その華の名は
第5章 新たなる展開:(1)不穏な気配
近衛騎士団へ入団が決定したカテリーナが、王宮の独身騎士寮に入寮した翌日、その年に入団する騎士全員を集めての入団式が執り行われた。
王宮の一角にある近衛騎士団管轄の鍛錬場の中で、一番広い場所に集められたカテリーナ達は、所属毎に縦一列に整列して入団式の開催を待っていたが、緊張に耐えかねた者達が前方に整列している幹部達に叱責されない程度に囁き合う。
「さすがに緊張するわ」
「入団式だもの、誰だって緊張するわよ」
「カテリーナも緊張しているの?」
「酷いわね、私をどういう人間だと思っているの?」
「それより始まる前から、何だか睨まれているような気がするけど……」
「気のせいではない?」
「そうかしらね」
近衛騎士団に入団できるのはクレランス学園騎士科卒業者の他に、各貴族家からの推薦を受けた騎士も入団試験を受けて合格すれば可能ではあるが、女性騎士の場合は例年貴族家からの推薦は皆無に等しく、殆ど学園騎士科出身者で占められており、その年もカテリーナ達騎士科卒業の五人のみであった。
当然男女比も十対一程度に偏っており、立っているだけで人目を引いているのはカテリーナも気が付いていたが、女性騎士が珍しい故の事だろうとあまり気にも留めなかった。
「静粛に! これより近衛騎士団、入団式を開催する!」
進行役らしい年配の騎士が声を張り上げると同時に鍛錬場が静まり返り、奥から進み出た貫禄のある男性に、騎士団幹部達が道を譲って一斉に敬礼をする。カテリーナ達新入団者達も敬礼で待ち構えると、近衛騎士団団長ティアド伯爵ラドクリフは、それを解かせてから整列した新入団員を見渡しながら良く響く声で訓示を述べた。
「皆、近衛騎士団へようこそ。私は近衛騎士団団長のラドクリフ・ヴァン・ティアドだ。団長として、君達を歓迎する。君達は選抜され、王都中枢での勤務を認められた者達だ。その誇りを忘れず、日々の勤務に励んで貰いたい」
威厳のある挨拶を聞きながら、騎士団幹部と思われる集団の中にカテリーナは実兄のジャスティンを見つけたが、そ知らぬふりを貫いた。一方の彼も当然妹と目を合わせても愛想など振り撒かず、厳粛な入団式に相応しく真顔のまま微動だにしなかったが、その分余計に他の人間の視線が妙に気に障った。
(おじさまの背後に控えているのは、私達新人が配属される隊の隊長や責任者クラスの方々だと思うけど……。そうなるとあの女性が、私達の直属の上司という事になるのよね?)
幹部と思われる集団の中にただ一人存在していた女性が、自分の方を険しい視線で凝視しているのを先程から感じていたカテリーナは訝しく思った。それは彼女だけでは無く周りの四人も同様に感じていたが、就任式は滞りなく進行していった。
「それでは私から、簡単に各隊の隊長を紹介する。まず最初に、第一隊隊長エドウィン・ヴァン・ティラー」
「はい」
副団長として挨拶したチャーリーが各隊の隊長を紹介すると同時に、呼ばれた者が集団の中から前に進み出る。そして紹介が進み、カテリーナ達が所属する第十五隊の番になった。
「最後に第十五隊隊長、アーシア・ヴァン・ライール」
「はい」
(ライール……、あまり聞かない家名だけど、どんな家かしら? いえ、仕事にそんな事は関係ないわね。気を引き締めていかないと。でも……、やはり睨まれている?)
直属の上司の姿を確認したカテリーナは、相手の顔を眺めながら考えを巡らせたが、すぐに自分が凝視されている事を認識し、密かに気を引き締めた。
その後チャーリーは入団式の終了を宣言し、団長以下幹部を敬礼で見送ってから、各隊長達は自分達の部下の列に歩み寄り、今後の指示を伝えつつ移動を始めた。アーシアも無表情のままカテリーナ達の列に歩み寄ったと思ったら、短く告げつつ即座に踵を返して歩き出す。
「それでは、あなた達は私に付いて来なさい。新人には各隊長室で、備品を渡す事になっています」
(え? 随分慌ただしいわね)
改まった挨拶も無しで良いのかと、カテリーナ達は無言のまま顔を見合わせてから慌てて足を踏み出したが、少し行ったところでアーシアが足を止めて振り返った。
(あら? いきなり立ち止まって、どうしたのかしら?)
