その華の名は
(17)予想外の襲撃
大会前日の放課後。カテリーナとティナレアは鍛錬場に付随した更衣室で着替えを済ませ、割り振られた時間直前に模擬剣持参で鍛錬場に入った。
「これが最後の訓練になるわけだから、気合いを入れていきましょうね!」
「ティナレア。力を入れ過ぎて明日に疲れを残したりしたら、本末転倒ですからね?」
「分かっているわよ」
にこやかに会話をしながら二人が足を進めると、丁度持ち時間が終わりだったらしいイズファインとクロードが、中央部から歩み寄って来る。
「やあ、カテリーナ、ティナレア。これからここを使う予定だったな」
「二人とも、大丈夫か?」
「え?」
「大丈夫って、何が?」
挨拶もそこそこに、クロードに心配そうに問われた二人は面食らった。そんな彼女達の反応を見たクロードは、イズファインと顔を見合わせてから声を潜めて話し出す。
「実は、ここだけの話だが…。教養科から参加表明していた二人が、今日になって出場を辞退してきたんだ」
「え? どうして?」
「二人とも表向きは、急病と怪我の為の辞退と言っているが……」
「医務官の話では、出場に支障がでる程の怪我では無いし、仮病だろうとの事だ」
「何、それ?」
「早速、裏から圧力をかけた奴がいるわけ?」
クロードに続いてイズファインが語った内容に、カテリーナ達は表情を険しくし、彼も難しい顔で頷く。
「恐らくは。一応、実行委員会の方でも目を光らせてはいるが、参加者全員を完全に監視するのは無理だからな」
「それは当然よ。実行委員会の責任では無いわ」
「とにかく、女子の方は女子の方で警戒しているとは思うが、気を抜かないようにな」
「分かったわ」
「これまで以上に気を付けるから」
改めて警告されてから二人と別れたカテリーナとティナレアは、憤然としながら自分達だけに聞こえる声で悪態を吐いた。
「全く……。不愉快な話を聞かされたわ」
「本当よね。バーナム以外にも性根が腐った人間がいるのを、再認識させられるなんて」
「ここで腹を立てていても仕方がないわ。気を取り直してさっさと始めましょう」
「同感。時間が勿体無いわ」
二人は怒りがなかなか収まらなかったものの、真剣に訓練をしているうちにそれは自然に忘れ去り、それなりに充実した時間を過ごした。
「お疲れ様です、カテリーナさん、ティナレアさん」
無事に訓練を終えて予定していた時間通りに更衣室から廊下に出ると、二人をサビーネと見知らぬ生徒が待ち構えていた。
「あら、サビーネ。これからはあなた達が付いてくれるの?」
「はい。こちらは私の友人で、モリー・システアです」
「お二人とも、初めまして。お邪魔かもしれませんが、ご了解ください」
「邪魔だなんて。わざわざ私達の予定に合わせて貰って、申し訳ないわ」
「ええ、気にしないでね」
「それでは行きましょうか。……ところでお二人とも、仕上がりは順調ですか?」
モリーが笑顔で頭を下げ、サビーネが他の者を促して歩き始めてから、さりげなく調子を尋ねてきた。それにカテリーナとティナレアが、不敵な笑みを浮かべながら応じる。
「勿論よ」
「みっともない試合なんか、間違ってもするつもりは無いわ」
「楽しみです。皆で応援しますので、頑張ってくださいね」
そこで引っ掛かりを覚えたカテリーナは、すぐに問い返した。
「サビーネ。皆と言うのは?」
「マリーア様率いる、学園非公認の『剣術大会を成功に導く有志の会』参加者ですわ」
「…………」
(何だか、うっすらと《紫蘭会》の存在を感じる……。突き詰めるとエセリア様に繋がるこの会に、色々任せてしまって大丈夫なのかしら?)
