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酸いも甘いも噛み分けて

篠原皐月

(45)後の祭り

 とある日曜日。沙織は微妙に年齢層が異なる集団の中で、真由美と一緒に同じ机を囲む事となった。


(佐々木君に「お嬢様系にはふわもこ系でも良いですが、普段滅多にやらないような体験も、目新しくてウケますよ? オルゴールの組み立て体験なんかどうですか?」と言われて申し込んでみたものの、私達以外は全員、小学生の親子連れ……。今回はさすがに、外した気がするわ)
 最初の説明を受けている段階で沙織は早くも後悔し始めていたが、そんな内心を読んだように、真由美が顔を寄せて囁いてきた。


「子供連れが多いけど、こっちも一応母娘おやこみたいなものだし、構わないわよね?」
「はぁ、そうですね……」
(他とは違って私達の場合、フォローするのが娘なんだけど。このポジティブな所が、真由美さんの良い所の一つよね)
 沙織は多少気になったものの、本人が全く気にしていない為、これ以上余計な事を考えるのは止めた。
 その後、担当者から一通り説明を受けてから、必要な部品と工具を取り上げて作業を始めた真由美に、沙織は声をかけてみた。


「あの……、真由美さん? お誘いしておいて、今更こういう事を言うのはどうかと思いますが、こういう組み立て作業はお好きですか?」
「いいえ、全然。父には『機械を作ってなんぼの家の一人娘なのに、それに全く興味を持たんとは嘆かわしい』と、散々文句を言われて嘆かれていたわ」
 子供の頃を思い出したのか、くすくすと笑いながらそんな事を言われてしまった沙織は、恐縮して頭を下げた。


「すみません。それなら今日は、ちょっと選択ミスだったみたいですね」
「ううん、そんな事は無いわよ? 沙織さんと一緒に、何かを作るって楽しいし。それにこのオルゴールキットは、誰でも簡単に組み立てられるんでしょう?」
「一応、そうですね。分からない所は私がフォローしますので。それで……、ここに填める歯車はこっちです」
「あら、そうなの?形が同じだから間違っちゃったわ」
 すかさず指摘して取り替えさせた沙織だったが、真由美は悪びれずに笑って作業を続けた。


(明らかに大きさが違っていて、隣と噛み合わないんだけど……。うん、だから私がフォローする必要があるんだから。簡単だからと言って、油断せずに頑張ろう)
 変な意味で緊張しつつ、なるべく手を出さないように真由美の作業を見守っていた沙織だが、周りを見てふと気になった事を尋ねてみる。


「課長は子供の頃、こういう事はやらなかったんですか?」
「ううん、好きだったけど、この類のものには、主人が連れて行っていたの」
「そうでしたか。ええと……、そこの穴に心棒を通してください」
「あ、ここね。……そういえば最近、変な人が家を訪ねて来たのよ」
 そこでいきなり持ち出された話題に、沙織は瞬時に心の中で警戒度を上げた。


「変な人? どんな人が訪ねて来たんですか?」
「それがね? 笑っちゃう事に、友之の恋人だって言うのよ。あの子よりかなり年上に見えるんだけど」
「……そうですか」
(課長と連絡が取れなくなって、更に騙された事に気付いて、押しかけたってところでしょうね) 
 沙織がそんな推測を立てていると、真由美が笑いを堪える表情のまま話を続ける。


「友之に聞いたけど、少し前に会社にも押し掛けて、偶々居合わせた沙織さんが追い返してくれたんですって?」
「ああ……、あの、色々勘違いされていた女性ですか。課長がその方に関して、何か仰っていましたか?」
「思い込みが激しくて、勘違いしているのでしょう? 門の前で騒いでいるから、警備会社に通報して逮捕して貰ったの。そうしたら友之の大学時代の恩師の、未亡人に当たる方だったらしくて驚いたわ」
 惚けて応じた沙織だったが、逮捕云々の話をきいてさすがに驚いた。


