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世界が色付くまで

篠原皐月

第53話 女王の来訪

 清香が真澄に相談して安堵の溜め息を吐いていた頃、彼女とは対照的に恭子はソファーとコーヒーテーブルの隙間にペタリと座り込んで、テーブルに突っ伏してむせび泣いていた。


「……ふぅっ、な……、なんでっ、……ちゃんと、せめ、て、……く、くれないの、よぉっ……」
 先程までは固定電話の呼び出し音も無視して泣き喚いていた恭子だったが、次第に涙が収まってきた為、手の甲でゴシゴシと顔を擦りながら、ゆっくりと頭を上げる。


「さやか、ちゃん、って……、とき、どきっ……、すごく、むしん、けいっ……、なんだ、……からっ!」
 腹立ち紛れにそう吐き捨てると、続けて自然にある言葉が恭子の口をついて出た。
「も、もうやだっ! あの人達とこれ以上、かかわりあうのっ……!」
 そう口に出した瞬間、恭子の頭の中である考えが天啓の如く閃く。


「もう、ここを出て行こう。……うん、そうよね。もっと早く、そうするべきだったのよ。先生に激怒される事確実だけど、一生かかっても少しずつ借金は送金するし、結婚して今は真澄さんに纏わり付いてるから、そうそう追いかけても来ない筈よ。そうと決まれば……」
 勢い良く立ち上がった恭子だったが、その途端向かい側のソファーの更に向こうに設置してある、リビングボードの惨状を認め、瞬時に現実に引き戻された。


「その前に、この割れたガラスを片付けないと。修理代、絶対借金に上乗せされるわよね……」
 そう呟いてがっくりとうなだれた恭子の顔からは、完全に涙が消え去っていた。
 それから結構手間がかかったものの、掃除と後片付けを済ませた恭子は、深夜に近い時間にもかかわらず、自室で荷造りを始めた。


「ええと、後から荷物を送って貰えそうもないから、必要最低限だけ纏めて持って行きましょうか」
 方針を立てるのは早かったが、これまで何回かしてきた引っ越しとは異なり、恭子はクローゼットや棚を引っ掻き回し、頭を悩ませる事になった。


「このお皿は箱の中が空き過ぎだから、箱は捨てて中身だけ衣類で包んで持って行く事にして……。このプリザーブドフラワーは、潰れない様に最後に。それから真澄さんに買って貰ったこのドレスと靴は、せっかくだから持って行く事にして、このアロマポットは……」
 何気なく手にしたアロマポットが浩一から贈られた物だった事を思い出した恭子は、それを持ち上げたまま一瞬固まったが、すぐに自分に言い聞かせる様に呟いた。


「……気に入ってるし、持って行こう」
 それからは機械的に、持ち出す必要性のある物をより分けにかかる。
「あとは着替えと、小物と貴重品、それから……」
 そうして床の上に纏めた物の山を眺めた恭子は、引っ張り出したスーツケースと見比べて途方に暮れた。


「どう考えても、これに入り切らないわよね……。こんなに多くなるなんて、予想外だったわ」
 思わず困惑した声を出した恭子だったが、『悩んでもどうしようも無い事については悩まない』をモットーにしている為、その荷物を放置してさっさと寝る支度を始める。


「明日、開店と同時に入って、一回り大きいスーツケースを買ってこないと」
 そんな決意の言葉を呟きながら、恭子はベッドに潜り込んだ。そしていつもの習慣で一人にも係わらず「おやすみなさい」と口にして寝ようとしたが、何故かこの日は自然に涙が溢れてきて、翌朝恭子は寝不足の状態で、朝から忙しく動き回る事になったのだった。


 翌日は平日であり、恭子は幾分迷いながら真弓に電話をかけ、体調不良の為今日は休むと嘘をついた。真弓は疑いもせずに「お大事に」と言って了承してくれた為、流石に恭子の良心が痛む。
 加えてこれから失踪する身としては、無断で退職する事にもなる為、後で必ずお詫びの手紙を書こうと心に決めた。


