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酸いも甘いも噛み分けて

篠原皐月

(43)招かれざる女性(ひと)

 午後を丸々外回りに費やして契約をもぎ取り、意気揚々と帰社した沙織は、自社ビルから社員が何人も連れ立って出て来るのを見て、同行していた佐々木に声をかけた。


「結構遅くなったわね。ごめんなさい、今日は連れ回しちゃって」
「いえいえ、まだ終業時間になるかならないかってところじゃないですか。これからガンガン報告書を作成しますよ。何といっても今日は、新規契約を二件も取れたんですから!」
「私も少し驚いてるわよ。営業をかけたのは確かだけど、本当に取れるとはね」
 苦笑いで応じながら人の流れに逆らうようにビルに入ると、後に続く佐々木が感心した口調で言い出す。


「それにしても、春からの先輩の営業成績は凄いですよね。契約金額だと課内でトップじゃないですか?」
「そうかもしれないけど単発の契約も含まれているし、年間を通してトップになりたいわね」
「やっぱりプライベートが充実してると、仕事にも良い影響が出ますよね! 俺も頑張ろう!」
「え? プライベートで充実って?」
 思わず足を止めて振り返った沙織に、同じく立ち止まった佐々木が不思議そうに問い返す。


「だって先輩、課長の従兄弟に当たる美容師の方と付き合ってますよね?」
 そう言われた沙織は、曖昧に頷いた。
「ああ……、そうね。確かにその影響かもね」
「ですよね!」
「色々なもやっと感とかイラッと感とかを、悉く仕事にぶつけて昇華させてきたから、その副産物なんだけど」
 思わず低い声で呟くと、佐々木が怪訝な顔で尋ねてくる。


「先輩、今なんて言ったんですか?」
「ううん、何でもないの、独り言だから」
「そうですか。……あれ? 何だか受付で揉めているみたいですね」
「あら、本当。でもあの女性は顧客じゃなさそうだし、こんな時間に何の用かしら?」
 再び歩き出そうとした佐々木が何気なく受付の方に目を向けると、明らかに周囲を行き交うスーツ姿の男女から浮きまくっている、ワンピースの後ろ姿を認めて首を傾げた。沙織も歩き出して自然に受付カウンターに近付くと、その姿を認めたらしい受付担当の一人が切羽詰まった表情で、軽く手を上げて呼びかけてくる。


「関本さん! すみません!」
(あの人は、確か去年入社した受付担当の《愛でる会》会員で……)
 そこまで考えた沙織は、安堵させるように彼女に向かって頷きながら、真っ直ぐ受付に向かった。


「佐々木君、野暮用ができたわ。先に戻っていてくれる?」
「野暮用って……、受付とかですよね。すぐに済みそうですし、付き合います。と言うか、今日の首尾は先輩が報告しないと」
「それならごめん、少し付き合って」
(ひょっとしてあの女性、柏木さんから聞いた課長の昔の火遊び相手で、絶賛陥れ中の未亡人とか?)
 近付きながら観察すると、問題の女性は沙織に声をかけた方ではない、年嵩の受付担当者に向かって声を荒げていた。


「さっきから何回、同じ事を言わせるの! さっさと友之をここに呼びなさいよ!」
「お約束は無いとの事ですし、失礼ですが商談でお見えになったとも思えませんので、お断りいたします。個人的にお会いになりたいのなら、そちらで松原課長に連絡を付けてください」
 受付担当の女性に完全に不審者扱いされていた寧子は憤慨していたが、そんな彼女を冷静に観察しながら、沙織は考えを巡らせた。


(大当たり。さて、課長が彼女を職場に呼び寄せるわけは無いわよね。察するに、勝手に押しかけて自分の存在を社内で噂にして結婚を迫るとか、駄目でもゆすりのネタにするとか色々考えられるけど、どっちにしてもろくでもない理由だし、変に噂が広がるのは勘弁したいわね)
 そう結論付けた沙織は、素早く方針を纏めて更に二人に近付いた。