「私人扱いの警備員が逮捕ですか? 何かの現行犯でないと、駄目ですよね?」
「ええ。私の物言いがよほど気に入らなかったのか、その方が何かで力任せに叩いて、インターフォンのパネルを壊してしまったの。駆けつけた警備員さん達が、それをしっかり撮影していたから」
「そうですか……」
(何だか予め、その人が器物破損か脅迫行為をするのを狙って、積極的に声がけせずに様子を窺っていたようにも思える。徹底しているし、柏木さんの指示っぽいわ。あれ以降課長は何も言って無いけど、やっぱり家にも押しかけていたわけだし、事態はいよいよ大詰みたいね)
 若干遠い目をしながら沙織が頷いていると、真由美が探るように言ってきた。


「それで思ったんだけど、友之が沙織さんと別れたとか言い出したのは、もしかしたらその人が原因なのかしら?」
「さぁ……、どうでしょう? 課長の考えは、正直良く分かりません」
「沙織さん、絶対に何か知っているわよね?」
「課長が変なストーカー女にまとわりつかれている事は、存じ上げていますが。……それからそのネジで、ここを固定してください」
 ぐらぐらしたまま他の部品を取り付けようとしていた真由美に、沙織がそれを指摘しつつ少々強引に話題を逸らすと、真由美が明るく笑いながら告げた。


「やっぱり私、沙織さんが好きだわ。家電とか調子が悪くても、すぐに直して貰えそうだし」
「生憎とメンテナンスや修理担当では無いので、家電修理に関しては何とも言えません。真由美さんのお宅には課長が居ますから、調子が悪くなっても大丈夫ではないですか?」
 幾分申し訳無さそうに沙織が述べると、真由美が如何にも不満げに言い返す。


「だって友之も主人も調子が悪くなった物があると、ここぞとばかりに『最新機種に買い換えよう』って言うんだもの」
 それを聞いた沙織は一瞬考え込んでから、神妙に意見を述べた。


「……それに関してはどちらかというと、課長達より真由美さんの意見に近いかもしれません」
「やっぱり私達、気が合うわね! そうじゃないかとは思ってたの!」
(うん、もう余計な事は、何も言わないでおこう)
 鼻歌を歌い出しかねない位に上機嫌で、組み立て作業に没頭していく真由美を見ながら、沙織は自分にそう言い聞かせつつ、指導に専念する事にした。


 同じ頃、友之は自宅に連絡を寄越した弁護士事務所からの要請に応じて、そこに単身出向いていた。
「松原さん、お休みの日にお呼び立てして申し訳ありません」
 相談室の一つに通されるなり、寧子の横に控えていた弁護士の三河が立ち上がり、名刺を差し出してくる。友之は鷹揚に頷きながら、彼と名刺を交換した。


「いえ、構いませんよ? 寺崎教授からも亡くなる前に、寧子さんの力になって欲しいと頼まれましたし。ところで、今日はどういったご用件ですか? 先日無事に、相続手続きは済んだ筈ですが」
 しかし友之が軽く首を傾げながら、彼らとテーブルを挟んで反対側の椅子に座ると同時に、寧子が怒りの声を上げる。


「白々しい! よくも私を嵌めてくれたわね!?」
「いきなり藪から棒に、何の事でしょうか?」
「とぼけないで! あの人の財産なんて、あの家と敷地しか無かったじゃない! しかもそれにリバースモーゲージ設定がされているなんて、知らなかったわよ! 騙したわね!?」
 そう訴えた寧子だったが、友之は変わらず要領を得ない顔つきで言葉を返した。


