猪娘の躍動人生
3月 運も実力のうち
「皆さん、ちょっと椅子を持って、こちらに集まって下さい」
「何事ですか?」
「さぁ?」
課長会議から戻るなり、室内に居た部下全員に呼びかけた清人に、皆が不思議な顔をしながら椅子を引いて課長席の前の空いているスペースに移動した。
「蜂谷さん、これを急いで人数分コピーして下さい」
「畏まりました!」
その間に清人は蜂谷に何やら書類を渡して、自身は課長席に落ち着き、手にしていたファイルなどを片付ける。そうこうしているうちに課員達が集まった為、前置き無しで話を切り出した。
「急な話ですが、皆の意見を聞かせて下さい。実は課長会議の後、営業七課の高倉課長に話を伺って来ましたが、建築用タイルの在庫が大量にだぶついている状態だそうです」
それを聞いた周囲から、困惑した声が上がった。
「タイルですか?」
「大量にって、尋常な話ではありませんね。具体的にはどれほど」
「約二万枚です」
「二万っ!?」
「と言っても一枚約四十センチ四方の物ですから」
「いえ、課長代理、それにしたって!」
平然と話す清人とは裏腹に、大抵の者は顔色を変えたが、ここで清人が蜂谷が戻って来たのを見て、次の指示を出した。
「その資料を見ながら、話を聞いて下さい」
その台詞と共に蜂谷が資料を配り始めたので、美幸も取り敢えずそれに目を走らせながら、清人の話に耳を傾けた。
「高倉課長の説明では、我が社が以前から提携しているイタリアの現地メーカーと、従来の製品より高級感と光沢を増加させた上、水はけも改善した人造大理石のタイルを共同開発していたそうです」
「それが『これ』ですか……」
「確かに、従来の物と比較すると、データ的にはなかなかの代物ですが、単価も倍近くしていますね」
これまでに、この手の物を取り扱った事があるらしい村上と林が感想を述べると、清人は頷いて話を続けた。
「それは元々、数年前から高級マンション建設事業に乗り出していた鈴原建設から、『従来の物には無い高級志向の資材を調達したい』との要請を受けて、色々海外の物を紹介したものの難色を示された為、この際販路拡大も狙って新たな商品開発をしてみようという事になったらしいです」
「それがどうして、大量在庫に繋がるんですか?」
販売先が決まっているのに、どうして在庫を抱える羽目になるのかと、高須が根本的な疑問を口にすると、清人が溜め息を吐いてから付け加えた。
「製造したイタリアから船便で運んで、荷揚げしていざ引き渡そうとしたタイミングで、鈴原建設が資金調達に失敗して、マンション建設事業を抜本的に見直す事になりました」
「……うわぁ」
「まさに最悪のタイミングですね」
「まだ船便で運んでいるうちに発覚したなら、まだ傷も浅いものの」
口々に唖然とした表情と口調で述べる部下達に、清人は真顔で頷いた。
「はい。保管している倉庫のレンタル料だけでも、一日五十万かかっているそうです」
「うわ……、洒落になりませんね」
「鈴原建設は倒産や自己破産には至らなかったものの、全事業を見直す上で、該当するマンションは高級志向を徹底的に排除して価格帯を抑えて販売する事になりました。その為我が社には違約金を支払って、タイルの引き取りを断る事になったと言う次第です」
「有り得ない……」
「営業七課にとっては、とんだ災難ですね」
その顛末を聞いて、各自同情する顔になる中、清人の説明は淡々と続いた。
「それが発覚したのが先週で、それ以降営業七課では宙に浮いたタイルの販売先を手を尽くして探してみたそうですが、価格と枚数で二の足を踏まれるばかりで、いたずらに保管料を浪費している状態らしく。先程『大手ゼネコンとの取引や、そこの資材調達部署の人間への伝手は無いだろうか』と懇願されたんです」
そう話を締めくくった清人だったが、部下達は一斉に難しい顔になった。
「確かに気の毒ですが……、ここの取引相手にその手の企業はありませんね」
「比較的小規模の住宅メーカーなら、取引実績はありますが」
「林さん、そういう所に売り込んでは駄目なんですか?」
不思議そうに蜂谷が尋ねると、林は困った様に解説した。
「駄目と言うわけでは無いが……、恐らく無理だろうね。この枚数だと、延べ床面積を考えると、ざっとこの柏木物産本社ビル二棟分。タワーマンションだと一棟分に楽に敷き詰められる量だ。そういう大規模建築物を全国各地で手がけていて、品物がすぐに捌ける会社でないと、引き取ってはくれないだろうな。保管場所の問題もあるし」
「基本的に今はどこも、余計な在庫は抱えない様にしているからね。それで余計に足元を見られて、相当値切られる覚悟も要るだろうし。下手すると原価も確保できないかもしれない。幾ら値引かれても、まだ大手の方がこれから新たな取引に繋がる可能性もある分、メリットがある」
「なるほど」
林に続き村上からも説明を受けて、蜂谷は納得した顔付きで頷いた。そこで瀬上がちょっとした疑問を口にする。
「しかし課長代理。この課と営業七課とは、普段共同で取り組んでいる商談はありませんし、特に交流等も無い筈ですが。どうして高倉課長が、課長代理に話を持って来たんですか?」
「勿論、普段から関わりのある課には片っ端から声をかけたそうですが埒が明かず、こちらに話を持ってきたみたいです。柏木課長から伺っていましたが、課長が営業三課時代に、高倉課長に仕事の事でお世話になったそうで。その関係もあって、高倉課長が藁にもすがる思いでこちらに声をかけてきたと思われますが」
「そういう事でしたか」
「それなら、何とか力になってあげたい所ですが……」
「ちょっと紹介先が思い付きません」
清人の説明を聞いて、城崎以下、課員全員が難しい顔で黙り込み、美幸も眉間に皺を寄せながら考えを巡らせた。
(課長が営業三課時代にお世話に……。これは例の、冷遇されてた時の事よね? それなら恩返しに、何が何でも高倉課長の窮地を救ってあげないと。でも、どうしよう……。都合の良い知り合いなんか居たかな?)
