猪娘の躍動人生

篠原皐月

1月 裏事情

「戻りましたっ!!」
「おい、大声出してどう、うわっ!」
「どうしたの血相変え、きゃあっ!」
 ドアをぶち破る勢いで開けて現れた為、理彩と高須が突進してくる彼女に声をかけたが、そこで返事代わりに飛んできた鞄を慌ててよけた。その鞄が彼女の机に落下して周囲の者が唖然とする中、美幸は課長席の前に辿り着いた。


「ご苦労様でした、藤宮さん。入札の感触はどうでしたか?」
 笑顔で感想を求めた清人だったが、美幸は怒りも露わに両手で目の前の机を叩きつつ、糾弾の声を上げる。
「課長代理は、あの入札が各務商事で請け負う事になってたのを、知ってましたよね!?」
「やれやれ、公になったら拙いのに、どこの馬鹿が不用意に口にしたのやら」
「良くそんな事を平然と……。他の皆さんも薄々察してましたよね!?」
「本当ですか?」
「それ、参加企業での談合って事ですよね!?」
(やっぱり仲原さんと高須さん以外は、全員グルって事よね)
 部屋中に響き渡ったその声に一課と三課の者は驚いた顔を向けたが、二課は高須と理彩以外の席に着いていた面々が、気まずそうに課長席付近から視線を逸らした。さり気なく周囲を見回してそれを確認した美幸は、更に頭に血を上らせたが、そこで落ち着き払った声がかけられる。


「談合だったから、何だと? まさかそれを理由に書類提出をボイコットしたり、他の企業と揉めて柏木産業の名前に泥を塗ってきたとの報告ですか?」
 淡々と確認を入れてきた清人に、美幸は歯軋りして答える。
「きちんと入札に参加して、書類を提出してきました。恐らくあの中身は、課長代理が用意してすり替えた物だと思いますが」
「その通りです。因みにこれが藤宮さんが準備した資料です。良かったら、記念に差し上げます」
 清人が机の引き出しから、それなりに厚みのある封筒を平然と取り出したのを見て、美幸は激昂した。


「人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!?」
「馬鹿になどしていません。ろくでもない資料なら即刻ゴミ箱行きですが、一応見るに価する物だったので、保管しておきました」
「冗談じゃないわよ! 絶対に取れないと分かってるカス仕事、人に任せて素知らぬふりを決め込むなんて、良心が痛まないわけ!?」
 怒り心頭に発した美幸だったが、ここで清人が嘲笑う様に告げた。


「勘違いをしている様だな」
「何がよ!」
「入って二年目のお前に任せられる仕事なんて、そんなカス仕事がせいぜいだ。自分を何様だと思ってる。思い上がるのもいい加減にしろ」
「なんですって!?」
 益々眦を上げた美幸だったが、清人はぞんざいな口調で言い放った。


「一度で分からないなら、もう一度だけ言ってやる。今のお前に任せられる仕事なんて、お前が言うところのカス仕事だけだ」
「ざけんじゃないわよ、このっ!!」
「藤宮!」
「……っ!?」
 周囲の者が真っ青になって事態の推移を見守る中、ここで外回りから戻った城崎が一瞬で状況を把握した。そして課長席に駆け寄って鞄を放り出し、背後から美幸の振り上げた右手を捕らえる。と同時にかなり手加減しながら美幸の頬を叩き、鋭く叱責した。


「業務内容について適切な指摘をしてきた上司に向かって、暴力をふるうとは何事だ! 藤宮、直ちに課長代理に謝罪しろ!」
「つっ……」
「係長、幾らなんでも!」
「ちょっと言い過ぎです!」
「いきなり叩かなくても」
 理不尽に責められた上問答無用で叩かれた衝撃で、忽ち美幸の両眼に涙が盛り上がった。さすがに周りの者達も、城崎に対して非難の声を上げる。
 そんな中、美幸は力尽くで城崎の手を振り払うと、泣き叫びつつ勢い良く廊下に向かって駆け出した。


「じょ、女装癖持ちの、オヤジスキーな係長なんて、大っ嫌いっ!! さ、さいてぇぇぇぇ――っ!!」
「あ、藤宮、待ちなさい!」
「こら、どこに行く気だ!?」
 慌てて理彩と高須が後を追ったが、暫し呆然として出遅れてしまい、偶々そのフロアに止まっていた下りエレベーターに美幸が飛び乗った為、諦めて部屋に戻った。そして美幸が出た後の室内で、気まず過ぎる空気が漂う。


「……何か今、藤宮君、変な事を口走らなかったか?」
「女装癖とか、オヤジスキーとか……」
「何の事だ?」
 ひそひそと囁き声が漏れる中、清人が笑いを堪える口調で、目の前に立つ城崎に小声で話しかけた。
「女装……。お前もしかして、彼女にあの事を教えたとか?」
「人の勝手です。それよりも課長代理」
「なんだ?」
 そこでいきなり城崎が清人の顔を殴りつけ、清人は物も言わずに椅子ごと床に倒れ込んだ。そんな光景を目の当たりにして顔色を変えた皆が、二人の元に駆け寄る。