「さてと、これで入れ忘れはないわね。戸締りも大丈夫だし、元栓も閉めたし。あ、そうそう! 忘れるところだったわ」
 最寄り駅に隣接した複合ビルの店に開店と同時に入った恭子は、首尾良く望む大きさのスーツケースを購入し、戻るなり手早く準備しておいた荷物を詰めた。そして細々した物はショルダーバッグに纏めて室内を見回して歩いていた時、リビングボードの上に置かれていたパンジーの鉢植えに気が付く。


「ここに置いて行ったら、枯れちゃうかもしれないものね。あの先生が水をあげてくれるとは思えないし、黙って出て行く手前頼めないし」
 そして恭子は台所からストックしてあるビニール袋を持ってきて、その鉢植えを下に置かれていた水受け用の皿ごとその中に入れた。そしてそれを上から覗き込みながら、恭子が満足そうに呟く。


「よし、これで大丈夫。一緒に行こうね?」
 そしてビニール袋を左手に提げ、右手でスーツケースを引っ張って玄関に向かおうとしたところで、恭子は進行方向から聞こえてきた物音に気が付いた。それは明らかに誰かが玄関からリビングに向かって歩いてくる足音であり、その意味を察した恭子は瞬時に顔を強張らせる。


(え? 何? 何で中から開けてないのに、入って来るわけ? まさか泥棒?)
 咄嗟に反応できず、緊張のあまりその場に棒立ちになった恭子は、勢い良く開けられたドアの向こうから現れた人物の姿に、一気に脱力した。


「こんにちは、恭子さん。今日はお仕事は休み?」
「あ、はい……、真澄さん、いらっしゃい」
 朗らかに声をかけてきた真澄に、恭子はまだ動揺しながらも、何とか笑顔らしきものを顔に浮かべながら応対した。


(いきなり何? 確かにここの持ち主の先生は合鍵を持っているから、真澄さんがそれを借りてくれば、断り無しに入って来る事は可能でしょうけど)
 真澄がここに現れた理由について、恭子が必死に考えを巡らせていると、そんな彼女の心情などお構いなしに、真澄がのんびりとした口調で尋ねてくる。


「あら、今からでかけるの?」
「は、はあ……。まあ、そんな所です」
「いいわねえ……、独り身って。私なんか始終夫が纏わり付いて来る上に、子供が一気に二人もできちゃったから、なかなか心休まる暇が無くて」
「……お察しします」
 ため息混じりに、しみじみとそんな事を言われてしまった恭子は、思わず頭を下げた。するとそこで真澄が、にこやかに依頼してくる。


「と、いう訳で、お茶を淹れてくれないかしら?」
「少々お待ち下さい」
 思わず習い性で頭を下げ、荷物を放置してキッチンに入った恭子は、お茶の準備をしながら我に返った。


(ちょっと待って。何が『と、いう訳で』なの? 普通出かける支度を済ませている人間に出くわしたら、遠慮して引き下がるものじゃないの? それ以前に、何普通にお茶を淹れてるのよ、私!?)
 しかしお湯が沸きかけ、急須に茶葉を入れてしまった後にこれを放置する事はできず、恭子は自分に言い聞かせながら要求された通りにお茶を淹れる。


(これはあれよ。決して不特定多数の人間に対して、下僕根性が染みついている訳じゃ無くて、単に真澄さんの女王様気質に無意識に従ってしまっただけなんだから!)
 そんな弁解じみた事を考えながら、恭子はお茶を手早く注いだ茶碗を、リビングに運んで行った。


「お待たせしました」
「ありがとう。頂くわ」
 悠然と頷いて茶碗に手を伸ばした真澄を、恭子は黙って見下ろした。そして真澄が黙ってお茶を飲んでいる為、次にどうすれば良いのか全く分からなかった恭子は、控え目に声をかける。