そこでふと記憶の片隅に引っかかった人物の事を思い出した美幸は、「ちょっと失礼します」と周囲に断りを入れて立ち上がり、自分の机に戻った。そして名刺ホルダーを手にして、それをパラパラと捲りながら椅子に戻り、探していた物を見つけてから清人に声をかける。
「あの……、課長代理?」
「何ですか? 藤宮さん」
「仕事上の付き合いでは無いんですが、個人的に名刺交換をしていた方が居まして。青柳建設の方なんですが、その方に口を利いて貰うのは駄目でしょうか?」
控え目に美幸がそう申し出た途端、周りは嬉々としてそれに食い付いてきた。
「青柳建設!? 大手ゼネコンでも、五指に入るじゃないか!」
「あそこなら今都心で、次々タワーマンションを建設してるし、話を持ち込むにはうってつけだよ!」
「藤宮さん、でかした! それで? その人は営業? それとも資材調達とかを担当してる部署の人かな? それだったら願ったり叶ったりなんだが」
珍しく瀬上まで勢い込んで尋ねてきた為、美幸は若干困惑しながら、ファイルから抜き出した名刺を皆に向けつつ説明する。
「いえ、青柳建設会長の牛島和雄さんです」
「…………」
途端に微妙な顔付きになって静まり返った周囲を見て、美幸は益々申し訳無さそうな顔になった。
「えっと……、やっぱり駄目でしょうか?」
その反応を見た美幸が控えめにお伺いを立てると、瀬上は慌てて弁解してきた。
「あの、ごめん。てっきり藤宮さんは合コンを仕切っているうちに、青柳建設の若手の人と知り合ったのかなって思ってたから。いきなりそんな大物の名前が出てくるとは思わなくて」
「年齢的に考えると、父親の知り合いかな? 藤宮さんのお父さんは旭日食品の社長で、旭日ホールディングスの会長だし」
城崎がその場をとりなす様に口にした内容を聞いて、周囲は納得しかけたが、美幸はあっさりと否定した。
「いえ、詳細は知りませんが、牛島さんは父ではなく姉の知り合いです。去年のお正月にご年始にいらした時、そう仰っていましたし。ですから私が直接話をする前に、まず姉から一言頼んで貰えば、話を受けて貰う確率は高くなるかと思いますが」
そこで再び周りが微妙な顔付きになって顔を見合わせる中、どこからかかすれた声が聞こえてきた。
「……姉?」
「はい。それが何か?」
普段冷静沈着な清人が、何やら顔を強張らせているのに気が付いた美幸は、(あら、珍しい)と思いながら頷いた。すると彼が問いを重ねてくる。
「因みに何番目のお姉さんですか?」
「一番上です。それが何か?」
それを聞いた途端、清人は普通の表情に戻って、あっさりと議論の終了を告げた。
「分かりました。もうこの件は良いです。皆さん、解散して下さい。ご苦労様でした」
その見事な豹変っぷりに、城崎以下全員が呆気に取られた。
「はい?」
「あの……、課長代理?」
「それではタイルの件は」
「営業七課には、力になれないと今から断りを入れます」
そう言って早速内線の受話器に清人は手を伸ばしたが、ここで駆け寄った美幸が腕を掴んで訴えた。
「ちょっと待って下さい! 可能性が無きにしも非ずなのに、どうしてあっさり諦めるんですか!?」
しかしその非難の声に、清人は何かが振り切れた様に怒鳴り返した。
「冗談じゃない! あの女性相手に死んでも借りなんか作るか! この話は終わりと言ったら終わりだ!」
「姉の事をご存知なんですか? 柏木課長とは美野姉さんと一緒にここに来た時に顔を合わせた事はありますが、課長代理と美子姉さんの接点はありませんよね?」
「…………」
途端に周囲から疑惑と好奇心に満ちた視線を集めた事に気付いた清人は、少しの間黙り込んだが、すぐに平常心を取り戻し、いつもの口調で再度宣言した。
「とにかく、この話はこれ以上進めるつもりはありません。各自、業務に戻って下さい」
「ちょっと待って下さい! 柏木課長の恩人が、本当に困ってるんですよ!?」
「私自身には、特に恩も借りもありません」
その身も蓋もない言い方に、美幸は本気で腹を立てた。
「もう良いです! 課長代理には関係ありません! 私が高倉課長の為に、姉に個人的に頼みます。それなら文句はありませんよね!? 係長! 今から姉に電話をかけますから、課長代理を押さえておいて下さい」
「分かった、任せろ」
「おい、藤宮! ちょっと待て!!」
私用電話の為、一応部屋の隅に向かって移動し始めた美幸を、清人が焦って引き止めようとしたが、城崎がその進路を遮りつつ呆れ気味の声をかけた。
「課長代理、何を動揺してるんですか。口調が乱暴になってますよ。駄目もとで頼んでみる位、支障は無いでしょう」
しかしそんな彼に、清人が血相を変えて噛み付く。
「城崎! お前はあの人の物騒さを知らんから、そんな事が言えるんだ!」
「は? 白鳥先輩の性悪さなら、嫌と言うほど知り抜いてますが」
美幸に言われた通り相手の腕を掴んだまま城崎が要領を得ない顔付きになると、清人が苛立たしげに叫んだ。
「違う! 女房の方だ! 大体あの先輩と結婚した女が、大人しくて従順で常識的な人間だと本気で信じている程、お前は間抜けじゃあるまいな!?」
その訴えを聞いた城崎は、思わず遠い目をしてしまった。
「一体過去に、何が有ったんですか……」
「誰が言うか!」
「そんな得体のしれない人が、近い将来俺の義姉に……」
「ご主人様をここまで戦慄させるとは……。さすが魔王様の奥方様」
二課の一部で男達が戦慄し、一課と三課の面々が興味本位で見守る中、美幸は自身の携帯で自宅に電話をかけた。
「美子姉さん、今少し話をしても大丈夫?」
「ええ、構わないけど……。あなたこそ、今は勤務中じゃないの? 何か急用なの?」
「うん、急用と言えば急用なんだけど……。ちょっと困っている事があって、青柳建設に商談を持ちかけたいの。でもうちではこれまで直接の取引も伝手も無くて。姉さんは牛島会長の知り合いだったよね? 連絡を取ったら、現場に口を利いて貰えるかしら?」
一気に言い切った美幸だったが、それに対して美子は否定的な言葉を返した。
「そうね……。それはちょっと難しいんじゃないかしら?」
「それはそうだよね……」
清人に対して大見得を切った手前、気落ちした美幸だったが、美子は何気ない口調で尋ねてきた。
「でも、美幸が融通を利かせてくれなんて言ってきたのは、就職してから初めてね。そんなに困ってるの?」
「私や二課じゃなくて、他の課の課長さんなんだけど」
美幸が正直に述べると、美子の口調が訝しげな物に変化した。
「他の課長さん?」
「そうなの。実はその課長さんは、以前うちの課長がお世話になった人らしくて。だから是非とも恩返ししたいのよ。課長は今育休中だけど、もしこの場に居合わせたら、絶対全力で力になってた筈だし」
「課長さんの代わりに、ね」