「ひっ……!」
「課長代理、大丈夫ですか!?」
「係長! あんたいきなり、何をするんですか!?」
「手をはらったら当たっただけだ」
 そんな事を平然と言い放った城崎に、清人がゆっくり立ち上がりながら、剣呑な目つきで凄む。


「……良い度胸だ、城崎。一度死にたいらしいな」
「棺桶に片足突っ込んだ、妄想作家が何をほざく」
「こら、二人とも止めないか!」
「良い大人が何をやってる!」
 忽ち一触即発の状態になった為、二手に別れて二人を押さえにかかったが、そこで甲高い声が響いた。


「お二人とも、止めて下さい!!」
「五月蠅いぞ、蜂谷」
「下っ端が喚くな」
 二人にぶった切られた蜂谷だったが、手に持ったスマホをかざしながら、精一杯声を張り上げて二人に訴えた。
「これ以上ここで暴れる気なら柏木課長に通報して、ご主人様にはお仕置きを、係長にはありとあらゆるネタでいびって貰いますよ!?」
 蒼白な顔で、スマホを持った手がブルブルと震えている様子は、その手首に鈴を下げたらさぞかしチリンチリンと良い音がするだろうと思われる程だったが、そんな彼を清人は如何にも不快気に見やった。


「蜂谷。お前のご主人様は俺だよな?」
「た、確かにそうですがっ! 女神様から『社内では課長は私で、清人は代理に過ぎません。業務に関する報告先と判断は、私のそれを優先するように』との薫陶を受けました! で、ですから、二課内での揉め事を傍観するわけにはまいりません!!」
「……馬鹿は馬鹿なだけに、融通が利かなくて困る」
 蜂谷の悲壮な顔付きに清人は盛大に舌打ちし、今度は城崎が地を這う様な声で凄んだ。


「蜂谷。おれは課長に、いびられるネタを掴まれている覚えはない」
「女神様は、『どんな有能な人間でも魔が刺す事はあるし、暴走する事はあるわ。もしもの時の為に全課員を脅すネタの一つや二つ掴んであるから、いざとなったらそう言いなさい』との指示を受けました!」
「……確かに課長なら、それ位はやりかねないか」
 上司の意外な狡猾さとしぶとさを、これまでの付き合いで熟知している城崎は、さもありなんと溜め息を吐いた。そんな二人に、蜂谷が顔色を更に悪くしながら問いかける。


「さ、さあ……、どうされますか?」
 それに対し、二人は無表情で顔を見合わせてから、不愉快そうに顔を背けた。
「偶々、払った手が、顔に当たっただけだな」
「その通りです」
 そして清人は何事も無かったかのように椅子を戻して座り、城崎は鞄を拾って自分の机に戻った。そして緊張の糸が切れた蜂谷は、涙目でその場にズルズルとへたり込む。


「腰が、抜けたっ……」
「偉い、蜂谷! 良く頑張った!!」
「本当、あれだけの事が言えるなんて!」
「見直したぞ。やるじゃないか」
 二人を気にしつつ、他の者達は蜂谷を取り囲んで小声で褒め称え、取り敢えず二課は最悪の事態を回避したのだった。


(最低最低最低! 係長まで完璧に課長代理とグルだなんて!! もう、こんな会社、辞めてやるぅっ!!)
 人目もはばからず泣いている美幸は、どう考えても普通の状態とは言えず、エレベーターに乗り込んだ時から周囲にドン引きされていたが、一階に着いてからもロビーのあちこちから視線を集めていた。そして何も考えずに自社ビルを飛び出した直後、大きな壁にぶつかる。


「うおっ、と」
「きゃっ!」
 前方不注意でまともに誰かにぶつかった美幸は、まだ足が本調子では無かった為、踏ん張りきれずに見事に転がって尻餅を付いた。するとぶつかった相手が、慌てて身体を屈めて手を伸ばしてくる。
「悪い、大丈……って、お嬢ちゃん? どうした。今日は凄いブスメイクだが、ひょっとして縦縞模様が今の流行か?」
「鶴田係長! それ、セクハラですっ!!」
 立たせて貰いながら憤然と抗議すると、鶴田は困った様に美幸を見下ろしながら尋ねてきた。


「う~ん、だけどなぁ、マジでそう言われても仕方ない顔だぞ? どうした。もうじき終業時刻だが手ぶらだし、これから外回りじゃ無いよな?」
 困惑顔で見下ろしてくる鶴田に、美幸は盛大にそっぽを向いて横をすり抜けようとした。
「ほっといて下さい! 失礼します、って、ちょっと! 何するんですか!?」
 しかしすかさず腕を掴んできた鶴田に、あっさり捕獲された。


