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いつか王子様が……

篠原皐月

過去から繋がる未来~真澄、三十四歳の冬~

 柏木産業の仕事納めの日。珍しく真澄は定時で上がり、社屋ビルまで迎えに来た清人と一緒に、そのまま食事に出かけた。
 高層ビルの一角に店舗を構えているフレンチレストランに出向き、落ち着いたインテリアで整えられた個室に通された真澄は、まずガラス越しに広がる夜景に感嘆し、素直に賞賛の言葉を述べた。それに嬉しそうに微笑んだ清人が椅子を勧め、ここまで案内してきた支配人が心得た様に壁側の椅子を引いて真澄を促す。そして幾つかのやり取りの後ワインを出して貰い、二人で軽くグラスを合わせた。


「お疲れ様、真澄」
「ありがとう、清人。素敵なお店ね。年も押し詰まってから、こういう所でゆっくりお食事できるなんて嬉しいわ」
 そう言って満足そうにワイングラスを傾けた真澄に、清人は穏やかに笑いかけた。
「そう言って貰えると、押さえた甲斐があったな」
 そこで運ばれてきた前菜に手を伸ばし、他愛の無い話をしながらワインと料理を堪能していると、前菜を食べ終えて皿が下げられ、何となく会話が途切れた所で、真澄が「はぁ……」と小さく溜め息を吐いた。それを目敏く捉えた清人が、些か心配そうに声をかける。


「真澄、どうかしたのか?」
「え? あ、ごめんなさい。どうかしたの?」
 ぼんやりと眺めていた卓上のキャンドルから、慌てて視線を清人に戻しながら真澄が応じたが、その様子を見た清人は少々気遣わしげに尋ねた。


「いや、黙り込んで溜め息を吐いているから、急に気分でも悪くなったのかと思ったんだ。仕事納めの日に引っ張り出してしまって、すまなかったな」
 申し訳無さそうに告げた清人に、真澄は却って気まずい思いを抱える。
「そんな事ないわ。クリスマスの前後は仕事が立て込んでて、ゆっくり食事にでかける暇も余裕も無かったし。その……、私の方こそごめんなさい。結婚して初めてのクリスマスだったのに……。ひょっとしたら、色々考えてくれていたんじゃないの?」
 実は真澄が推察していた通りだったのだが、清人はそんな事はおくびにも出さず、平然と笑いながら言ってのけた。


「大した事を考えていた訳では無いし、別に謝る事はない。仕事を干されている状況じゃ無くて、結構な事じゃないか」
「それなら良いんだけど……」
 そこでスープが運ばれてきた為、会話が一時中断した。そしてスプーンを取り上げて目の前のスープ皿に入れた所で、真澄が顔を上げて清人に思い出したように告げる。


「そう言えば、まだ言って無かったわよね? 私この前、アメリカ支社北米事業部長就任の話を正式に辞退したの」
「……それは残念だったな」
 流石に微妙な表情をしながら清人が無難な言葉を返すと、その顔が面白かったのか、真澄が小さく笑いながら話を続けた。
「確かに少しはそう思わないでも無いけど、後悔はしていないわよ?」
「そうか」
 真澄に釣られるように清人も微笑んで、口元にスープを運んだ。すると真澄がしみじみとした口調で言い出す。


「上の方でも、流石に結婚直後の人間を海外に動かす気は無かったみたいで、すんなり了承して貰ったけど。社内ではこの話を体よく断る為に、この時期に入籍したのかと勘ぐっている人も居るみたいなの。週末婚状態で名字も変わらないから、未だに憶測を呼んでいるみたいだし」
 多少愚痴っぽく現状を説明すると、清人が苦笑しながら真澄を宥めた。
「やっぱり式と披露宴は社内の主だった面々を招待して、ある程度派手派手しくやるしかないか」
「……止めて。あまり考えないようにしているのに」
「諦めるんだな」
 もうすっかり達観してしまっている清人が呻いている真澄を宥めると、真澄が再び思い出した様に問い掛けた。