そして電話越しに笑う気配を伝えてきた美子は、了承の返事をよこした。
「分かったわ。そういう事なら、私の方から牛島さんに話を通してあげるから」
「本当!?」
「ええ。その後で牛島さんの方からそちらに連絡を取って貰うから、確実に連絡が取れる電話番号を教えて?」
「分かった。ここの直通番号を教えるから。メモは大丈夫?」
「ええ、良いわよ?」
そして美幸は手早く電話番号を伝えてから、美子に再度頼み込んだ。
「じゃあ美子姉さん、お願いします」
「その代わり、少し時間を貰うわよ? すぐに牛島さんが捕まるとは限らないし。三十分経っても連絡が付かなかったら、一度そちらに連絡を入れるわ」
「うん。分かったわ」
そして通話を終わらせて皆が集まっている所に美幸が戻って来た為、城崎が首尾を尋ねた。
「どうなった?」
「姉から直接、牛島会長に話を通してみてくれるそうです。駄目でも三十後に一度、こちらに連絡してくれる事になりましたから」
「そうか。それじゃあ取り敢えず、待ってみるか」
安堵したように頷いた城崎から、未だに硬い表情をしている清人に向き直り、美幸は喧嘩腰で報告した。
「安心して下さい! 課長代理の話は、全然しませんでしたから!」
「……ああ。それではこれ以上議論をしても、有益な情報は出て来ないと思いますので、業務に戻って下さい」
「はい」
「分かりました」
渋い顔の清人に促され、各自自分の席に戻って行ったが、隣の席の高須が美幸に囁いた。
「なあ、本当に牛島会長に話を付けて貰えると思うか?」
「さあ……、どうでしょう? 正直、姉と会長がどういう関係か、はっきり分かりませんし」
「お前……、そういう相手に、平気で名刺を配ったのか……」
「だって自宅に来る人に、変な人は居ないと思いますし」
「それはそうだろうが」
溜め息を吐いた高須と共に机に戻り、中断していた仕事を再開した美幸だったが、十分程経過したところで勢い良く廊下に繋がるドアが開け放たれ、何となく見覚えがある男性が駆け込んで来た為、驚いて再び仕事の手を止めてしまった。
「柏木課長代理! 青柳建設の牛島会長に話を付けてくれたと言うのは本当か!?」
それを見た清人が、苦笑いで立ち上がりながら彼を迎える。
「すみません、高倉課長。お話の途中で内線が切られてしまったもので。一応、牛島会長に繋がる伝手を頼っているところですが、確実に牛島会長に繋がるとは……」
そんな挨拶を高倉課長と清人が交わしていると、美幸の机の電話が外線の着信を伝えた。
「はい。柏木産業企画推進部二課、藤宮です」
それにいつも通り対応した美幸だったが、返ってきた声に思わず声を裏返らせた。
「やあ、美幸さん。お久しぶり。牛島だが、たった今美子さんから電話を貰ってね。ちょっとかけてみたんだ」
「うっ、牛島会長ですか!?」
その叫びに、室内全員が驚いた視線を向けたが、美幸は狼狽しながらも通話のスピーカー機能をオンにしてから、なるべく冷静に言葉を返した。
「いえ、こちらこそご無沙汰しております! 昨年は社会人になって早々の若造と名刺交換をして頂き、誠にありがとうございました!」
少々テンパり気味のその挨拶にも、牛島は鷹揚に笑いながら応じる。
「いやいや、振袖姿で帯の中から、颯爽と名刺入れを取り出した姿には惚れ惚れしたね。そんな正月早々仕事熱心なお嬢さんと名刺交換くらいしなければ、男が廃ると言うものだ」
「ありがとうございます」
「しかも二十近くある肩書き毎に作った私の名刺の中から、見事に一度で青柳建設会長の名刺を引き当てたのは天晴れだった。さすがは美子さんの妹さんだと、あれで名前と顔をしっかり覚えたよ」
「そう言えば、そうでしたね……」
当時の事を思い出し、(そう言えば、なかなか楽しいおじさんだったなぁ)と遠い目をした美幸を、周囲の者達は生温かい目で見守った。
「何やってんだか」
「でかしたぞ、藤宮さん」
そんな中、妙にしみじみとした口調の牛島の声が響いた。
「だがあの美子さんの妹さんにしては、なんて普通で平凡で標準的で、常識的なお嬢さんだと感心したし。……うん、普通が良いよ。やっぱり普通が一番だ」
それを聞いた美幸は、少々納得しかねる顔付きになった。
「あの、牛島会長。姉は確かにサッカーフリークで我が家の大黒柱的な存在ですが、世間一般的に見ればごくごく普通の、平均的な女性だと思いますが……」
控え目に問い返してみると、牛島は微妙に口調を変えて応じる。
「……ああ、ご家族にしてみればそうだろうね。変な事を口走ってすまなかった。美子さんは十分、平均的な女性だとも。うん、美徳溢れる、標準的な大和撫子だ」
「はぁ……」
まだ何となく疑問に思いながら相槌を打つと、牛島がさり気なく話題を変えてきた。
「それで美幸さん。何やら我が社に商談を持ちかけたいとか」
「はい、実はそうなんです」
慌てて気持ちを切り替えた美幸に、牛島が事務的に話を進めた。
「美子さんから聞いた話では、美幸さんが直接関わっている案件では無いらしいが、今近くに詳細が分かる人物は居るのかな?」
「はい、ちょうど担当者が側に居りますので、是非とも直接話を聞いて頂きたいのですが」
「分かった。あと二十分程は時間に余裕があるから、聞かせて貰おう」
「少々お待ち下さい」
そこで美幸は送話口を手で押さえながら、緊張した面持ちの高倉に声をかけた。
「高倉課長。牛島会長は、二十分位なら時間があるそうです。お願いします」
「あ、ああ、分かった。借りるよ」
かなり緊張しながらも、何回か深呼吸して気持ちを落ち着かせた高倉は、スピーカー機能をオフにしてから電話の向こうの牛島に挨拶した。
「お待たせしました。柏木産業、営業七課課長の高倉と申します。実は……」
高倉が話し始めたのを見て、清人は各自業務を再開する様に呼びかけ、高倉に手振りで椅子を譲った美幸は、時間を無駄にせず、棚の資料整理を始めた。しかし高倉は十分程で、話を終わらせる。
「ありがとうございます。それでは明日、そちらにお伺いします」
そうして受話器を戻した彼は、喜色満面で清人に報告した。
「柏木課長代理、本当に助かったよ。明日、資材調達課と設計課の担当者に会える事になった」
「それは何よりでした。ですが礼なら藤宮さんに。今回の話は、彼女の口利きですから」
笑顔で応じた清人が美幸を手で示しながらそう告げると、高倉は美幸の所まで駆け寄り、しっかりと握手しながら感謝の言葉を述べた。
「藤宮さん、本当に助かったよ! まさに地獄に仏とはこの事だ!」
涙ぐまんばかりに告げてくる高倉に、美幸は苦笑しながら言葉を返した。
「高倉課長、大袈裟ですよ。それに課長には、うちの柏木課長が以前お世話になったと聞いています。その時のご恩返しが、今回少しでもできたら嬉しいです」
