その華の名は
(15)運命の組み合わせ抽選会
学園全体が盛り上がりを見せながら準備を進め、いよいよ剣術大会開催を二日後に控えた日の放課後。カテリーナは他の参加者達と一緒に講堂に出向いて、組み合わせ抽選会が始まるのを待っていた。
大多数の男子生徒中、騎士科下級学年から二人と教養科から一人、女生徒が参加しており、彼女達が自然にカテリーナとティナレアの側に寄って来て挨拶した為、お互いに自己紹介等を済ませた後は固まって椅子に座る事となる。
「剣術大会の構想が動き出してから、ここまであっという間だったわね」
「本当ね。いよいよ試合の組み合わせが決まるから、緊張するわ。それにしても、凄い野次馬だこと」
「それだけ学園中の興味関心を集めているのよ」
カテリーナが参加者席から少し離れた場所で、鈴なりになっている生徒達を呆れ気味に見やっていると、ティナレアが先程受付した時に渡された名簿に目を落とし、更に前方に掲示してある組み合わせ表を見ながら難しい顔で確認を入れた。
「この参加者名簿によると、最終的に参加表明したのは全学年合わせて93名だから……。予め14組に振り分けた上で二日かけて予選を行って、各ブロック6名もしくは7名の中で一人の勝者を決めるのね」
「その翌日に一日かけて、人気投票と開票で敗者を二人復活させて、合わせて16人で決勝を二日かけて戦う事になるわね」
「でもカテリーナ。事前に勝ち抜き戦とそれに伴うトーナメント形式の説明は受けたけど、あれを見るとブロック内で勝ち上がるまでの試合の回数が、二回の人と三回の人がいるみたいよ?」
「ぴったりの人数が、参加表明するとは限りませんからね。運も実力のうち、と言う事じゃない? だから予備抽選で組合せ抽選の順番を決めるのだし」
「ここは是非、二回で勝ち上がれる場所になりたい! 剣術大会本番前に、これだけで充分な一大イベントだわ!」
真剣な顔で訴えたティナレアに、殆ど全員がそう思っているだろうとカテリーナが苦笑したところで、この抽選会の司会進行役であるエセリアが前方に設置されている机の前に立ち、良く通る声でざわめいている参加者達に呼びかけた。
「皆様、静粛に! これよりトーナメント組み合わせ予備抽選を行います! 参加者名簿登録順にお名前をお呼びしますので、順番が近くなったら前に出てきて並び、一人ずつ前に出てきてください。それでは登録番号1番、イズファイン・ヴァン・ティアド!」
「はい」
彼女の声にイズファインはすかさず反応し、椅子から立ち上がって前方へと進んだ。更にすぐに呼ばれる事を見越して、登録順が早い生徒達が自主的に前に出て列を作り始める。
「それでは、本抽選順は57番です」
「私達も行きましょう」
「ええ」
そしてトーナメント表と同様に、前に貼り出されている本抽選順の一覧表に、次々と名前が書き込まれていくのを眺めたティナレアは、ある事実に気が付いた。
「あ、そうか。二段構えの公開抽選にしたらバーナム達が変な小細工をするのは勿論無理だけど、運営に関わるイズファインとか彼に近い人達が、何か抽選に関して細工や操作をしたのではという邪推や誹謗中傷を防ぐ事にもなるわけね?」
「恐らくそうでしょうね。これで更に安心して試合に挑めると言うものだわ」
そうこうしているうちに、すぐにカテリーナの番がやってきた。
「次の方、カテリーナ・ヴァン・ガロア。それでは、この中から一枚選んでください」
「はい」
(ここまで間近でエセリア様を見たのは初めてだけど、本当に容姿も気品も、他の貴族令嬢達と比べると抜きん出ているのよね)
カテリーナはエセリアについてしみじみ感心しながら、これまでの生徒がしていたように彼女が差し出してきた上部を丸くくりぬいた箱の中に手を差し入れ、指先に当たった用紙の一枚を取り出した。
「こちらになります」
「はい。それではカテリーナさんの本抽選順は78番です」
「分かりました」
「それでは次に、ティナレア・ヴァン・マーティン」
「はい」
予備抽選は問題なくさくさく進み、あっという間に本抽選になった。
「続けて本抽選に移ります。抽選順1番、ラコール・ヴァン・リーガス」
「はい」
エセリアが一覧表に書かれた名前を読み上げると、予め前方に出ていた生徒が返事をし、彼女が差し出した先程とは違う箱から一枚の用紙を取り出した。それを受け取ったエセリアが、折り畳まれたそれを広げて記載内容を確認する。
「19番。それでは第三ブロック第三試合になります。頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
「次は抽選番2番、ランディス・アドニー」
「はい」
エセリアが結果を読み上げると同時に、背後の書記役の生徒が指定の場所に名前を書き込み、抽選会は順調に進んでいった。
「やった! 対戦回数が少ない所に入ったわ! これはひょっとすると、ひょっとするかも! 益々やる気が出てきたわ!」
自分が引き当てた場所を確認したティナレアは上機嫌で椅子に戻ってきたが、カテリーナはそれに苦笑で返した。
「そうね……。ある意味ラッキーだけど、ある意味厳重に注意をしないといけないかもしれないわよ? 勝ち上がってくる対戦相手が、どちらも“あれ”だし」
そう言われて対戦表を見直したティナレアは対戦予想者の名前を確認し、普段から相容れないタイプが二人揃っていた事で、がっくりと肩を落とした。
「……確かにね。色々な意味で気を付けた方が良さそうだわ」
「そろそろ私の順番だから、行ってくるわね」
「ええ。だいぶ枠が埋まってきたし、楽な所が当たれば良いわね」
ティナレアからの、励ましなのかどうか良く分からない声を背に受けながら、カテリーナは再び前に進み出た。
「それでは抽選順78番、カテリーナ・ヴァン・ガロア」
「はい」
(さてと……、どこになるのかしらね。よし、これよ!)