「ブス顔のお嬢ちゃん、一匹ゲット」
「は? だからブス顔って、しかも一匹って何ですか!? 本当に柏木産業の管理職って、ろくでなし揃いですよねっ!!」
「あ~、分かった分かった。あの胡散臭い課長代理か城崎が、何かヘマしやがったんだな。じゃあ取り敢えず付き合え」
 散々抵抗したものの、見た目に似合わない流暢なトークで鶴田に丸め込まれてしまった美幸は、あれよあれよと言う間に開店早々の居酒屋で、彼とテーブルを挟んで向かい合う事になっていた。


「飲む前に一言言っておくが、会社を飛び出すのは止めないが、せめて財布と携帯位は持って飛び出そうな? 帰宅する為の交通費が無いってそんな顔で交番に飛び込んでお金を借りたりしたら、柏木産業の名前に傷が付きかねん」
「……反省してます」
「今日は俺が飲むのに付き合ってくれたら、ちゃんと家に電話して迎えに来て貰うか、タクシー代を貸すから。部外者の俺に愚痴零して、少しはすっきりして帰れ」
 鶴田の小言に全く反論できずに項垂れてから、美幸はある事実に気が付いた。


「あの……、鶴田さんは、外回りから帰社した所では……。社に戻らなくても、良いんですか?」
「さっき課長には、急用ができたから直帰したいと電話して、了解を貰った。報告は明日で良い事になったから」
 事も無げに言われた内容に、美幸はさすがに申し訳なさで一杯になる。


「本当にすみません。思わぬ所でご迷惑を」
「別に迷惑じゃないさ。あんな大泣きしてるお嬢ちゃんを放り出したら、心配で仕事が手に付かないからな」
「……鶴田係長って、見かけによらずフェミニストですね」
「良くそう言われるぞ?」
 鶴田がおかしそうに笑ったところで、店員がビールを満たしたジョッキを運んできた為、二人はそれを軽く合わせて乾杯し、静かに飲み始めた。そして一口飲んだ美幸が、ぼそりと告げる。


「本当に……、うちの屑野郎どもは……」
 心底忌々しげに悪態を吐いた美幸に、鶴田が呆れた様に溜め息を吐く。
「一体、何があった?」
「鶴田さん、聞いて下さい!」
 そして美幸は今日の午後からのあれこれを、順序立てて包み隠さず語って聞かせたのだった。


「……そういう訳なんです。全く、ろくでもない連中だと思いません!?」
「へえ……。そういう事か。なるほど、良く分かった」
 自分に同意して清人達に対して怒ってくれるかと思いきや、鶴田の反応が予想とは違っていた為、美幸は眉根を寄せた。


「鶴田さん。笑ってませんか?」
「うん? 笑ってるぞ?」
 片手で口元を覆い、何やら笑いを堪えている風情の鶴田を問い質してみれば、肯定の答えが返ってきた為、美幸は再び怒り出した。


「鶴田さんまで私を笑いものにする気ですか!?」
「落ち着け。俺はお嬢ちゃんを笑ったんじゃなくて、あいつがちゃんと任期が満了したら、柏木に課長職を譲り渡す気でいるのが確信できたから、嬉しくてつい笑っちまったんだ」
「は? あいつって、課長代理の事ですよね? それに今の話と、課長の復帰がどう関係あるんですか?」
 いきなり話が飛んだと思った美幸は、意表を衝かれて目を丸くしたが、鶴田は真剣な顔つきで話を続けた。


「今、社内の上層部では『柏木課長代理がこのまま社内に留まって、柏木課長が退職するんじゃないか』と、密かに噂になってる」
「どうしてそんな噂が!?」
「大方の予想に反して、課長代理が柏木が居た頃より業績を上げているし、社長夫妻と養子縁組までしているからな。柏木、うちの課長に続く、第三の次期社長候補と目されてるって事だ」
 淡々と説明された美幸だったが、それを聞いて困惑の色を深めた。
「でも私が見た感じ、課長代理は課長にべた惚れで、絶対服従っぽいですよ?」
「それは直属の部下だから分かる事であって、他部署の人間にはな」
 美幸の話に苦笑いしてから、鶴田は顔付きを改めて、また話を変えた。


「ここで今回のお嬢ちゃんの件だ。一つ質問だが、あの男は無駄な事に時間と手間暇をかけるタイプか?」
「いえ、無駄と判断した事柄に関しては、一秒一円たりとも浪費しないタイプです」
「即答か。じゃあ次の質問。さっきの入札話は、本来二課に持ち込まれるべき案件じゃない。それなのに、どうして二課で取り扱う事になったのか分かるか?」
「それは……、お金にならない仕事だから、本来担当するべき部署から押し付けられた? ……違うか。そんな仕事、理由もなくあの男が引き受けるわけないものね。そうすると……、やっぱり私に嫌がらせする為に、わざわざ引き受けたって事ですか!?」
 自問自答してそんな推測を導き出した美幸だったが、鶴田は小さく首を振った。


