その華の名は
(22)真実の一端
「反省する前に、あなたの側近達、きちんと馬車に乗っていたお義姉様を救助したんでしょうね!?」
「必死に後を追ってきた護衛役や侍女達が、土手の下に横倒しになった馬車から、彼女を引っ張り出したそうだ。だがさすがに無傷と言うわけにはいかず、派手に泣き喚いているらしい。こちらに連絡が入るのも、時間の問題だな」
「あっ、あなたね……」
怒りのあまり顔を赤くし、言葉に詰まらせたカテリーナに向かって、ナジェークは爽やかな笑顔で手を振り、玄関ホールに向かって歩き出した。
「下手に騒動に巻き込まれないうちに、さっさと引き上げる事にするよ。それじゃあまた、学園で会うのを楽しみにしている」
「騒動を引き起こした、諸悪の根元が何を言っているのよ!!」
彼に続いてカテリーナも廊下に出て歩き出したが、玄関ホールに到達した所で、一人の騎士が慌てた様子で駆け込んで来た。
「大変です、ジュール様!! こちらに向かわれていたエリーゼ様の馬車が、領内に入ってすぐの所で横転しました!!」
それを聞いたデリシュとカテリーナは無言で顔を強張らせ、ナジェークは一人そ知らぬ顔で聞き流す。しかし事情を知らないジュールは、瞬時に顔色を変えて騎士に詰め寄った。
「何だと!? それはどういう事だ!」
「馬車が暴走して横転し、それに乗っておられたエリーゼ様が足を骨折されました。近くの町にいた医者に処置をして貰いましたが、エリーゼ様が酷く痛がっておられます。取り敢えずすぐに、この屋敷でのエリーゼ様の受け入れをお願いしたく」
「分かった。すぐにこの街の医師を呼んで、改めて診察して貰おう。部屋も整えておくから、急いで義姉上をお連れしてくれ。すぐに新しい馬車の手配もする」
「分かりました!」
途端に使用人達が慌ただしく走り回り始め、そのどさくさに紛れてデリシュとナジェークは屋敷を離れた。
(ああ……、お義姉様の金切り声の幻聴が聞こえる……。ジュール兄様には悪いけど、お義姉様の相手はジュール兄様とリサ義姉様にお任せして、私もさっさと王都に帰らせて貰おう)
確実にヒステリーを起こすであろう義姉の相手を、次兄夫婦に押し付ける形になる事にかなりの後ろめたさを覚えながら、カテリーナは黙々と王都に戻る為の荷造りを始めた。
※※※
「こんな感じで専科下級学年の時の長期休暇は、彼女と親交を深める事ができた、なかなか有意義な時間だったよ」
夕食を食べ進めながら、ナジェークが当時のカテリーナとのあれこれを語って聞かせると、エセリアが僅かに顔を引き攣らせながら呻くように呟いた。
「お兄様達が専科下級学年の時は、私がクレランス学園に入学する前年……。確かにその頃サビーネから、交際を反対されているカップルに関する相談を受けて、色々助言した覚えが……。あれがお兄様とカテリーナ様の事でしたの?」
「そういう事」
「やられた……。すっかりサビーネに騙されましたわ……」
がっくりと肩を落としたエセリアだったが、それを見たナジェークがすかさずサビーネをフォローした。
「言っておくが、サビーネ嬢は悪意でエセリアを騙そうとしたり、嘘をついたわけでは無いから。私が『カテリーナとの事を知っている人間は、最小限に抑えたいから』と頼んだ故の事だし」
「はいはい。『敵を欺くには、まず味方から』というわけですのね? お兄様が易々とサビーネを丸め込んだ光景が、目に見えるようですわ。別に彼女に対して腹を立ててはおりませんから、ご心配無く」
「丸め込むだなんて酷いな。でも彼女のように口が固くて信用できる女性がイズファインの婚約者で、私は本当に良かったと思っているよ。実直な彼にお似合いだと思うし」
「それは私も同感ですけど……。ところで、カテリーナ様のお義姉様は大丈夫でしたの?」
これ以上何を言っても無駄だと諦めたエセリアが話題を変えると、ナジェークは笑みを深めながら説明した。
「暫くは歩けずに、彼女を引っ張り回す事は出来なかったらしい。カテリーナは残りの休暇を悠々と過ごし、専科下級学年後期に突入した。それからの半年もそれなりに色々あったが、実に代わり映えしない日々だったな……」
「あら、どうしてそんな風に断言できますの?」
「半年後、お前がクレランス学園に入学したからだよ。それからは予想外の事ばかり起こって、本当に大変だった」
そこで如何にもしみじみとした口調で語られた内容に、エセリアは思わず反論した。
「お兄様……。何やら私が、あらゆる騒動の元凶だったような言い方をしないでいただけますか?」
「残念だよ、エセリア。自覚位はしてくれていると思っていたのに……」
「確かに騒動の幾つかは、引き起こした自覚はありますが! 全部が全部、私のせいではありませんわよね!?」
わざとらしく溜め息を吐いた兄にエセリアが盛大に抗議の声を上げたところで、ノックの音に続いてワゴンを押しながらルーナが現れた。
「失礼致します。食後のお茶とデザートをお持ちしました」
「やあ、さすがだねルーナ。ちょうど良いタイミングだ」
「ありがとうございます」
  そこでエセリアは怒りを抑え込み、ルーナが食べ終えた皿を下げてデザートの皿と茶器を揃えるのを、無言のまま見守った。そして彼女が一礼してワゴンと共に部屋を出て行ってから、ナジェークがカップに手を伸ばしつつ口を開く。
「さて、これからはエセリアが知っている内容もあるし、さくさく話を進めていこうか」
「ええ、遠慮せず、どんどん進めてください」
  聞く気満々の妹に苦笑しながら、ナジェークは話の続きを語り始めた。