「あの……、真澄さん?」
「何?」
「今日は、どういうご用件でこちらにいらしたんですか?」
 その問いに真澄は顔を上げ、多少面白がっている様に笑いかけてきた。


「聞きたい?」
「はい、できれば」
「じゃあ、私も恭子さんに聞きたい事があるから、まずそこに座って」
「……はぁ、失礼します」
(やっぱり女王様だわ……)
 口調は丁寧ながらも、何となく逆らう事を許さない空気を醸し出す相手に、恭子は小さく溜め息を吐いた。
 一方の真澄は、恭子が自分の向かい側に座るやいなや、さらりと核心に触れてくる。


「じゃあ、教えて欲しいんだけど、浩一ったらあなたに『アメリカに一緒に行ってくれ』って頼まなかったの?」
(いきなり直球ですか……。真澄さんらしいと言えばらしいですが)
 思わず遠い目をしてしまった恭子に、真澄が引き続き尋ねる。


「どうかしたの? 急に黙っちゃって」
「少し待って下さい」
 そう言いながら立ち上がった恭子は、先程放置しておいたショルダーバッグから、白い封筒を取り出した。そしてそれを差し出しながら、静かに告げる。


「一応、先程の疑問にお答えしますが、浩一さんから一通りの事情を聞かされた上で、これを渡されて、一緒にアメリカに行って欲しいと言われました」
 受け取った封筒を開け、その中に入っていた航空券を確認した真澄は、それを元通りしまいながら、落ち着き払って答えた。


「なるほど。直前で怖気づいて、逃げ出したわけじゃないのね。良かったわ。自分の弟を、そんな臆病者だと思いたくは無かったもの」
 そして封筒を二人の間にあるテーブルに乗せて、相手の方に少し押しやった真澄は、にこやかに質問を続けた。


「それならどうして一緒に行かなかったのか、その理由を聞いても良い?」
 それに対する恭子の答えは明白だった。


「私、パスポートを持っていないんです」
「……………………え?」
 瞬時に笑顔が固まって絶句した真澄に対し、恭子が真顔で念を押す。
「一応お断りしておきますが、場を弁えずに冗談を言ったわけではありませんから」
 それに対し、真澄は戸惑いながらも疑問を呈した。


「あの、でも……、恭子さん、確か以前にTOEICで800点近く取ったって言ってなかった?」
 しかしそれを聞いた恭子は、深い溜め息を吐いて冷静に指摘した。


「真澄さん……、英会話ができても、パスポート保持者とは限りませんよ」
「ええと……、それは確かに、そうかもしれないけど……」
「第一TOEICを受けたのは、先生から通訳案内士の登録をしろと言われて、その対策の一環だったんです。日々借金返済の為の節約生活を送ってるのに、のんびり海外旅行なんかするつもりはありませんし、使わないパスポートを作る為に、無駄なお金を使う気も皆無でしたから。納得して頂けました?」
 恭子は理路整然とした解説を述べたが、それを聞いているのかいないのか、茫然自失状態の真澄が、わけが分からない事を呟いた。


「……柏木家の男って、やっぱり呪われてるの?」
「はい?」
 思わず聞き返した恭子を無視して、真澄は独り言を続ける。


「お母様の話だと、お祖父様は“あの惨状”で、思わず可哀想になって結婚してあげたって、お祖母様が言っていたそうだし、お父様は結婚披露宴の時の“あの不始末”で、結婚早々お母様の逆鱗に触れて離婚の危機だったそうだし……。だめよ真澄、ここで諦めちゃ。まだ玲二と真一は間に合うわ。ここぞという時に外さない様に、今からしっかりと言い聞かせて」
「あの、真澄さん? 何をブツブツと、良く分からない事を言ってるんですか?」
「あ、あら、ごめんなさい、ちょっと取り乱しちゃったわ。何でもないの。気にしないで?」
「……はぁ」
 何やら怖い位真剣な顔で、自分自身に言い聞かせる様に呟いていた真澄に恭子が声をかけると、それで我に返ったらしい彼女は、その場を取り繕う様に「うふふ」と愛想笑いをした。そしてすぐに気を取り直し、質問を続ける。


