その華の名は
(18)真相の暴露
「それではこれで、一通りの説明は終わります。何かご質問はありますか?」
真顔で話を締め括ったアルトーだったが、それを聞いた瞬間ティナレアは力任せに拳でテーブルを叩きつつ絶叫した。
「大ありよ! あなた達、こんな馬鹿馬鹿しくてふざけた作戦が成功すると、本気で思っているわけ!?」
しかしその訴えに、ある者はすこぶる冷静に、ある者は多分に諦めを含んだ口調で答える。
「私が成功しない策を、企画立案するとでも?」
「俺達は与えられた役割を、全力でこなすだけです」
「こういう事態に慣れていない方には荒唐無稽に聞こえるでしょうが、十分勝算はありますから」
「ティナレア、本当に巻き込んですまない」
「だが万が一、不測の事態が生じても、この人の事だからすぐに次善の策で対応するから」
その中でサビーネだけは、妙に自信満々に言い切った。
「ティナレア様、安心してください! これまで学園内でエセリア様が水面下で行っていた裏工作と比べたら、今回の話は単純かつ直接過ぎて容易ですから! もう始まる前から、成功が見えていますわ!」
「……はぁ?」
咄嗟に言われた内容が理解できなかったティナレアは怪訝な顔になったが、イズファインは顔色を変えてサビーネに懇願した。
「サビーネ! 頼むから、不用意に余計な事は口にしないでくれ!?」
「でも、イズファイン様。大願成就が果たされましたし、この感動を誰かと分かち合いたいですわ! カテリーナ様の為に秘密を守ってくれるティナレア様なら、ナジェーク様にも関わるこの話を口外しないでくれますよね?」
「それはそうだろうが!」
「あの……、サビーネ様? エセリア様の裏工作って、なんの事ですか?」
何やら揉め始めた二人にティナレアが困惑していると、ナジェークがどこかおかしそうに口を挟んでくる。
「別に、彼女にエセリア達がしてきた事を洗いざらい話しても、構わないのじゃないかな? もう正式にエセリアとグラディクトの婚約は破棄されて、彼も王太子では無くなったのだし。でもこれを聞いたら、君も私達と本当の意味で一蓮托生になるから、そのつもりで」
そこでニヤリと笑ったナジェークに益々危険なものを察知したティナレアは、顔を引き攣らせながらサビーネに声をかけた。
「……ええと、サビーネ様。やはり、お話は結構ですので」
「そう仰らずに! この話は、エセリア様や私がクレランス学園入学直前、イズファイン様と共にシェーグレン公爵邸に招かれた時から始まりますが」
「だから、結構ですと言っていますが!?」
構わず話し始めるサビーネにティナレアが声を荒らげたところで、控え目なノックの音に続いて、ワゴンを押した店員が入室してくる。
「皆様、お食事をお持ちしました。テーブルに並べてもよろしいでしょうか?」
お伺いを立ててきた店員に礼を述べたナジェークは、愛想良く他の参加者に声をかける。
「やあ、ありがとう。それでは重要な話は済んだし、世間話でもしながら食べてくれ。ワーレス商会ではここ最近飲食店経営も手がけるようになってね、近隣の店舗から人気料理を運んで貰ったんだ。なかなか美味だよ?」
「そうだな……、ごちそうになろうか」
「ありがたくいただきます」
(そういえば、お昼を出して貰うことになっていたわね……。うん、もうこうなったら、サビーネ様の話は聞き流そう。世間話の一環よ一環。気が済むまで話して貰って、失礼にならない程度に相槌を打っておこう)
料理とカトラリーを並べて貰ったティナレアは、自分自身にそう言い聞かせながら食べ始めたが、熱弁を振るい始めたサビーネの台詞を耳にして、思わず両手からナイフとフォークを取り落とした。
「その時、エセリア様が私達に他言無用を要請してから、毅然として仰いましたの。『私、グラディクト殿下との婚約を解消したいのです』と」
「はい!? なんですか、それはっ!? だって建国記念式典で婚約破棄を言い出したのは、グラディクト殿下の方ですよね!?」
あまりにも予想外の展開に、ティナレアが驚愕した顔でサビーネを凝視すると、彼女は満面の笑みで話を続ける。
「ティナレア様、やはり詳細をお聞きになりたいですよね? それなら今からこの私が、一部始終を余すことなく語ってお聞かせしますわ! お任せください!」