「惜しいな。確かにわざわざ引き受けた話だろうが、お嬢ちゃんに嫌がらせする為じゃない。あいつ流の、お嬢ちゃんの超促成栽培の為だ」
「はあ?」
 全くわけが分からなかった美幸は怪訝な顔になったが、そこで鶴田がテーブル越しに僅かに身を乗り出し、低めの声で念を押してくる。


「お嬢ちゃん。ここからの話は、マジで他言無用だが」
「大丈夫です。怒りマックスで、全然酔いが回ってませんから」
 美幸も同様に身を乗り出して頷くと、鶴田は真顔で語り始めた。
「俺や城崎が、柏木と営業三課で同僚だった時期、柏木は上司から嫌がらせを受けて、二年近く今回のお嬢ちゃんと同じ様に、金にならん仕事を任されていたんだ」
 そんなとんでもない事を聞かされた美幸は、瞬時に怒りの声を上げた。


「なんですって!? どこのどいつですか、そいつはっ!!」
「営業三課の青田課長と峰岸係長だ」
「あんの万年課長係長コンビっ!! 鉄拳制裁を食らわせてやる!!」
「ああ、就任以来十年以上その席に居座ってる、社内で『柏木産業の産業廃棄物処分場』呼ばわりの企画推進部二課と並んで、『柏木産業の穀潰しの墓場』との悪名高い、営業系部署での業績が“万年”ダントツビリの、“万年”コンビだ」
 怒りに任せて勢い良く立ち上がった美幸だったが、鶴田がニヤリと思わせぶりに笑いながら見上げてきた為、反射的に言われた内容を考えてみた美幸は、ふと疑問を覚えた。


「普通、係長や課長に就任したら、五年から十年を目処に昇進したり、他の支社の上部ポストに回ったり、他の部署の責任者を歴任する筈なのに、どうしてあの二人は異動しないんですか?」
「異動しないんじゃなくて、できないんだ。もう少し詳しく聞きたいか?」
「勿論です」
「それなら、最後まで黙って聞けよ?」
 それに美幸は素直に頷き、静かに椅子に座り直した。それを見た鶴田は一口ビールを飲んでから、冷静に話し始める。


「元々は、課長が某専務にゴマをすろうと考えたのが始まりだ。社内で幾つかの派閥があるのは、お嬢ちゃんだって知ってるだろ? 当然、社長令嬢の柏木は社長派の駒だと周囲には見られてる。本人にその意識は皆無だが」
 そこで美幸の様子を窺った鶴田は、彼女が冷静に頷いたのを見て、話を続行させた。


「要するにあの二人は某専務に良い顔をする為に、柏木を飼い殺しにするか、仕事に嫌気が差して自ら辞職する方に持って行きたかったんだ。だけど柏木は能力も根性も人一倍だ。多少いびった位では、辞職する筈も無い。そこで各部署に声をかけて、直接業績に結び付かない仕事をかき集めて、全部柏木に押し付けたんだ」
「……どうして課長は、そんな仕事を受けたんですか?」
 怒りを内包した美幸の問い掛けに、鶴田は淡々と説明を続けた。


「仕事を拒否したらそれを理由に処罰される可能性もある上、周りで課長達の対応を非難してた同僚の俺達にも、迷惑がかかる可能性があったし、柏木はこういう仕事も組織には必要だと、清濁併せ呑む潔さも持ってた。更に柏木にとって、メリットがあると判断したからだ」
「だって自分の業績に結びつかないのに、どんなメリットがあるんですか?」
 苛つきながら問い返した美幸に、そんな反応は予想済みだった鶴田は苦笑した。


「俺達も当初はそう思ってた。殆ど専門外の案件だったしな。だから柏木は堂々と、本来その仕事をこなすべき部署に出向いて、そこの責任者に頭を下げたんだ。『専門外の仕事を任せられて、勉強不足の所が多々あり困っております。申し訳ありませんがこちらの部署のどなたかに、ご教授願いたいのですが』ってな。営業三課に専門外の仕事を押し付けた形になってる上、そこまで言われて柏木の申し出を一蹴するなら人でなしだろ。大抵は部下の誰かに、時間外で柏木を指導させたんだ」
「そうだったんですか……」
「指導を時間外に押し付けられた連中は、最初はいい顔をしなかったらしいが、一緒に仕事をすれば柏木が真面目で仕事ができる奴って事は自然に分かるし、本来は自分達の仕事を押し付けてるって意識もあって、柏木に同情的な人間が次第に増えたんだ。結果的にその間柏木の業績は振るわなかったが、柏木は専門外の知識を増やしつつ、着々と社内の有用な人材を見極める目を養い、自分に有益な人脈を作りまくった」
 そこまで聞いた美幸は、(昼間のあのおじさんは、その頃の知り合いだったわけね)と納得し、(ちゃんと名前と伝言を伝えなくちゃ)と、無意識に名刺を入れたままのジャケットのポケットを上から押さえた。


