その華の名は
(6)予想外の展開
剣術を選択する生徒は圧倒的に男子生徒が多いと予想してはいたものの、授業が始まってからの興味本位な視線に、カテリーナは半ば本気で腹を立てていた。
(全く……。女が剣を持つのが、そんなに珍しいわけ? 近衛騎士を目指す人が大半でしょうけれど、不躾な人が多いわね)
そんな内心を面に出さないまま、彼女は指導教授の指示通り訓練していたが、次に出された指示に困惑する事になった。
「そこまで! それでは次に、模擬剣での打ち合いに移る。持っている剣をこちらと交換しながら、二人一組になるように!」
(二人一組って……。確かに剣術を選択している人数は、偶数人数だけど……)
生徒達が教授の所に向かってぞろぞろと歩き始める中、周囲の女生徒達が困惑している空気を感じ取ったカテリーナは、すぐに決断する。
(他の女生徒達だと、男子生徒に相手にして貰えないかもしれないわね。無理矢理にでも、私が誰か相手を捕まえれば良いだけの話だわ)
そして他の四人に向き直り、そのことを告げた。
「皆は、二人ずつ組んで頂戴。私は誰かに相手を頼むわ」
「でもカテリーナさん」
「どのみち一人は余るのだから、誰かは男子生徒と組む必要があるもの。私は家同士の付き合いや面識がある方に頼むから、気にしないで」
「……そうさせて貰います」
「すみません」
戸惑っていた四人はカテリーナに重ねて言われて、申し訳無さそうに頷いて組み合わせを決め始めた。それを確認したカテリーナは、生徒達が集まっている場所に目を向けて、考えを巡らせる。
(さて、そうと決まれば、イズファインに相手を頼もうかしら? それともディード様とか、リゲル様あたりにお願いするとか……)
するとここで、至近距離から声がかけられた。
「やあ、カテリーナ。女子は一人余るだろう? どうやら君が余っているみたいだから、私が相手を務めようか?」
胡散臭い笑顔でナジェークからそんな申し出をされたカテリーナは、思わず半眼になって彼を見返した。
(面倒くさい事になりそうだから、本音を言えば結構ですと言いたいところだけど……)
しかし誰か男子生徒と組まなければいけないのは確かである為、一応理由を尋ねてみる。
「……どうしてあなたが、わざわざ声をかけてくださいますの?」
「君が相手だと、イズファインがかなり手加減しないといけないし、ディードとかリゲルとかは特に剣術に秀でているわけでは無くて、他にやりたい事が無くてここを消極的に選択した、典型的な無気力な生徒だから。それなりに腕が立つ君の相手を、わざわざ引き受けたりはしないんじゃないかな?」
(全く反論できないわね。だから余計に、腹が立つのだけど)
したり顔で的確に指摘されてしまったカテリーナは、舌打ちしたい気持ちを堪えつつ問いを重ねた。
「余計に分からなくなったのだけど。それならどうしてあなたは、こんな面倒くさい私の相手をしてくださるのかしら?」
「単に、女性に恥をかかせたく無いだけかな?」
「そう……。それならご好意に甘えさせて貰いましょう。宜しくお願いします」
「こちらこそ」
そこで話は纏まり、二人は刃が潰してある模擬剣に交換する為に、教授の所に向かって再び歩き出した。
(それなりに腕に自信があるのか、単に自信過剰なだけなのか……。どちらにしても、手合わせをしてみればはっきりするわね。恥をかく事になっても、文句は言わせないわよ?)
