その華の名は
(14)似た者兄妹
一方のカテリーナはアーシアが立ち去った後、同僚達に囲まれる事となった。
「カテリーナ! もう、見ていてハラハラしたわよ! 徹底的に隊長を叩きのめさなくても良いじゃない!」
「だって隊長に『遠慮せず、全力でかかってきなさい』と言われたし」
「カテリーナはある意味、育ちが良いわよね。うん、学園在学中に、分かっていたつもりだったけど……」
真っ先に駆け寄って来たティナレアががっくりと肩を落とすと、周囲の他員達が苦笑いで口々に言い出す。
「隊長のあれは、一応口にしただけよ」
「だってねぇ……、既に相手が疲れていると分かっているんだから、余裕で『本気で来い』位は言うわよね」
「それにしても隊長が言っていたように、カテリーナは家名やジャスティン隊長のコネで入団したわけじゃなくて、実力でここに入ったみたいね」
「当たり前ですよ! 去年の剣術大会でも、カテリーナは男子生徒相手に、予選を勝ち上がったんですから! それで騎士団の上層部の方々に認められたって、これまでにも散々言っていたのに!」
周囲の先輩達に向かって改めて訴えるティナレアに、彼女達は苦笑の表情のまま謝った。
「ごめんなさいね、ティナレア」
「直に接する機会がないと、人となりは分からないし」
「だけどさっきのは、本当に笑っちゃったわ」
「隊長ったら形無しだったものね」
そんな和やかな空気になったところで、カテリーナが未だ納得しかねる表情周囲に尋ねた。
「あの……、今日隊長は、調子が悪かったのですか?」
「そんな事はないと思うけど。どうして?」
「何と言うか、その……、隊長なら、もう少し手応えがあるかと思っていましたから……」
相変わらず困惑顔で語る彼女を見て、先輩の隊員は少々呆気に取られながら確認を入れた。
「あなた……、ひょっとしてジャスティン隊長を基準にして、近衛騎士団は実力主義だから、どの隊でも技量が優れた人間が隊長職に就くと思っていたの?」
「違うのですか?」
大真面目に問い返したカテリーナに、周囲の女性達が溜め息を吐く。
「他の隊はそうかもしれないけど、第十五隊に限っては違うのよ」
「だって普通は縁談が成立すれば辞めるから、技量で選んでも長く隊長職に留まれないし」
「単に年長者に、その役目が回ってくるだけだから」
「そうでしたか……」
遅くても二十代前半のうちに縁談が成立、もしくは結婚すると同時に退団の流れしかない事にカテリーナは無意識に反発を覚えたが、ここで何を言ってもどうなる物でも無いと分かっていた為、余計な事は口にせずに黙り込んだ。そんな彼女に、ティナレアが呆れ気味に声をかける。
「だけどカテリーナ。もう入団してひと月以上経過しているのに、そんな事を本気で信じていたの?」
「だって、普通そうだと思うわよ」
「そこら辺は察しなさいよ……。ジャスティン隊長も変な所で世間知らずで、入隊後に色々苦労したから、以前食堂でお会いした時に『妹をよろしく』と言っていたのかしら」
「酷いことを言われている気がするわ」
少々ムッとしながらカテリーナは言い返したが、周囲は微笑ましそうに二人のやり取りを見守るだけだった。するこここで新たな声が割り込む。
「よう! あんただな? 今年入ったジャスティンの妹って言うのは」
人垣をかき分けるようにして声をかけてきた、二十代後半に見える体格の良い男に、カテリーナは礼儀正しく頭を下げつつも警戒の視線を向けた。
「はい。カテリーナ・ヴァン・ガロアです。ところであなたは?」
「これは失礼。ジャスティンと同じ年に入った、クレム・シャバールだ。しかしやっぱり兄妹だけあって似てるな」
「そんなに兄と似ている所がありますか?」
兄の知り合いと聞いて咄嗟に警戒心を緩めたものの、これまでそんな事を言われた事は皆無だったカテリーナは本気で首を傾げた。するとクレムは豪快に笑い、手を振りながら説明する。
「違う違う、見た目の事じゃなくて、行動パターンがな。奴も入団直後、今のあんたと同じような事をやらかしたんだぜ?」
「同じような事?」