「本当に……、『情けは人の為ならず』と言うが、あの時の助力が何年も経ってから、何十倍にもなって返ってくるとは……」
そこで声を詰まらせた高倉に、美幸は励ます様に声をかけた。
「高倉課長、商談が纏まるかどうかは、明日、青柳建設に出向いた時の成果にかかってるんですよね? 是非とも頑張って下さい」
それを聞いた彼は、力強く頷く。
「ああ、泣いてる暇なんか無いな。一応用意はしてあるが、これから再度資料を精査して、サンプルも確認しないと。本当にありがとう。この機会を無駄にはしないよ。絶対に話を纏めてくるから!」
「はい、吉報をお待ちしてます」
そうして笑顔で職場に駆け戻って行った高倉を見送った美幸に、背後から皮肉まじりの声がかけられた。
「藤宮さんは、大企業の社長令嬢だったんですか。地方の平凡なサラリーマン家庭の出身としては、羨ましい限りですね」
「……何が言いたいんですか?」
馬鹿にした様な笑いを浮かべながらの台詞に、美幸は発言者に鋭い視線を送ったが、由香は平然と言い返した。
「それなら有用なコネも沢山持っているでしょうし、二課に配属以来、さぞかしご家族に便宜を図って貰ったんでしょうね。電話一本で全く取引実績が無い所にも、話を通して貰える位ですし」
あたかもこれまで散々実家の力で仕事を取ってきた様に言われた美幸は、さすがに腹を立てながらも、表面上は穏やかに言い返した。
「渋谷さん、邪推は止して貰えませんか? 姉を含めた家族に便宜を図って貰えたのは、今回が初めてですが」
「口では何とでも言えるわよ。さすが柏木課長は抜け目がないわね。伝手を持ってる新入社員を引き抜いて、実績を上積みするなんて」
そのどう考えても言いがかりにしか思えない台詞に、美幸はいとも簡単に切れた。
「あなたね! うちの課長が、そんなセコい手を使う筈無いでしょう!?」
「はっ! 馬鹿じゃないの? 何不自由なく甘やかされて育ったお嬢様が、まともに仕事して他人より良い成果を上げられる筈無いじゃないの! 青田課長だってそう言ってたわよ!」
由香が負けずに怒鳴り返したが、ここですこぶる冷静な城崎の声が割り込む。
「それでは聞くが、渋谷さんは青田課長の事を優秀で仕事ができる、部下からの人望も厚い人間だと尊敬しているのか?」
「はぁ? 何であんな万年課長の小者を、尊敬しなきゃいけないのよ!?」
「そんな小者の言う事を真に受ける人間を、世間一般では愚か者と言うと思うが」
「何ですって!?」
淡々と指摘してくる城崎に向かって由香は怒りを露わにしたが、彼の追撃は止まらなかった。
「先月、君が夏木係長の話を真に受けていたらしい事を聞いた時にも思ったが、君は肩書きを持っている人間の話の内容を、真偽を確かめもせずに全て鵜呑みにするのか? それは権力を保持している人間に対して、無意識に無条件におもねっていると言うんじゃないのか?」
「それはっ……」
「俺としては、他人の行為をどうこう言う前に、まず自分の言動を顧みる事を勧めるな」
「…………」
尚も何か言いかけた由香だったが、悔しそうな表情で黙り込んだ。それを見た清人が、何事も無かったかの様に、周りの人間に声をかける。
「話は終わりましたか? それでは皆さん、業務を再開して下さい」
それを機に今度こそ二課の者達は、由香も含めて全員、中断していた業務を再開したのだった。
その日、城崎と示し合わせてほぼ同時刻に退社した美幸は、連れ立ってカフェバーに向かった。
「全く腹が立つ! 何かにつけて突っかかる人だとは思ってましたけど、青田課長の話まで真に受けていたとは思いませんでしたよ!」
キッシュを乱暴に切り分けて口に放り込み、カクテルで流し込む合間に美幸が訴えてくる内容に、城崎はビアグラス片手に苦笑いで応じた。
「まあ、そう怒るな。取り敢えず引き下がったんだから」
「引き下がっただけですよね? 絶対、納得してませんよね!?」
「あの手の類はな……。これまで思うように成果を出せなかったのを変に拗らせて、同じ様な環境にいながらも昇進した課長を敵視しているみたいだから。言って聞かせても、そうそう納得しないだろうし……」
独り言の様に口にしてグラスを傾けた城崎に向かって、美幸は怒りをぶつけた。
「全く! 何だって課長代理は、取引先を分捕るついでにしても、あんなのを引っ張ったんですか! 本当にろくでもないったら!」
「あの人にはあの人なりの、考えがあるんだろうが……」
「分かりたくもありません!」
「ところで、美幸はプライベートでも、いつも名刺を持ち歩いてるのか?」
「え? どうしてですか?」
いきなり変わった話題に、美幸が困惑しながら問い返すと、城崎は真顔で付け加えた。
「牛島会長の事だ。自宅の年始客の前に出る時に、普通名刺入れとかを忍ばせないだろう? しかも帯とかには」
それを聞いた美幸は、当然の如く答えた。
「どこで商談と人脈作りのきっかけに遭遇するか、分かりませんから。当然プライベートでも、名刺入れは常に携帯してますよ? あの時は着物だったので、帯の内側かなって思ったので。扇子とかも差し込みますし」
「現物を見せて貰って良いか?」
「構いませんけど……」
いきなり話題がずれた様に感じた美幸だったが、何か意味があるのかと素直にポケットから名刺入れを出して差し出した。頷いてそれを受け取った城崎は、暫く手の中のそれをしげしげと眺める。
「ふぅん?」
「あの……、それが何か?」
ひっくり返し、開いて閉じてを何回か繰り返した彼に、何か拙い事があったかと美幸が恐る恐るお伺いを立てると、城崎は何でも無かった様に名刺入れを返してきた。
「いや、何でもない。ありがとう」
「……そうですか」
「大した事じゃないが……、同じシチュエーションだったとしても、彼女はそういう事はしなさそうだな」
また微妙に話がずれた様に感じた美幸だったが、言われた内容は理解できた。
「彼女って、渋谷さんの事ですよね?」
「ああ。この1ヶ月程観察していたが、彼女は積極的に自分から仕事を取りに行くタイプじゃない。営業三課で、そういう仕事の仕方をしていなかったせいだとも思うが」
「環境だけのせいだとも思えません。元々の性格が悪過ぎですよ」
ばっさりと切り捨てた美幸のコメントに苦笑いした城崎だったが、それに直接は答えずに話を続ける。
「普通、社会人一年生の小娘の、プライベートで配られた名刺なんて、その場では笑って受け取って貰っても、陰で捨てられたり放置されるのがオチだろうな。そんな物まで後生大事に取っておいたら、収拾が付かなくなる。特に牛島会長の様な、立派な社会的立場がある人なら尚更だ」
「確かに、その通りですね」
「それでも牛島会長にしっかり顔と名前を覚えて貰って、おそらく名刺も保存していて貰えたのは、美幸の着物姿でもチャンスは逃さないと言う普段からの心構えと、数多くの名刺の中から見事に青柳建設会長の肩書きのそれを選んだ引きの強さのおかげだろうな」
