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その華の名は

篠原皐月

(3)知られざる確執

 入団式の翌日。カテリーナ達が指定された時間に隊長室に出向くと、アーシアとユリーゼが待ち構えていた。彼女達と挨拶を交わし、幾つかの事務的な連絡事項を告げられているうちに、ノックの音に続いて五人の女性が入室してくる。彼女達に頷いてみせたアーシアは、カテリーナ達に視線を移した。


「あなた達新人五人は、五つの班に一人ずつ配置して、これから三ヶ月の間は定期訓練の他、各部署の勤務内容を満遍なく体験して貰います。各自、各班長の指示に従ってください」
「はい」
「それでは班長達を紹介して、誰がどこの班に入るのかを説明します」
 そこで各班長と誰を任せるかの説明を済ませたアーシアは、十人が互いに自己紹介を済ませたのを見計らって、全員に退室するよう促した。それに応じて彼女達は二人一組で廊下に出て行き、各方面に散って行く。


「それではカテリーナ、行きましょう。第十五隊はその性格から女性王族や賓客の護衛を任されるので、それに携わる上で配置される可能性が高い場所を、他の四人と重ならないようにこれから順番に回って行くわ。その後は班員との顔合わせをします」
「宜しくお願いします」
「それではまず、王族専用の玄関と馬車寄せの状況と待機場所、そこから後宮への経路ね」
「分かりました」
 当面の指導役となったミーシェラにカテリーナが並んで歩きながら頭を下げると、ミーシェラは一通りの連絡事項を告げてから、声を潜めて尋ねてきた。


「ところでカテリーナ。入団早々、折れた剣を支給されたという話は本当なのかしら?」
 それを聞いたカテリーナの顔が、僅かに引き攣る。


「それを、どこからお聞きになりました?」
「ユリーゼ副隊長が不用意に口外したとは思えないけれど、支給後早々に備品管理部門に返還と再給付の申請がされれば、嫌でも噂になるわ」
「確かに理由を申告する必要はあるでしょうが、昨日の話なのに……」
「それで?」
 噂の拡散速度が速いのか、ミーシェラが並外れた早耳なのかは不明だが、どう考えてもこの場で曖昧に誤魔化せるとは思えなかったカテリーナは、できるだけ穏当な表現で詳細について告げてみた。


「私に割り当てられていた剣が偶々ヒビが入っていた不良品で、持ち運びの際、何らかの衝撃で完全に折れてしまったと推察します」
 真顔で歩きながら説明したカテリーナを見て、ミーシェラは苦笑いの表情になった。


「あなたは思っていたより真面目だし、頭の回転が早いのね。そしてどうして私があなたの指導役を仰せつかったのか、完全に分かってしまったわ」
「どういう理由でしょう? 差し支えなければ、教えていただけますか?」
「簡単よ。あなたは隊長に妬まれているから、まともに育てようという気がないのよ。私、来月結婚の為に退団するの」
「それは……、おめでとうございます」
 いきなり告げられた内容に、話が逸れたと感じたカテリーナは困惑しながらも、 取り敢えず祝いの言葉を口にした。しかしそれを聞いたミーシェラが、心底うんざりした表情を見せる。


「ありがとう。だけどそのタイミングで新人の指導役を任せるのは、正直、あり得ないわ。話を聞いた班の皆も、隊長は一体どういうつもりなのかと戸惑っていたし」
「ただでさえ引き継ぎ等で慌ただしい時期に、お手数をおかけします」
「私達は構わないけど、あなたに申し訳無くてね……。他の班員にも頼んでおくけど、私が退団したら他の班長に指導を任せないとも限らないし」
 そこで溜め息を吐いたミーシェラに、カテリーナが思いきって前日からの疑問をぶつけてみた。


「そこまで隊長に疎まれる理由に、思い当たる節が無いのですが。単に私が、上級貴族出身だからですか?」
 その問いかけに、ミーシェラは益々困り顔になりながら応じた。


「下級貴族出身の隊長が、まず第一にそれが気に入らない事は確かでしょうけど……、あなたがガロア侯爵家の人間なら、ジャスティン隊長の妹に当たるのよね?」
「はい。それが何か?」
「うちの隊長、ジャスティン隊長との結婚を狙っていたのよ」
「……はい?」
 咄嗟に言われた意味が理解できなかったカテリーナは、間抜けな声で応じてしまったが、ミーシェラはそれを咎めたりせず、寧ろ同情するような口調で話を続けた。



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