フライ・ア・ジャンプ~絵から始まる事件~

篠原皐月

(4)突破口

「失礼します。白騎士隊、アルティナ・シャトナーです」
「入れ」
 遅い時間の為、巡回の騎士に怪訝な顔をされながらも、戻った時にすぐに報告できるよう、わざわざ夜目に目立つ白騎士隊の制服でジェイド邸に忍び込んでいたアルティナは、誰にも誰何されずに騎士団長室に駆け込むように入った。


「ケイン。それにナスリーン隊長まで、残っていらしたのですか?」
 室内がバイゼルだけでは無かった事に、アルティナが軽く驚くと、ナスリーンが顔をしかめながら説教してくる。


「当たり前です。アルティナはれっきとした、私の部下なのですよ? 中にアルティン殿がおられると分かっていても、単身での潜入捜査など危険過ぎます」
「この前の後宮乱入事件と比べたら、危険性など無いに等しいですが……」
「比較の対象が間違っています」
「…………」
 弁解を試みたアルティナだったが、ナスリーンに一刀両断されて口を噤んだ。ここでバイゼルが困った顔で、ナスリーンを宥める。


「ナスリーン、気持ちは分かるが、そこまでにしておけ。アルティン、報告を頼む」
「はい。取り敢えずこちらをご覧ください」
 促されて気を取り直したアルティナは、背負っていた布袋を机に下ろし、中から取り出した書類をバイゼルの前に並べた。彼の両側からナスリーンとケインがのぞき込む中、三人の呟きが漏れる。


「これは……、見覚えのある家名があるが」
「貴族と平民が半々、といったところでしょうか?」
「アルティン、ちょっと待て。これを見ると黒騎士隊で調査している、最近体調を崩しているらしい貴族の名前と、随分合致する者がいそうだが」
「やっぱりそうか」
 険しい表情で確認を入れてきたケインに、アルティナが顔をしかめながら頷く。それを聞いたナスリーンが、動揺しながら問いを発した。


「するとこれは、ペーリエ侯爵がジャービスを売却している、顧客名簿なのですか?」
「その可能性が高いかと。それから、こちらをご覧ください」
 アルティナが続けて、より分けて指し示した書類を見て、三人は再び困惑した表情になった。


「これは……、《ラズナイア》の取引指示書? 何だ、これは?」
「ラズナイアとは何ですか?」
「さあ……。耳にした事がありません。何かの符号でしょうか?」
 顔を見合わせた三人が、説明を求めてアルティナに視線を向けたが、彼女は首を振って答えた。


「私にも正確な所は分かりませんが、こちらの書類を見るとそのラズナイアの送り先が、マーカス・ダリッシュ邸になっています」
 彼女がそう口にした途端、三人の顔付きが一気に険しい物に変化し、慌てて再度書類を凝視した。


「何だと!? まさかラズナイアと言うのは、ジャービスの事ではないだろうな!」
 バイゼルの怒声に、アルティナが冷静に返す。


「そこまでは確証が持てませんが」
「それでは、それを送っている所はどこなのですか?」
「《タシュケル》とだけ記載があります。変わった名前、もしくは店名ですから、聞き覚えがあれば忘れないと思うのですが……」
 ナスリーンの問いにアルティナが答えていると、バイゼルが即座に判断を下した。


「分かった。取り敢えず明日、朝一番で緑騎士隊に調査させよう」
「ところで、ペーリエ侯爵がこれらの書類を盗られた事に気付いて、他の証拠や証人を消す心配は無いのか?」
 その懸念を口にしたケインに、アルティナは軽く首を傾げてから、布袋から他の戦利品を次々と取り出してみせた。


「遅かれ早かれ気が付くだろうが、一応普通の物取りの犯行だと思わせる為に、手当たり次第引っ掻き回して、色々頂戴してきた。時間稼ぎにはなると思う」
「お前な……」
「アルティン殿……」
 机の上に積み重なった、宝飾品や金貨の入った袋を目にしたケインとナスリーンは、呆れながら咎める視線をアルティナに向けた。バイゼルも額を押さえて盛大に溜め息を吐いたものの、特に叱責はせずに対応策を口にする。


「ペーリエ侯爵に、正直に返すわけにはいかないからな。これらは私の責任で、騎士団の金庫で預かっておく。全て事が済んだら、ペーリエ侯爵邸の付近に散乱していた物を、巡回の騎士が拾って保管していたとか適当な理由を付けて、返却手続きを取ろう」
「宜しくお願いします」
 アルティナとしては反対する理由も無く、バイゼルに向かって深々と頭を下げた。


「それにしても……、いつもの事とは言え、アルティナは夕食後から寝る前の記憶が抜け落ちた状態になるのですから、アルティン殿自ら動くのは程々にして欲しいですね」
「重々、承知しています」
「全くだ。身体はアルティナの物なのだからな」
「分かってる。しつこいぞ、ケイン」
 最後にアルティナが二人から小言を貰い、バイゼルがケインに幾つかの指示を出して、その場はお開きとなった。



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