空気を醸し出しながら告げてきた相手に気分を害しつつ、貴子は刺々しい声で言い返した。


「だから、どうしてあんたに鍵を渡さなくちゃいけないのよ?」
「俺は一般人と違って、死体を見ても動揺しない」
「はぁ?」
 ベッドの中で向き合ったまま、真顔でそんな事を断言されて、貴子は本気で面食らった。しかし隆也の主張は更に続く。


「刺殺や殴打による死体なんか、資料や現場で何体見たか覚えていないし、焼死体に轢死体、溺死体に転落死体、一通り見た経験はあるからな。流石に最初の頃は、物が食べられなくなった時期があったが、最近は焼死体を見たその日の帰りに、焼肉も食べられるぞ。お前がここでミイラ化してようが、腐乱してようが、責任を持ってきちんと後始末してやる。心配するな」
 堂々とそんな事を保証されてしまった貴子は、呆気に取られてから小さく噴き出した。そして笑いを堪えながら、皮肉っぽく呟く。


「なるほど。本職だものね。どんな死体でもどんと来いか」
「だからグタグタ言わないで、さっさと渡せ」
「そうね。そのうち、考えておく事にするわ……」
「おい」
 クスッと小さく笑ってから目を閉じた彼女に、隆也は不機嫌そうに声をかけたが、どうやら相当眠かったらしく、貴子はすぐに寝息を立て始めた。その為、隆也はそれ以上話を詰めるのは諦め、貴子の寝顔を眺めながら、苦々しく呟く。


「考えておく、か……。こいつ、全然その気が無いくせに」
 そんな悪態を吐いたものの、隆也はきちんと彼女の肩まで覆う様に毛布と掛け布団を直してから、自分も目を閉じて眠りについた。





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