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その華の名は

篠原皐月

(12)不穏な気配

「あ、音楽が始まりましたわね」
「皆様がいらっしゃいましたよ?」
 女性だけで集まって話し込んでいる所に、イズファインを初めとして複数の男性が歩み寄り、声をかけてくる。


「サビーネ。楽しく会話しているところ申し訳ないが、そろそろ一曲踊らないかい?」
「そうですね。それでは皆様、また後で」
「ええ、勿論ですわ」
「まだお話ししたいことが、色々ありますものね」
 それぞれのパートナーと連れ立って会場の中央で踊り始める者、これまでとは異なる参加者と談笑を始める者に別れたが、イズファインと共にやって来たジャスティンに声をかけられたことで、カテリーナは取り敢えず踊っておくことにした。


「カテリーナ、ここらで少し踊っておくか」
「それは良いのですが……。ジャスティン兄様、大丈夫ですか? 随分気疲れしているみたいですが」
「疲れもするさ。慣れない場所に引っ張り出されているんだからな。ジュール兄上よりは、遥かに気が楽だろうが」
 自分の手を取って歩き出した兄が、心底うんざりしている顔つきだったため、
カテリーナはなんとか笑いを堪えた。そして踊り出しながら、先程から気になっていた事について問いかける。


「ところで、ジュール兄様はどんな様子でしたか?」
 自分がリサと共に離れた後、ナジェークとイズファインがジュールとジャスティンを連れ歩いているのを遠目で見ていたカテリーナが尋ねると、ジャスティンが微妙に考え込みながら説明する。


「なんと言うか……、今回色々腹が据わったと言うか、完全に開き直ったと言うか……。勿論、良い意味でだぞ?」
「それなら良いのですが……。ナジェークが変な事をしたり、吹き込んだりはしなかったでしょうね?」
「いや、それはなかった。寧ろ真っ当に意見してくれていたし。すごく兄上の為になった筈だ」
「……そうなの?」
 真顔でナジェークを褒めたのに、カテリーナがものすごく疑わしげに応じたことで、ジャスティンは躍りながらがっくりと肩を落とした。


「カテリーナ……。お前、そこまで懐疑的な顔をする相手と、本気で結婚する気があるのか?」
 半ば呆れられ、半ば睨まれてしまったカテリーナは、微妙に兄から視線を逸らしながら答える。


「まあ、一応、それなりに?」
「……駄目だ。胃が痛くなってきた」
「頑張ってください。ジャスティン兄様」
 そんな他人事のような台詞にジャスティンが溜め息を吐いたところで曲が終わり、気がつくと至近距離にナジェークとエセリアが立っていた。


「やあ、カテリーナ。今度は私と一曲踊って貰えるかな?」
「ええ、喜んで」
 白々しく手を差し出したナジェークにカテリーナが不気味な笑みを浮かべながら応じたが、それだけでは終わらなかった。


「それではジャスティン様は、私と踊っていただけますか?」
 エセリアからの微笑みながらの要請に、ジャスティンが激しく動揺しながら、反射的に問い返す。


「は、はい!? 俺、じゃなくて、私ですか!?」
「はい。ご迷惑でなければ」
「……いえ、光栄です。よろしくお願いします」
 まさか断るわけにもいかず、ジャスティンは盛大に顔を引き攣らせながらもエセリアの手を取って踊り出した。カテリーナもナジェークと踊り出してから、些か心配そうに横目でジャスティンを見やる。


「ジャスティン兄様、大丈夫かしら……。なんだか、死んだ魚のような目をしていたけど……」
「エセリアは、別に取って喰おうなどとは考えていないのにな」
「エセリア様は隙がない、完璧なご令嬢だもの。急に声をかけられたりしたら、ジャスティン兄様でなくても、大抵の殿方は狼狽して怖じ気づくのではない?」
「確かに君も、ある意味大抵の同年代の男性には遠巻きにされているよな」
 微妙に茶化されて気分を害したカテリーナは、目を細めながら問い返す。


「……誰のせいだと思っているのよ」
「君と私で半々かな?」
「私が1割であなたが9割と言っても、おかしくはないわよね!?」
「まあまあ、落ち着いて。あまり大声を出すと、君が私を恫喝していると誤解されるから」
「全く……」
 なんとか怒りを鎮めたカテリーナだったが、ここで今夜の目的の一つを思い出して尋ねた。


「そういえば、どうするつもりなの? 私とあなたの、運命的な再会とやらは。まさか一曲踊っただけで恋に落ちたとか、ふざけるにもほどがある事しか考えていないなんて、言わないわよね?」
「そんな事を口にしようものなら、君に罵られるのが確実だからね。君の反応によって、数パターンを考えているから安心してくれ」
 全く動じずに言い切ったナジェークに、カテリーナは含み笑いで応じる。


「あら、髄分余裕なのね。それなら私が多少あなたの予想の範囲内から外れる言動をしても、有能な官吏様にはどうにでも対応して貰えるのよね?」
「……カテリーナ?」
「どのみち、それはもう少し後よね。楽しみにしているわ」
 何やら不穏なものを感じたらしいナジェークが、その顔から笑みを消したが、カテリーナは笑ってごまかした。するとここで曲が終わり、それを狙っていた如くフィリスが近寄ってカテリーナに声をかけてくる。


「カテリーナ、ちょっと良いかしら?」
「はい、フィリスおばさま。今、行きます。じゃあナジェーク、また後でね」
「……ああ」
 あっさりと会話を切り上げてフィリスと共にその場を離れたカテリーナを、ナジェークは僅かに困惑した表情で眺めていた。





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