「『家のコネで入団した軟弱者は、俺が鍛え直してやる』と難癖をつけて絡んできた先輩を、涼しい顔をして完全撃破しやがったんだ」
「ジャスティン兄様……、私がどうこう言える筋合いでは無いけど……」
そのクレムの台詞に、彼にくっついてやって来た近衛騎士達が、茶化すように付け足す。
「普通は先輩とか上司相手なら、今後の事を考えて手心を加えるものだろ? そんなもの一切なしの真剣勝負だし」
「いや、真剣にやってたのはジャスティンだけだろう。あれは、勝負を見ているこっちの方が肝を冷やしたな」
「挙げ句の果て、『近衛騎士団では、侵入した敵と仲良く延々と打ち合いするのが任務なのですか? 即時撃退するのが任務なら、こんな訓練は不要です』とか真顔で言い放ってな」
「あの時の相手の顔ときたら、今のアーシア隊長よりも真っ赤になってたぞ」
「赤を通り越して、どす黒くなってたんじゃないか?」
「まあ、あんたも大変そうだが頑張れよ」
「ありがとうございます」
最後は口々にカテリーナを激励しながら男達は去っていき、各自訓練を再開した。そんな彼らからカテリーナに視線を移したティナレアが、彼女に生温かい視線を向ける。
「本当にジャスティン隊長も、同じような事をしていたとはね……」
「不可抗力だと思うわよ!?」
「そう言えばジャスティン隊長は入団直後から寮生活をして、夜勤もきちんと入っていた筈よね」
「カテリーナだってそうですよ! 上級貴族の免責特権なんか、微塵も使っていませんから!」
「本当にそうね。私達、ちょっとあなたに対して先入観があったみたい」
「改めてよろしく、カテリーナ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
結局、カテリーナはこの一件でアーシアの敵意を更に煽る事になったものの、これまで色々な噂が飛び交っていた事で、若干距離を取っていた他の隊員達と交流を深めるきっかけとなり、騎士団内で一気に交友関係を広げる事に成功した。
「カテリーナ! もう、見ていてハラハラしたわよ! 徹底的に隊長を叩きのめさなくても良いじゃない!」
「だって隊長に『遠慮せず、全力でかかってきなさい』と言われたし」
「カテリーナはある意味、育ちが良いわよね。うん、学園在学中に、分かっていたつもりだったけど……」
真っ先に駆け寄って来たティナレアががっくりと肩を落とすと、周囲の他員達が苦笑いで口々に言い出す。
「隊長のあれは、一応口にしただけよ」
「だってねぇ……、既に相手が疲れていると分かっているんだから、余裕で『本気で来い』位は言うわよね」
「それにしても隊長が言っていたように、カテリーナは家名やジャスティン隊長のコネで入団したわけじゃなくて、実力でここに入ったみたいね」
「当たり前ですよ! 去年の剣術大会でも、カテリーナは男子生徒相手に、予選を勝ち上がったんですから! それで騎士団の上層部の方々に認められたって、これまでにも散々言っていたのに!」
周囲の先輩達に向かって改めて訴えるティナレアに、彼女達は苦笑の表情のまま謝った。
「ごめんなさいね、ティナレア」
「直に接する機会がないと、人となりは分からないし」
「だけどさっきのは、本当に笑っちゃったわ」
「隊長ったら形無しだったものね」
そんな和やかな空気になったところで、カテリーナが未だ納得しかねる表情周囲に尋ねた。
「あの……、今日隊長は、調子が悪かったのですか?」
「そんな事はないと思うけど。どうして?」
「何と言うか、その……、隊長なら、もう少し手応えがあるかと思っていましたから……」
相変わらず困惑顔で語る彼女を見て、先輩の隊員は少々呆気に取られながら確認を入れた。
「あなた……、ひょっとしてジャスティン隊長を基準にして、近衛騎士団は実力主義だから、どの隊でも技量が優れた人間が隊長職に就くと思っていたの?」
「違うのですか?」
大真面目に問い返したカテリーナに、周囲の女性達が溜め息を吐く。
「他の隊はそうかもしれないけど、第十五隊に限っては違うのよ」