彼女は大して悩まず、指先に触れた一枚を取り出してエセリアに手渡した。
「お願いします」
「はい。……2番。第一ブロック、第一試合になります。……それでは抽選順、79番の方」
エセリアがカテリーナの番号を宣言した途端、何故か会場内が一瞬静まり返り、次いでざわざわとした落ち着かない空気が広がった。カテリーナも何となく引っ掛かりを覚えながら、トーナメント表に視線を向ける。
(あら? 2番だと、当然対戦相手は1番になる筈で……。それってさっき、開会直後の試合で光栄だとかなんとか、声高に言っていた人がいたような……)
すると嫌な予感は的中し、彼女の最初の対戦相手はバーナムになっていた。
(よりによって、バーナムとはね……。運が良いのか悪いのか……)
何とも言いがたい表情のままカテリーナが席に戻ると、彼女以上にうんざり顔になっていたティナレアに声をかけられた。
「お帰りなさい、カテリーナ。さっき言われた内容、倍にして返しても良い? 名前を言わなくても分かると思うけど、凄い顔でこっちを睨んでるわ」
「本当に、面倒くさい事になったわね」
何となく斜め後方から怨念の籠った視線を受けているのを感じていたものの、カテリーナは意識的にそちらの方を見ないようにしてそ知らぬふりを貫いた。
カテリーナが完全無視を決め込んでいた一方で、イズファインはこの組み合わせが確定した直後から、背後から向けられている殺気を感じて冷や汗を流していた。
「…………」
(おい、ナジェーク! お前だって見ていただろう! 確かに抽選箱や中の用紙は私が準備したが、この組み合せは断じて俺のせいじゃ無いからな!?)
視線を合わせる気分になれず、前方を硬い表情で睨み付けながら黙り込んでいる彼を見て、周囲の友人達が心配そうに声をかける。
「イズファイン、どうかしたのか?」
「顔色が良くないぞ?」
「あ、ああ。組み合わせが決まって、さすがに緊張してきたかな?」
苦労して何とか笑みらしきものを浮かべながらイズファインが尤もらしい事を口にすると、周りはこぞって明るい笑顔で応じた。
「何を言ってるんだよ。騎士科内でも随一の実力者が」
「だが俺達も、それくらいの緊張感を持って挑まないと駄目だな」
「ああ、腑抜けた試合なんかしないで、全力を尽くそうぜ!」
「お前にも負けないぞ、イズファイン」
「望むところだ」
そして参加者以上に、抽選会の経過を固唾を飲んで見守っていた一般生徒達が一喜一憂する中、組み合わせ抽選会は傍目には何の問題も無く幕を下ろした。
大多数の男子生徒中、騎士科下級学年から二人と教養科から一人、女生徒が参加しており、彼女達が自然にカテリーナとティナレアの側に寄って来て挨拶した為、お互いに自己紹介等を済ませた後は固まって椅子に座る事となる。
「剣術大会の構想が動き出してから、ここまであっという間だったわね」
「本当ね。いよいよ試合の組み合わせが決まるから、緊張するわ。それにしても、凄い野次馬だこと」
「それだけ学園中の興味関心を集めているのよ」
カテリーナが参加者席から少し離れた場所で、鈴なりになっている生徒達を呆れ気味に見やっていると、ティナレアが先程受付した時に渡された名簿に目を落とし、更に前方に掲示してある組み合わせ表を見ながら難しい顔で確認を入れた。
「この参加者名簿によると、最終的に参加表明したのは全学年合わせて93名だから……。予め14組に振り分けた上で二日かけて予選を行って、各ブロック6名もしくは7名の中で一人の勝者を決めるのね」
「その翌日に一日かけて、人気投票と開票で敗者を二人復活させて、合わせて16人で決勝を二日かけて戦う事になるわね」
「でもカテリーナ。事前に勝ち抜き戦とそれに伴うトーナメント形式の説明は受けたけど、あれを見るとブロック内で勝ち上がるまでの試合の回数が、二回の人と三回の人がいるみたいよ?」
「ぴったりの人数が、参加表明するとは限りませんからね。運も実力のうち、と言う事じゃない? だから予備抽選で組合せ抽選の順番を決めるのだし」