「それで、パスポートが無かったから、浩一と一緒に行かなかったわけ?」
 その質問に、恭子は些か後ろめたそうに答えた。
「確かに現実的に同行できない理由ですが、それは単なる建前です。今はパスポートは五日程度で取得できますから。土日を挟んでも、ぎりぎり一週間程度で取れる筈です」
「それはそうね」
「もし一緒に行く気があるなら、連絡が付かなくても、出発便は分かっているんですから、その時間に空港に行って、一緒に行けない理由を説明すれば良いだけの話です」
 そこまで話を聞いた真澄は、再び茶碗に手を伸ばして一口お茶を飲んでから、再度尋ねた。


「そんな仮定の話をするって事は、あなたは待ち合わせをすっぽかしたのよね? どうして?」
 不思議そうに問いかけてきた真澄に、恭子は小さく歯軋りして、怒鳴りつけたいのを堪える。


「……どこまで私の口から言わせるつもりですか?」
「全部聞くまで、どこにも行かないから、そのつもりでいて頂戴」
「本当に真澄さんって、清香ちゃん同様、時々もの凄く無神経ですよね?」
「誤解しないで? 私は意図的に言っているけど、清香ちゃんに悪気は無いのよ?」
「ええ、ええ、そうでしょうとも!」
 そこでとうとう堪忍袋の緒が切れた恭子は、拳でテーブルを叩きながら語気強く言い募った。


「じゃあはっきり言わせて頂きますが、それ位はっきりきっぱりこっぴどく振らないと、私が浩一さんにはふさわしくない人間だって、あの人の良過ぎる彼が、理解してくれそうにないからです!」
 しかしそんな恭子の主張に、真澄は落ち着き払って言い返した。


「浩一に相応しくないかどうかは、浩一自身が決める事だと思うけど?」
「浩一さんは何でも真面目に考え過ぎる質の上、この間色々トラブルとかが続いて、まともな判断力を失ってる状態なんです。そうでなかったら、誰がこんな後ろ暗い事ありありの女、まともに相手にするもんですか!!」
「浩一はあなたの後ろ暗い事なんて全部知ってるし、それを含めて傍に居て欲しいって言ったと思うんだけど?」
 心底不思議そうに尋ねてきた真澄に、恭子の苛つきは更に増した。


「仮にそうだとしても、そんな間違った考えは、姉として正してあげるべきなんじゃないですか!? 浩一さんは家柄も学歴も社会的地位も人が羨む物を持ってたのに! そんな人が何に対しても執着なんかしない、言われた通り動くだけで自分で判断できない、中身が無い空っぽな女に入れあげた挙句袖にされるなんて、気の毒だとは思わないんですか!?」
「『何に対しても執着なんかしない、言われた通り動くだけで一人で判断できない、中身が無い空っぽな女』ねぇ……。ふぅん? 自分の事を、そう思ってるわけ」
 腕と足を組みながら小首を傾げて思わせぶりに笑い、そう言った真澄を見て、恭子は何故か無性に泣きたくなった。


(嫌だ、泣きそう……。自分で言った内容に、傷付いたわけじゃないわよ。冗談じゃないわ!)
 悲しさと苛立ちを覚えた恭子が黙り込むと、真澄が先程の意味深な笑いを消して、唐突に言い出した。


「違うと思うけど?」
「何がですか?」
 反射的に尋ね返した恭子に、真澄が自分が思うところを淡々と告げる。


「努力家でスキルは十分だし、交友関係を築くのもわけなくやってのけるし、恭子さんを少しでも知っている人は、間違ってもあなたを空っぽの女なんて言わないだろうし、随分増えたじゃない」


「増えたって……、何がですか?」
 最後の言葉の意味を捉え損ねた恭子が尚も尋ねると、真澄は組んでいた腕を解いて、右手の人差し指で恭子のスーツケースを指差しながら告げた。