「ところで……、恭子さんに聞いたんだけど、少し前から徐々に仕事の量を減らしているんですって?」
「……ああ、それがどうかしたのか?」
 幾分躊躇する素振りを見せてから応じた清人に真澄は僅かに眉を寄せたが、口に出しては何も言わなかった。その代わりに容赦なく追及を続ける。


「恭子さんが言うには『相変わらず何を考えているか今一つ分からない人ですが、時期的に見て真澄さんが北米事業部長に就任したら、アメリカまで追いかけていくつもりだったんじゃないですか? もう殆どストーカーですよね』って笑われたんだけど、本当の所はどうなの?」
(……川島さん、余計な事を)
 うんざりしつつ心の中でひとしきり恭子に対して文句を言ってから、清人は諦めて事情を説明し始めた。


「偶々時期的に重なったから、確かにそんな事を考えた時期もあったが、本来はちょっと自分の人生を見つめ直すつもりで、長期旅行に出ようかと思っていたんだ」
「長期って……、どれ位? この前一週間行方をくらました程度じゃ無いのよね? あれも後から聞いて驚いたんだけど」
「漠然と、二・三年位放浪してくれば、流石に真澄の事も諦めがつくかと……」
 真澄から視線を逸らしながらボソボソと清人が告げた内容に、当の真澄は目を丸くし、次いで清人が冗談ではなく本気でそんな事を考えていたと察して、テーブルに肘をついて額を押さえた。


「呆れた。清香ちゃんの事はどうするつもりだったのよ?」
「この際、柏木家にお願いするのも良いかと……」
「本っ当に、どうしようもない馬鹿だわね」
「……否定はしない」
 呆れ果てたと言った感じで真澄が断言すると、清人が神妙に頷いた。それを見て怒ったままでいられず、真澄が小さな笑いを零す。


「まあ、そんなお馬鹿さんだから、私が面倒を見てあげないといけないんでしょうけど」
「そういう事だな。宜しく頼む」
「全くもう。それじゃあ、どこへも行かなくて良くなったし、仕事量は元に戻すのね?」
 軽く笑いながらの問いかけに当然頷くかと思いきや、予想に反して清人は真顔で首を振った。


「いや、近日中に別にやらなければいけない事ができるだろうから、仕事を減らす方針は変わらないんだ。近々休筆宣言も出そうと思っているし」
 それを聞いた真澄が、反射的に手の動きを止める。
「休筆って……、作家を止めるの? どうして?」
「書くことは止めないさ。少しずつ書き溜めておいて、時間に余裕ができたら、後から纏めて出す事にする。だから連載等の仕事は、当面受けられなくなるがな」
 特に気負うことなく淡々と告げた清人に、真澄が幾分心配そうに尋ねた。


「……下手をすると名前を忘れられて、出しても売れなくなるわよ?」
「それは俺の作品に魅力が無いって事だ。その時は甘んじてその状況を受け入れるさ」
 その台詞に、真澄は肩を竦める。
「そんな気、サラサラ無いくせに。自分ならどんな時代でも、手に取って貰う本を書けると思っているでしょう?」
「分かるか?」
「分かるわよ」
 そこで二人で顔を見合わせ、揃って噴き出した。そしてひとしきり笑ってから、真澄が話を戻す。


「それで、清人は執筆活動を制限してまで、何がしたいの?」
 メインデッシュの皿にナイフとフォークを伸ばしつつ真澄が何気なく尋ねると、清人は一瞬迷う様な素振りを見せてから、慎重に口を開いた。
「……まだ準備段階なんだ。お義父さんとも色々話を詰めておく必要があるし」
「はぁ? 何よそれ。お父様と何か関係があるわけ?」
「多少、な。真澄には大いに関係があるから、本決まりになったら詳しく説明する」
「ふぅん? 分かったわ。聞かせて貰うのを楽しみにしているから」
「そうしてくれ」
 清人の煮え切らない話しぶりに首を捻りつつ、真澄は取り敢えず追及は止めて料理を味わう事に専念する事にした。そして幾つかの話をしながら食べ進めていき、その皿を半分ほど食べたところで、真澄が静かに口を開く。


「……清人。ちょっと私の方から、報告しないといけない事があるんだけど」
「何だ?」
 改まった口調で言い出した真澄に、清人が真顔で視線を向ける。その視線を意識しながら、真澄は俯き加減で話を続けた。


