その華の名は
(2)緩やかな攻勢
  新年度が始まって少し経過した頃、週末の休暇に合わせてカテリーナは実家に戻った。その翌日はティアド伯爵家から招待を受けており、家族全員が顔を揃えた朝食の席でイーリスがカテリーナに声をかけた。
「カテリーナ。今日はティアド伯爵邸に出向く事になっていたわね。ご夫人に宜しくね」
「はい、お母様」
  そこまではいたって普通のやり取りだったが、ここでエリーゼが会話に割り込んだ。
「カテリーナ。今回は伯爵家のご子息であるイズファイン様からのご招待だそうだけど、どうしてお招きを受けたのかしら?」
「イズファインの婚約者のサビーネ様と、婚約披露の夜会で意気投合しまして。是非、交友を深めたいというお話でした」
それを聞いたエリーゼが、いやらしい笑みを深めながら問いを重ねる。
「あら、そうなの。それは宜しい事ね。ところで、そのサビーネ様は何歳だったかしら?」
「私達より二歳年下ですから、十四歳ですね」
「まあぁ! やっぱりそれ位で婚約するのが、一般的なのねぇ! 婚約しないまでもそれ位の年でお話が進むのは、当然だと思うわぁ!」
(予想通りの絡み方ね。予想が当たっても、全然感銘を受けないけれど)
  わざとらしく感心した口調で述べた兄嫁を見て、カテリーナは失笑しかけたが何とか堪えた。そしてあくまでも他人事として話を進める。
「そうですわね。サビーネ様は以前少し接しただけでも、素直な気質で明るくて誰にでも好かれるタイプなのが分かりましたから、ティアド伯爵家でも喜んでリール伯爵家との縁組みを進めたと思いますわ」
  その淡々とした物言いに焦れたように、今度はジェスランが口をはさんできた。
「カテリーナ。お前は自分より年下の娘の婚約が決まっていると聞いて、恥ずかしいとは思わないのか?」
その問いかけに、カテリーナはそ知らぬふりで尋ね返す。
「恥ずかしい? 私が何に対して、恥じなければならないと仰るのですか?」
「お前もそろそろいい加減に、自分の将来の事を本気で考えろと言っているんだ」
「まあぁ……、お兄様。少々失礼な物言いですわね。私が自分の将来を、全く考えていないとでも?」
  そう言っておかしそうに笑ったカテリーナに、エリーゼが表情を険しくしながら問いかけた。
「それならあなたは、考えているとでも言うの?」
「勿論です。お父様並みに胆力があって、威厳を兼ね備えた方と縁付きたいと思っております」
「まだそんな世迷い言を言っているわけ!?」
「どこが世迷い言でしょう? お父様は立派で、尊敬できる方だと思っていますが?」
「確かにそうだが! 父上並みの人間など、そうそういるわけが無いだろうが!」
兄夫婦が声を荒げてもカテリーナは恐れ入るどころか、真っ向から言い返した。  
「世の中の半数は殿方ですのよ? 探せば一人や二人はいるのでは? 偶々お兄様達のお知り合いの方々の中に、そのような方が居られないだけでしょう。お兄様。類は友を呼ぶとも申しますし、ご自分の交遊関係が貧弱だと公言するのは、自分自身をも貶める事になりかねませんから、もう少し考えてからお話しになられた方が良いと思いますわ」
「何だと!?」
「カテリーナ! 人を馬鹿にするにも程があるわよ!?」
「三人とも止めんか!!」
「………………」
ここでそれまで黙っていたジェフリーの雷が落ち、三人は即座に口を噤んだ。そんな彼らを順々に睨み付けてから、ジェフリーが腹立たし気に、しかし口調を抑えながら家長として厳命する。
「食事が不味くなる。くだらん言い争いをするなら、即刻全員食堂から出て行け」
「失礼しました」
「申し訳ありません」
「以後、気をつけます」
(確かに、同年代の知り合いの半数以上は婚約が決まっているし、これから一層お義姉様達の攻勢が強まるでしょうね。色々と心してかからないと)