思わずティナレアと無言で顔を見合わせてしまったカテリーナは、不安を何とか押さえ込みながら寮への道を歩き続けた。
同じ頃、鍛錬場から大会実行委員会が学園から使用許可を受けている校舎二階の教室に出向いたイズファインは、ナジェークの事務作業を手伝わされていた。しかしその人使いの荒さに音を上げた彼は、気分転換とばかりに席を立ってナジェークの机の後ろにある中庭を望む窓に歩み寄り、外を眺めながら身体を伸ばす。
「はぁ……、いよいよ明日が本番か……」
「イズファイン。呆けてないで、この書類の仕分けを頼む」
「お、カテリーナとサビーネだ。鍛錬場での訓練が終わったんだな」
「全く……。そっちも訓練終了後で、疲れているのは分かるがな。それならさっさと寮に戻れ」
渡り廊下をカテリーナ達が四人で楽しそうに語り合いながら歩いているのを目敏く見付けたイズファインが独り言のように告げると、ナジェークが呆れ顔で背後の窓を振り返った。しかしここで、イズファインが急に声音を変えて警告を発する。
「おい、ナジェーク。バーナムが居る」
「は? どこに?」
反射的に立ち上がったナジェークは、即座にイズファインの隣に並んで窓から中庭を見下ろした。そしてイズファインが指し示した場所を確認する。
「あそこの茂みの中だ。あいつ、何をこそこそと……。おい!! あいつ、まさか!?」
そこでバーナムが片手でギリギリ握り込める大きさの石を掴み、どこかに向かって投げる素振りをしているのを認めた瞬間、彼の視線を目で追ったナジェークは、同様に彼が何をする気か悟ったイズファインに向かって、有無を言わさぬ気迫で指示した。
「イズファイン! 窓を開けろ!」
「あ、ああ、開けた……、うわっ! ナジェーク、この馬鹿!」
イズファインが即座に窓を開けて振り返った瞬間、目の前を何かが凄い勢いで通り過ぎて行った。それが机に備え付けてあった置時計であり、ナジェークがそれをカテリーナ目掛けて投げつけたようにしか見えなかったイズファインは、ナジェークを叱り付けたが、逆に鬼の形相で怒鳴られる。
「閉めろ!」
「あ、あのなぁっ!」
文句を言いかけたものの、イズファインは即座に元通り窓を閉めた。そしてその外では、予想通りと言うか予想以上の騒ぎが勃発した。
「これが最後の訓練になるわけだから、気合いを入れていきましょうね!」
「ティナレア。力を入れ過ぎて明日に疲れを残したりしたら、本末転倒ですからね?」
「分かっているわよ」
にこやかに会話をしながら二人が足を進めると、丁度持ち時間が終わりだったらしいイズファインとクロードが、中央部から歩み寄って来る。
「やあ、カテリーナ、ティナレア。これからここを使う予定だったな」
「二人とも、大丈夫か?」
「え?」
「大丈夫って、何が?」
挨拶もそこそこに、クロードに心配そうに問われた二人は面食らった。そんな彼女達の反応を見たクロードは、イズファインと顔を見合わせてから声を潜めて話し出す。
「実は、ここだけの話だが…。教養科から参加表明していた二人が、今日になって出場を辞退してきたんだ」
「え? どうして?」
「二人とも表向きは、急病と怪我の為の辞退と言っているが……」
「医務官の話では、出場に支障がでる程の怪我では無いし、仮病だろうとの事だ」
「何、それ?」
「早速、裏から圧力をかけた奴がいるわけ?」
クロードに続いてイズファインが語った内容に、カテリーナ達は表情を険しくし、彼も難しい顔で頷く。
「恐らくは。一応、実行委員会の方でも目を光らせてはいるが、参加者全員を完全に監視するのは無理だからな」
「それは当然よ。実行委員会の責任では無いわ」
「とにかく、女子の方は女子の方で警戒しているとは思うが、気を抜かないようにな」
「分かったわ」
「これまで以上に気を付けるから」
改めて警告されてから二人と別れたカテリーナとティナレアは、憤然としながら自分達だけに聞こえる声で悪態を吐いた。
「全く……。不愉快な話を聞かされたわ」
「本当よね。バーナム以外にも性根が腐った人間がいるのを、再認識させられるなんて」