「そのうち社内で『営業三課の課長と係長は、某専務の意向を受けて邪魔な社長令嬢を退社させるべく嫌がらせばかりしている』と噂が立って、預かり知らなかった某専務から『そんな事をしろと言った覚えは無い!』と激怒されて専務派から閉め出された上、社長派に睨まれて出世の目が無くなった挙げ句、俺達部下には愛想を尽かされて数字が取れる奴程次々他の部署に引き抜かれ、業績が上がらなくなって人気が無くなり、益々数字が取れなくなる悪循環。業績が上がらないから昇進出来ないし、他からもお呼びがかからなくて、未だに課長と係長の椅子を温めているってわけだ。温め過ぎて、今では腐ってるかもな」
 そう言って「因果応報だ、ざまぁ見やがれ!」と豪快に笑い飛ばした鶴田に、美幸は思わず笑いを誘われた。そして美幸のクスクス笑いが収まったのを確認してから、鶴田が真顔になって話を続ける。


「だから柏木は課長に昇進する時、あちこちの支社や部署から訳あり部下ばかりを引き抜いたと、俺は考えてる」
「どういう意味ですか?」
「連中、不祥事や不始末をしでかして閑職に回されて、おそらくどうでも良い仕事とか、仕事とか言えない内容の事ばかり、回されてたんじゃないか?」
 そこで美幸は鶴田の言わんとする事がなんとなく分かり、表情を引き締めた。それを察したのか、鶴田が僅かに微笑しながら推測を述べた。


「普通、そういう事を続けてたらやる気が無くなるし、根性が腐るし、仕事に対する勘も無くなるよな?」
 その問いかけに、美幸は小さく頷く。
「自ら辞職するか、ずるずると居座るとかですね。課長は違いましたが」
「ああ。だから柏木は経験上、そういう仕事をしている奴でも、機会を与えれば本来の能力を発揮できる人間だって居る筈だと、確信してたんだと思う。その信念に基づいて、腐った連中からより分けて、本当に有能な人間だけを引っ張った。勿論当時は非難囂々だったが、柏木はお嬢ちゃんとは別の意味で真っ直ぐだから、宣言通りやっちまった。結果はお嬢ちゃんが知ってる通りだ」
「…………」
 無言で、頭の中で言われた内容を反芻した美幸だったが、鶴田は苦笑いで話題を変えてきた。


「それであの課長代理だが、柏木本人があいつに喋った筈は無いが、そういう事をやってた事実を掴んでる筈だ。そうじゃないと、今回のお嬢ちゃんに対する態度に説明が付かない」
「は? それはどういう意味ですか?」
 唐突に話が変わった様に感じた上、全く意味が分からなかった為、美幸は本気で疑問の声を上げた。すると鶴田が懇切丁寧に説明してくる。


「あいつは柏木の代理の立場だ。もし本当に柏木の後釜を狙ってるなら、わざわざお嬢ちゃんに嫌がらせ紛いの仕事をさせて、周囲から白眼視されるのは避ける筈だろう?」
「……桁外れに、性格が悪いだけでは?」
「お嬢ちゃん、こんな仕事を押し付けられたのが分かって、嫌な思いをしただろ?」
「勿論ですよ!」
「お嬢ちゃん、真っ直ぐだもんな~。だからそんなお嬢ちゃんにそんな仕事を押し付ける事になったら、大抵の人間は良心が痛むわけだ」
「普通そうですよ! あの課長代理は冷血動物なんですっ!」
「だから今後、万が一柏木がお嬢ちゃんにそんな仕事をさせる事になったら、散々嫌な思いをした柏木の古傷を抉るし、罪悪感も増すんじゃないかと奴は考えたんじゃないか?」
 さらりと鶴田が口にした内容を耳にした途端、美幸の目が限界まで見開かれた。そして何か言おうとして何回か口を開閉させてから、漸く声を絞り出す。


「……え? あの……、だって、じゃあ単なる嫌がらせとかじゃなくて、課長が私に任せて嫌な思いをさせる前に、敢えてセクハラオヤジ相手の接待とか、自分を目の敵にしてる人物と組ませての仕事をさせて私に耐性を付けさせて、なるべく課長に嫌な思いをさせない様にしたって事ですか!?」
 その疑念を含んだ声に、鶴田は再度苦笑いの表情になった。
「あいつ社内に居るうちに、できる事はできるだけやっておくって感じで、あちこちに接触してるみたいだからな。本当に柏木にベタ惚れだよなぁ……。城崎の奴も、お嬢ちゃんの事体張って庇ったみたいだし」
 呆れ顔で一人頷いている鶴田に、美幸はもの凄く懐疑的な表情を向けた。