「必死に後を追ってきた護衛役や侍女達が、土手の下に横倒しになった馬車から、彼女を引っ張り出したそうだ。だがさすがに無傷と言うわけにはいかず、派手に泣き喚いているらしい。こちらに連絡が入るのも、時間の問題だな」
「あっ、あなたね……」
怒りのあまり顔を赤くし、言葉に詰まらせたカテリーナに向かって、ナジェークは爽やかな笑顔で手を振り、玄関ホールに向かって歩き出した。
「下手に騒動に巻き込まれないうちに、さっさと引き上げる事にするよ。それじゃあまた、学園で会うのを楽しみにしている」
「騒動を引き起こした、諸悪の根元が何を言っているのよ!!」
彼に続いてカテリーナも廊下に出て歩き出したが、玄関ホールに到達した所で、一人の騎士が慌てた様子で駆け込んで来た。
「大変です、ジュール様!! こちらに向かわれていたエリーゼ様の馬車が、領内に入ってすぐの所で横転しました!!」
それを聞いたデリシュとカテリーナは無言で顔を強張らせ、ナジェークは一人そ知らぬ顔で聞き流す。しかし事情を知らないジュールは、瞬時に顔色を変えて騎士に詰め寄った。
「何だと!? それはどういう事だ!」
「馬車が暴走して横転し、それに乗っておられたエリーゼ様が足を骨折されました。近くの町にいた医者に処置をして貰いましたが、エリーゼ様が酷く痛がっておられます。取り敢えずすぐに、この屋敷でのエリーゼ様の受け入れをお願いしたく」
「分かった。すぐにこの街の医師を呼んで、改めて診察して貰おう。部屋も整えておくから、急いで義姉上をお連れしてくれ。すぐに新しい馬車の手配もする」
「分かりました!」
途端に使用人達が慌ただしく走り回り始め、そのどさくさに紛れてデリシュとナジェークは屋敷を離れた。
(ああ……、お義姉様の金切り声の幻聴が聞こえる……。ジュール兄様には悪いけど、お義姉様の相手はジュール兄様とリサ義姉様にお任せして、私もさっさと王都に帰らせて貰おう)
確実にヒステリーを起こすであろう義姉の相手を、次兄夫婦に押し付ける形になる事にかなりの後ろめたさを覚えながら、カテリーナは黙々と王都に戻る為の荷造りを始めた。
※※※
「こんな感じで専科下級学年の時の長期休暇は、彼女と親交を深める事ができた、なかなか有意義な時間だったよ」
夕食を食べ進めながら、ナジェークが当時のカテリーナとのあれこれを語って聞かせると、エセリアが僅かに顔を引き攣らせながら呻くように呟いた。
「お兄様達が専科下級学年の時は、私がクレランス学園に入学する前年……。確かにその頃サビーネから、交際を反対されているカップルに関する相談を受けて、色々助言した覚えが……。あれがお兄様とカテリーナ様の事でしたの?」
「そういう事」
「やられた……。すっかりサビーネに騙されましたわ……」
がっくりと肩を落としたエセリアだったが、それを見たナジェークがすかさずサビーネをフォローした。
「言っておくが、サビーネ嬢は悪意でエセリアを騙そうとしたり、嘘をついたわけでは無いから。私が『カテリーナとの事を知っている人間は、最小限に抑えたいから』と頼んだ故の事だし」
「はいはい。『敵を欺くには、まず味方から』というわけですのね? お兄様が易々とサビーネを丸め込んだ光景が、目に見えるようですわ。別に彼女に対して腹を立ててはおりませんから、ご心配無く」
「丸め込むだなんて酷いな。でも彼女のように口が固くて信用できる女性がイズファインの婚約者で、私は本当に良かったと思っているよ。実直な彼にお似合いだと思うし」
「それは私も同感ですけど……。ところで、カテリーナ様のお義姉様は大丈夫でしたの?」
これ以上何を言っても無駄だと諦めたエセリアが話題を変えると、ナジェークは笑みを深めながら説明した。
「暫くは歩けずに、彼女を引っ張り回す事は出来なかったらしい。カテリーナは残りの休暇を悠々と過ごし、専科下級学年後期に突入した。それからの半年もそれなりに色々あったが、実に代わり映えしない日々だったな……」
「あら、どうしてそんな風に断言できますの?」
「半年後、お前がクレランス学園に入学したからだよ。それからは予想外の事ばかり起こって、本当に大変だった」
そこで如何にもしみじみとした口調で語られた内容に、エセリアは思わず反論した。
「お兄様……。何やら私が、あらゆる騒動の元凶だったような言い方をしないでいただけますか?」
「残念だよ、エセリア。自覚位はしてくれていると思っていたのに……」
「確かに騒動の幾つかは、引き起こした自覚はありますが! 全部が全部、私のせいではありませんわよね!?」
わざとらしく溜め息を吐いた兄にエセリアが盛大に抗議の声を上げたところで、ノックの音に続いてワゴンを押しながらルーナが現れた。
「失礼致します。食後のお茶とデザートをお持ちしました」
「やあ、さすがだねルーナ。ちょうど良いタイミングだ」
「ありがとうございます」
  そこでエセリアは怒りを抑え込み、ルーナが食べ終えた皿を下げてデザートの皿と茶器を揃えるのを、無言のまま見守った。そして彼女が一礼してワゴンと共に部屋を出て行ってから、ナジェークがカップに手を伸ばしつつ口を開く。
「さて、これからはエセリアが知っている内容もあるし、さくさく話を進めていこうか」
「ええ、遠慮せず、どんどん進めてください」
  聞く気満々の妹に苦笑しながら、ナジェークは話の続きを語り始めた。
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