話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

世界が色付くまで

篠原皐月

第36話 激情

「はい、営業一課柏木です」
「浩一さん、大至急こちらに来て下さい」
 内線を取り上げて対応したものの、色々すっ飛ばして一方的に用件を切り出された浩一は面食らった。しかし電話の相手が母の遠縁でもあり、小さな頃から家族ぐるみで付き合いのある社長秘書である事が声で分かった為、慎重に問い返してみる。


「大江さん、ですよね? こちらに、とは言うのは、社長室にでしょうか?」
「ええ、あの……、はい、そうですね。すみません、社長がすぐに呼べと仰って」
(珍しいな。いつも冷静な大江さんが、ここまで取り乱しているなんて)
 どうやら浩一が問い返した事で、自分の申し出が言葉足らずだった事を認識したらしく、相手は更に狼狽したらしかった。それを疑問に思いつつ了承の返事をする。


「分かりました。今すぐ向かいます」
「宜しくお願いします」
 ホッとした声が耳に届いてから浩一は受話器を戻し、立ち上がりながら斜め前に座っている部下に声をかけた。


「鶴田さん、少し席を外します。社長室に居ますので、至急の用件があれば内線で連絡を下さい」
「分かりました」
 そう断りを入れて廊下に出た浩一は、何の用事だろうと考えつつエレベーターに向かったが、ほどなくその疑問は解消された。


「……清人?」
「やあ、偶然だな」
 やってきたエレベーター内に一人で立っていた相手が平然と挨拶してきたが、乗り込んだ浩一が目的階のボタンを押そうとして操作パネルを振り返った瞬間、そこが既に点灯している事に気付いて呟く。
「……偶然じゃないな」
 その意味する所を悟った清人は、扉が閉まって上昇を始めたエレベーターの壁に背中を預けながら、腕を組んで苦笑いを漏した。


「お前も呼ばれたか」
「ああ。それに大江さんの様子が変だった」
「それは同感だ」
 そしてゆっくり背後を振り返った浩一が、清人と顔を見合わせて確認を入れた。


「……そういう事だと思うか?」
「だろうな。ちょっとやそっとの事で切れるなよ?」
「努力はする」
 硬い表情で応じた浩一に、清人は腕を組んだまま溜め息を吐き出す。


「お前は一見良識派だから、タチが悪いんだよな」
「フォローしてくれるんだろ? 頼りにしてるよ、お兄ちゃん」
「こんな時だけ兄扱いか。最近、本当にふてぶてしくなりやがって」
 あまり深刻ぶるのもどうかと茶化す様に言ってみた浩一に、思わず清人も表情を崩す。しかしエレベーターを降りてからは二人とも瞬時に真顔に戻り、揃って歩き出した。


「失礼します。入ります」
「あ、お二人で来て下さったんですね」
 二人で社長室の前室に入室した途端、そこに控えている大江が、あからさまにホッとした表情を見せた為、浩一は一応子細を尋ねてみた。


「大江さん、社長に何かありましたか?」
「それが……、朝は普通でしたが、商談先から戻られてからもの凄く不機嫌で」
 そう言って当惑している大江に、清人が問いを重ねる。


「因みに出向いた先はどこですか?」
「永沢地所です」
(なるほど……、完全に読めたな)
(あの馬鹿女が、親に泣きついたか)
 それで大方の事情を察した二人は目配せし合い、大江に言い聞かせた。


「大江さん、これから多少揉めると思いますが、心配しないで下さい」
「それから俺達が社長室から出て来るまでは、誰も取り次がない事。良いですね?」
「はい、分かりました」
 余計な事は聞かず、緊張気味の表情で大江が頷いた事を確認し、二人は奥の社長室に続く扉を叩いて声をかけた。


「浩一です、失礼します」
「入れ」
 その声に二人は扉を開け、一礼してから雄一郎の机の前に進んで挨拶したが、不機嫌極まりない声が返ってきた。


「社長、何かご用でしょうか?」
「私達を同時に呼び出す様な用件が、通常業務でありましたか?」
「……三文芝居は止めろ」
 そして雄一郎が、手にしていた大判の封筒の中から何かの書類の束を引っ張り出し、机越しに二人の前に投げ捨てた。床に散らばった大量の書類の中には写真が十枚以上混在しており、その中の一枚が買い物中らしい浩一と恭子のツーショット写真である事を見て取った二人は、自分達の予測が間違っていなかった事を確信する。
 当然下手に弁解などせず、様子を見る事にして二人は無言を貫いたが、雄一郎は息子達が何か反応するのを期待していた訳では無いらしく、腹立たしげに話し始めた。