「なんで係長が私を庇った事になるんですか。私、問答無用で殴られたんですよ?」
「だって顔、赤くなってないだろ。あいつ柏木が上から無理難題ふっかけられてるのを目の当たりにして、残業中に抜け出して『ここだと防犯カメラの死角ですから』って冷静に言いながら、青田と峰岸の名前を書いた紙を貼り付けた会議室のドアを、一つ蹴り壊しちまった事があるんだぞ? 絶対手加減してるって」
「なんですか、それは?」
「端から見れば、お嬢ちゃんは上司に暴力を振るおうとした事になる。実際に殴ったら確実に処分ものだ。お嬢ちゃん、そんな事で自分の経歴に傷を付けたいか?」
「でも、それはっ!」
「確かに城崎はお嬢ちゃんを叩いたが、それは暴力を振るおうとした部下を制止させる為と、言い訳も立つ。お嬢ちゃんに嫌われる事は覚悟の上でな」
 そこで咄嗟に反論出来ない美幸に向かって、鶴田が理解に苦しむ表情になる。


「だから城崎の奴、本来はお嬢ちゃん以上に曲がった事が大嫌いな奴なんだが……。この話を知ったら絶対止める筈なのに、課長代理に何か弱味でも握られてるのか?」
「……ええと、そうすると係長は、課長が一番不遇な時代を知っているんですよね?」
 その『弱味』に思い当たる節があり過ぎた美幸は、かなり強引に話題を変えた。それに鶴田が素直に乗る。
「ああ。だから城崎は柏木の仕事に対する姿勢を尊敬してるし、社内から色々言われながら柏木の下でしっかり自分の職分を果たしてきたわけだ。しかし本当に良かったな、お嬢ちゃん」
「え? な、何がですか?」
 いきなり話を振られて当惑した美幸に、鶴田は笑顔のまま解説した。


「今回の仕事が、あいつ流のお嬢ちゃん超促成栽培の一環だと言った理由。お嬢ちゃんはあいつに、柏木の下で働いて良いって認めて貰った筈だぜ?」
「は?」
「あいつが使えないと判断した奴を柏木の下に置くとは思えんし、将来下に居ない奴に手間暇かけないだろ。俺が思うに他の二課の連中も、あいつの査察対象だな。今のところ全員合格っぽいが」
「…………」
 そこで再び無言になった美幸に、鶴田がおかしそうに声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、どうした。目を開けたまま寝ちまったか?」
「鶴田さん……」
「何だ?」
「予想外の事ばかり聞かされて、笑えば良いのか泣けば良いのか怒れば良いのか、全く見当がつかないんです。この落とし前をどうつけてくれるんですか?」
 じんわりと両目に涙を浮かべつつ、そんな難癖を付けてきた美幸に、鶴田は吹き出しそうになりながら胸を叩いて請け負った。


「よし、責任は取ってやる! さっきも言ったがここの払いは俺持ちだし、幾ら笑おうが泣こうが怒鳴ろうが、最後までお嬢ちゃんに付き合ってやるぞ!」
 その言葉に、美幸は手荒に両目を擦りつつ叫び返す。
「その言葉に二言はありませんね!? 今日は徹底的に飲みますよ!!」
「おう! どっからでもかかってきやがれ!」
 そして変なノリで飲み始めた二人は、周囲のテーブルから迷惑そうな視線を受けながら、暫く飲み続けたのだった。
 そして二時間後、テーブルに突っ伏した美幸を見て、鶴田は苦笑いをしながら彼女に語りかけた。


「あ~、完璧に潰れちまったな~。どうだ? 城崎にでも迎えに来て貰うか?」
 それに美幸は顔を上げないまま、若干呂律の回らない口調で言い返す。
「む~り~。まぁだ、ちょ~っと、おこってるんだも~ん」
「なんだ、そうか。城崎の奴、随分嫌われたもんだなぁ。じゃあお嬢ちゃん。俺に乗り換えないか?」
「つるたさんに、のりかえ~? ブッ、ブブーッ!」
「おいおい。ちょっとは気を遣えよ」
 苦笑いしながら鶴田が美幸の背後に意味有り気な視線を向けたが、勿論そんな事は分からない美幸は、僅かに顔を上げて上機嫌に言い放った。