「……………………」
顔色を変えたティナレアとは対照的に、これからサビーネが語ろうとしてる内容を熟知していた男性陣は、余計な口を挟まずに黙々と食事を続行させた。
「……というわけで、昨日クレランス学園で開催された審議の場で、今まで散々好き放題していたグラディクト殿下とアリステア嬢の、その勘違いぶりと傍若無人さと被害妄想ぶりが、国王王妃両陛下を含む多くの人間の前で露見して見事に止めを刺されましたの。本当にここに持ち込むまで、長い長い日々でした……。あら、ティナレア様。どうかなさいました?」
昼食を食べ終えてもサビーネの熱弁は止まるところを知らず、頃合いを見て運ばれてきたお茶を飲み干し、かなり日が傾くまで暴露話が続いた。結局ティナレアはそれを最後まで声もなく聞き入り、顔色を無くしてテーブルに突っ伏す。
「…………今の話、私なんかが聞いて良かったわけ?」
その呻くような問いかけにサビーネが何か言う前に、ナジェークがからかうように口を挟んでくる。
「だから言っただろう? 聞いたら一蓮托生だと。外部に漏れたら、元王太子殿下を陥れた一味の一人になるわけだから、迂闊に他人に漏らさないように注意するように」
「人の意見丸無視で、とんでもない陰謀に巻き込まないでよ!?」
「気づくのが遅かったな。この場に来たことで、君は既に巻き込まれている。もう手遅れだ」
「ジャスティン隊長、恨みますよ……」
平然と断言され、ティナレアはこの話を自分に振ったジャスティンに対して思わず恨み言を漏らした。するとナジェークが笑顔で告げる。
「当日はジャスティン義兄上も手伝ってくださる予定だから、直接恨み言を言える絶好の機会だ。良かったな」
「全然良くないわよ! 面と向かって隊長に言えるわけないじゃない!」
「落ち着け、ティナレア!」
「ナジェークも、あまり彼女を刺激するな!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたティナレアが勢いよく立ち上がってナジェークに掴みかかろうとしたが、それをクロードとイズファインが二人がかりで必死に宥める展開となった。
真顔で話を締め括ったアルトーだったが、それを聞いた瞬間ティナレアは力任せに拳でテーブルを叩きつつ絶叫した。
「大ありよ! あなた達、こんな馬鹿馬鹿しくてふざけた作戦が成功すると、本気で思っているわけ!?」
しかしその訴えに、ある者はすこぶる冷静に、ある者は多分に諦めを含んだ口調で答える。
「私が成功しない策を、企画立案するとでも?」
「俺達は与えられた役割を、全力でこなすだけです」
「こういう事態に慣れていない方には荒唐無稽に聞こえるでしょうが、十分勝算はありますから」
「ティナレア、本当に巻き込んですまない」
「だが万が一、不測の事態が生じても、この人の事だからすぐに次善の策で対応するから」
その中でサビーネだけは、妙に自信満々に言い切った。
「ティナレア様、安心してください! これまで学園内でエセリア様が水面下で行っていた裏工作と比べたら、今回の話は単純かつ直接過ぎて容易ですから! もう始まる前から、成功が見えていますわ!」
「……はぁ?」
咄嗟に言われた内容が理解できなかったティナレアは怪訝な顔になったが、イズファインは顔色を変えてサビーネに懇願した。
「サビーネ! 頼むから、不用意に余計な事は口にしないでくれ!?」
「でも、イズファイン様。大願成就が果たされましたし、この感動を誰かと分かち合いたいですわ! カテリーナ様の為に秘密を守ってくれるティナレア様なら、ナジェーク様にも関わるこの話を口外しないでくれますよね?」
「それはそうだろうが!」
「あの……、サビーネ様? エセリア様の裏工作って、なんの事ですか?」
何やら揉め始めた二人にティナレアが困惑していると、ナジェークがどこかおかしそうに口を挟んでくる。
「別に、彼女にエセリア達がしてきた事を洗いざらい話しても、構わないのじゃないかな? もう正式にエセリアとグラディクトの婚約は破棄されて、彼も王太子では無くなったのだし。でもこれを聞いたら、君も私達と本当の意味で一蓮托生になるから、そのつもりで」