「申し訳ありませんが、何の事を仰っておられるのか全く分かりません。ちゃんと司法書士が財産目録を作成して、詳細に関しての説明をして、寧子さんはそれに署名捺印されましたよね? 難しい事が分からないから立ち会って欲しいと頼まれて、私もその場に同席して確認しています。それのどこに問題があると?」
「どうしてあの駐車場やマンションや借地が、妹達の物になっているのよ!?」
「ですからそれらは教授が亡くなる何年も前、教授のお父上が亡くなった時に、ご兄妹で相続したと教授から伺っています。今回の相続には関係ありませんし、私にも全く関係ありませんが」
「違うわよ! 説明された時は、それらも全部主人の名義だったわ!」
「はぁ? どうしてそんな勘違いをする余地があるんです? おかしいでしょう」
「友之、あなたね!?」
 腰を浮かして叫んだ寧子だったが、そこで友之が冷え切った声で制止した。


「寧子さん、以前からお願いしていますが、私は恩師から未亡人であるあなたの力になって欲しいと頼まれているだけです。ですから周囲から誤解を受けるような呼び捨て行為は、控えていただけませんか? はっきり言わせていただければ、甚だ迷惑です。少し前にも私の職場で、私の恋人などと甚だしい事実誤認を引き起こしかねない内容の事を喚いて騒ぎになっていますし、最近も私の家の門前で、器物破損の現行犯で逮捕されていますよね?」
「それはそっちが悪いんでしょう!?」
「やれやれ、反省の色もないとは、救いようがありませんね」
「何ですって!?」
 そんな押し問答を、三河が溜め息を吐きながら制止した。


「寺崎さん、落ち着いてください。話が進みません」
「でも! こいつが言っているのは嘘っぱちよ!」
「それは分かりましたから、取り敢えず少し黙っていてください」
 三河は早くもうんざりしつつ寧子を何とか宥めてから、険しい表情で友之に向き直った。


「松原さん、今日お越しいただいたのは、寺崎さんからあなたに渡った現金を、即刻返却して貰いたいからです」
 しかし友之は、落ち着き払って言葉を返す。
「現金? 私は寺崎さんから、何もいただいてはおりません。寧ろ『色々相談したい事がある』と言われて呼び出されて、何回か埒もない世間話を聞かされた挙げ句、食事を奢っておりましたが」
「あなたは『妹さん達が財産分与を主張するから、現金を渡して黙らせるように』と寧子さんを唆して現金を用意させ、それを妹さん達に渡すか、自分の手中に収めましたよね?」
 疑わしそうに三河が口にした途端、友之は大仰に驚いてみせた。


「とんでもない! 何なんですか、その荒唐無稽なお話は? 第一、妹さん達は何年も前に、亡父の財産の殆どを相続して生活に余裕があるから、家と土地を切り売りしたら寧子さんが住む所に困るだろうと、善意で財産放棄手続きをしてくれたんですよ? どうして現金を渡す必要があるんですか? 意味が分かりません」
「ですからそれは司法書士とあなたがぐるになって、既に妹さんの手に渡っている不動産が、未だにお亡くなりになった寺崎氏の名義であると、寺崎さんに誤解させたからでは無いのですか?」
 そこではっきりと友之は顔をしかめ、不愉快そうに言い返した。


「心外ですね。私は司法書士の金本さんとは、寧子さんに要請されて葬儀後に引き合わされた時に、初めて顔を合わせたんですよ? そもそも教授が生前金本さんに、自分が亡くなった後の手続きをお任せしていたと、その時にお伺いしましたが?」
「ええ……、私もそう伺っております」
 チラッと寧子の方を見ながら三河が頷いた為、友之は険しい表情のまま問いかけた。


「その方の手続きに、何か不備があるとでも仰るのですか?」
「いえ、厳正に手続きを行っております。ただその経過に、疑わしい点があると」
「それなら警察に届ければ宜しいでしょう。公文書偽造なら、司法書士資格剥奪相当の罪状ではありませんか? 告発するのが筋だと思いますが」
 三河の発言を遮りながら友之が正当な主張を繰り出したが、形勢不利を悟った三河はそれ以上その事には触れずに、話題を変えた。