「だぁってぇ~、つるたさんより~、うちのかかりちょーのほうが~、ずぇぇぇったい、しごとできてぇ~、いいおとこですよぉ~? げんじつぉぅ~、ちょくしぃ~、しなきゃあ~、ダメっぴょーん!!」
 そして再び突っ伏した美幸に、鶴田は苦笑しかできなかった。
「やれやれ、嫌われたもんだなぁ」
「でもぉ、はなしきいてくれたし~、しゅっけつだいさーびしゅでぇぇ、つるたさんに、もれなくぅ、カノジョさんを~ごしょ~か~い!!」
「へいへい、楽しみにしてるわ」
 くぐもった声でそう宣言した直後、美幸は本格的に規則正しい寝息を立て始めた。それを確認してから、少し前から美幸の斜め後方の通路に立っていた城崎に、皮肉っぽい笑みを向ける。


「よう、色男。どうやら、俺よりお前の方が断トツで仕事はできるし、良い男らしいな」
 それに口元を片手で覆った城崎が、短く答える。
「……どうも」
「礼を言う相手が違うし、照れまくるなよ。耳が赤いぞ?」
 そう言って含み笑いをする鶴田に、城崎は何とか平常心を保ちつつ、頭を下げた。


「…………お手数おかけしました。連絡を頂けて、助かりました」
 これ以上はないタイミングで現れた城崎を見て、こっそりテーブルの下で美幸に分からない様にメールを打った鶴田は、自分の仕事っぷりに満足した。
「彼女から一通り聞かせて貰ったが、とんでもない野郎だな。お前の気苦労も増える一方だろう?」
「半ば諦めてます」
「まあ、頑張れ。柏木の下でも、結構気苦労は多かったと思うしな。ああそれと、お嬢ちゃんに営業三課時代の話をしたからな?」
 ぼかして言われたものの、すぐにその内容に見当が付いた城崎は、軽く顔を顰めながら確認を入れた。


「例の、課長が根も葉もない不倫の噂を流されて、事実上営業部から放逐された事は?」
「そこまで言ったらお嬢ちゃん、絶対あの二人を闇討ちするだろ?」
「そうですね」
「しかし本格的に爆睡してるな。悪い、つい飲ませ過ぎた」
 鶴田が真顔で謝罪してきた為、城崎は首を振った。


「いえ、元はと言えば、こちらの不手際ですから。タクシーを呼んで、俺が自宅まで送って行きます」
「じゃあ、乗せる所までは付き合うぞ。抱えて乗せるにも、荷物があるし大変だろう」
「お願いします」
 そうして話は纏まり、美幸は城崎によって自宅に送り届けられる事になったのだった。




 その翌朝、美幸は盛大な頭痛と羞恥心と後悔を抱えながら、出社する事となった。
「ふ、ふふふ……、明らかに上司に暴言を吐いた上に、職場放棄した翌日の出勤って、どんな顔して入れば良いのかしらね?」
 どこか遠い目をしながら企画推進部のドアの前で呟いた美幸の横で、心配してここまで付いて来た美野が呆れた様に溜め息を吐く。


「しかも泥酔して、会社に置き忘れた荷物と一緒に、城崎さんに家まで送り届けて貰うなんてね。『休む』とか『辞める』とか、喚き出さなかったのは褒めてあげるわ」
「それ言わないで! どうして鶴田係長と飲んでた筈なのに、係長が送ってくるのよ? そこら辺、全然記憶が無いんだけど!?」
「そんな事本人に聞いて。ほら、さっさと入りなさいったら!」
「ちょっと待って! 心の準備が!」
 そんな事を押し問答していると、どこか疲れた様な声がかけられた。


「二人とも、ドアの前で何やってるんだ? 他の人間の邪魔だし、美野は遅れるから早く法務部に行った方が良い。こいつは引き受けたから」
 その言葉に二人が周りを見回すと、確かにドアを二人が塞いでいる形になっており、中に入れず困惑顔の者達が目に入った。その為美野は慌ててドアから離れて歩き出しつつ、高須と美幸に声をかける。
「そう? じゃあ優治さんお願い。いいわね美幸、ちゃんと謝るのよ?」
「分かってるわよ!」
「ほら、行くぞ。通行の邪魔だ」
 そしてドアを押し開けた高須は、美幸を促して室内に入った。


「すみません、ご迷惑おかけします」
「気にするな。未来の義理の兄妹だろうが」
 苦笑した高須に手を引かれ、彼と同様周囲に「おはようございます」といつも通り挨拶しつつ入室した美幸は、こっそり(将来、高須さんが美野姉さんと夫婦喧嘩した時、一回だけは無条件に味方してあげよう)と埒も無い事を考えた。そして高須が「ほら、行って来い」と軽く背中を押しながら、小声で言い聞かせて来た為、美幸は覚悟を決めて課長席に向かって足を進めた。
 さすがに緊張した美幸だったが、自分の登場にざわめいている周囲をよそに、目下の美幸の天敵は手元の資料に視線を落としたままで、それが彼女を落ち着かせた。


