その華の名は
(11)ナジェークの説明
「それでは向こうで私と懇意にしている方々に、リサ様をご紹介したいのですが。久し振りにカテリーナ様とお話ししたくてうずうずされているのが、ここからでも分かりますし」
会話が途切れたところで、会場の一角を優雅に手で示しながらエセリアが提案すると、そちらを横目で確認したカテリーナがジュールに断りを入れる。
「そうですね……。ジュール兄様。リサ義姉様と一緒に、皆様にご挨拶してきますね?」
「あ、ああ……、リサ、大丈夫か?」
「ええ、少し行ってきますね」
ジュールは若干不安な表情を見せたが、この間にだいぶ緊張が解れたらしいリサは笑顔で頷いた。それでジュールは女四人で遠ざかっていく背中を黙って見送ったが、彼女達が向かった先を見ながら、ナジェークが宥めてくる。
「確かに彼女達はカテリーナが在学中からの崇拝者が殆どですし、ご夫人に対しても非礼な態度は取らないだろうと断言できます。ご安心ください。もう少ししたらエセリアが、年配の女性陣にご挨拶する時に同伴してご紹介する事になっておりますし」
「ジュール殿は私達が、主だった方々にご紹介しますので」
「本当に、何から何までありがとうございます」
ナジェークとイズファインに穏やかに微笑まれ、ジュールは心から感謝して軽く頭を下げた。それに二人が苦笑で応じる。
「いえ、今回は偶々ご一緒できましたから。これ位の事はなんでもありません。今後はご夫妻のみで活動しなくてはならない場面が増えると思いますし、気を強く持って社交をこなしていってください。……とは言っても、私は他人に対して、そんな大きな顔をできる筈もないのですが」
「え? どうしてですか?」
不思議に思いながらジュールが問い返すと、ナジェークは肩を竦めながらその理由を説明する。
「私はシェーグレン公爵家の嫡男ながら、一官吏として王宮に出仕しておりますので。屋敷にいる時や休暇の折りには領地運営に関わる業務をこなしてはいますが、父から全面的にそれらを引き継ぐのはまだまだ難しい面があります」
「私も近衛騎士団に所属しておりますし、そもそも父も領地運営や社交に関しては殆ど母の手腕に頼りきりで、お恥ずかしい限りです。最近では早くも見限られたのか、母は頻繁にサビーネを呼んで色々と教え込んでいるみたいですし」
「へえ? 君の頭越しに、将来の嫁姑が結託しているのか?」
「そういうことさ。結婚前から立場がない」
「ティアド伯爵家は安泰みたいで、良かったじゃないか」
「他人事だと思って」
「他人事だからな」
イズファインとそんなやり取りをして楽しげに笑い合ってから、ナジェークは
真顔になって告げた。
「ですから、そんな風に片手間に領地を治めて細かい事は他者に丸投げする筈の私達より、これから真摯に領地運営と社交に取り組んでいかれるであろうジュール殿の方が、遥かに立派な領主になる可能性は高いと思うのです」
「同感だ。十年後二十年後には、こちらがジュール殿に教えを乞う立場になっているかもしれませんね」
イズファインも頷いて同意を示すと、ジュールは一瞬呆気に取られた表情になったものの、嬉しそうな笑顔になって応じる。
「はい。本当にそうなれるよう、精進します」
「頑張ってください。それではあちらの皆様に、ご挨拶に行きましょうか」
「ジャスティン殿はどうしますか?」
ここでイズファインが、この間無言で三人のやり取りを眺めていたジャスティンに声をかけた。しかしジャスティンはギョッとした顔で、微妙に後ずさる。
「あ~、悪い。俺はパス。堅苦しいのは苦手だし、俺は本当に領主には向いてないから。ジュール兄上は、本当に良い領主になれるよ。ナジェークとイズファインも頑張れ。遠くから応援してるからな」
それを聞いた三人が、からかうように口々に言い合う。
「そうですね。私は確実にあなたよりは良い領主になれそうです」
「じゃあ私は、隊長就任と同時にそれなりの領主を目指すかな?」
「ジャスティン、年下に微妙に馬鹿にされていないか? 兄として少し恥ずかしいのだが」
「ほっといてくれよ! 特にナジェークに口で勝てるわけないだろうが!」