「ここで腹を立てていても仕方がないわ。気を取り直してさっさと始めましょう」
「同感。時間が勿体無いわ」
二人は怒りがなかなか収まらなかったものの、真剣に訓練をしているうちにそれは自然に忘れ去り、それなりに充実した時間を過ごした。
「お疲れ様です、カテリーナさん、ティナレアさん」
無事に訓練を終えて予定していた時間通りに更衣室から廊下に出ると、二人をサビーネと見知らぬ生徒が待ち構えていた。
「あら、サビーネ。これからはあなた達が付いてくれるの?」
「はい。こちらは私の友人で、モリー・システアです」
「お二人とも、初めまして。お邪魔かもしれませんが、ご了解ください」
「邪魔だなんて。わざわざ私達の予定に合わせて貰って、申し訳ないわ」
「ええ、気にしないでね」
「それでは行きましょうか。……ところでお二人とも、仕上がりは順調ですか?」
モリーが笑顔で頭を下げ、サビーネが他の者を促して歩き始めてから、さりげなく調子を尋ねてきた。それにカテリーナとティナレアが、不敵な笑みを浮かべながら応じる。
「勿論よ」
「みっともない試合なんか、間違ってもするつもりは無いわ」
「楽しみです。皆で応援しますので、頑張ってくださいね」
そこで引っ掛かりを覚えたカテリーナは、すぐに問い返した。
「サビーネ。皆と言うのは?」
「マリーア様率いる、学園非公認の『剣術大会を成功に導く有志の会』参加者ですわ」
「…………」
(何だか、うっすらと《紫蘭会》の存在を感じる……。突き詰めるとエセリア様に繋がるこの会に、色々任せてしまって大丈夫なのかしら?)
思わずティナレアと無言で顔を見合わせてしまったカテリーナは、不安を何とか押さえ込みながら寮への道を歩き続けた。
同じ頃、鍛錬場から大会実行委員会が学園から使用許可を受けている校舎二階の教室に出向いたイズファインは、ナジェークの事務作業を手伝わされていた。しかしその人使いの荒さに音を上げた彼は、気分転換とばかりに席を立ってナジェークの机の後ろにある中庭を望む窓に歩み寄り、外を眺めながら身体を伸ばす。
「はぁ……、いよいよ明日が本番か……」
「イズファイン。呆けてないで、この書類の仕分けを頼む」
「お、カテリーナとサビーネだ。鍛錬場での訓練が終わったんだな」
「全く……。そっちも訓練終了後で、疲れているのは分かるがな。それならさっさと寮に戻れ」
渡り廊下をカテリーナ達が四人で楽しそうに語り合いながら歩いているのを目敏く見付けたイズファインが独り言のように告げると、ナジェークが呆れ顔で背後の窓を振り返った。しかしここで、イズファインが急に声音を変えて警告を発する。
「おい、ナジェーク。バーナムが居る」
「は? どこに?」
反射的に立ち上がったナジェークは、即座にイズファインの隣に並んで窓から中庭を見下ろした。そしてイズファインが指し示した場所を確認する。
「あそこの茂みの中だ。あいつ、何をこそこそと……。おい!! あいつ、まさか!?」
そこでバーナムが片手でギリギリ握り込める大きさの石を掴み、どこかに向かって投げる素振りをしているのを認めた瞬間、彼の視線を目で追ったナジェークは、同様に彼が何をする気か悟ったイズファインに向かって、有無を言わさぬ気迫で指示した。
「イズファイン! 窓を開けろ!」
「あ、ああ、開けた……、うわっ! ナジェーク、この馬鹿!」
イズファインが即座に窓を開けて振り返った瞬間、目の前を何かが凄い勢いで通り過ぎて行った。それが机に備え付けてあった置時計であり、ナジェークがそれをカテリーナ目掛けて投げつけたようにしか見えなかったイズファインは、ナジェークを叱り付けたが、逆に鬼の形相で怒鳴られる。
「閉めろ!」
「あ、あのなぁっ!」
文句を言いかけたものの、イズファインは即座に元通り窓を閉めた。そしてその外では、予想通りと言うか予想以上の騒ぎが勃発した。
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