「はい、これは私の実力じゃなくて、偶々運が良かっただけです」
素直に幸運だっただけだと認めた美幸だったが、そんな謙虚な彼女を見て、城崎が笑みを深める。
「ああ。確かにお姉さんの繋がりで牛島会長に顔を合わせる機会に恵まれたが、会長に好印象を与える事に成功したのは、美幸が運を引き寄せたからだ。だが、運も実力のうちと言うからな。良くやった」
(うわ……、これだけの城崎さんの笑顔って、社内ではお目にかかれない。超レアだわ)
珍しく手放しで誉めてくれた城崎を見て、美幸はすっかり嬉しくなった。
「はい! ありがとうございます!」
「これからもチャンスは逃さず掴んでいけ」
「勿論です!」
それからは気分良く飲み続け、店を出る頃までには美幸の機嫌はすっかり直り、仕事に対する意欲満々で家路についた。
「何事ですか?」
「さぁ?」
課長会議から戻るなり、室内に居た部下全員に呼びかけた清人に、皆が不思議な顔をしながら椅子を引いて課長席の前の空いているスペースに移動した。
「蜂谷さん、これを急いで人数分コピーして下さい」
「畏まりました!」
その間に清人は蜂谷に何やら書類を渡して、自身は課長席に落ち着き、手にしていたファイルなどを片付ける。そうこうしているうちに課員達が集まった為、前置き無しで話を切り出した。
「急な話ですが、皆の意見を聞かせて下さい。実は課長会議の後、営業七課の高倉課長に話を伺って来ましたが、建築用タイルの在庫が大量にだぶついている状態だそうです」
それを聞いた周囲から、困惑した声が上がった。
「タイルですか?」
「大量にって、尋常な話ではありませんね。具体的にはどれほど」
「約二万枚です」
「二万っ!?」
「と言っても一枚約四十センチ四方の物ですから」
「いえ、課長代理、それにしたって!」
平然と話す清人とは裏腹に、大抵の者は顔色を変えたが、ここで清人が蜂谷が戻って来たのを見て、次の指示を出した。
「その資料を見ながら、話を聞いて下さい」
その台詞と共に蜂谷が資料を配り始めたので、美幸も取り敢えずそれに目を走らせながら、清人の話に耳を傾けた。
「高倉課長の説明では、我が社が以前から提携しているイタリアの現地メーカーと、従来の製品より高級感と光沢を増加させた上、水はけも改善した人造大理石のタイルを共同開発していたそうです」
「それが『これ』ですか……」
「確かに、従来の物と比較すると、データ的にはなかなかの代物ですが、単価も倍近くしていますね」
これまでに、この手の物を取り扱った事があるらしい村上と林が感想を述べると、清人は頷いて話を続けた。
「それは元々、数年前から高級マンション建設事業に乗り出していた鈴原建設から、『従来の物には無い高級志向の資材を調達したい』との要請を受けて、色々海外の物を紹介したものの難色を示された為、この際販路拡大も狙って新たな商品開発をしてみようという事になったらしいです」
「それがどうして、大量在庫に繋がるんですか?」
販売先が決まっているのに、どうして在庫を抱える羽目になるのかと、高須が根本的な疑問を口にすると、清人が溜め息を吐いてから付け加えた。
「製造したイタリアから船便で運んで、荷揚げしていざ引き渡そうとしたタイミングで、鈴原建設が資金調達に失敗して、マンション建設事業を抜本的に見直す事になりました」
「……うわぁ」
「まさに最悪のタイミングですね」
「まだ船便で運んでいるうちに発覚したなら、まだ傷も浅いものの」
口々に唖然とした表情と口調で述べる部下達に、清人は真顔で頷いた。
「はい。保管している倉庫のレンタル料だけでも、一日五十万かかっているそうです」
「うわ……、洒落になりませんね」
「鈴原建設は倒産や自己破産には至らなかったものの、全事業を見直す上で、該当するマンションは高級志向を徹底的に排除して価格帯を抑えて販売する事になりました。その為我が社には違約金を支払って、タイルの引き取りを断る事になったと言う次第です」
「有り得ない……」
「営業七課にとっては、とんだ災難ですね」
その顛末を聞いて、各自同情する顔になる中、清人の説明は淡々と続いた。
「それが発覚したのが先週で、それ以降営業七課では宙に浮いたタイルの販売先を手を尽くして探してみたそうですが、価格と枚数で二の足を踏まれるばかりで、いたずらに保管料を浪費している状態らしく。先程『大手ゼネコンとの取引や、そこの資材調達部署の人間への伝手は無いだろうか』と懇願されたんです」
そう話を締めくくった清人だったが、部下達は一斉に難しい顔になった。
「確かに気の毒ですが……、ここの取引相手にその手の企業はありませんね」
「比較的小規模の住宅メーカーなら、取引実績はありますが」
「林さん、そういう所に売り込んでは駄目なんですか?」
不思議そうに蜂谷が尋ねると、林は困った様に解説した。
「駄目と言うわけでは無いが……、恐らく無理だろうね。この枚数だと、延べ床面積を考えると、ざっとこの柏木物産本社ビル二棟分。タワーマンションだと一棟分に楽に敷き詰められる量だ。そういう大規模建築物を全国各地で手がけていて、品物がすぐに捌ける会社でないと、引き取ってはくれないだろうな。保管場所の問題もあるし」
「基本的に今はどこも、余計な在庫は抱えない様にしているからね。それで余計に足元を見られて、相当値切られる覚悟も要るだろうし。下手すると原価も確保できないかもしれない。幾ら値引かれても、まだ大手の方がこれから新たな取引に繋がる可能性もある分、メリットがある」
「なるほど」
林に続き村上からも説明を受けて、蜂谷は納得した顔付きで頷いた。そこで瀬上がちょっとした疑問を口にする。
「しかし課長代理。この課と営業七課とは、普段共同で取り組んでいる商談はありませんし、特に交流等も無い筈ですが。どうして高倉課長が、課長代理に話を持って来たんですか?」
「勿論、普段から関わりのある課には片っ端から声をかけたそうですが埒が明かず、こちらに話を持ってきたみたいです。柏木課長から伺っていましたが、課長が営業三課時代に、高倉課長に仕事の事でお世話になったそうで。その関係もあって、高倉課長が藁にもすがる思いでこちらに声をかけてきたと思われますが」
「そういう事でしたか」
「それなら、何とか力になってあげたい所ですが……」
「ちょっと紹介先が思い付きません」
清人の説明を聞いて、城崎以下、課員全員が難しい顔で黙り込み、美幸も眉間に皺を寄せながら考えを巡らせた。
(課長が営業三課時代にお世話に……。これは例の、冷遇されてた時の事よね? それなら恩返しに、何が何でも高倉課長の窮地を救ってあげないと。でも、どうしよう……。都合の良い知り合いなんか居たかな?)