「捨てられない、大事な物よ」
「え?」
 途端に戸惑った顔になった恭子に、真澄は落ち着き払って言葉を継いだ。


「だって清人に聞いたけど、加積邸からこのマンションに来た時の荷物は、さほど大きくないボストンバッグ一個だったのよね?」
「確かにそうですが……」
「それが今では、こんな大きなスーツケースに入れなくちゃならなくなるなんて……。時の流れって偉大よね。もう使えやしない航空券や、鉢植えまでしっかり持って行こうとするあたり、褒めてあげるわ。上出来よ」
「…………っ!」
 そう言ってコロコロと笑った真澄の前で、今の今までその事実を認識していなかった恭子が、軽く目を見開く。次いで固く閉じた彼女の両目に、じんわりと涙が浮かんできたのを認めた真澄は、少し茶化す様に口にした。


「残念な事に、幾らスーツケースが大きくても、浩一は入らないわね。身長が百八十近いし。でも一人で歩けるし荷物も自分で持てるし、食い扶持を稼ぐ甲斐性位はあるし、喜んで恭子さんの世話もすると思うから、結構お買い得だと思うんだけど。……ああ、恭子さんに限っては、代金は要らないわね」
 そう言って一人頷いている真澄に、目を開けた瞬間零れ落ちた涙に構わず、恭子が叫ぶ。


「だから! 真澄さんはどうして、そういう事を言うんですか!」
 半ば非難するその声に、真澄は小さく肩を竦めた。
「だって、恭子さんったら一人で判断できないって言うし。だけどじっくり判断して貰いたいじゃない。弟思いの姉としては。……じゃあそういう事で、じっくり考える事ができる場所に、さっさと移動するわよ?」
 そう言いながら組んでいた足を外して颯爽と立ち上がった真澄に、恭子は思わず怒りを忘れて困惑した声を上げた。


「え? あ、あの……、真澄さん、移動ってどこに……」
「ほら、ぐずぐずしない! もう戸締り、火の元確認は大丈夫よね? 何か問題があったら、清人が黙っていないわよ?」
「は、はい! それは勿論大丈夫ですが」
「じゃあ、ちゃんと荷物を持って。いつまで私に持たせるつもり?」
「あ、はい、すみません。……でも、あの、真澄さん、一体何事ですか!?」
 矢継ぎ早に出される指示に応じているうち、思わず涙も引っ込んでしまった恭子だったが、スタスタと歩き出した真澄から、彼女が手にしたスーツケースとビニール袋を受け取りながら問い質した。しかし真澄からは答えにならない返事が返ってくる。


「ここのマンションの玄関前に、家の車を路駐させてるのよ。周囲の迷惑にならないうちに、動かさないと拙いでしょう」
「あの、ですから、どうして私が同行する必要があるんですか?」
 玄関で必死に抵抗した恭子だったが、真澄はここで真顔になり、恭子を壁に押し付けて胸倉を掴み上げつつ恫喝した。


「黙って私に付いて来なさい。そうしないなら、怒ったあなたに階段から突き落とされて転落したって清人に言うわよ?」
「なっ!?」
「そうしたらあなたがどこに逃げても、清人は全国津々浦々手段を選ばす探索の手を伸ばして、私から逃げた事を心底後悔する羽目になると思うんだけど、それでも良いの?」
(ちょっと待って! もし本当に、そんな事を先生に言いつけられたら……)
 彼女の夫で自分の雇い主がどういう人間かを知り尽くしていた恭子は、そうなった時の危険性を正確に把握し、あっさり降伏した。


「……是非、お供させて下さい」
「最初から素直にそう言いなさい。時間の無駄よ。さあ、さっさと靴を履いて」
 神妙に頭を下げた恭子を傲岸不遜な態度で見下ろした真澄は、一足先に靴を履いて廊下へと出て行った。


(何て無茶苦茶な……。真澄さん、最近女王様っぷりが加速してませんか?)
 これは絶対結婚相手の影響だと心の中で毒吐きながら、恭子は急いで靴を履き、スーツケースとビニール袋を手にしてマンションをあとにしたのだった。





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