「おはようございます、課長代理。それから昨日は、終業時刻前に無断で早退いたしまして、誠に申し訳ありませんでした。加えてその折に、非礼な発言と振る舞いを致しましたこと、深く反省しております。お許し下さい!」
 美幸が一気に述べて深々と頭を下げたのを見て、企画推進部の面々は美幸を眺めてから清人に視線を移した。対する清人はゆっくりと書類から視線を上げ、不気味な笑みを見せる。


「おはようございます、藤宮さん。昨日急遽早退した事に関しては、その時のあなたの様子を見た社内の方から色々な憶測が流れた様ですが、それはあなたが季節外れの花粉症を突如発症させ、その凄まじい症状に耐えかねて眼科と耳鼻科と精神科を受診しに行った為と、要所要所に説明済みですので支障はありません。決して職場放棄などと言い出す輩は居ない筈ですから、安心して下さい」
「……お気遣い頂きまして、どうもありがとうございます」
(眼科と耳鼻科は分かるけど、最後の精神科って何!?)
 盛大に顔を引き攣らせつつも、一応それなりに美幸の立場を取り繕ってくれた事には変わり無い為、美幸は感謝の言葉を絞り出した。そして俯き加減の顔を上げ、清人の顔を正面から見据えながら、力強く宣言する。


「それでは、一応謝罪は済みましたので、課長代理に一言言わせて頂きたいのですが」
「何でしょうか?」
「おい、ちょっと待て!」
「藤宮君!?」
 美幸が素直に頭を下げた事で胸を撫で下ろしたのも束の間、彼女が戦闘意欲満々でそんな事を言い出した為、周囲は顔色を変えて彼女を止めようとした。しかし時既に遅く、美幸はビシッと目の前の男を指差しながら宣言する。


「あんたが仕事ができて抜け目が無くて課長にベタボレだってのは、今回の事でよ――――っく分かったけど、やっぱり嫌味だし目障りだしムカつくのよ! いつか絶対ギャフンと言わせてやるから、首洗って待ってなさい!! 大体、もぐがぁっ!」
「もういいから黙れ! 何も喋るな!」
「ふがいげうらだいお!」
 血相を変えて吹っ飛んで来た高須に、背後から羽交い絞めにされつつ口を塞がれた美幸は、盛大に暴れつつ放すように訴えたが、高須はそのまま席に引き摺って行こうとした。


「だからどうしてお前は、物事を大きくするんだ! ほら、席に戻るぞ。言いたい事言って、すっきりしただろ」
「ぎゃふん」
「は?」
「え?」
「課長代理、今何か仰いましたか?」
 そこで唐突に変な音が生じた為、深雪や高須を含む企画推進部の面々が清人の方に視線を向けると、彼は真顔のまま意味不明な事を続けて口走った。


「ぎゃふん、ぎゃふん、ぎゃふん、ぎゃふん」
「………………」
 そして室内に不気味な沈黙が漂った後、清人が美幸に向かって優雅に微笑んでみせた。
「昨日、あれだけ挙動不審だった藤宮さんが優れない体調を押して出勤されたので、その勤労意欲に敬意を表して、望みの言葉を五回ほど口にしてみました。志が低くて結構ですね?」
 にこやかにそんな事をのたまった清人に、美幸の堪忍袋の緒が音を立ててブチ切れた。


「こっ……、こんの超腹黒似非紳士野郎っ!! やっぱり一回ぶん殴る!!」
「だからそれは止めろって!」
「藤宮さん、落ち着け!」
 本気で殴りにいった美幸をもはや高須だけでは抑え切れず、血相を変えて駆け寄った瀬上が高須と協力して腕を一本ずつ掴んで押さえにかかった。
「後生だから離して下さい、高須さん、瀬上さん! ……って、きゃあぁぁっ!!」
 そこで丁度出勤してきたらしい城崎が瞬時に状況判断をし、素早く男二人を美幸から引き剥がした上で、問答無用で彼女を肩に担ぎ上げつつ早口で宣言する。


「すみません、課長代理! 藤宮は昨日処方された薬の副作用で、少々興奮状態にあるようです! これから動悸や呼吸困難の症状が見られるかもしれませんから、念の為医務室に連れて行って経過を観察して貰います!」
 その台詞に清人は面白そうな笑みを向け、美幸は怒りの声をヒートアップさせる。
「ああ、そうですか。薬の副作用ではなく、逆に何か変な薬が切れたのかと思いました。症状が悪化したら大変です。ゆっくり休ませてあげて下さい」
「人をヤク中呼ばわりするなっ!! 係長も俵担ぎは止めて下さいよ!! 下ろしてぇぇぇ――っ!!」
 そして廊下を担がれていく、美幸の木霊する声が段々小さくなっていくのを聞きながら、二課の面々は顔を見合わせて溜め息を吐く。


「……何か、前にもあったな、こんな光景」
「これからもありそうな気がするな」
 そんな哀愁漂う部下に気を留める事など無く、清人は淡々と中断していた仕事を再開したのだった。





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