「その……、実は今日の午後、職場を二時間程抜けて、近くのクリニックを受診してきたの。今日を逃すとどこも年末年始休に入ってしまうから」
「どうした。どこか具合が悪いなら、無理せずにすぐに家に帰っても良かったんだぞ?」
 皿にナイフとフォークを些か乱暴に置きながら顔付きを険しくした清人に、真澄は慌てて弁解した。


「そうじゃなくて……、安心して? まだ具合が悪くなったりしていないから」
「まだって……、これから体調が悪くなりそうなのか?」
「ひょっとしたらそうかもしれないけど、別に大した事では無いと思う」
「帰るぞ」
「え? ちょっと待って清人」
 自分の話の途中で勢い良く立ち上がり、ナプキンをテーブルの上に放り投げた清人に真澄は目を丸くしたが、清人は足早にテーブルを回って真澄の傍にやって来た。そしてその手を取って立ち上がらせようとする。


「待たない。さあ行くぞ、真澄。具合が悪くなる前に送っていくから」
「あの、違うのよ! 本当に病気とかじゃなくて、子供ができただけなんだから!」
「え?」
 清人が本気で心配しているのが分かった真澄は、焦って本題を口にした。そして咄嗟に何を言われたか理解できなかった風情の清人に、取り合えず経過を話す。
「今まで生理周期はあまりずれた事は無かったのに遅れてたから、ちょっと早いかと思ったけど一応産婦人科で検査して貰ったの。今七週目位だそうよ」
 言うべきことを言ってホッとしたのも束の間、ここで真澄の頭上から予想外の怒声が降ってきた。


「馬鹿やろう! どうしてそれを早く言わない!? 病気でないなら尚更だろうがっ!!」
「……え?」
 驚いて固まった真澄の前で、清人は「何を考えてるんだ、全く」などとブツブツ言いながら、テーブル上の呼び出しボタンを押した。すると十秒も経たないでドアがノックされ、ギャルソンが顔を見せる。


「お呼びでしょうか? お客様」
「すみません、これを下げて下さい。……ああ、グラスの中の物も残らず全てです」
「畏まりました。あの、何か不都合がございましたか?」
 幾分硬い表情で清人がワインボトルとグラスを指し示すと、どうやら先程の清人の怒鳴り声も耳にしていたらしいギャルソンが、料理かワインに何か不備が有ったのかと恐縮気味にお伺いを立ててきた。それを察した清人は、思わず声を荒げるような失態を演じた事にここで気がつき、幾分照れくさそうに笑いながら謝罪する。


「お騒がせしてすみません。店側の落ち度ではありませんからご心配なく。ただ妻が妊娠中なのが分かりましたので、酒を飲ませる訳にはいきませんから」
「それはおめでとうございます。お喜び申し上げます」
「ありがとうございます」
 男二人が明るい笑顔で言葉を交わしていると、一人座ったままの真澄がボソリと低い声で口にした。


「ワイン、とっても美味しかったのに……」
「え?」
「奥様?」
「清人に喜んで貰えると思ったのに、怒鳴られた……」
 思わず二人が顔を向けた先で、清人にいきなり頭ごなしに怒鳴られるという初めての体験をした真澄は軽くショックを受け、すっかり泣き声になってそんな事を呟いてから、顔にナプキンを当ててグスグスと泣き始めた。それを見て男二人がすっかり狼狽する。


「あの、真澄、悪かった。誤解しないで欲しいんだが、嬉しくない訳じゃないんだぞ? 寧ろ嬉しかった分、つい頭に血が上って。怒鳴りつけてしまって本当に悪かった」
 絨毯に片膝を付き、真澄の顔を見上げる形で清人が真摯に謝罪の言葉を口にしたが、真澄は顔から少しナプキンを外し、傷ついた表情で夫を見下ろした。


