召喚体質、返上希望

篠原皐月

(25)失言

「……うん。愚痴を言っても自分の霊力が消えるわけじゃないし、召喚自体を止める方法が現時点では無いわけだから、召喚に備えて準備して、その時に対応するしかないよね」
 落ち込んだ天輝だったが、すぐに気を取り直して顔を上げた。そして自分自身に言い聞かせるように呟いてから、ふと気になった事を口にする。


「さっきお父さんが口にしていた霊力を行使する5つのパターンのうち、《先見知覚》がいわゆる予知能力で、《異界転移》も異世界同士やその世界内での瞬間移動なのは分かった。《観念動力》って要するに念じるだけで物を動かせる、テレキネシスって事だよね?」
「ああ、その通りだ」
「そうするとお兄ちゃんが使える《探査察知》と《意識操作》って、どんな力なのかは何となく察しはつくけど、具体的にはどの程度の力なの?」
 不思議そうに問われた悠真は、考えながら口を開いた。


「そうだな……。《探知》の方は、良く知っている人物がこの地球上に存在しているなら、大まかな居場所を特定できると思うぞ?」
 それを聞いた天輝は驚きで目を見開き、反射的に問い返した。


「地球上って……、何かいきなりスケールが大きくなった気がするんだけど……。本当にそれくらい分かるの?」
「分かるな。アメリカ出張中も、天輝の居場所は察知できていたし」
 さらりととんでもない事を言われた天輝は、無意識に声を裏返らせた。
「はいぃ!? 何それ! 本当!?」
「ああ。時期的にそろそろ召喚される危険性があったから、去年から社内でも常に天輝の動向は把握するようにしていた」
 事も無げに告げられた天輝は呆気に取られた表情になったが、何かに思い至ったらしく、すぐに不愉快そうに両目を細めながら静かに指摘する。


「…………お兄ちゃん」
「うん? 天輝、どうした?」
「それ……、プライバシーの侵害じゃないの? それに一歩間違えると、ストーカーだと思う」
 そんな台詞と共に冷ややかな視線を向けられた悠真は、いつもの彼らしくなく動揺しながら、必死の形相で弁解し始めた。


「ちょっと待て、天輝! それは誤解だから! 居場所を察知できても、そこで何をしているかまでは分からないからな!?」
「……何か、論点がずれているような気がする」
「ずれてないから! 父さんと母さんも、黙っていないでなんとか言ってくれ!」
 そう訴えられた賢人と和枝は、真顔で口を開いた。


「そうだな。悠真は取り敢えず尾行はしていないし、発信器や盗聴器の類は付けていないから、安心して良いぞ?」
「そうね。天輝が誰と行動しているか分からないから、天輝の交友関係に関しては、社内の人達から逐一情報収集しているそうよ」
「二人とも、俺をフォローする気無いだろ!?」
「そんな事は無いぞ?」
「ちゃんとフォローしているわよね?」
「……………………」
 身も蓋もない両親の台詞に悠真は声を荒らげ、そんな漫才めいたやり取りを無言のまま冷めた目で眺めていた天輝は、溜め息を吐いて話を続けた。


「まあ、色々言いたいことはあるけど……、これに関してはここまでにしておくわ。だけどこうなると、私が偶々桐生アセットマネジメントに入社して良かったわね」
「それはどういう意味だ?」
 不思議そうに悠真に問い返された天輝は、当然の如く言い返す。
「だって、社内の人達は私達が義理とはいえ、兄妹の間柄だと知っているわけだし。他社に入っている私の動向を根掘り葉掘り調べていたら、確実に不審がられて警察に通報されていたかもしれないわよ?」
 その指摘に、悠真は納得したように頷いた。


「ああ、そういう意味か。確かにあの頃、使える力をフル活用した甲斐があったな。おかげで首尾良く、天輝がうちに入社する事になったし」
「ばっ……」
「悠真……」
「え?」
 そこで顔色を変えた賢人が片手で額を押さえ、和枝が僅かに顔を引き攣らせる。そして両親の不審な態度と、先程の台詞に引っ掛かりを覚えた天輝が、怪訝な顔で問い返した。


「お兄ちゃん。『あの頃、使える力をフル活用』って、何の事?」
「……………………」
 そこで自分が失言したと悟った悠真は、血の気の引いた顔で口を閉ざした。対する天輝は、他の三人の様子を観察しながら考えを巡らせ、すぐにとある仮説に辿り着いた。



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