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その華の名は

篠原皐月

(5)兄との遭遇

 入団して半月以上経過した頃、友人と共に王宮内の寮生活者向けの食堂で夕食を食べていたカテリーナは、予想外の人物から声をかけられた。
「やあ、カテリーナ。ここで顔を見れて良かった。元気にしていたか?」
 聞き慣れた声に反射的に顔を上げるとジャスティンが見下ろしており、カテリーナは笑顔で挨拶を返した。


「ジャスティン兄様、久しぶりね。ええ、元気よ。何も問題ないわ」
「そうか。同じ近衛騎士団勤務なのに、ここまで顔を合わせる機会が無いとは意外だった」
「兄様はもう寮を出て自宅で生活していますし、隊長の業務で現場に出る事も減っているのでしょう? 当然だわ」
「それはそうなんだがな……」
 苦笑いしたジャスティンは、ここで妹と同じテーブルに着いていたエマとティナレアに声をかけた。


「申し訳無いが、同席しても構わないだろうか?」
 その申し出に、二人は即座に応じて腰を上げかける。
「はい、ジャスティン隊長。どうぞお気遣い無く」
「私達が席を移りますか?」
「いや、個人的な話をするが、別に秘密にしなければならない類いの話では無いから、慌てて移動しないでくれ。隊長権限の不当使用だと、団長から叱責される」
「分かりました。まだ夕食はお済みでは無いのですよね?」
「席は空けておきますから」
「ありがとう。ちょっと夕食を貰ってくるよ」
 手ぶらだった彼に確認を入れると、やはりまだ食べていなかったらしいジャスティンが夕食を受け取るカウンターに出向いた。その背中を見ながら、二人がカテリーナに話しかける。


「初めて直接ジャスティン隊長とお話ししたけど、カテリーナ同様侯爵家出身の筈なのに、随分気さくな方なのね」
「ジャスティン兄様は三男という事もあって、子供の頃からかなり自由に振る舞っていたのよね。不思議とそれが似合うというか、憎めないというか……」
「何となく分かるわ」
「上の三人は割と年が近いけど、私だけ遅く生まれたからジャスティン兄様とも八歳違いなの。でも私が小さい頃は、そんな年齢差を感じさせずに全力で遊んでくれたわ」
「ちょっと意外。私は、兄に遊んで貰った事なんて無いわ」
「それに姉妹でも八歳離れていると、興味のある事も随分違うと思うけど。優しいお兄さんなのね」
「そうね」
 そんな微妙な兄妹関係をカテリーナが説明しているうちに、ジャスティンがトレーを手に戻って来た。


「お待たせ。お邪魔するよ」
「お気遣い無く。女性に囲まれて気まずい思いをするのは、兄様の方ですから」
「それはそうだろうな。周囲の男どもからの視線が痛い」
 そう言いながらも笑顔で平然と食べ始めた兄を見て、カテリーナは(相変わらずマイペースなのね)と笑いを堪えた。するとジャスティンが、予想外の提案をしてくる。


「ところで、カテリーナ。新年度開始以降バタバタして休みの日もゆっくりできなかったが、そろそろ落ち着いてきたんだ。休日のどこかで、俺の家に来ないか?」
 それを聞いたカテリーナは、驚いて目を見開いた。


「ジャスティン兄様の家に?」
「ああ。父さんと母さんは立場的に無理だし、ジェスラン兄さんが来るわけは無いし、ジュール兄さんは殆ど領地暮らしだし、家族で招待するのはお前が初めてだな。どうだ?」
 改めて問われたカテリーナは、嬉々として頷いた。


「呼んで貰えるなら、是非行きたいわ。結婚式にも出られなかったし。でもタリア義姉様の意見は? 気を遣わせないかしら?」
「タリアの事なら大丈夫だ。というか、寧ろお前に会いたがっている。結婚式用に贈られたドレスの礼を、直に言いたいそうだ」
「お母様と一緒に選んだし、大した事では無いのよ?」
「変に華美過ぎず、だが良い物を贈ってくれただろう? タリアの実家でも凄く喜んでいたから」
「それなら良かったわ。周りから浮いてしまったらどうしようかと、実は心配していたから。でもそういう事なら、遠慮無くお邪魔させて貰います」
「それは良かった。因みにもうすぐ月末だが、来月だとどこら辺が大丈夫そうかな?」
 具体的な日程を相談されたカテリーナは、頭の中で自身の予定を確認しつつ言葉を返した。


「ええと……、来月の休日のうち、七日と十九日は用事があるから、取り敢えずそれ以外の日になるけれど……。後から改めて、都合の良い日を手紙で知らせて良いですか?」
「分かった。こちらも予定を擦り合わせるよ。ところで……、仕事に関して、何か困った事は無いのか?」
「…………」
 ここで何気なくジャスティンが話題を変えた途端、ティナレアとエマが揃ってカテリーナに物言いたげな視線を向けたが、当の本人は平然と笑い返した。


「別に? 困った事なんて無いわよ? 第一、仕事に関して兄様に何か言って、どうにかなるものなの?」
「何か悩んでいる事でもあるなら、話を聞くだけ聞こうと思ったんだが。お前も相変わらずだな」
「そういう事ね」
 何やら察しているらしいジャスティンだったが、それでも余計な事は言わずに苦笑するに止めた。そして傍らの二人に、軽く頭を下げる。


「なかなか扱いが難しい妹だが、宜しく頼むよ」
「大丈夫です。カテリーナが一筋縄ではいかない事は、学園在学中に既に知っていますから」
「ええ、ご心配なく」
「それは良かった」
「あなた達、私を庇う気が全然無いわね?」
 友人達の反応にカテリーナが苦笑してから、四人は世間話に花を咲かせて楽しげに夕食を食べ進めた。


(七日と十九日は断りにくい夜会と食事会だから、家に戻らないといけないし。まさかジャスティン兄様の家に呼ばれているから帰れませんなんて言ったら、ジェスラン兄様とエリーゼ義姉様に何を言われるか。下手をするとジャスティン兄様達に、迷惑をかけることになりかねないものね)
 そんな中でも、カテリーナは来月の予定を頭の中に思い浮かべながら、少々憂鬱な気分になっていた。





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