「先程、永沢地所に出向いたら、会長にこれを渡されてな。『子供の躾がなってない』だの『女を囲うにしても趣味が悪い』だの言いたい放題言われてきたぞ。挙げ句の果て、『そちらの娘に土下座させて謝罪させるなら、娘に対する無礼な振る舞いは水に流してやっても良い』とかほざきやがった」
 それを聞いた清人は無言のままその顔にはっきりと怒りの表情を浮かべたが、浩一は慎重に問い掛けた。


「それで、父さんはどう答えたんですか?」
 その意図する所は、例え自分の父親と言えど、姉に頭を下げさせる様な理不尽な真似をさせるなら容赦はしないと言う問い掛けだったが、浩一の予想に反して雄一郎は当然の如く告げた。


「真澄は私などよりも、余程物の道理を弁えている人間だ。間違っても他人の威光を嵩にきて横柄な態度を取ったりしないし、よほどの事が無ければ他人を誹謗中傷したりはせん。それは真澄が柏木産業に入社して以来の事で、親の欲目抜きで分かりきっている。あれが暴言を吐いたと言うなら、よほど腹に据えかねる言動があったと言う事だ。誰が真澄に土下座などさせるか!」
「そう仰ったんですか?」
 多少意外に思いながら清人も問いを発すると、雄一郎はきっぱりと言い切った。


「当たり前だ。見合いの話があっただけで、すっかり婚約者気取りの頭の軽い女と真澄を同列に語るなど、それだけで噴飯物だ。永沢地所との提携話も、綺麗さっぱり白紙にしてきた」
「それは……、さすがに揉めませんか? この話は神楽専務が力を入れて進めていた筈ですし」
「柏木産業の社長は私だ! 誰にも文句は言わせん! 第一、この数十年で裏で汚い手を使ってのし上がってきただけの、品性下劣なハイエナ如きにすり寄らなければ生き残れない程、柏木産業は落ちぶれてはおらん!! あんなのと短期間でも真面目に提携話を進めていたなど、私の人生の汚点だ!!」
 軽い懸念を告げた清人を、雄一郎は予想外の強い口調で叱りつけ、思わず二人は口を噤んだ。


(あの時、姉さんが口にした台詞と似ているな……。父さんまで本気で怒らせたか)
(娘が娘なら、親も親だな……。相当暴言を吐いたらしい)
 そんな事を考えながら黙り込んでいると、頭の中を切り替えたらしい雄一郎が、今度は清人の弾劾に取りかかった。


「もうこの話は終わりだ。……清人、よくもふざけた真似をしてくれたな? 真澄を誑かしただけでは飽きたらず、自分の愛人を浩一に近付けて何を企んでる。さっさと吐け!!」
「お義父さん、それは」
 拳で机を叩きつつ怒声を浴びせてきた雄一郎に対し、清人は穏やかに相手を宥めようとしたが、浩一がそれに割り込む。


「父さん、それは誤解です。清人は」
「お前は黙ってろ。余計に話がこじれる」
「浩一、黙れ。あっさり騙されるなど情け無いにも程があるぞ。お前への叱責は後からたっぷりしてやる」
 その物言いに早くも我慢の限界を感じつつあった浩一は、清人が止める間もなく、語気強く言い放った。


「清人が叱責される筋合いはありません! そもそも俺が無理を言って、頼みを聞いて貰っただけです!」
「何だと?」
「浩一!」 
「加積氏の所に居た彼女を、引き取って貰うように俺が清人に頼みました。その際先方に渡した額の半分強を俺が出していて、清人に立て替えて貰った分も少しずつ返しています。勿論彼女が清人の愛人云々と言う事も、事実無根です」
 そこで雄一郎は真剣な表情で一気に言い切った息子から、片手で額を押さえた清人に視線を向けた。