夫が激昂した様子を見たイーリスが困り顔になっており、カテリーナもこれ以上無駄に揉めるつもりは無かった為、それからは無言で朝食を食べ進めた。しかし食堂内の空気が悪化した上、今後自分の立場が悪くなっていくであろう事を見越したカテリーナは、楽観的な気分にはなれなかった。
「カテリーナ。今日はティアド伯爵邸に出向く事になっていたわね。ご夫人に宜しくね」
「はい、お母様」
  そこまではいたって普通のやり取りだったが、ここでエリーゼが会話に割り込んだ。
「カテリーナ。今回は伯爵家のご子息であるイズファイン様からのご招待だそうだけど、どうしてお招きを受けたのかしら?」
「イズファインの婚約者のサビーネ様と、婚約披露の夜会で意気投合しまして。是非、交友を深めたいというお話でした」
それを聞いたエリーゼが、いやらしい笑みを深めながら問いを重ねる。
「あら、そうなの。それは宜しい事ね。ところで、そのサビーネ様は何歳だったかしら?」
「私達より二歳年下ですから、十四歳ですね」
「まあぁ! やっぱりそれ位で婚約するのが、一般的なのねぇ! 婚約しないまでもそれ位の年でお話が進むのは、当然だと思うわぁ!」
(予想通りの絡み方ね。予想が当たっても、全然感銘を受けないけれど)
  わざとらしく感心した口調で述べた兄嫁を見て、カテリーナは失笑しかけたが何とか堪えた。そしてあくまでも他人事として話を進める。
「そうですわね。サビーネ様は以前少し接しただけでも、素直な気質で明るくて誰にでも好かれるタイプなのが分かりましたから、ティアド伯爵家でも喜んでリール伯爵家との縁組みを進めたと思いますわ」
  その淡々とした物言いに焦れたように、今度はジェスランが口をはさんできた。
「カテリーナ。お前は自分より年下の娘の婚約が決まっていると聞いて、恥ずかしいとは思わないのか?」
その問いかけに、カテリーナはそ知らぬふりで尋ね返す。
「恥ずかしい? 私が何に対して、恥じなければならないと仰るのですか?」
「お前もそろそろいい加減に、自分の将来の事を本気で考えろと言っているんだ」
「まあぁ……、お兄様。少々失礼な物言いですわね。私が自分の将来を、全く考えていないとでも?」
  そう言っておかしそうに笑ったカテリーナに、エリーゼが表情を険しくしながら問いかけた。
「それならあなたは、考えているとでも言うの?」
「勿論です。お父様並みに胆力があって、威厳を兼ね備えた方と縁付きたいと思っております」
「まだそんな世迷い言を言っているわけ!?」
「どこが世迷い言でしょう? お父様は立派で、尊敬できる方だと思っていますが?」
「確かにそうだが! 父上並みの人間など、そうそういるわけが無いだろうが!」
兄夫婦が声を荒げてもカテリーナは恐れ入るどころか、真っ向から言い返した。  
「世の中の半数は殿方ですのよ? 探せば一人や二人はいるのでは? 偶々お兄様達のお知り合いの方々の中に、そのような方が居られないだけでしょう。お兄様。類は友を呼ぶとも申しますし、ご自分の交遊関係が貧弱だと公言するのは、自分自身をも貶める事になりかねませんから、もう少し考えてからお話しになられた方が良いと思いますわ」
「何だと!?」
「カテリーナ! 人を馬鹿にするにも程があるわよ!?」
「三人とも止めんか!!」
「………………」
ここでそれまで黙っていたジェフリーの雷が落ち、三人は即座に口を噤んだ。そんな彼らを順々に睨み付けてから、ジェフリーが腹立たし気に、しかし口調を抑えながら家長として厳命する。
「食事が不味くなる。くだらん言い争いをするなら、即刻全員食堂から出て行け」
「失礼しました」
「申し訳ありません」
「以後、気をつけます」
(確かに、同年代の知り合いの半数以上は婚約が決まっているし、これから一層お義姉様達の攻勢が強まるでしょうね。色々と心してかからないと)
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