「別に、弁解してくれなくても、いい……」
「本当に俺が考え無しだった。許してくれ、真澄。どうしたら許して貰える?」
「さっきのワインでもう一度乾杯」
「駄目だ」
 真澄が咄嗟に口にした言葉を、これまた清人が反射的に拒否してしまい、忽ち真澄の眼に涙が盛り上がる。つい失言を重ねてしまった事に清人は内心舌打ちし、その背後でギャルソンが口を挟めないままハラハラしながら事の成り行きを見守った。そしてこのままにしておけない清人が、呼吸を整えてから静かに口を開く。


「本当に悪かった、真澄。心から反省してる。その証に、真澄の妊娠・授乳期間が終わるまで、俺も一緒に禁酒するから許してくれ。飲んでも子供に支障がない時期になったら、絶対今日のワインより美味い物を探しておくから、一緒に飲もう」
 清人が真顔でそんな事を口にした為、真澄は思わず涙を引っ込めて冷静に指摘した。


「清人? そうすると軽く一年半は飲めなくなるわよ? お友達とかから『一緒に飲みに行こう』って誘われたらどうするの?」
「勿論断る」
「じゃあ断れない筋からとかは? 例えば……、太刀洗会長とか」
 真澄が清人と付き合いのある老人の名前を口にした瞬間、先程とは打って変わったように顔を強ばらせた清人だったが、何とか声を絞り出した。
「……それは、何とかする。酒を飲む代わりに、下僕でも何でもやってやろうじゃないか」
「下僕って……、あのね」
 完全に開き直った感の清人の言葉に、真澄は心底呆れてしまったが、ここで重大な事を思い出した。


「それじゃあ披露宴の時はどうするの? 周囲からお酒を勧められても私は飲めないから、清人が引き受けてくれないと困るんだけど」
「それは……」
 完全に進退窮まったらしく言葉を失っている清人の顔を見て、少し虐めすぎたかと反省した真澄は、小さく笑いながら夫を宥めた。


「大丈夫よ。もう怒ってないから。少し位なら飲んでも構わないんじゃないかと思うけど、そこまで言うなら一切飲まないわ。でも清人は披露宴の時は大っぴらに飲んで構わないわよ? 勿論私が居ない所でだったら、いつ飲んでも構わないし」
 そう言って涙を拭きつつ笑顔を見せると、清人が救われた様に表情を緩めた。
「分かった。勿論披露宴の時は、全面的に俺が引き受けるから。それに他でも極力飲まない事にする。その方が禁酒を終えた時、余計に美味いだろうからな」
「ええ、そうね」
 そうして取り敢えず場が和んだ所で、如何にも安堵した様子でギャルソンが声をかけてきた。


「お客様、それではこちらのワインの代わりにノンアルコールワインかソフトドリンクでもお持ちしましょうか?」
「ああ、お願いします。適当に見繕って来て下さい」
「畏まりました。少々お待ち下さい」
 互いに安堵した表情でやり取りをして清人は自分の席に戻り、ギャルソンはワインを下げて行った。
 そしてノンアルコールワインを持って来て貰った二人は改めて乾杯し、どこか照れ臭そうにしながら食事を再開した。それからは和やかに食事を続けた二人だったが、デザートと一緒に出された紅茶を飲んでいた真澄が、ふと動きを止めてカップの中身をぼんやりと眺めた。その様子を少し眺めてから、清人が慎重に声をかける。


「真澄? どうかしたのか?」
 その如何にも心配そうな表情を目の当たりにして、真澄は思わず失笑した。
「そんなにびくびくしないで? まるで私が苛めているみたいじゃない。ちょっと考え事をしていただけよ」
「それなら良いんだが……、何を考えていたんだ?」
 不思議そうに問い質した清人に、真澄は感慨深げに言い出した。


「どうして清人と結婚できたのかしらと思って。去年の今頃どころか、つい半年前までは、間違ってもこんな風になれるなんて、夢にも思ってもいなかったもの」
「それは俺も同感だな」
 神妙に頷いて同意を示した清人に、真澄が真顔で考えを述べる。
「それで……、色々考えてみたんだけど、突き詰めてみたら聡君が清香ちゃんに接近してきた事がきっかけかもしれないな、と思ったの」
「……あいつが?」
 途端に納得しかねる様に僅かに顔を歪めた清人だったが、真澄は穏やかに言い聞かせるように続けた。