カテリーナがそんな物騒な事を考えていると、イズファインが歩み寄ってナジェークの腕を捕らえる。
「おい、ナジェーク。本気でカテリーナと組む気か?」
どうやら少し離れた所から一連の様子を目撃したらしい友人に、ナジェークは笑って頷いた。
「ああ、譲らないよ?」
すると、そのまま離れていくカテリーナの背中横目で見ながら、イズファインが低い声で警告を発する。
「それは構わないが、それなら本気でかかれよ? 彼女は幼少期から、ガロア侯爵が鍛えているからな」
「直々に? それは凄い。今後の事もあるから、あまり不様には負けられないな」
「勝つ気か?」
「彼女に恥はかかせたく無いから、ほどほどに」
飄々と告げるナジェークに、イズファインは何とも言い難い顔で応じる。
「両者と手合わせの経験がある俺が言わせて貰えば、下手すると負けるのはお前の方だ」
その率直な意見を聞いたナジェークは、軽く目を見張ってから如何にも楽しげに笑った。
「……へえぇ? そうなのか。それは益々、楽しくなりそうだ」
「その腹黒な笑顔は止めてくれ。本気で胃が痛くなってきた」
不敵な笑みを浮かべる友人を見て、イズファインは本気で胃の辺りを押さえながら呻いた。
その後、全員が模擬剣に交換して二人一組になったのを確認した教授は、全体を四分割して打ち合いを開始させた。そしてその三番目に入っていたカテリーナ達の、手合わせをする順番となった。
(全く……。女が剣を持つのが、そんなに珍しいわけ? 近衛騎士を目指す人が大半でしょうけれど、不躾な人が多いわね)
そんな内心を面に出さないまま、彼女は指導教授の指示通り訓練していたが、次に出された指示に困惑する事になった。
「そこまで! それでは次に、模擬剣での打ち合いに移る。持っている剣をこちらと交換しながら、二人一組になるように!」
(二人一組って……。確かに剣術を選択している人数は、偶数人数だけど……)
生徒達が教授の所に向かってぞろぞろと歩き始める中、周囲の女生徒達が困惑している空気を感じ取ったカテリーナは、すぐに決断する。
(他の女生徒達だと、男子生徒に相手にして貰えないかもしれないわね。無理矢理にでも、私が誰か相手を捕まえれば良いだけの話だわ)
そして他の四人に向き直り、そのことを告げた。
「皆は、二人ずつ組んで頂戴。私は誰かに相手を頼むわ」
「でもカテリーナさん」
「どのみち一人は余るのだから、誰かは男子生徒と組む必要があるもの。私は家同士の付き合いや面識がある方に頼むから、気にしないで」
「……そうさせて貰います」
「すみません」
戸惑っていた四人はカテリーナに重ねて言われて、申し訳無さそうに頷いて組み合わせを決め始めた。それを確認したカテリーナは、生徒達が集まっている場所に目を向けて、考えを巡らせる。
(さて、そうと決まれば、イズファインに相手を頼もうかしら? それともディード様とか、リゲル様あたりにお願いするとか……)
するとここで、至近距離から声がかけられた。
「やあ、カテリーナ。女子は一人余るだろう? どうやら君が余っているみたいだから、私が相手を務めようか?」
胡散臭い笑顔でナジェークからそんな申し出をされたカテリーナは、思わず半眼になって彼を見返した。
(面倒くさい事になりそうだから、本音を言えば結構ですと言いたいところだけど……)
しかし誰か男子生徒と組まなければいけないのは確かである為、一応理由を尋ねてみる。
「……どうしてあなたが、わざわざ声をかけてくださいますの?」
「君が相手だと、イズファインがかなり手加減しないといけないし、ディードとかリゲルとかは特に剣術に秀でているわけでは無くて、他にやりたい事が無くてここを消極的に選択した、典型的な無気力な生徒だから。それなりに腕が立つ君の相手を、わざわざ引き受けたりはしないんじゃないかな?」
(全く反論できないわね。だから余計に、腹が立つのだけど)
したり顔で的確に指摘されてしまったカテリーナは、舌打ちしたい気持ちを堪えつつ問いを重ねた。
「余計に分からなくなったのだけど。それならどうしてあなたは、こんな面倒くさい私の相手をしてくださるのかしら?」
「単に、女性に恥をかかせたく無いだけかな?」
「そう……。それならご好意に甘えさせて貰いましょう。宜しくお願いします」
「こちらこそ」
そこで話は纏まり、二人は刃が潰してある模擬剣に交換する為に、教授の所に向かって再び歩き出した。
(それなりに腕に自信があるのか、単に自信過剰なだけなのか……。どちらにしても、手合わせをしてみればはっきりするわね。恥をかく事になっても、文句は言わせないわよ?)
カテリーナがそんな物騒な事を考えていると、イズファインが歩み寄ってナジェークの腕を捕らえる。
「おい、ナジェーク。本気でカテリーナと組む気か?」
どうやら少し離れた所から一連の様子を目撃したらしい友人に、ナジェークは笑って頷いた。
「ああ、譲らないよ?」
すると、そのまま離れていくカテリーナの背中横目で見ながら、イズファインが低い声で警告を発する。
「それは構わないが、それなら本気でかかれよ? 彼女は幼少期から、ガロア侯爵が鍛えているからな」
「直々に? それは凄い。今後の事もあるから、あまり不様には負けられないな」
「勝つ気か?」
「彼女に恥はかかせたく無いから、ほどほどに」
飄々と告げるナジェークに、イズファインは何とも言い難い顔で応じる。
「両者と手合わせの経験がある俺が言わせて貰えば、下手すると負けるのはお前の方だ」
その率直な意見を聞いたナジェークは、軽く目を見張ってから如何にも楽しげに笑った。
「……へえぇ? そうなのか。それは益々、楽しくなりそうだ」
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