「それから何故か、毎月の賃貸収入のように見せかけて、不動産屋の名義で寺崎氏の通帳に、結構な金額の振り込みがあったのですが」
「それはおかしいですね。先程も言いましたが、教授は賃貸物件など保有してはいなかった筈ですが?」
「ええ、その通りです。それで調べてみたら、寺崎氏がリバースモーゲージを利用して借り入れていた資金を入れていた口座から、自動振り込みされていました」
 相手の反応を探るようにそう告げた三河だったが、それを聞いた友之は、不思議そうに問い返しただけだった。


「わざわざ不動産屋の名前を使って、と言うことですか? 誰が、どうしてそんな事を?」
「寺崎氏自ら、生前病院から外出許可を貰って、手続きをしていたのが判明しています。……松原さんはご存知でしたよね?」
「どうして私が? 知るわけが無いですよ。その場に付き添ってもいませんし」
「ええ、寺崎氏がお一人で手続きされたのは、対応した行員の証言と防犯カメラの画像データから判明しています。しかしそれで寺崎さんは、今後も定期的な収入があると勘違いして、結構な額の金額を借用してしまったんです」
「それは大変お気の毒ですが、何度も申し上げている通り、私には微塵も関係がありません」
 一応気の毒そうな表情を取り繕いながらも、切って捨てた友之に、寧子は再びいきり立った。


「大ありでしょ!? あの八百万をどうしたのよ! さっさと返しなさいよ!」
「ですから、何の事を仰っておられるのかと、先程からお伺いしています。私はそんな大金を受け取ってなどいません。私名義の口座を、調べて貰っても構いませんよ?」
「現金を目の前に見せ付けた方が、気持ちも動くからって言ったのは友之でしょうが!?」
「ですから呼び捨ては止めてください。それでは私が受け取ったと言う証人や、客観的な証拠は存在しているのですか?」
「無いわよ! だって四十九日の時に、家で妹達に渡したんだもの! あの女達も金本の奴も、揃ってしらばっくれて馬鹿にして!!」
「寺崎さん、落ち着いてください!」
 喚き散らした寧子を三河が叱りつけたが、ここで友之が思い出したように言い出した。


「ああ、妹さん達と言えば、昨夜連絡がありましたね。『だらしない義姉の事で、不快な思いをさせるかもしれないので、先にお詫びしておきます』と謝っておられました」
「何ですって!?」
「どういう事ですか?」
 益々声を荒げる寧子と怪訝な顔になった三河に、友之が冷静に事情を説明する。


「それが……、聞くところによると、最近寧子さんがホストクラブに入り浸って、散財しているとか。挙げ句、若いホストに入れあげて大金を貢いで、売上金で負けたその店のNo.1ホストの恨みを買ったそうです」
 それを耳にした途端、三河が険しい表情になって寧子を問い詰めた。


「寺崎さん。そんな話は聞いていませんが?」
「一々言う事じゃないし、入り浸ってなんかいないわよ! 行ったのは二回だけだから、そんなに使ってないわよ!」
「どちらにしてもご主人が亡くなった間も無いのに、ホストクラブに行ってお金を使われたのは、事実なんですね? その事だけでも裁判の時に、心証が悪くなりますよ?」
「……っ!」
 舌打ちをしそうな表情の三河から指摘されて、寧子は盛大に顔を歪めた。しかし友之は容赦なく、話を続ける。


「それで、その根に持ったそのNo.1ホストが寧子さんの周囲を探らせて、彼女の関係者や出入りする所に、ホストクラブで豪遊している所やホストと一緒に出歩いている写真を、説明書き付きで送りつけているとか。妹さん達は『兄が亡くなったばかりなのに、あんまりだし恥曝しだ』と憤慨しておられました。私は偶に電話して顔を合わせる位ですから、今のところそんな物は送りつけられてはいないので、気になさらないようにとお伝えしましたが」
 それを聞いた三河が、更に難しい顔になりながら確認を入れた。