「……本当か?」
 その問い掛けに、清人は小さく肩を竦めてから、疲れた様に応じる。
「ええ。浩一からの返済記録をご覧になりますか? 愛人云々については立証のしようがありませんが」
「どちらも必要無い」
「そうですか」
 それで清人との会話を終わらせた雄一郎は、鋭い視線で浩一を射抜いた。


「それで? お前が大金を払って引き抜いた彼女と、今現在一緒に暮らしているのは分かったが、身体の関係は有るのか?」
「そんな事まで一々報告する義務は無いかと思いますが?」
 眉を寄せて如何にも不愉快そうに回答を拒否した浩一だったが、雄一郎はそれで答えを察したらしかった。


「そうか……。それなら彼女への手切れ金は、感謝の気持ちを込めてはずんでやる」
 吐き捨てる様にそう雄一郎が口にした瞬間、室内の体感気温が一気に低下した。


「手切れ金など渡すつもりはありません。近いうちにきちんと話をして、彼女と結婚するつもりです」
 明らかに怒りを内包した浩一の声にも、雄一郎はそれ以上の侮蔑感を含ませた口調で応じる。


「……笑えん冗談だな」
「生憎と本気です」
 刻一刻と室内に緊張感が満ち満ちていたが、ここで雄一郎が盛大に両手で机を叩きながら立ち上がり、浩一に向けて決定的な一言を放った。


「ふざけるな! どんな男の手垢が付いたか分からん様な、そんな薄汚い女、うちの嫁に迎え入れる事などできるわけが無いだろうが!! いい加減目を覚ませ!」
「浩一、止めろ!!」
 雄一郎の叱責の台詞を聞いた途端、顔色を変えた浩一は素早く机を回り込み、反応が遅れた清人の目の前で渾身の力を込めて、雄一郎を殴り倒した。


「なっ! ぐふっ……」
「お義父さん! 大丈夫ですか!? 浩一! ちょっと落ち着け!」
「離せ! 親父を庇うなら、纏めてお前もぶっ飛ばすぞ!」
 両腕で暴れる浩一を背後から羽交い締めにしつつ、口の中が盛大に切れたか、下手したら歯が折れたらしい雄一郎が、床に倒れたまま口から少量ながら血を吐き出したのを見て、清人は顔色を変えた。そこにノックの音と共に、大江が顔を出す。


「社長、今変な物音がしましたが、どうか……。きゃあっ!! 社長! どうされたんですか!?」
 ヨロヨロと四つん這いになって浩一達とは反対側から机を回り込んだ雄一郎が、盛大に顔を腫らしているのを見て大江が悲鳴を上げた為、清人は反射的に叱りつけた。


「ドアを閉めろ! それからここには暫く誰も入れるな!! ぐぅっ……」
 叫んだせいでできた隙を逃さず、浩一が踵で清人の脛を蹴りつけ、続けて腕の拘束を力尽くで外して鳩尾に肘を、顎に拳を立て続けに叩き込む。まともにそれらを喰らった清人が蹲ると、浩一は目の前の倒れた革製の重厚な椅子を元の様に起こして、それを押しつつ机を回り込み、完全に腰が抜けたらしい雄一郎の前に立った。


「こっ、浩一?」
「彼女が好き好んでやってたとでも思うのか!? コソコソ玄人女に手を出しては、女房に筒抜けの間抜け親父にだけは言われる筋合いはねぇぞ!!」
「ぐあっ!」
 雄一郎を怒鳴りつけながら浩一が引きずってきた椅子を力一杯蹴りつけると、それは雄一郎に勢い良く衝突して彼を押し潰した。その下から何とか這い出した雄一郎の頭上で、壁際に置いてあった木製のコート掛けを握り締めた浩一が、それを振り下ろそうとする。


「……ぶっ殺してやる」
「ひぃっ……」
「お義父さん!」
 理性の欠片も無い様子の息子を見て、恐怖で固まった雄一郎だったが、それなりに重量のあるポール部が振り下ろされた瞬間、それと雄一郎の間に滑り込んだ清人の腕が、彼への激突を阻んだ。


「邪魔をするな、清人」
 無表情で見下ろしてきた浩一に、咄嗟に腕を組んで受け止めた箇所の衝撃に顔を盛大に顰めつつ、素早く両手でポールを握り直した清人が、切実な口調で告げる。