「だから、友之に電話が繋がらないから、わざわざここに来たって言ってるでしょう!?」
「それであればなおの事、松原課長は業務中でお忙しいかと存じます。時間を改めて、個人的に再度ご連絡をお取りください」
「あなたそれでも受付なの!? 怠慢よ!」
「社員に取り次ぐのは確かに業務ですが、社員に迷惑をかける人間を排除するのも業務の一つです」
「何ですって!?」
 沙織に声をかけた後輩がおろおろしている横で、きっぱりと寧子の要求をはねつけた彼女に、沙織は内心で拍手喝采を送った。


(さすが、受付担当者の鏡。警備員を連れて来て強制的にお引き取り願うにしても、そうそう素直に帰らないと思うし、また懲りずに押しかける可能性もあるもの。ここは一つ私が矢面に立って、赤っ恥をかかせる事にしますか。茶番に全面的に噛む事になるけど、仕方が無いわね)
 そこで沙織は、佐々木に自分の鞄を預けた。


「佐々木君、ちょっと邪魔になるかもしれないから、鞄を持っていてくれる?」
「構いませんけど、邪魔になるってどうしてですか?」
「殴り合いになったら、咄嗟の反撃ができないかもしれないし。じゃあよろしく」
「殴り合いって、先輩!?」
 素直に鞄を受け取ったものの、目に見えて狼狽した佐々木を放置し、沙織は寧子に歩み寄った。


(年齢は以前課長から聞いた通り、四十代半ば、もしくは後半? 確かに美人ではあるかもしれないけど、由良が下品云々と言っていた意味が分かったわ。確かに流行っているかもしれないけど、あのギラギラしたネイルは合わないでしょ。ワンピースの柄もその通り。年を取ったら取ったなりに、似合う装いって物があるでしょうに。気だけが若くて、空滑り上滑りってところかしらね)
 そんな辛辣な事を考えながらも、沙織はそれを全く面に出さず、揉めている二人に神妙に声をかけた。


「失礼します。私は営業部二課所属の関本ですが、こちらの方はうちの松原課長にご面会にいらしたのですか?」
「ええ、そう仰られているのだけど……」
「そうなのよ。全く、物の分からない受付のせいで、時間を無駄にしたわ! さっさと友之を呼んで頂戴!」
 受付担当者は渋面で、寧子は嬉々としてそれに応じると、沙織が淡々と話を続けた。


「失礼ですが、仕事関係の方とは思えませんし、ご家族の方でしょうか? 松原課長は一人息子の筈ですから姉の筈はありませんし、お母様ですか? 我が社の社長夫人がここまで若作りだったとは、今の今まで全く存じませんでした」
「……………」
 大真面目に言われた為、咄嗟に何を言われたか分からなかった面々は一瞬押し黙ったが、すぐに受付カウンターの向こうで爆笑が沸き起こった。


「はっ、母親っ! あ、あははははっ! 若作りって、わっ、笑えるっ! あははははっ!」
「せ、先輩! 笑ったりしたら駄目ですよ!」
「だっ、だってぇぇっ! あははははっ!」
 後輩がお腹を抱えて爆笑する先輩を宥めつつ、チラチラと寧子の顔色を窺ったが、それが寧子の神経を余計に逆撫でした。


「ふざけないで! 私が友之の母親のわけ無いでしょう!? 私は友之の恋人よ!!」
「え!?」
「はぁ?」
 そんな予想外の発言を耳にして、至近距離にいた受付担当の女性達や佐々木は驚いて目を丸くしたが、反応は当然その周囲だけに止まらなかった。


「ちょっと。今、あの人、なんて言った?」
「友之って、誰の事?」
「あの女、少し前から喚いていたけど、営業二課の松原課長の事らしいぞ?」
「ええ? だってあの人、松原課長よりかなり年上じゃない」
「恋人? あり得ないわよ」
「一体、どういう事なんだ?」
 寧子の怒声が広いエントランスホールに響き渡り、終業時間を過ぎて少しずつ退社してきた社員の流れが見事に停止する。そのまま興味津々で視線を向けてくる視線とざわめきが、背後で広がっていくのを感じながら、沙織は完全に腹を括った。


