文化研究部

ポリ 外丸

第10話

「おっ!? 始まってる……」


「おぉ、陸か……」


 今日弟の海がフットサルの試合をするというのを聞いていた陸は、父兄でサッカー部OBだから構わないだろうと、暇つぶしに試合を見に来た。
 すると、そこには父親と仲の良い剣道部顧問の山田が試合を見学していた。
 陸がこの高校のOBであることは知っているので、その姿を見た山田も細かいことは言わないことにした。


「先生も見に来たんすか?」


「あぁ……」


 問題児扱いされているが、中学生の時から知っている善之たちのことが心配なのだろう。
 剣道部の練習は生徒たちの自主練にさせ、こちらを見に来たらしい。


「開始1分で2得点か……」


「お前から見てどっちが勝ちそうだ?」


 タイムキーパーの所にある時計と、得点ボードを見て現在の状況を確認する陸。
 その陸に、山田は試合の状況の解説を求めてきた。


「開始この点数なら、海たちからしたらまずまずの出足じゃないですかね……」


「サッカー部の方は?」


「まぁ、特に対策なんてして来なかったんでしょう。色々まだ慣れていない感じですかね……」


 サッカー部を相手に戦うとしたら、開始早々を狙うと良いということは陸も考えた作戦だ。
 そのため、先に点を取るとしたら海たちになることは予想できた。
 点を取られたサッカー部の方に関しても、選手たちの動きが思っていた通りの感じに見える。
 そもそも、いつもは土の上でボールを扱うサッカー部が、いきなりワックスの利いた体育館でボールを扱うとなると、微妙に違う感覚に戸惑うのは仕方がないことだ。
 しかも、ボールのサイズも小さく、弾まない。
 慣れるのには、もう少し時間がかかるだろう。


「……というより、海たちは前半どれだけ点が取れるかに懸かってますからね」


「どういうことだ?」


「……それを言ったら面白くなくなるので言わないでおきます」


「……そうか。じゃあ、聞かないでおこう」


 陸がこのように山田へ説明をしていると、いつの間にか周囲の野次馬の生徒たちが聞き耳を立てていた。
 それが気になったからか、陸は解説するのを一先ず止めておいた。
 山田の方もそれに気付いたため、続きを聞くのを躊躇った。










「陸さん来てるな……」


「面白がってたからな……」


 善之がサッカー部のパスをカットしようとしてタッチラインからボールが出た所で、偶々コートの外の陸が目に入った。
 それを海に教えると、海も陸のことに気付いたようだ。
 今日のことは陸にも教えたので、善之たちと共にサッカー部と試合するということは知っている。
 それを伝えた時に、何だか面白いことを聞いたような表情をしていたので、もしかしたら見に来るきなのかと尋ねたくなった。
 しかし、OBだからと言って勝手に高校に入ってくるとは思っていなかったのだが、考えが甘かったようだ。
 学年主任の山田が隣にいるので、締め出されることもないだろう。
 締め出される兄という、みっともないことが起きなくて、海は一先ず安心した。


「まぁ、楽しんでもらおうか?」


「だな!」


 陸のことを気にしていても仕方がない。
 面白がってわざわざ来たのだから、その期待に応えようじゃないか。
 その思いから、善之は海と共に試合に集中することにした。


「チッ!」


 サッカーの場合、タッチラインから出たボールはスローインで試合が再開されるのだが、フットサルの場合はキックインで再開される。
 善之が触ったので、サッカー部側がキックインをすることなったのだが、善之たちがキッチリマークをしているからか、キックインするタイミングがつかめないようだ。


“ピッ!!”


「えっ?」


「4秒オーバー!」


 審判の笛が鳴り、キックインしようとしていたサッカー部員は驚きの表情になる。
 というより、サッカー部員のほとんどが何が起きたか分かっていないようだ。
 キックインのタイミングを探っていたようだが、これもサッカーと違う所だ。
 フットサルのキックインの場合、4秒ルールというのが存在する。
 ボールをセットしてから4秒以内でキックインしないと、相手ボールになってしまうのだ。
 サッカー部の連中はフットサルルールも勉強してこないと思っていたが、予想通り何故笛が鳴ったか分からないようだ。


「ハリー(Hurry)!」


「えっ?」


 ルールの説明なんてしている暇なんてないし、そもそもこちらが教えてやる義理もない。
 こっちボールのキックインになった瞬間、善之たちは行動を起こす。
 サッカー部員たちが、何だか分からないといった表情をしているうちに竜一がキックインを始め、あっという間にゴレイロと1対2の状態に持って行った。


「くっ!!」


 この状態でゴレイロができるのは、ボールを持つ善之との距離を縮めてシュートコースを消すだけ。
 至近距離の弾丸シュートを食らったら痛いが、我慢すればいいこと。
 サッカー部のゴレイロは、意を決して前へ出た。


「ほいっ!」


「ごっつあん!」


 そんなゴレイロを嘲笑うように、善之は並走していた海へパスを出す。
 そのパスを受けた海は、ゴレイロが前へ出たことによってがら空きになったゴールへボールを転がし得点した。


「……何なんだ?」


 どうやらサッカー部の連中は、まだ4秒ルールで相手ボールになったということが分かっていないようだ。


「先輩! 4秒以内にキックインしないと相手ボールになるんスよ!」


「えっ? マジかよ……」


 試合をしている先輩たちが、全くルールを覚えて来ていないことに気付いたのか、善之と同じクラスでサッカー部員の瀬田が声を出す。
 それによって、ようやくサッカー部員たちは今の笛の意味が分かったようだ。


「思った通りだったな?」


「フットサルのルールくらい覚えて来いっての!」 


 瀬田にはまだ教えるなよと言いたいところだが、バレてしまっては仕方がない。
 今更ながらに自分たちがルールを覚えて来ていないことに気付いたサッカー部員たちに、善之たちは逆なでするように言い放つ。
 しかし、この結果も善之たちの予想通りだ。
 慣れないルールとプレーで実力を出し来る前のサッカー部員から貰えるアドバンテージとしては、これ位は妥当だろう。
 しかし、


「そろそろかな?」


「あぁ……」


 サッカー部員を相手に、善之たちが好き勝手出来るのもここまでだろう。
 善之たちもそれが分かっているので、これまでのような戦い方ではなく、陸たち大学生を相手にするような感覚へと意識を変えたのだった。





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