「寺崎さんが出入りしている関係各所と言いますと、金融機関などもでしょうか?」
「さあ、どうでしょう? 妹さん達は、寧子さんの親戚や友人関係の何人かに送りつけられたのは把握しているようでしたが、金融機関などは存じません。ですが自分達が貸し出した資金がそのように使われて、不快に思われる方はいらっしゃるでしょうし、どうやって返済する気なのか不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか?」
「そうですね……。追加融資を受け付けて貰えなくなる以前に、早期の返済を求められるかもしれませんね」
「そんな!?」
 渋面になりながら三河が唸った為、寧子が狼狽した声を上げた。そこで友之が冷静に声をかける。


「それで? いい加減、私が今日ここに呼びつけられた、本題に入っていただけませんか?」
「だから、さっさと八百万を返しなさい! あくまでも惚ける気なら訴えるわよ!?」
 そんな苦し紛れの脅迫を、友之は鼻で笑った。


「どうぞ。訴えたいなら訴えれば良いでしょう。手にしてなどいない金を返せと難癖をつけられて、黙って払う馬鹿はいません」
「大きく出たわね! 洗いざらいバラすわよ? 週刊誌が食いつきそうなネタよね? 大企業の御曹司が火遊びの挙げ句、哀れな未亡人から金を巻き上げるだなんて」
「根も葉もない言いがかりですね。自分がホストに貢いだ金の穴埋めを、ゆすりで補填ですか。亡くなられた教授が見たら、何というか……。構いませんよ? そっちがその気なら、こちらも名誉毀損で全面的に争います。それでは話がそれだけなら、失礼します」
「松原さん、ちょっと待ってください」
 素っ気なく言い捨てて立ち上がった友之を、三河が顔色を変えて引き止めようとした。しかしそんな彼を哀れっぽく見下ろしながら、友之が心底同情する声音で告げる。


「あなたも面倒な顧客を引き受けて、苦労されますね。そちらが負けるのは確実ですし、そうなると裁判費用やこちらの弁護士費用も一切合切そちらに支払い義務が発生します。何やら既に借金もおありのようですし、金にならない裁判に携わるより、自己破産に向けた債務整理を手がけた方が宜しいのでは?」
「何ですって!?」
「…………」
 友之の提案に寧子は声を荒げたが、三河は押し黙った。そんな彼に向かって、友之は親切ごかして淡々と告げる。


「裁判となると時間がかかりますし、それだけ自動的に金利も増えますね。債務返済の優先順位は、どうなるんでしょうか。ここの事務所の相談料も、後から纏めて成功報酬の一回払いではなく、一回ごとに現金で貰っておかないと取りっぱぐれそうですから、気をつけた方が良いですよ? それでは失礼します。こちらも弁護士を選任しますので、後の連絡はそちらを通してください」
「ちょっと、待ちなさい! 先生、何とか言ってよ!」
 血相を変えて立ち上がった寧子だったが、そんな彼女を一瞥した友之が吐き捨てた。


「五月蝿い。ご希望なら、出るところに出てやると言ってるんだ。貴様のような無礼で恥知らずな女に脅された位で、誰がいわれの無い金を払うか。俺を甘く見るな」
 怒鳴りつけたりはしなかったものの、その底冷えのする声に本気を感じ取った二人は、揃って固まった。そのまま友之は事務所を出て、何食わぬ顔で歩き出す。


(俺に騙されたとは思っても、実は教授が絡んでいると知って、愕然としているだろうな。脅してくるのは予想通りだったが、やっぱり底が浅すぎる)
 少しして立ち止まった知之は背後を振り返り、事務所が入っているビルを一瞬眺めてから、再び歩き出した。


(しかし清人さんは、本当に仕事が速い。これからあの女が、こぞって借金返済を迫られるのは確実だな。俺に構っていれば構っているだけ、無駄に借金が増えるだけだ。担保無しですぐに借りられるのは、消費者金融位だし。親戚や友人関係もこれまでだろう)
 しかし企みが成功した高揚感など皆無のまま、友之が無意識に呟く。


「一度、教授に報告に行くか」
 微妙に後味の悪さを感じながらも、友之は恩師の墓参りの予定を立てながら歩き去った。





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