カテリーナ達は怪訝に思いながらも同様に足を止めて相手の反応を窺ったが、ここで面白く無さそうな顔をしているアーシアから、吐き捨てるように言われる。
「あなた達、返事は?」
「……はい!」
「以後、すぐに応じなさい」
一瞬、何を言われたのか分からなかったカテリーナ達だったが、すぐに先程の自分の指示に対する返答を求めていたのだと察知し、慌てて声を揃えて応じた。それにアーシアは素っ気なく返してから、再び歩き出す。
(何なのかしら? 機嫌が悪そうね。いきなり説明の途中で歩き出したから、よほど急ぐのかと思って返事するタイミングを逃したのに)
カテリーナは納得しかねながら無言で歩き出したが、その感想は他の四人も同様であり、これから一体どうなる事かと全員が初日から不安を抱える事となった。
王宮の一角にある近衛騎士団管轄の鍛錬場の中で、一番広い場所に集められたカテリーナ達は、所属毎に縦一列に整列して入団式の開催を待っていたが、緊張に耐えかねた者達が前方に整列している幹部達に叱責されない程度に囁き合う。
「さすがに緊張するわ」
「入団式だもの、誰だって緊張するわよ」
「カテリーナも緊張しているの?」
「酷いわね、私をどういう人間だと思っているの?」
「それより始まる前から、何だか睨まれているような気がするけど……」
「気のせいではない?」
「そうかしらね」
近衛騎士団に入団できるのはクレランス学園騎士科卒業者の他に、各貴族家からの推薦を受けた騎士も入団試験を受けて合格すれば可能ではあるが、女性騎士の場合は例年貴族家からの推薦は皆無に等しく、殆ど学園騎士科出身者で占められており、その年もカテリーナ達騎士科卒業の五人のみであった。
当然男女比も十対一程度に偏っており、立っているだけで人目を引いているのはカテリーナも気が付いていたが、女性騎士が珍しい故の事だろうとあまり気にも留めなかった。
「静粛に! これより近衛騎士団、入団式を開催する!」
進行役らしい年配の騎士が声を張り上げると同時に鍛錬場が静まり返り、奥から進み出た貫禄のある男性に、騎士団幹部達が道を譲って一斉に敬礼をする。カテリーナ達新入団者達も敬礼で待ち構えると、近衛騎士団団長ティアド伯爵ラドクリフは、それを解かせてから整列した新入団員を見渡しながら良く響く声で訓示を述べた。
「皆、近衛騎士団へようこそ。私は近衛騎士団団長のラドクリフ・ヴァン・ティアドだ。団長として、君達を歓迎する。君達は選抜され、王都中枢での勤務を認められた者達だ。その誇りを忘れず、日々の勤務に励んで貰いたい」
威厳のある挨拶を聞きながら、騎士団幹部と思われる集団の中にカテリーナは実兄のジャスティンを見つけたが、そ知らぬふりを貫いた。一方の彼も当然妹と目を合わせても愛想など振り撒かず、厳粛な入団式に相応しく真顔のまま微動だにしなかったが、その分余計に他の人間の視線が妙に気に障った。
(おじさまの背後に控えているのは、私達新人が配属される隊の隊長や責任者クラスの方々だと思うけど……。そうなるとあの女性が、私達の直属の上司という事になるのよね?)
幹部と思われる集団の中にただ一人存在していた女性が、自分の方を険しい視線で凝視しているのを先程から感じていたカテリーナは訝しく思った。それは彼女だけでは無く周りの四人も同様に感じていたが、就任式は滞りなく進行していった。
「それでは私から、簡単に各隊の隊長を紹介する。まず最初に、第一隊隊長エドウィン・ヴァン・ティラー」
「はい」
副団長として挨拶したチャーリーが各隊の隊長を紹介すると同時に、呼ばれた者が集団の中から前に進み出る。そして紹介が進み、カテリーナ達が所属する第十五隊の番になった。
「最後に第十五隊隊長、アーシア・ヴァン・ライール」
「はい」
(ライール……、あまり聞かない家名だけど、どんな家かしら? いえ、仕事にそんな事は関係ないわね。気を引き締めていかないと。でも……、やはり睨まれている?)
直属の上司の姿を確認したカテリーナは、相手の顔を眺めながら考えを巡らせたが、すぐに自分が凝視されている事を認識し、密かに気を引き締めた。
その後チャーリーは入団式の終了を宣言し、団長以下幹部を敬礼で見送ってから、各隊長達は自分達の部下の列に歩み寄り、今後の指示を伝えつつ移動を始めた。アーシアも無表情のままカテリーナ達の列に歩み寄ったと思ったら、短く告げつつ即座に踵を返して歩き出す。
「それでは、あなた達は私に付いて来なさい。新人には各隊長室で、備品を渡す事になっています」
(え? 随分慌ただしいわね)
改まった挨拶も無しで良いのかと、カテリーナ達は無言のまま顔を見合わせてから慌てて足を踏み出したが、少し行ったところでアーシアが足を止めて振り返った。
(あら? いきなり立ち止まって、どうしたのかしら?)
カテリーナ達は怪訝に思いながらも同様に足を止めて相手の反応を窺ったが、ここで面白く無さそうな顔をしているアーシアから、吐き捨てるように言われる。
「あなた達、返事は?」
「……はい!」
「以後、すぐに応じなさい」
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