「だって普通は縁談が成立すれば辞めるから、技量で選んでも長く隊長職に留まれないし」
「単に年長者に、その役目が回ってくるだけだから」
「そうでしたか……」
遅くても二十代前半のうちに縁談が成立、もしくは結婚すると同時に退団の流れしかない事にカテリーナは無意識に反発を覚えたが、ここで何を言ってもどうなる物でも無いと分かっていた為、余計な事は口にせずに黙り込んだ。そんな彼女に、ティナレアが呆れ気味に声をかける。
「だけどカテリーナ。もう入団してひと月以上経過しているのに、そんな事を本気で信じていたの?」
「だって、普通そうだと思うわよ」
「そこら辺は察しなさいよ……。ジャスティン隊長も変な所で世間知らずで、入隊後に色々苦労したから、以前食堂でお会いした時に『妹をよろしく』と言っていたのかしら」
「酷いことを言われている気がするわ」
少々ムッとしながらカテリーナは言い返したが、周囲は微笑ましそうに二人のやり取りを見守るだけだった。するこここで新たな声が割り込む。
「よう! あんただな? 今年入ったジャスティンの妹って言うのは」
人垣をかき分けるようにして声をかけてきた、二十代後半に見える体格の良い男に、カテリーナは礼儀正しく頭を下げつつも警戒の視線を向けた。
「はい。カテリーナ・ヴァン・ガロアです。ところであなたは?」
「これは失礼。ジャスティンと同じ年に入った、クレム・シャバールだ。しかしやっぱり兄妹だけあって似てるな」
「そんなに兄と似ている所がありますか?」
兄の知り合いと聞いて咄嗟に警戒心を緩めたものの、これまでそんな事を言われた事は皆無だったカテリーナは本気で首を傾げた。するとクレムは豪快に笑い、手を振りながら説明する。
「違う違う、見た目の事じゃなくて、行動パターンがな。奴も入団直後、今のあんたと同じような事をやらかしたんだぜ?」
「同じような事?」
「『家のコネで入団した軟弱者は、俺が鍛え直してやる』と難癖をつけて絡んできた先輩を、涼しい顔をして完全撃破しやがったんだ」
「ジャスティン兄様……、私がどうこう言える筋合いでは無いけど……」
そのクレムの台詞に、彼にくっついてやって来た近衛騎士達が、茶化すように付け足す。
「普通は先輩とか上司相手なら、今後の事を考えて手心を加えるものだろ? そんなもの一切なしの真剣勝負だし」
「いや、真剣にやってたのはジャスティンだけだろう。あれは、勝負を見ているこっちの方が肝を冷やしたな」
「挙げ句の果て、『近衛騎士団では、侵入した敵と仲良く延々と打ち合いするのが任務なのですか? 即時撃退するのが任務なら、こんな訓練は不要です』とか真顔で言い放ってな」
「あの時の相手の顔ときたら、今のアーシア隊長よりも真っ赤になってたぞ」
「赤を通り越して、どす黒くなってたんじゃないか?」
「まあ、あんたも大変そうだが頑張れよ」
「ありがとうございます」
最後は口々にカテリーナを激励しながら男達は去っていき、各自訓練を再開した。そんな彼らからカテリーナに視線を移したティナレアが、彼女に生温かい視線を向ける。
「本当にジャスティン隊長も、同じような事をしていたとはね……」
「不可抗力だと思うわよ!?」
「そう言えばジャスティン隊長は入団直後から寮生活をして、夜勤もきちんと入っていた筈よね」
「カテリーナだってそうですよ! 上級貴族の免責特権なんか、微塵も使っていませんから!」
「本当にそうね。私達、ちょっとあなたに対して先入観があったみたい」
「改めてよろしく、カテリーナ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
結局、カテリーナはこの一件でアーシアの敵意を更に煽る事になったものの、これまで色々な噂が飛び交っていた事で、若干距離を取っていた他の隊員達と交流を深めるきっかけとなり、騎士団内で一気に交友関係を広げる事に成功した。
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