「だってその前までは、清香ちゃん絡みで何かある時位しか直接顔を合わせていなかったでしょう? だけど聡君を牽制する過程で、あそこのマンションを訪ねる機会が段違いに増えたし、連絡を取る機会も増えたし」
「それはまあ……、考えてみれば確かに、な」
 不承不承頷いた清人に、真澄が苦笑しながら続ける。


「聞けば夏のバカンス会も、私達をあわよくば纏めようと、皆で画策したみたいだし。それも、そもそもは清香ちゃんが、小笠原家であなたの縁談を持ち掛けたのがきっかけだったらしいし」
「全く……、余所様の家で何を喋っているんだ清香は」
 深々と溜め息を吐いた清人に、真澄は笑って結論を告げた。
「だから聡君に、何かお礼がしたいと思ったんだけど、清香ちゃんとの事を応援したら清人が怒るでしょう? だから匙加減が難しいなと、少し困っていたのよ」
 悪戯っぽく笑いながら言われた内容を聞いて、清人は破顔一笑した。


「なんだ、そんな事か。安心しろ、真澄。あいつへの礼なら、もう考えている。新年度前にも手配する予定だ」
「そうだったの? それなら良かったわ。因みにどんなお礼をするつもりなの?」
「愛する弟の、より一層の成長を願って、盛大に愛の鞭をくれてやるつもりだ。涙を流して、俺の深い愛に感激する事確実だな」
(聡君、涙を流して清人の弟である事を後悔する羽目になりそうね……。ご愁傷様)
 薄笑いを浮かべながら断言した清人を窘める事はせず、真澄は多少困ったように笑っただけだった。そして、別の人物についての話を続ける。


「後は……、叔母様は本当に慧眼の持ち主だったなと思ってね」
「香澄さんがどうした?」
 クスクスと、如何にも楽しそうに笑いながら真澄が口にした内容に、清人は本気で首を捻った。それを見ながら真澄が説明を加える。
「実はね、私、幼稚園の頃に『いつか王子様に迎えに来て貰いたい』と言う類の事を言ったら、叔母様に言われた事があるの」
「何て言われたんだ?」
 不思議そうに問われた真澄は、当時を思い返しながら真顔で告げた。


「えっと……、確か『巷には似非お姫様がうようよしてて、王子様は寄ってたかって食われてるから、大人しく待ってても誰も迎えに来ない』とか、『本当に良い男は自分から捕まえに行かないといけないと駄目だ』とか、『いざとなったら王子様の一人や二人、私が引き摺ってきてあげる』とか言っていたわ」
「……香澄さん、そんな小さな子供に、幾ら何でも身も蓋も無い事を」
 破天荒な継母の事はある程度知っていたつもりの清人だったが、真澄の話を聞いて本気で頭を抱えた。それを面白そうに見ながら、真澄が尚も話を続ける。


「だから叔母様に言われた通りだったでしょう? 王子様がなかなか迎えに来てくれなかったのも、自分から捕まえに行かなくちゃいけなかったのも」
「真澄……、頼むから俺をこれ以上苛めないでくれ」
 思わず情けない声で清人が呻いた為、何か含む様な視線から一転して、真澄は楽しそうに笑った。


「だって本当の事なんだもの。それにあなたと引き合わせてくれたのも叔母様でしょう? 初対面の時は偶然だったかもしれないけど、再会できたのは完全に叔母様のお膳立てだったと思うし」
「言われてみればそうだな。清香に自分の兄達を『マスクメロンのおじさん』呼ばわりさせてまでな」
「そういう事」
 そう言って二人は黙ったまま、苦笑した顔を見合わせた。そして少ししてから静かに微笑んだ清人が、穏やかな口調で宣言する。


「真澄」
「何?」
「香澄さんへの恩返しのつもりで、香澄さんと親父の分まで長生きして、幸せになるぞ?」
「勿論、そのつもりよ」
 不敵に笑って返した真澄に、清人もその顔に同様の笑みを浮かべる。
 そして二人とも心の中で、互いに出会えたこれまでの幸運な人生と、より一層の希望に満ちたこれからの人生について、暫くの間思いを馳せたのだった。


(完)



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