(よし、こうなったら穏便に事を済ませるなんて、どう考えても無理。とことん恥をかかせて、逃げ帰らせてやろうじゃない)
 そんな事を無表情で考えていた沙織と、憤怒の形相の寧子の間に好き好んで割って入るような猛者は、その場には誰一人として存在しなかった。


「失礼しました。ですが課長のお母様ではなくて、恋人と仰いましたか? 課長がこれまでにお付き合いされていた方を何人か存じ上げておりますが、課長は老け専では無いはずですが。同姓同名のどこかの松原友之氏と、お間違いではありませんか?」
 沙織が淡々とそう口にした瞬間、受付カウンターの向こうに人影が無くなると同時に先程以上の爆笑が湧き起こった。


「ふっ、老け専っ! あはははははっ!」
「せっ、先輩っ! 笑っちゃ駄目ですっ!」
 どうやら笑いのツボに入ってしまったらしい受付担当者が、カウンターの向こうでお腹を抱えてしゃがみ込んでしまったらしく、後輩が必死に彼女を宥めていた。沙織の背後で佐々木も「老け専……」と呟きながら必死に笑いを堪える中、寧子が怒りで顔を真っ赤に染めながら、ハンドバッグの中から小さなケースを取り出す。


「あっ、あなた! 失礼にも程があるわよ!? そこまで言うなら、これを見なさい!」
「何でしょう?」
「友之から貰った指輪よ! 私と彼のイニシャルが刻印してあるわ!」
「はぁ……、そうですか。拝見します」
 気にない風情で受け取ったケースを開け、中に入っていた指輪を取り出した沙織は、先にケースを寧子に返しながらしげしげと眺めた。


(これってひょっとして、社長が言っていた例の指輪? ふうん? でもこれって……)
 そして周囲がどうなる事かと固唾を飲んで見守る中、沙織は指輪と寧子を注意深く観察してから、落ち着き払って口を開いた。


「確かに内側に、《with love fromT toY》と刻印してありますよね。因みにお名前は何と仰いますか?」
「寺崎寧子よ」
「なるほど。確かにイニシャルは課長とあなたの名前と同じですけど、これはあなたの指輪じゃありませんね」
「どうしてよ! 私の物よ!」
「ですけど、どの指ともサイズが合わないじゃないですか。ほら薬指は駄目。中指も合わない」
「ちょっと! 離しなさいよ! いきなり何するの!?」
 そこでいきなり寧子の左手を取り、沙織は全ての指に一本ずつ指輪を嵌めてみた。しかし小指にはゆるく、他の指にはきつくて第二関節の先まで入らず、嵌めては外しを繰り返す。いきなり、しかも半ば無理やり指輪を嵌められて寧子は益々いきり立ったが、ここで佐々木はどこかのんびりとした口調で、誰に言うともなしに事実を述べた。


「先輩が言うなら、その指輪はどの指にも合いませんよ。先輩は絶対スケール感の持ち主ですから、目測でミリ単位まで正確に測れますし」
「それ本当?」
「凄いですね」
 受付の女性達が目を丸くする中、全ての指に合わせてみた沙織が、面白く無さそうに寧子に告げた。


「はい、左手も右手も該当する指は一本もなし。一体これは、誰の、どの指に嵌められる指輪なのかしらね? 盗品ならこれを持参して、さっさと自首した方が身の為よ」
「私を泥棒扱いするつもり!? 松原工業の社員は、揃いも揃ってろくでもないわね!」
 呆れ果てたといった風情で沙織が断言すると、益々寧子はいきり立って彼女に掴みかかろうとした。しかしここで、聞き覚えのある声が割り込む。


