転移したのに人間じゃない!?

逢夢

第53話 ウンター・ヴェルト 紅事件 一欠片の願い

少年を救うべく、生い茂った蔦に手をかけた。
“ダメだ……君も飲まれるぞ………”
少年の微かな声が聞こえた時には
自分自身も生い茂った蔦に絡め取られていた。


そして、その蔦から伝わってくるのは
老若男女の思想。
良いよりも気分を害す様なモノ、邪悪なモノが流れ込んでくる。


“抵抗するな、受け入れろ、絶望を”


少年の声ではなく、ディノスの声で聞こえてくる。
意識の世界で意識が薄れていく感覚があった。
このまま、身を委ねてもと思いかけた時
あの言葉が蘇ってきた。


「紅竜、違う俺はお前に感謝しているんだ
 だから……………………………
 ……………………………………
 ……………………………………
 生きてまた会おう。」


『ヒデは本当に面白い事を言うな…
 よかろう、わっしも本体に残り、また相見えようぞ!』


あの場面が、俯瞰の視点でイメージが広がった。
次々と溢れる場面。
紅竜との約束、アマリア、コブシとの出会い
ウルスとの出会い、ウンター・ヴェルト へ着いた時の想い


これが走馬灯なのかと可笑しくなった時
自分は消えない確信が持てた。
だから、見えた。
表面的な絶望の表現の奥、本当の奥にある感情が見えた。
それは悲しみ。その元は聖霊石の悲しみ。
人々を助けられない自分への悲しみ。
人々が邪な願いを続ける事への悲しみ。
それを止められない、悲しみ。
そしてそれがいつしか
人々が悪いと矛先が変わり
それを止められないから人々へと怒りに変わり
人々の幸せを厄災へと変わった。


その思考の流れが、今の絶望を産んでいることをヒデは気づいた。
この子はただただ、悲しかった。
それを1人で徹底的に溜め込んだからこうなったんだと。


だから、この子の想いを聞こうと意識を集中した。
全て出し切ればこの子は救われる。
その想い、一欠片の気付きは確信へと変わる。
だが、それを完遂する為には、ヒデの意識が消えない事。
その状態では身体が暴走し、全て出し切るまで身体活動を停止では無く、静止出来ること。
更に多くの条件が整わなければ、到底完遂できない。
普通なら諦める選択肢を選んだ理由、選べた理由、それは。
あの時、シオリが教えてくれたからだった。


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「迫り来る脅威を認める??」
{計算の際に、出た答えで一番の悪手だと思った事が紅竜様は
 喜んで、『それじゃ!』と仰っていましので確かかと。}
「悪手だけど、紅竜は『それだ』と言った。」
「シオリは不安だろうけど、紅竜がそういうなら大丈夫なんだろうな」
{失礼ながら、主人様は紅竜様の事をなぜ、信頼しているのですか?
 彼女は、この世界では原色竜として恐れられている竜です。}


「俺からしたら、この世界で初めて会った人物なんだよ
 そして、色々救ってくれた恩人でもあるしでも、なんでだろうな??
    なぜか信じたいと思っているだよ。」


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紅竜から始まり、いつの間にかシオリ、アマリア、コブシや皆がいる。
頼れる仲間がいること、その仲間を信じれることがヒデがこの危険極まりない選択を選んだ
たった一つの理由だった。



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