「本音を言えばあまり邪魔したくは無いんだが、ここでお義父さんを見捨てたら真澄に捨てられるからな」
 そんな身も蓋もない言い分を聞いた浩一は、その顔に酷薄な笑みを浮かべた。


「そうか……。じゃあ姉さんには、清人は立派に親父を庇って死んだと伝えてやる。勿論再婚相手も見繕ってやるし、真一君と真由子ちゃんの面倒も見るから、心置きなくあの世に行け」
「それはありがたくて、涙が出るなっ!!」
「うっ……」
 清人は叫ぶと同時に力一杯引いていたポールを逆に勢い良く押し出して手を離し、浩一がバランスを崩して怯んだ隙に体当たりをして床に転がした。


「この野郎……、あくまで邪魔をする気か! 二人纏めて息の根を止めてやる!」
「ったく! あれほど切れるなと、言っておいただろうが、このど阿呆がっ!!」
「浩一……」
 呆然自失状態の雄一郎の前で、二人で社長室の床に転がりながら、本格的な殴り合いの喧嘩に移行しかけた所で、場違いなメロディーがその殺伐とした空間に響き渡った。


「……ちぃっ! こんな時に。離せ!」
 その着メロに反応した浩一が、自分を突き飛ばしてスマホを取り出すのを見ながら、清人は多少疑問に思った。


(バッフェルベルのカノン? この状況で浩一が反応するなら、川島さんの設定だろうが……。彼女だったら勤務時間中に、そうそう電話をかけてこないと思うが)
 しかしこの機会を逃すかと、ゆっくり雄一郎の方に移動し始めた清人を目で追いながら、浩一は淡々と通話に応じた。


「もしもし?」
「あ、浩一さん、今、大丈夫ですか?」
 清人の予想通りそれは恭子からの着信だったが、浩一は短く断ってそれを切ろうとした。


「全然大丈夫じゃない。取り込み中だから切る」
 まさか常には無い乱暴さでぶった切られるとは予想していなかったらしい恭子は、電話越しに焦り捲った声を上げた。
「え!? ああぁ、すみません、ちょっと待って下さい! 実はほんの少しだけご意見を伺いたい事がありまして!」
「……手短に」
 浩一の状態がいつもと異なるのは短いやり取りでも十分把握できた為、恭子はきびきびと用件を口にした。


「はいっ! 実は今日、近所のスーパーが挽き肉全品ニ割引の特売日なんですが、今日の夕飯にハンバーグ、あんかけ肉団子、餃子、肉そぼろ、鶏団子鍋、その他諸々挽き肉使用の料理で、何が食べたいですかっ!?」
「……挽き肉?」
「はい!」
 一瞬当惑した浩一に、恭子が力一杯答える。すると浩一は壁際に放心して座り込んでいる父親と、それを庇う様に控えている清人を冷たく見下ろしつつ、淡々と告げた。


「そうだな……、いっそ挽き肉にしたら、気が晴れるかもな」
「は? どう言う意味ですか?」
「いや、こっちの話だ」
(やっぱり電話の相手は彼女だと思うが、挽き肉って……。このシチュエーションで何の話をしてるんだ!?)
 浩一の呟きしか聞き取れない清人は顔を引き攣らせたが、浩一は無表情のまま話を続けた。


「じゃあ何が良いですか? それによって買う物が牛か豚か鶏か決まってきますので……」
「何でも。任せる」
「えっと……、それじゃあハンバーグを作る事にして、牛肉を買いますね。それでソースはデミグラス、和風醤油、おろしポン酢のどれが良いですか?」
「血が滴るデミグラスソース」
(だから、この極限状態で、何の話をしてるんだお前達は!?)
 本格的に怒鳴って問いただしたい気分になった清人だったが、電話の向こうでも先ほどから浩一の異常をはっきりと感じ取っていた恭子が、困惑しきった声を出してきた。


「あの……、浩一さん。デミグラスソースに血は入っていないと思います」
「そうだったか? まあ、どうでもいい。それじゃあ」
「あ、あのっ! 最後にもう一つ質問が!」
「何?」
「デザートに食べたい物はありますか?」
「君」
「………………はい?」
 何かの聞き間違いかと思わず間抜けな声を出した恭子に、浩一はすこぶる冷静な声で会話の終了を告げる。