「関本さん、どうしたの? そちらはどなた?」
「お前、松原の部下だよな? こんな所で何を騒いでいるんだ?」
(貴島さんに木曽さん! ここで声をかけてくれるとは、ナイスタイミング。この際、盛大に参加して貰いましょう!)
 どうやら揉めているのを見て、明里が声をかけてくれたらしいと察した沙織は、すかさず二人に駆け寄り、手にしていた指輪を差し出しながら、声高に笑顔で訴えた。


「お二人とも、聞いてください! こちらの女性が、自分は松原課長の恋人だと主張したんですが、課長から貰ったと出したこの指輪が、どの指にも全くサイズが合わない代物なのを、たった今確認したところなんです。笑っちゃいますよね~!」
「はぁ? 恋人?」
「え?」
「それで、同じ松原工業課長職に就いている、貴島さんにお尋ねします。これは課長ほどの収入がある方が、恋人に贈るのに相応しい指輪でしょうか?」
 そう問いかけながら沙織が貴島に指輪を渡すと、寧子が憤慨しながらそれを取り返そうとした。それを沙織が捕まえて押し止める。


「ちょっと! いい加減にそれを返しなさいよ!」
「はいはい、ちょっとおとなしくしていてくださいね」
 そんな揉めている間に、貴島はあっさり断定した。


「無いな。有り得ない。何だこの安物にも程がある代物は」
「ですよね~」
「今の手取りから考えてこんな物を恋人に贈るなんて、相手に失礼だろうが。加えてこの程度の物しか買えないなんて、松原工業への侮辱だぞ。本当に松原がこれを贈ったというのなら、どうでも良い相手なんじゃないのか?」
 辛辣すぎる台詞に、寧子は顔を怒りで更に紅潮させながら反論した。


「それは友之が学生の時に、自分のバイト代で買った物だから仕方がないでしょう!?」
「はぁ? バイト代?」
「松原さんは大学を卒業してここに入社しているなら、十年以上経過してますよ? 本当に恋人なら、どうして結婚していないんですか?」
「それはっ……」
(うん、木曽さん、ナイスツッコミ! 貴島さんと相性良さそうですよね!)
 そこですかさず明里に冷静に指摘された寧子は、それ以上反論できずに口ごもった。その隙に、沙織がわざとらしく声を張り上げて、周囲に聞こえるように結論を述べる。


「本当に浅はかと言うか、考えが足りないと言うか……。大学時代に買った物だと言えば、サイズが違うしょぼい物でも、どうにでも誤魔化せると思ったんじゃないですか? 大方、都合良く自分達と同じイニシャルが刻印してある質流れ品でも購入して、一人で悦に入った挙げ句、妄想をこじらせて自分が本当に課長の恋人だと信じ込んで、ここまで押し掛けて来たとか」
「それならその女、ストーカーか?」
「え? 本当に?」
「どうして私がストーカーなのよっ! ふざけないで!」
 貴島を含めた周囲が目を見張り、薄気味悪い物を見る様な目を寧子に向ける中、当の寧子は怒りに震えて怒鳴りつけたが、沙織は冷静に話を続けた。


「だって、考えてみてくださいよ。課長はこれまで若い綺麗どころと、良好なお付き合いをしてきたんですよ。しかも木曽さんのような才色兼備にも目もくれず、こういう残念極まりない女性を相手にすると思いますか?」
 そう貴島にお伺いを立てると、彼は全く躊躇わずに即答した。


「ありえん。色々気に入らない所はあるが、松原は目端が利く如才がない奴だ。女性にサイズ違いの指輪を贈るようなヘマは間違ってもしないし、趣味もセンスも良い」
「そうですよね~! さすが有能だと社内でも有名な、貴島課長! 松原課長と反りが合わなくても分かっていらっしゃる! 若手のホープを捕まえて、木曽さんは幸せですよね? もう、このリア充っぷり、本当に羨ましいです!」
「おっ、お前な! 世辞を言っても何も出ないぞ!?」
「いやだ、関本さん、大声で言わないで!」
 貴島たちを茶化すように笑顔で言ってから、沙織は真顔で寧子に向き直り、その手に指輪を握らせて淡々と警告した。