そこでニヤリと笑ったナジェークに益々危険なものを察知したティナレアは、顔を引き攣らせながらサビーネに声をかけた。
「……ええと、サビーネ様。やはり、お話は結構ですので」
「そう仰らずに! この話は、エセリア様や私がクレランス学園入学直前、イズファイン様と共にシェーグレン公爵邸に招かれた時から始まりますが」
「だから、結構ですと言っていますが!?」
構わず話し始めるサビーネにティナレアが声を荒らげたところで、控え目なノックの音に続いて、ワゴンを押した店員が入室してくる。
「皆様、お食事をお持ちしました。テーブルに並べてもよろしいでしょうか?」
お伺いを立ててきた店員に礼を述べたナジェークは、愛想良く他の参加者に声をかける。
「やあ、ありがとう。それでは重要な話は済んだし、世間話でもしながら食べてくれ。ワーレス商会ではここ最近飲食店経営も手がけるようになってね、近隣の店舗から人気料理を運んで貰ったんだ。なかなか美味だよ?」
「そうだな……、ごちそうになろうか」
「ありがたくいただきます」
(そういえば、お昼を出して貰うことになっていたわね……。うん、もうこうなったら、サビーネ様の話は聞き流そう。世間話の一環よ一環。気が済むまで話して貰って、失礼にならない程度に相槌を打っておこう)
料理とカトラリーを並べて貰ったティナレアは、自分自身にそう言い聞かせながら食べ始めたが、熱弁を振るい始めたサビーネの台詞を耳にして、思わず両手からナイフとフォークを取り落とした。
「その時、エセリア様が私達に他言無用を要請してから、毅然として仰いましたの。『私、グラディクト殿下との婚約を解消したいのです』と」
「はい!? なんですか、それはっ!? だって建国記念式典で婚約破棄を言い出したのは、グラディクト殿下の方ですよね!?」
あまりにも予想外の展開に、ティナレアが驚愕した顔でサビーネを凝視すると、彼女は満面の笑みで話を続ける。
「ティナレア様、やはり詳細をお聞きになりたいですよね? それなら今からこの私が、一部始終を余すことなく語ってお聞かせしますわ! お任せください!」
「……………………」
顔色を変えたティナレアとは対照的に、これからサビーネが語ろうとしてる内容を熟知していた男性陣は、余計な口を挟まずに黙々と食事を続行させた。
「……というわけで、昨日クレランス学園で開催された審議の場で、今まで散々好き放題していたグラディクト殿下とアリステア嬢の、その勘違いぶりと傍若無人さと被害妄想ぶりが、国王王妃両陛下を含む多くの人間の前で露見して見事に止めを刺されましたの。本当にここに持ち込むまで、長い長い日々でした……。あら、ティナレア様。どうかなさいました?」
昼食を食べ終えてもサビーネの熱弁は止まるところを知らず、頃合いを見て運ばれてきたお茶を飲み干し、かなり日が傾くまで暴露話が続いた。結局ティナレアはそれを最後まで声もなく聞き入り、顔色を無くしてテーブルに突っ伏す。
「…………今の話、私なんかが聞いて良かったわけ?」
その呻くような問いかけにサビーネが何か言う前に、ナジェークがからかうように口を挟んでくる。
「だから言っただろう? 聞いたら一蓮托生だと。外部に漏れたら、元王太子殿下を陥れた一味の一人になるわけだから、迂闊に他人に漏らさないように注意するように」
「人の意見丸無視で、とんでもない陰謀に巻き込まないでよ!?」
「気づくのが遅かったな。この場に来たことで、君は既に巻き込まれている。もう手遅れだ」
「ジャスティン隊長、恨みますよ……」
平然と断言され、ティナレアはこの話を自分に振ったジャスティンに対して思わず恨み言を漏らした。するとナジェークが笑顔で告げる。
「当日はジャスティン義兄上も手伝ってくださる予定だから、直接恨み言を言える絶好の機会だ。良かったな」
「全然良くないわよ! 面と向かって隊長に言えるわけないじゃない!」
「落ち着け、ティナレア!」
「ナジェークも、あまり彼女を刺激するな!」
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