そこで再び笑い声が生じてから、ジャスティン以外の三人はそこから移動して、他の者達と挨拶を交わしていった。
会話が途切れたところで、会場の一角を優雅に手で示しながらエセリアが提案すると、そちらを横目で確認したカテリーナがジュールに断りを入れる。
「そうですね……。ジュール兄様。リサ義姉様と一緒に、皆様にご挨拶してきますね?」
「あ、ああ……、リサ、大丈夫か?」
「ええ、少し行ってきますね」
ジュールは若干不安な表情を見せたが、この間にだいぶ緊張が解れたらしいリサは笑顔で頷いた。それでジュールは女四人で遠ざかっていく背中を黙って見送ったが、彼女達が向かった先を見ながら、ナジェークが宥めてくる。
「確かに彼女達はカテリーナが在学中からの崇拝者が殆どですし、ご夫人に対しても非礼な態度は取らないだろうと断言できます。ご安心ください。もう少ししたらエセリアが、年配の女性陣にご挨拶する時に同伴してご紹介する事になっておりますし」
「ジュール殿は私達が、主だった方々にご紹介しますので」
「本当に、何から何までありがとうございます」
ナジェークとイズファインに穏やかに微笑まれ、ジュールは心から感謝して軽く頭を下げた。それに二人が苦笑で応じる。
「いえ、今回は偶々ご一緒できましたから。これ位の事はなんでもありません。今後はご夫妻のみで活動しなくてはならない場面が増えると思いますし、気を強く持って社交をこなしていってください。……とは言っても、私は他人に対して、そんな大きな顔をできる筈もないのですが」
「え? どうしてですか?」
不思議に思いながらジュールが問い返すと、ナジェークは肩を竦めながらその理由を説明する。
「私はシェーグレン公爵家の嫡男ながら、一官吏として王宮に出仕しておりますので。屋敷にいる時や休暇の折りには領地運営に関わる業務をこなしてはいますが、父から全面的にそれらを引き継ぐのはまだまだ難しい面があります」
「私も近衛騎士団に所属しておりますし、そもそも父も領地運営や社交に関しては殆ど母の手腕に頼りきりで、お恥ずかしい限りです。最近では早くも見限られたのか、母は頻繁にサビーネを呼んで色々と教え込んでいるみたいですし」
「へえ? 君の頭越しに、将来の嫁姑が結託しているのか?」
「そういうことさ。結婚前から立場がない」
「ティアド伯爵家は安泰みたいで、良かったじゃないか」
「他人事だと思って」
「他人事だからな」
イズファインとそんなやり取りをして楽しげに笑い合ってから、ナジェークは
真顔になって告げた。
「ですから、そんな風に片手間に領地を治めて細かい事は他者に丸投げする筈の私達より、これから真摯に領地運営と社交に取り組んでいかれるであろうジュール殿の方が、遥かに立派な領主になる可能性は高いと思うのです」
「同感だ。十年後二十年後には、こちらがジュール殿に教えを乞う立場になっているかもしれませんね」
イズファインも頷いて同意を示すと、ジュールは一瞬呆気に取られた表情になったものの、嬉しそうな笑顔になって応じる。
「はい。本当にそうなれるよう、精進します」
「頑張ってください。それではあちらの皆様に、ご挨拶に行きましょうか」
「ジャスティン殿はどうしますか?」
ここでイズファインが、この間無言で三人のやり取りを眺めていたジャスティンに声をかけた。しかしジャスティンはギョッとした顔で、微妙に後ずさる。
「あ~、悪い。俺はパス。堅苦しいのは苦手だし、俺は本当に領主には向いてないから。ジュール兄上は、本当に良い領主になれるよ。ナジェークとイズファインも頑張れ。遠くから応援してるからな」
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「そうですね。私は確実にあなたよりは良い領主になれそうです」
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「ほっといてくれよ! 特にナジェークに口で勝てるわけないだろうが!」
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