「と言うわけで、これを返すのでさっさとお帰りください。これ以上意味不明な事を喚き立てるなら、警察を呼びますよ?」
「関本さん、さすがに警察は……」
「そうだな。頭の病気だろうから、救急車で精神病院に搬送したらどうだ?」
「それもちょっとどうかと思うけど」
「どこまで人を馬鹿にする気!? 覚えてらっしゃい!!」
 大真面目な貴島の提案に、明里が困った顔をしていると、寧子が捨て台詞を吐いて足音荒く立ち去って行った。それを見送ってから、佐々木が鞄を手に声をかけてくる。


「先輩、大丈夫ですか?」
「ええ、何ともないわ。あ、しまった……。あの女の写真とか、撮っておけば良かったわね」
「それなら先輩があの女性と揉め始めたあたりから、動画を撮ってあります」
「佐々木君、グッジョブ!! さすが営業二課の期待の星、気が利くわ! それをプリントアウトして、事情を説明して警備室に回しておいて」
「分かりました」
 そんなやり取りをしていると、明里がまだ幾分信じられないような顔で確認を入れてきた。


「関本さん。結局あの女性は、本当に松原課長のストーカーなの?」
 それは周囲で聞き耳を立てている社員達にも共通している疑問であり、沙織は声高に答えた。
「そうなんですよ。課長はあまり大げさにしたくなくて、社内には話をしていなかったのですが、街中で困っていた女性に親切にしたら、自分に好意を持っていると勘違いされて、それ以来付きまとわれているらしいです」
 それを聞いた貴島が、本気で同情する顔になる。


「難儀な事だな。かなり妄想をこじらせているみたいだし。もてる男にはもてる男なりの、それなりの苦労があると言う事か」
「全くですね。今回騒ぎになったので、関係部署には課長から事情を説明する事になるかと思いますが。お二人とも、お引き留めしてすみませんでした」
「いや、それは構わない。それでは失礼する」
「松原課長に、あまり気を落とさないように伝えてね?」
「ありがとうございます、失礼します」
 そして二人が退社する社員の流れに紛れるのを届けてから、沙織は受付の二人に向き直った。


「お騒がせしました。事情は今言った通りですので、あの女性がまた来たら迷わず警備員を呼んで、つまみ出して貰って構いません」
「分かりました。話は伝わってはいましたが、あそこまで酷いとは思っていませんでした。こちらも気をつけます」
「宜しくお願いします」
(さて、これで完璧に、課長に変なストーカー女が纏わりついている話をでっち上げられたわよね? 今後あの女が社員に何か吹き込んでも、まともに相手にされる事は無い筈よ)
 沙織が取り敢えず安堵しながら、営業二課に戻る為にエレベーターホールに向かうと、並んで歩きながら佐々木がしみじみと言い出した。


「課長にストーカーが居たなんて、本当に驚きました。先輩にストーカーが居た事にも驚きましたけど」
「どういう意味?」
「あ、いえ、馬鹿にしているわけでは無くて、二人とも恋愛方面では引きずらずにそつなく別れるタイプかと思っていましたので」
「……課長の場合は、ちゃんと付き合う別れる以前の問題だしね」
「そうですよね。ストーカーなんですから、注意してどうなるものでもありませんよね」
 自身が口にした内容と、佐々木が言及した内容は微妙に異なっていたが、沙織はわざわざそれに言及しなかった。


「佐々木君も気をつけてね? どこで誰に変な好意を持たれているか、分からないわよ?」
「脅かさないでくださいよ!」
「そんなに怯えなくても」
(取り敢えず、課長に報告しておかないと。今頃は、あの女から連絡が入っているだろうし。でも電話が繋がらないって言ってたのよね)
 周囲を不安げに見回しながら、怯えた表情になった佐々木を見て笑いながら、沙織は職場へ足を進めた。









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