そこでふと記憶の片隅に引っかかった人物の事を思い出した美幸は、「ちょっと失礼します」と周囲に断りを入れて立ち上がり、自分の机に戻った。そして名刺ホルダーを手にして、それをパラパラと捲りながら椅子に戻り、探していた物を見つけてから清人に声をかける。
「あの……、課長代理?」
「何ですか? 藤宮さん」
「仕事上の付き合いでは無いんですが、個人的に名刺交換をしていた方が居まして。青柳建設の方なんですが、その方に口を利いて貰うのは駄目でしょうか?」
控え目に美幸がそう申し出た途端、周りは嬉々としてそれに食い付いてきた。
「青柳建設!? 大手ゼネコンでも、五指に入るじゃないか!」
「あそこなら今都心で、次々タワーマンションを建設してるし、話を持ち込むにはうってつけだよ!」
「藤宮さん、でかした! それで? その人は営業? それとも資材調達とかを担当してる部署の人かな? それだったら願ったり叶ったりなんだが」
珍しく瀬上まで勢い込んで尋ねてきた為、美幸は若干困惑しながら、ファイルから抜き出した名刺を皆に向けつつ説明する。
「いえ、青柳建設会長の牛島和雄さんです」
「…………」
途端に微妙な顔付きになって静まり返った周囲を見て、美幸は益々申し訳無さそうな顔になった。
「えっと……、やっぱり駄目でしょうか?」
その反応を見た美幸が控えめにお伺いを立てると、瀬上は慌てて弁解してきた。
「あの、ごめん。てっきり藤宮さんは合コンを仕切っているうちに、青柳建設の若手の人と知り合ったのかなって思ってたから。いきなりそんな大物の名前が出てくるとは思わなくて」
「年齢的に考えると、父親の知り合いかな? 藤宮さんのお父さんは旭日食品の社長で、旭日ホールディングスの会長だし」
城崎がその場をとりなす様に口にした内容を聞いて、周囲は納得しかけたが、美幸はあっさりと否定した。
「いえ、詳細は知りませんが、牛島さんは父ではなく姉の知り合いです。去年のお正月にご年始にいらした時、そう仰っていましたし。ですから私が直接話をする前に、まず姉から一言頼んで貰えば、話を受けて貰う確率は高くなるかと思いますが」
そこで再び周りが微妙な顔付きになって顔を見合わせる中、どこからかかすれた声が聞こえてきた。
「……姉?」
「はい。それが何か?」
普段冷静沈着な清人が、何やら顔を強張らせているのに気が付いた美幸は、(あら、珍しい)と思いながら頷いた。すると彼が問いを重ねてくる。
「因みに何番目のお姉さんですか?」
「一番上です。それが何か?」
それを聞いた途端、清人は普通の表情に戻って、あっさりと議論の終了を告げた。
「分かりました。もうこの件は良いです。皆さん、解散して下さい。ご苦労様でした」
その見事な豹変っぷりに、城崎以下全員が呆気に取られた。
「はい?」
「あの……、課長代理?」
「それではタイルの件は」
「営業七課には、力になれないと今から断りを入れます」
そう言って早速内線の受話器に清人は手を伸ばしたが、ここで駆け寄った美幸が腕を掴んで訴えた。
「ちょっと待って下さい! 可能性が無きにしも非ずなのに、どうしてあっさり諦めるんですか!?」
しかしその非難の声に、清人は何かが振り切れた様に怒鳴り返した。
「冗談じゃない! あの女性相手に死んでも借りなんか作るか! この話は終わりと言ったら終わりだ!」
「姉の事をご存知なんですか? 柏木課長とは美野姉さんと一緒にここに来た時に顔を合わせた事はありますが、課長代理と美子姉さんの接点はありませんよね?」
「…………」
途端に周囲から疑惑と好奇心に満ちた視線を集めた事に気付いた清人は、少しの間黙り込んだが、すぐに平常心を取り戻し、いつもの口調で再度宣言した。
「とにかく、この話はこれ以上進めるつもりはありません。各自、業務に戻って下さい」
「ちょっと待って下さい! 柏木課長の恩人が、本当に困ってるんですよ!?」
「私自身には、特に恩も借りもありません」
その身も蓋もない言い方に、美幸は本気で腹を立てた。
「もう良いです! 課長代理には関係ありません! 私が高倉課長の為に、姉に個人的に頼みます。それなら文句はありませんよね!? 係長! 今から姉に電話をかけますから、課長代理を押さえておいて下さい」
「分かった、任せろ」
「おい、藤宮! ちょっと待て!!」
私用電話の為、一応部屋の隅に向かって移動し始めた美幸を、清人が焦って引き止めようとしたが、城崎がその進路を遮りつつ呆れ気味の声をかけた。
「課長代理、何を動揺してるんですか。口調が乱暴になってますよ。駄目もとで頼んでみる位、支障は無いでしょう」
しかしそんな彼に、清人が血相を変えて噛み付く。
「城崎! お前はあの人の物騒さを知らんから、そんな事が言えるんだ!」
「は? 白鳥先輩の性悪さなら、嫌と言うほど知り抜いてますが」
美幸に言われた通り相手の腕を掴んだまま城崎が要領を得ない顔付きになると、清人が苛立たしげに叫んだ。
「違う! 女房の方だ! 大体あの先輩と結婚した女が、大人しくて従順で常識的な人間だと本気で信じている程、お前は間抜けじゃあるまいな!?」
その訴えを聞いた城崎は、思わず遠い目をしてしまった。
「一体過去に、何が有ったんですか……」
「誰が言うか!」
「そんな得体のしれない人が、近い将来俺の義姉に……」
「ご主人様をここまで戦慄させるとは……。さすが魔王様の奥方様」
二課の一部で男達が戦慄し、一課と三課の面々が興味本位で見守る中、美幸は自身の携帯で自宅に電話をかけた。
「美子姉さん、今少し話をしても大丈夫?」
「ええ、構わないけど……。あなたこそ、今は勤務中じゃないの? 何か急用なの?」
「うん、急用と言えば急用なんだけど……。ちょっと困っている事があって、青柳建設に商談を持ちかけたいの。でもうちではこれまで直接の取引も伝手も無くて。姉さんは牛島会長の知り合いだったよね? 連絡を取ったら、現場に口を利いて貰えるかしら?」
一気に言い切った美幸だったが、それに対して美子は否定的な言葉を返した。
「そうね……。それはちょっと難しいんじゃないかしら?」
「それはそうだよね……」
清人に対して大見得を切った手前、気落ちした美幸だったが、美子は何気ない口調で尋ねてきた。
「でも、美幸が融通を利かせてくれなんて言ってきたのは、就職してから初めてね。そんなに困ってるの?」
「私や二課じゃなくて、他の課の課長さんなんだけど」
美幸が正直に述べると、美子の口調が訝しげな物に変化した。
「他の課長さん?」
「そうなの。実はその課長さんは、以前うちの課長がお世話になった人らしくて。だから是非とも恩返ししたいのよ。課長は今育休中だけど、もしこの場に居合わせたら、絶対全力で力になってた筈だし」
「課長さんの代わりに、ね」
そして電話越しに笑う気配を伝えてきた美子は、了承の返事をよこした。
「分かったわ。そういう事なら、私の方から牛島さんに話を通してあげるから」
「本当!?」
「ええ。その後で牛島さんの方からそちらに連絡を取って貰うから、確実に連絡が取れる電話番号を教えて?」
「分かった。ここの直通番号を教えるから。メモは大丈夫?」