「ここは是非、二回で勝ち上がれる場所になりたい! 剣術大会本番前に、これだけで充分な一大イベントだわ!」
真剣な顔で訴えたティナレアに、殆ど全員がそう思っているだろうとカテリーナが苦笑したところで、この抽選会の司会進行役であるエセリアが前方に設置されている机の前に立ち、良く通る声でざわめいている参加者達に呼びかけた。
「皆様、静粛に! これよりトーナメント組み合わせ予備抽選を行います! 参加者名簿登録順にお名前をお呼びしますので、順番が近くなったら前に出てきて並び、一人ずつ前に出てきてください。それでは登録番号1番、イズファイン・ヴァン・ティアド!」
「はい」
彼女の声にイズファインはすかさず反応し、椅子から立ち上がって前方へと進んだ。更にすぐに呼ばれる事を見越して、登録順が早い生徒達が自主的に前に出て列を作り始める。
「それでは、本抽選順は57番です」
「私達も行きましょう」
「ええ」
そしてトーナメント表と同様に、前に貼り出されている本抽選順の一覧表に、次々と名前が書き込まれていくのを眺めたティナレアは、ある事実に気が付いた。
「あ、そうか。二段構えの公開抽選にしたらバーナム達が変な小細工をするのは勿論無理だけど、運営に関わるイズファインとか彼に近い人達が、何か抽選に関して細工や操作をしたのではという邪推や誹謗中傷を防ぐ事にもなるわけね?」
「恐らくそうでしょうね。これで更に安心して試合に挑めると言うものだわ」
そうこうしているうちに、すぐにカテリーナの番がやってきた。
「次の方、カテリーナ・ヴァン・ガロア。それでは、この中から一枚選んでください」
「はい」
(ここまで間近でエセリア様を見たのは初めてだけど、本当に容姿も気品も、他の貴族令嬢達と比べると抜きん出ているのよね)
カテリーナはエセリアについてしみじみ感心しながら、これまでの生徒がしていたように彼女が差し出してきた上部を丸くくりぬいた箱の中に手を差し入れ、指先に当たった用紙の一枚を取り出した。
「こちらになります」
「はい。それではカテリーナさんの本抽選順は78番です」
「分かりました」
「それでは次に、ティナレア・ヴァン・マーティン」
「はい」
予備抽選は問題なくさくさく進み、あっという間に本抽選になった。
「続けて本抽選に移ります。抽選順1番、ラコール・ヴァン・リーガス」
「はい」
エセリアが一覧表に書かれた名前を読み上げると、予め前方に出ていた生徒が返事をし、彼女が差し出した先程とは違う箱から一枚の用紙を取り出した。それを受け取ったエセリアが、折り畳まれたそれを広げて記載内容を確認する。
「19番。それでは第三ブロック第三試合になります。頑張ってください」
「はい、ありがとうございます」
「次は抽選番2番、ランディス・アドニー」
「はい」
エセリアが結果を読み上げると同時に、背後の書記役の生徒が指定の場所に名前を書き込み、抽選会は順調に進んでいった。
「やった! 対戦回数が少ない所に入ったわ! これはひょっとすると、ひょっとするかも! 益々やる気が出てきたわ!」
自分が引き当てた場所を確認したティナレアは上機嫌で椅子に戻ってきたが、カテリーナはそれに苦笑で返した。
「そうね……。ある意味ラッキーだけど、ある意味厳重に注意をしないといけないかもしれないわよ? 勝ち上がってくる対戦相手が、どちらも“あれ”だし」
そう言われて対戦表を見直したティナレアは対戦予想者の名前を確認し、普段から相容れないタイプが二人揃っていた事で、がっくりと肩を落とした。
「……確かにね。色々な意味で気を付けた方が良さそうだわ」
「そろそろ私の順番だから、行ってくるわね」
「ええ。だいぶ枠が埋まってきたし、楽な所が当たれば良いわね」
ティナレアからの、励ましなのかどうか良く分からない声を背に受けながら、カテリーナは再び前に進み出た。
「それでは抽選順78番、カテリーナ・ヴァン・ガロア」
「はい」
(さてと……、どこになるのかしらね。よし、これよ!)