「冗談。じゃあ切る」
「あのっ! 浩一さん!?」
 慌てて呼び掛ける恭子の声を無視し、今度こそ浩一は通話を終わらせスマホを元通りしまい込んだ。
「…………」
 そして再び冷え切った視線を向けてきた浩一に、雄一郎と清人は肝を冷やしたが、ひとしきり全く関係の無い会話をした事でやる気が削がれたのか、無言のまま部屋を出て行く。それと入れ代わりに、蒼白な顔の大江がドアを開けて入って来た。


「今、浩一さんが出て行かれましたが、どうなさったんですか!?」
「取り敢えず血を拭き取るので、濡れタオルを持って来て下さい。それと、社長は派手に転んだ事にして、医務室に連れて行きます」
「分かりました。それは構いませんが、清人さんもお怪我をされてますよね?」
「大丈夫か?」
 心配そうに大江が尋ねた事で、漸く思い至ったらしい雄一郎も具合を尋ねてきたが、清人は苦笑しながら二人を宥めた。


「何とか折れてはいませんし、見えない場所ですから心配要りません」
 そこで携帯の着メロが鳴り響き、それが自身の携帯で真澄用に設定している《花のワルツ》だった為、雄一郎に断りを入れる。
「すみません、真澄からですので」
「ああ」
 そしてまだ失調している雄一郎を大江に任せて通話ボタンを押すと、かなり切羽詰まった真澄の声が清人の耳に飛び込んできた。


「もしもし? 清人、大丈夫!?」
「真澄? ここで何が有ったか知ってる様な口振りだな。どうしてだ?」
 軽く目を見張って驚いた清人に、真澄が電話越しにたたみかける。


「さっき大江さんからお母様に、浩一が社長室でお父様と清人相手に大暴れしてるって連絡が入ったの。それでお母様から『大至急恭子さんから浩一に電話をかけさせなさい』と言われて、わけが分からないまま適当に理由を付けて恭子さんにニ・三分浩一と話して貰う様に頼んだんだけど、一体どういう事? お父様も清人も無事でしょうね!?」
(玲子さん、流石です。相変わらず抜け目が無いと言うか何と言うか……、何をどこまで知ってるんですか?)
 大江からの報告で浩一と恭子を直ちに結び付けた上、その時点で最善の処置を取った義理の母に、清人は内心で感嘆しつつ傍らを振り返った。


「大江さん、お義母さんに報告してくれたんですね。適切な処置でした」
「いえ、私はもうどうして良いか分からず、狼狽えてしまいまして。玲子さんだったら何とか対処してくれるかと思ったものですから」
「十分冷静に判断されてますよ」
 まだ動揺している顔付きのまま、雄一郎の顔を拭いていた大江を宥めつつ賞賛すると、話が分からずに苛ついた真澄が、声を荒げて呼び掛けてくる。


「ちょっと清人、どうしたの!?」
 その怒声に、清人はしみじみとした口調で応じた。
「いや……、今回は、女性四人の見事な連携プレーで事なきを得たな、という話だ」
「お願いだから分かるように説明して!」
 殆ど悲鳴じみた声を真澄が上げた所で、清人が端的に事情を説明した。


「要は、彼女の事が分かってお義父さんがプチ切れ状態になったら、あいつが見事にブチ切れたってだけの話だ」
 それを聞いた真澄は、電話の向こうで深い溜め息を吐いた。


「それを、体を張って止めてくれたわけね」
「ああ。危うく殺されかけたがな。頭は冷えたと思うから、取り敢えずは大丈夫だろう」
 その状況判断に真澄は気を取り直し、これからするべき事を口にする。


「そう……、分かったわ。怪我をしたのよね。ちゃんと診て貰ってよ? それから恭子さんにはかなり無茶苦茶な事を言ってお願いしたから、これからもう一度電話をかけて誤魔化しておくわ」
「ああ、頼む。俺はこれからお義父さんを連れて、医務室に行く」
 そうして真澄との通話を終わらせた清人は、未だ顔色の悪い義父を見下ろしながら、無意識に溜め息を吐いた。





「世界が色付くまで」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く