「ええ、良いわよ?」
そして美幸は手早く電話番号を伝えてから、美子に再度頼み込んだ。
「じゃあ美子姉さん、お願いします」
「その代わり、少し時間を貰うわよ? すぐに牛島さんが捕まるとは限らないし。三十分経っても連絡が付かなかったら、一度そちらに連絡を入れるわ」
「うん。分かったわ」
そして通話を終わらせて皆が集まっている所に美幸が戻って来た為、城崎が首尾を尋ねた。
「どうなった?」
「姉から直接、牛島会長に話を通してみてくれるそうです。駄目でも三十後に一度、こちらに連絡してくれる事になりましたから」
「そうか。それじゃあ取り敢えず、待ってみるか」
安堵したように頷いた城崎から、未だに硬い表情をしている清人に向き直り、美幸は喧嘩腰で報告した。
「安心して下さい! 課長代理の話は、全然しませんでしたから!」
「……ああ。それではこれ以上議論をしても、有益な情報は出て来ないと思いますので、業務に戻って下さい」
「はい」
「分かりました」
渋い顔の清人に促され、各自自分の席に戻って行ったが、隣の席の高須が美幸に囁いた。
「なあ、本当に牛島会長に話を付けて貰えると思うか?」
「さあ……、どうでしょう? 正直、姉と会長がどういう関係か、はっきり分かりませんし」
「お前……、そういう相手に、平気で名刺を配ったのか……」
「だって自宅に来る人に、変な人は居ないと思いますし」
「それはそうだろうが」
溜め息を吐いた高須と共に机に戻り、中断していた仕事を再開した美幸だったが、十分程経過したところで勢い良く廊下に繋がるドアが開け放たれ、何となく見覚えがある男性が駆け込んで来た為、驚いて再び仕事の手を止めてしまった。
「柏木課長代理! 青柳建設の牛島会長に話を付けてくれたと言うのは本当か!?」
それを見た清人が、苦笑いで立ち上がりながら彼を迎える。
「すみません、高倉課長。お話の途中で内線が切られてしまったもので。一応、牛島会長に繋がる伝手を頼っているところですが、確実に牛島会長に繋がるとは……」
そんな挨拶を高倉課長と清人が交わしていると、美幸の机の電話が外線の着信を伝えた。
「はい。柏木産業企画推進部二課、藤宮です」
それにいつも通り対応した美幸だったが、返ってきた声に思わず声を裏返らせた。
「やあ、美幸さん。お久しぶり。牛島だが、たった今美子さんから電話を貰ってね。ちょっとかけてみたんだ」
「うっ、牛島会長ですか!?」
その叫びに、室内全員が驚いた視線を向けたが、美幸は狼狽しながらも通話のスピーカー機能をオンにしてから、なるべく冷静に言葉を返した。
「いえ、こちらこそご無沙汰しております! 昨年は社会人になって早々の若造と名刺交換をして頂き、誠にありがとうございました!」
少々テンパり気味のその挨拶にも、牛島は鷹揚に笑いながら応じる。
「いやいや、振袖姿で帯の中から、颯爽と名刺入れを取り出した姿には惚れ惚れしたね。そんな正月早々仕事熱心なお嬢さんと名刺交換くらいしなければ、男が廃ると言うものだ」
「ありがとうございます」
「しかも二十近くある肩書き毎に作った私の名刺の中から、見事に一度で青柳建設会長の名刺を引き当てたのは天晴れだった。さすがは美子さんの妹さんだと、あれで名前と顔をしっかり覚えたよ」
「そう言えば、そうでしたね……」
当時の事を思い出し、(そう言えば、なかなか楽しいおじさんだったなぁ)と遠い目をした美幸を、周囲の者達は生温かい目で見守った。
「何やってんだか」
「でかしたぞ、藤宮さん」
そんな中、妙にしみじみとした口調の牛島の声が響いた。
「だがあの美子さんの妹さんにしては、なんて普通で平凡で標準的で、常識的なお嬢さんだと感心したし。……うん、普通が良いよ。やっぱり普通が一番だ」
それを聞いた美幸は、少々納得しかねる顔付きになった。
「あの、牛島会長。姉は確かにサッカーフリークで我が家の大黒柱的な存在ですが、世間一般的に見ればごくごく普通の、平均的な女性だと思いますが……」
控え目に問い返してみると、牛島は微妙に口調を変えて応じる。
「……ああ、ご家族にしてみればそうだろうね。変な事を口走ってすまなかった。美子さんは十分、平均的な女性だとも。うん、美徳溢れる、標準的な大和撫子だ」
「はぁ……」
まだ何となく疑問に思いながら相槌を打つと、牛島がさり気なく話題を変えてきた。
「それで美幸さん。何やら我が社に商談を持ちかけたいとか」
「はい、実はそうなんです」
慌てて気持ちを切り替えた美幸に、牛島が事務的に話を進めた。
「美子さんから聞いた話では、美幸さんが直接関わっている案件では無いらしいが、今近くに詳細が分かる人物は居るのかな?」
「はい、ちょうど担当者が側に居りますので、是非とも直接話を聞いて頂きたいのですが」
「分かった。あと二十分程は時間に余裕があるから、聞かせて貰おう」
「少々お待ち下さい」
そこで美幸は送話口を手で押さえながら、緊張した面持ちの高倉に声をかけた。
「高倉課長。牛島会長は、二十分位なら時間があるそうです。お願いします」
「あ、ああ、分かった。借りるよ」
かなり緊張しながらも、何回か深呼吸して気持ちを落ち着かせた高倉は、スピーカー機能をオフにしてから電話の向こうの牛島に挨拶した。
「お待たせしました。柏木産業、営業七課課長の高倉と申します。実は……」
高倉が話し始めたのを見て、清人は各自業務を再開する様に呼びかけ、高倉に手振りで椅子を譲った美幸は、時間を無駄にせず、棚の資料整理を始めた。しかし高倉は十分程で、話を終わらせる。
「ありがとうございます。それでは明日、そちらにお伺いします」
そうして受話器を戻した彼は、喜色満面で清人に報告した。
「柏木課長代理、本当に助かったよ。明日、資材調達課と設計課の担当者に会える事になった」
「それは何よりでした。ですが礼なら藤宮さんに。今回の話は、彼女の口利きですから」
笑顔で応じた清人が美幸を手で示しながらそう告げると、高倉は美幸の所まで駆け寄り、しっかりと握手しながら感謝の言葉を述べた。
「藤宮さん、本当に助かったよ! まさに地獄に仏とはこの事だ!」
涙ぐまんばかりに告げてくる高倉に、美幸は苦笑しながら言葉を返した。
「高倉課長、大袈裟ですよ。それに課長には、うちの柏木課長が以前お世話になったと聞いています。その時のご恩返しが、今回少しでもできたら嬉しいです」
「本当に……、『情けは人の為ならず』と言うが、あの時の助力が何年も経ってから、何十倍にもなって返ってくるとは……」
そこで声を詰まらせた高倉に、美幸は励ます様に声をかけた。
「高倉課長、商談が纏まるかどうかは、明日、青柳建設に出向いた時の成果にかかってるんですよね? 是非とも頑張って下さい」
それを聞いた彼は、力強く頷く。
「ああ、泣いてる暇なんか無いな。一応用意はしてあるが、これから再度資料を精査して、サンプルも確認しないと。本当にありがとう。この機会を無駄にはしないよ。絶対に話を纏めてくるから!」
「はい、吉報をお待ちしてます」
そうして笑顔で職場に駆け戻って行った高倉を見送った美幸に、背後から皮肉まじりの声がかけられた。