彼女は大して悩まず、指先に触れた一枚を取り出してエセリアに手渡した。
「お願いします」
「はい。……2番。第一ブロック、第一試合になります。……それでは抽選順、79番の方」
エセリアがカテリーナの番号を宣言した途端、何故か会場内が一瞬静まり返り、次いでざわざわとした落ち着かない空気が広がった。カテリーナも何となく引っ掛かりを覚えながら、トーナメント表に視線を向ける。
(あら? 2番だと、当然対戦相手は1番になる筈で……。それってさっき、開会直後の試合で光栄だとかなんとか、声高に言っていた人がいたような……)
すると嫌な予感は的中し、彼女の最初の対戦相手はバーナムになっていた。
(よりによって、バーナムとはね……。運が良いのか悪いのか……)
何とも言いがたい表情のままカテリーナが席に戻ると、彼女以上にうんざり顔になっていたティナレアに声をかけられた。
「お帰りなさい、カテリーナ。さっき言われた内容、倍にして返しても良い? 名前を言わなくても分かると思うけど、凄い顔でこっちを睨んでるわ」
「本当に、面倒くさい事になったわね」
何となく斜め後方から怨念の籠った視線を受けているのを感じていたものの、カテリーナは意識的にそちらの方を見ないようにしてそ知らぬふりを貫いた。
カテリーナが完全無視を決め込んでいた一方で、イズファインはこの組み合わせが確定した直後から、背後から向けられている殺気を感じて冷や汗を流していた。
「…………」
(おい、ナジェーク! お前だって見ていただろう! 確かに抽選箱や中の用紙は私が準備したが、この組み合せは断じて俺のせいじゃ無いからな!?)
視線を合わせる気分になれず、前方を硬い表情で睨み付けながら黙り込んでいる彼を見て、周囲の友人達が心配そうに声をかける。
「イズファイン、どうかしたのか?」
「顔色が良くないぞ?」
「あ、ああ。組み合わせが決まって、さすがに緊張してきたかな?」
苦労して何とか笑みらしきものを浮かべながらイズファインが尤もらしい事を口にすると、周りはこぞって明るい笑顔で応じた。
「何を言ってるんだよ。騎士科内でも随一の実力者が」
「だが俺達も、それくらいの緊張感を持って挑まないと駄目だな」
「ああ、腑抜けた試合なんかしないで、全力を尽くそうぜ!」
「お前にも負けないぞ、イズファイン」
「望むところだ」
そして参加者以上に、抽選会の経過を固唾を飲んで見守っていた一般生徒達が一喜一憂する中、組み合わせ抽選会は傍目には何の問題も無く幕を下ろした。
「その華の名は」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,573
-
2.9万
-
-
165
-
59
-
-
61
-
22
-
-
1.2万
-
4.7万
-
-
5,074
-
2.5万
-
-
5,013
-
1万
-
-
9,627
-
1.6万
-
-
8,092
-
5.5万
-
-
2,414
-
6,662
-
-
3,135
-
3,383
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,521
-
5,226
-
-
9,294
-
2.3万
-
-
6,119
-
2.6万
-
-
1,285
-
1,419
-
-
2,845
-
4,948
-
-
6,617
-
6,954
-
-
6,028
-
2.9万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
60
-
278
-
-
316
-
800
-
-
399
-
718
-
-
6,161
-
3.1万
-
-
65
-
152
-
-
32
-
11
-
-
1,857
-
1,560
-
-
3,630
-
9,417
-
-
44
-
89
-
-
168
-
148
-
-
11
-
4
-
-
105
-
364
-
-
2,605
-
7,282
-
-
48
-
129
-
-
13
-
1
-
-
45
-
163
-
-
208
-
515
-
-
2,931
-
4,405
-
-
1,584
-
2,757
-
-
387
-
438
-
-
4,871
-
1.7万
-
-
31
-
50
-
-
42
-
55
-
-
139
-
227
-
-
74
-
147
-
-
306
-
226
-
-
562
-
1,070
-
-
2,787
-
1万
-
-
600
-
220
-
-
169
-
156
-
-
2,388
-
9,359
-
-
1,259
-
8,383
-
-
7,413
-
1.5万
-
-
9,139
-
2.3万
コメント