文化研究部

ポリ 外丸

第1話

”ウィーン“


 自動ドアが開き、1人の少年が店内に入って来る。


「遅ーぞ! 黒!」


 室内で集まっていた4人の少年の内の1人が、入ってきた少年に向けて手を上げる。


「悪い。ちょっと担任に捕まっちまって……」


 黒と呼ばれた少年は、4人の方に頭を掻きながら向って行く。
 集まった5人は、同じくらいの年齢の見た目をしていて、恐らく中学生に見える。
 5人とも目付きや態度を見ると素行が良いようには見えないが、現在の時刻的は午後7時、中学生が外で遊ぶには遅すぎる時間帯だ。


「早く着替えようぜ!」


「「「お前が言うな!」」」「……」


 遅れて来た本人が急ぐような指示をした事に、他の3人がツッコミを入れ、一番背の低い少年だけは、無言のままその様子を冷めた目で見ていた。
 そんなやり取りをした後、少年たちは更衣室へと入って行った。


「お~う! 悪ガキども、今日も来たか?」


 5人が、動きやすい格好になって更衣室から出てくると、大学生くらいの年齢の男性が声をかけて来た。


「今日は勝つよ!」


「いくら何でも、まだお前たちには負けねえよ!」


 軽く言いあった後、少年たちはそれぞれの位置に着く。


「よ~し! 始めるぞ!」


 その青年の掛け声によって、全員が準備OKの合図をした。


“ピ~!”


 笛の音と共にキックオフされた。
 少年たちが今いる場所はフットサル場。
 対戦相手は大学生のチームで、当然開始されたのはフットサルだ。


 まず、フットサルというスポーツを説明しよう。
 フットサルとは、簡単に言うと5人対5人で戦うミニサッカーである。
 ルールは少しサッカーとは違うところがあるが、それはその都度説明したいと思う。
 サッカーよりもコート、ボール、ゴールが小さくなっており、ボールはあまり弾まないようにもなっている。
 サッカー同様フォーメーションが存在していて、トランプのダイヤの形をした1―2―1が一番基本的な形になっている。
 そのフォーメーションの前線をピヴォ、中盤をアラ、後列をフィクソと呼ばれていて、それぞれ役割が変わって来る。
 まずはピヴォ、ポルトガル語で軸、中心の意味があり、役割は敵を背負って起点になる事と、攻撃の最前列に位置する事からポストプレーとゴールゲッターの役割が求められる。
 次にアラ、ポルトガル語でサイドの意味であり、攻守においてバランスを取り、最も運動量が必要でパスやシュートと、オールラウンダーな素質が必要になっている。
 次にフィクソ、ポルトガル語で舵取りの意味であり、攻撃においては司令塔としてパスを配給する役割、守備においては相手の攻撃を防ぐディフェンダーとしての能力が求められるポジションだ。
 最後にゴレイロ、ゴールキーパーの事で、サッカー同様ゴールを守る番人だが、サッカーとは違い体格は必要とされず反射神経が一番要求されるポジションだ。


 次に少年たちを紹介しよう。
 ピヴォの位置にいる少年は、黒田善之。
 髪の毛をツンツンに立てた髪型をしていて、少し目つきが悪いが、中々整った顔立ちをしている。


 右のアラの位置の少年は、中原海。
 このフットサル場の経営者の息子で、少し長めの髪を7:3に分けていて、垂れ目をしているせいか5人の中で一番優しそうな雰囲気を醸し出している。


 左のアラの位置の少年は、土門竜一。
 髪の毛をオールバックにしていて、眉も上がっているせいか善之よりも目つきが悪く感じる。


 フィクソの位置の少年は、相田優介。
 サラサラの髪をセンター分けにしていて、童顔で可愛らしい顔立ちをした無口な少年である。


 ゴレイロの少年は、大岩勝也。
 短髪で少し頬骨が張っており、ガッシリした体格をしている。
 本人は目が小さいことを少し気にしている。


 5人とも中学3年生で、本来ならばこんな時間に外に出ていては良くはないのだが、先程も言ったように、ここは海の自宅が併設されたフットサル場だ。
 その両親がこの施設の受付にいる事から、みんな見逃している。


「海!」


 善之がゴール正面に立ち、相手を背負いながらボールを要求する。


「黒!」


 海は敵を躱し、善之へパスを送る。
 そのパスは善之の右足にピタッと収まり、ボールを受けた善之は、シュートを打つべく背後のゴールに向けて反転しようと右に体を傾けた。
 反転させまいと、相手のディフェンダーはしっかり反応したが、気が付いた時には善之の足元にボールはなくなっていた。


「っ!?」


 ディフェンダーがボールの行方を捜すと、善之の動きに釣られて動かした視線の反対側に転がっており、そこには竜一が走りこんでいた。


「ハッ!」


“ドカッ‼”


 ほとんどフリーの状態の竜一は、思いっきり右足を振りぬく。


「っ!?」


 そのシュートに相手ゴレイロも手を出して反応をするが、その手の少し下を通ってボールはネットを揺らした。


“ピピ~ッ‼”


「終~了!」


 ゴールした所で時間になり、審判が試合終了の合図をした。


「えぇっ!?」


「もう終わり!?」


 終了の合図を受けて、善之と竜一は物足りなさそうな声を上げる。


「また負けかよ……」


 優介や海も、試合が終わり一気に疲労が来たのか、息を切らして下を向いていた。
 海が言ったように、大学生チームとの対戦の結果は5対2、少しの上下があるが、善之たちはいつもこのくらいの点差で負けている。


「次のお客さんが来るから早く場所開けろよ」


「「「「「は~い」」」」」


 いつも通り2時間のピッチ使用許可だったので、忠告を受けてた5人は返事をした。
 現在春先の時期、まだ肌寒さが残っている時期に5人はかなりの汗を掻きながら更衣室へと向かって行った。












「じゃあな!」


「「「「またな!」」」」


 更衣室でシャワーを浴びた5人の内、海を除いた4人は、外も暗いことから、先程試合をしていた大学生の一人、海の兄に車で送ってもらいそれぞれの家へと帰っていった。





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