「藤宮さんは、大企業の社長令嬢だったんですか。地方の平凡なサラリーマン家庭の出身としては、羨ましい限りですね」
「……何が言いたいんですか?」
馬鹿にした様な笑いを浮かべながらの台詞に、美幸は発言者に鋭い視線を送ったが、由香は平然と言い返した。
「それなら有用なコネも沢山持っているでしょうし、二課に配属以来、さぞかしご家族に便宜を図って貰ったんでしょうね。電話一本で全く取引実績が無い所にも、話を通して貰える位ですし」
あたかもこれまで散々実家の力で仕事を取ってきた様に言われた美幸は、さすがに腹を立てながらも、表面上は穏やかに言い返した。
「渋谷さん、邪推は止して貰えませんか? 姉を含めた家族に便宜を図って貰えたのは、今回が初めてですが」
「口では何とでも言えるわよ。さすが柏木課長は抜け目がないわね。伝手を持ってる新入社員を引き抜いて、実績を上積みするなんて」
そのどう考えても言いがかりにしか思えない台詞に、美幸はいとも簡単に切れた。
「あなたね! うちの課長が、そんなセコい手を使う筈無いでしょう!?」
「はっ! 馬鹿じゃないの? 何不自由なく甘やかされて育ったお嬢様が、まともに仕事して他人より良い成果を上げられる筈無いじゃないの! 青田課長だってそう言ってたわよ!」
由香が負けずに怒鳴り返したが、ここですこぶる冷静な城崎の声が割り込む。
「それでは聞くが、渋谷さんは青田課長の事を優秀で仕事ができる、部下からの人望も厚い人間だと尊敬しているのか?」
「はぁ? 何であんな万年課長の小者を、尊敬しなきゃいけないのよ!?」
「そんな小者の言う事を真に受ける人間を、世間一般では愚か者と言うと思うが」
「何ですって!?」
淡々と指摘してくる城崎に向かって由香は怒りを露わにしたが、彼の追撃は止まらなかった。
「先月、君が夏木係長の話を真に受けていたらしい事を聞いた時にも思ったが、君は肩書きを持っている人間の話の内容を、真偽を確かめもせずに全て鵜呑みにするのか? それは権力を保持している人間に対して、無意識に無条件におもねっていると言うんじゃないのか?」
「それはっ……」
「俺としては、他人の行為をどうこう言う前に、まず自分の言動を顧みる事を勧めるな」
「…………」
尚も何か言いかけた由香だったが、悔しそうな表情で黙り込んだ。それを見た清人が、何事も無かったかの様に、周りの人間に声をかける。
「話は終わりましたか? それでは皆さん、業務を再開して下さい」
それを機に今度こそ二課の者達は、由香も含めて全員、中断していた業務を再開したのだった。
その日、城崎と示し合わせてほぼ同時刻に退社した美幸は、連れ立ってカフェバーに向かった。
「全く腹が立つ! 何かにつけて突っかかる人だとは思ってましたけど、青田課長の話まで真に受けていたとは思いませんでしたよ!」
キッシュを乱暴に切り分けて口に放り込み、カクテルで流し込む合間に美幸が訴えてくる内容に、城崎はビアグラス片手に苦笑いで応じた。
「まあ、そう怒るな。取り敢えず引き下がったんだから」
「引き下がっただけですよね? 絶対、納得してませんよね!?」
「あの手の類はな……。これまで思うように成果を出せなかったのを変に拗らせて、同じ様な環境にいながらも昇進した課長を敵視しているみたいだから。言って聞かせても、そうそう納得しないだろうし……」
独り言の様に口にしてグラスを傾けた城崎に向かって、美幸は怒りをぶつけた。
「全く! 何だって課長代理は、取引先を分捕るついでにしても、あんなのを引っ張ったんですか! 本当にろくでもないったら!」
「あの人にはあの人なりの、考えがあるんだろうが……」
「分かりたくもありません!」
「ところで、美幸はプライベートでも、いつも名刺を持ち歩いてるのか?」
「え? どうしてですか?」
いきなり変わった話題に、美幸が困惑しながら問い返すと、城崎は真顔で付け加えた。
「牛島会長の事だ。自宅の年始客の前に出る時に、普通名刺入れとかを忍ばせないだろう? しかも帯とかには」
それを聞いた美幸は、当然の如く答えた。
「どこで商談と人脈作りのきっかけに遭遇するか、分かりませんから。当然プライベートでも、名刺入れは常に携帯してますよ? あの時は着物だったので、帯の内側かなって思ったので。扇子とかも差し込みますし」
「現物を見せて貰って良いか?」
「構いませんけど……」
いきなり話題がずれた様に感じた美幸だったが、何か意味があるのかと素直にポケットから名刺入れを出して差し出した。頷いてそれを受け取った城崎は、暫く手の中のそれをしげしげと眺める。
「ふぅん?」
「あの……、それが何か?」
ひっくり返し、開いて閉じてを何回か繰り返した彼に、何か拙い事があったかと美幸が恐る恐るお伺いを立てると、城崎は何でも無かった様に名刺入れを返してきた。
「いや、何でもない。ありがとう」
「……そうですか」
「大した事じゃないが……、同じシチュエーションだったとしても、彼女はそういう事はしなさそうだな」
また微妙に話がずれた様に感じた美幸だったが、言われた内容は理解できた。
「彼女って、渋谷さんの事ですよね?」
「ああ。この1ヶ月程観察していたが、彼女は積極的に自分から仕事を取りに行くタイプじゃない。営業三課で、そういう仕事の仕方をしていなかったせいだとも思うが」
「環境だけのせいだとも思えません。元々の性格が悪過ぎですよ」
ばっさりと切り捨てた美幸のコメントに苦笑いした城崎だったが、それに直接は答えずに話を続ける。
「普通、社会人一年生の小娘の、プライベートで配られた名刺なんて、その場では笑って受け取って貰っても、陰で捨てられたり放置されるのがオチだろうな。そんな物まで後生大事に取っておいたら、収拾が付かなくなる。特に牛島会長の様な、立派な社会的立場がある人なら尚更だ」
「確かに、その通りですね」
「それでも牛島会長にしっかり顔と名前を覚えて貰って、おそらく名刺も保存していて貰えたのは、美幸の着物姿でもチャンスは逃さないと言う普段からの心構えと、数多くの名刺の中から見事に青柳建設会長の肩書きのそれを選んだ引きの強さのおかげだろうな」
「はい、これは私の実力じゃなくて、偶々運が良かっただけです」
素直に幸運だっただけだと認めた美幸だったが、そんな謙虚な彼女を見て、城崎が笑みを深める。
「ああ。確かにお姉さんの繋がりで牛島会長に顔を合わせる機会に恵まれたが、会長に好印象を与える事に成功したのは、美幸が運を引き寄せたからだ。だが、運も実力のうちと言うからな。良くやった」
(うわ……、これだけの城崎さんの笑顔って、社内ではお目にかかれない。超レアだわ)
珍しく手放しで誉めてくれた城崎を見て、美幸はすっかり嬉しくなった。
「はい! ありがとうございます!」
「これからもチャンスは逃さず掴んでいけ」
「勿論です!」
それからは気分良く飲み続け、店を出る頃までには美幸の機嫌はすっかり直り、仕事に対する意欲満々で家路についた。
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