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その華の名は

篠原皐月

(9)爆弾発言

 居間に通されたナジェークは、促されてカテリーナの隣に腰を下ろしてから、正面に座っているジャスティンとタリアに向かって改めて挨拶をした。
「初めまして、クオール・ワーレスと申します。お二人にお目にかかれて嬉しいです」
 それに対し、ジャスティンは微妙な顔付きになりながら、ナジェークに問いかける。


「こちらこそ、お会いできて嬉しいです。あの……、いきなり不躾で申し訳ないが、君に確認させて貰いたい事があるのだが」
「はい、何でしょうか?」
「君は、ナジェークという名前も使っているのか?」
「…………」
 それを聞いたナジェークは軽く目を見開いてから、隣に座っているカテリーナに視線を向けた。それを受けて、カテリーナは微妙に彼から視線を逸らしながら、弁解気味に答える。


「その……、ついさっき、ちょっと口を滑らせて……。名前だけだけど……」
 しかしそれを聞いたナジェークは、事も無げに笑って応じた。


「別に構わないが? 元々、今日はこちらに身許を明らかにするつもりで出向いたし」
「はいぃ!? あなた何を言ってるの! 正気!?」
「勿論、正気で本気だが」
 ナジェークの爆弾発言に、カテリーナは思わず声を裏返らせながら両手で掴みかかったが、そんな二人の様子を見たジャスティン達が益々戸惑った顔になった。


「身許を明らかにするって……。カテリーナ?」
「クオール・ワーレスさんではないんですか?」
「改めて、ご挨拶させていただきます。シェーグレン公爵ディグレス・ヴァン・シェーグレンの長男である、ナジェーク・ヴァン・シェーグレンです。以後、お見知り置きください。義兄上、義姉上」
「はい? 公爵?」
 ナジェークは大真面目に名乗ったが、いきなり縁の無い言葉を聞かされたタリアは呆気に取られたが、その一方で聞き覚えがあり過ぎたジャスティンは、一気に表情を険しくしながら問い返した。


「シェーグレン? いや、それより、ちょっと待ってくれ。義兄上と義姉上と言うのは?」
「カテリーナとは、既に結婚の約束をしておりますので。以後、そうお呼びしようかと」
「カテリーナ!! 一体どういう事だ!? 確かにジュール兄さんから『カテリーナは最近、平民の若者と懇意にしている。侯爵令嬢が平民に嫁ぐなどありえないが、相手は指折りの商会会頭の息子の上、なかなか見どころのある若者だ。もしかしたらもしかするかもしれないから、慎重に観察して必要なら色々と助言や援助をしてやってくれ』と書き送ってきていたが、公爵令息なんて聞いてないぞ!?」
「こっ、公爵家の若様と婚約!? 本当なの!?」
 ナジェークがサラッと爆弾発言第二段を投下すると、それと同時にジャスティン達は激しく動揺しながらカテリーナを問い質し、彼女はがっくりと肩を落とした。


「……いきなり何を言い出すの」
「信用の置ける協力者は、ある程度必要だろう?」
「もう勝手に、説明でも何でもして頂戴。どうなっても知らないわよ?」
 予告無しの暴挙にカテリーナはナジェークに恨みがましい視線を向けたが、自分にはもうどうする事もできないと諦め、彼に説明を丸投げする。それからナジェークは、クレランス学園での二人の出会いから、意気投合した上で利害の一致を確認し、当人同士で秘密裏に婚約している旨を告げた。


「は、ははっ……。王太子派でも指折りの有力家……、というか、グラディクト殿下の婚約者の兄なんて重要人物と、当人同士での婚約……」
 盛大に顔を引き攣らせたジャスティンが盛大な溜め息を吐いてから、妹に呻くように告げる。


「父上が知ったら、確実にキレるぞ……。カテリーナ。お前、ジュール兄さんにまで大嘘を吐いて。事が明らかになったら、盛大に文句を言われるのは覚悟しておけよ?」
「勝手にクオールさんの名前を名のって、連絡もなしに領地に乗り込んで来たのはこいつなんだけど!?」
「公爵家の嫡子を指さしながら、『こいつ』呼ばわりか……」
「それ位しても良いわよね!?」
 目の前で、まるで自分のせいかのように疲労感満載の溜め息を吐かれたカテリーナは盛大に文句を口にしたが、ナジェークは冷静に説明を続けた。


「ガロア侯爵が、王太子殿下の外戚であるバスアディ伯爵と犬猿の仲である関係で、アーロン殿下派に属しておられる位ですから、私とカテリーナの縁組みに良い顔をしないであろう事は、十分予測できます」
「いや、良い顔をしないどころか、確実に叩き出されますから」
「それの対応策を考えていましたが、最近新たな展開がありまして、今回はその報告も合わせての訪問になります」
「新たな展開?」
 ジャスティンが怪訝な顔で問い返したが、ここでナジェークはカテリーナに向き直って問いかけた。


「カテリーナ。昨年、妹がクレランス学園に入学してからの事を覚えているだろう?」
「エセリア様が入学してから? ……ああ、実はエセリア様がグラディクト殿下との婚約解消を狙っていて、殿下の自分に対する好感度を下げる事を企んでいた事?」
 カテリーナは一瞬考え込んでから、エセリアと彼女の婚約に関する話を口にしたが、それを聞いた兄夫婦は激しく動揺した。


「は? ちょっと待て! 婚約解消!?」
「え? 王太子との婚約を!? そんな事ができるの!?」
「どう考えても無理だろう! 本人の資質も、母親の実家の勢力も目立つ所がないグラディクト殿下が立太子できたのは、王妃陛下の姪で一番のお気に入りで才媛と言われている、エセリア嬢との婚約が整ったからだろう? それ位、大して社交に関わっていなかった三男の俺だって知ってるぞ!」
 動揺のあまり礼儀をかなぐり捨てた口調で喚いたジャスティンだったが、ナジェークは冷静に話を進めた。


「ところが妹は解消する気満々で、しかも殿下側から婚約破棄をさせるように持ち込む気です」
「一体どうやってだよ!? ふざけんな!」
「婚約破棄って……」
 動揺著しいジャスティン達だったが、ナジェークはそんな二人とは対照的に、平然と話を続けた。



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