エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第361話
「セイッ!!」
「ギャウッ!!」
振り下ろされた刀によって巨大鹿の首が吹き飛ぶ。
刀に着いた血を振り払い納刀する。
「ハァ~……」
魔物を倒し終え、ケイの孫であるラウルは大きく息を吐いた。
その周囲には先程倒した巨大鹿の魔物だけでなく、かなりの数の魔物の死体が散乱している。
「数が増えると苦労するな……」
巨大鹿の群れに遭遇してしまい、戦っているうちサイクロプスまで出現する始末。
最終的に無傷で終わったが、ヒヤッとする場面もあった。
単体ならばなんとかなるような魔物たちでも、数十体を相手にすると話は違った。
「これをずっとって、やっぱじいちゃんすげえな……」
魔王を封印した結界内に、突如ダンジョンが出現した。
封印した張本人たちが調査してみると、そこはかなり危険な魔物が蔓延るダンジョンになっていた。
ダンジョンの様子から推測するに、明かに魔王と無関係ではない。
放っておく訳にもいかないため、祖父のケイがダンジョンの攻略に向かった。
エルフ王国最強のケイが向かって2ヶ月くらい経っているが、まだ攻略の報告が入っていない。
調査した時の魔物の強さを考えると分からなくもないが、ケイですら苦労しているようだ。
「じいちゃんのためにも少しでも進んでおかないとな」
叔父のカルロスから聞いた話によると攻略もあと少しという話だ。
しかし、同じようなダンジョンはまだ4つもある。
魔王アマドルを封印したこのダンジョンも攻略しなくてはならないのだが、祖父のケイにばかり苦労を強いるのは孫として心苦しい。
国の仕事は父や叔父、それに兄のファビオがおこなっているので、自分が手伝わなくても何とかなる。
ならば、手の空いている自分が、ケイのダンジョン攻略の手助けをするべきだと考えた。
少しでも攻略を進めてケイが来た時に転移で連れて行けば、かなり時間の短縮になるはず。
従弟のオスカルが、自分の方が暇だから自分が行くと言っていたのだが、彼は封印魔法に関わっていないため、結界内を自由に出入りできる訳ではない。
結界内に入ったら攻略するまで出られなくなると考えると、オスカルに任せるわけにはいかないため、自分が名乗り出たという理由も1つある。
「先に向かうか」
ダンジョンに入って1週間。
まだ5層までしか進んでいない。
キュウやクウを連れているとは言っても、ケイは1か月で半分近くまで攻略したという話だ。
それと比べると、全然スピードが違う。
そもそもケイと比べることでもないが、やはり目標の1つにしてしまう。
無理をしするつもりはないが、少しでも先へ進もうと、ラウルは休憩を終えて先へ向かうことにした。
「おわっ!! 何だよこれ!!」
ケイのために先へ進もうという意気込むラウルに冷水をかけるように、すぐさま罠が発動する。
何か踏んだと思ったら、四方から液体が飛んできた。
避けることも出来ず受けると、ネバネバとした粘着質により身動きができなくなる。
鑑定で毒がないと分かっていたが、この性質までは分からなかったラウルは、イラ立ちつつもこの液体から逃れようと動く。
“カサカサ……!!”
「だろうな……」
木の葉がこすれるような音が聞こえ、そちらに目を向けたラウルは納得したように呟く。
粘着質の液体を出すような魔物といって、最初に思いついた存在が、音の鳴った場所に存在していたからだ。
「蜘蛛の糸に囚われたってわけか?」
飛んできた液体は蜘蛛の糸。
それを放った蜘蛛数体が、ラウルの周りを取り囲んでいた。
「シェロブって事は……」
ラウルを捕えた蜘蛛の魔物の種族名はシェロブ。
毒を持つ危険な巨大蜘蛛だ。
国にある魔物辞典で見たことがあったため、ラウルはこの魔物のことを知っている。
なので、糸で捕えた獲物に対して、この魔物が次に何をしてくるのかも分かっている。
“シャッ!!”
「やっぱりか!」
ラウルを取り囲むシェロブたちは、尻尾の部分から毒針を出して近付いてきた。
この毒針により、得物を麻痺して動けなくして捕食する。
思った通りの行動に、ラウルは顔を青くした。
ケイや父のレイナルドの指導の中には、毒に対する訓練もあった。
わざと少量の毒を摂取することにより、耐性を付けるというものだ。
それによって、ラウルには色々な毒の耐性が付いており、即死することはほぼない。
しかし、それは即死しないだけで、ちゃんと効いているということだ。
シェロブの毒を受けてもすぐには効かないだろうが、そのうち動けなくなる。
そうなれば、完全にシェロブの餌確定だ。
「喰われてたまるか!」
逃げようにも、糸に絡まり動けない。
このままでは餌にされてしまうため、ラウルはある行動をとることにした。
「っ!!」
ラウルの突然の行動に、シェロブたちは戸惑うような反応をする。
というのも、糸に絡まれたラウルが、自ら発火したからだ。
「ぐうぅ……」
少しして火が治まると、体を火傷したラウルが立っていた。
火傷を負いはしたが、体に巻き付いていた粘着質の糸から脱出出来た。
「痛てて……、分かっていても、やっぱりきついな」
捕えられたままでは、シェロブたちに毒針をさされてしまう。
なんとか粘着質の糸から脱出するために、ラウルは魔法で自分を発火することで糸を焼却してしまおうと考えたのだ。
当然死なないように調整はしたが、それでも結構きつかった。
「こんな痛い思いさせやがって……」
罠にはまった自分が悪いのは分かっているが、火傷の痛みで怒りが湧いてくる。
この怒りを何にぶつけるのかと考えたら、すぐに答えが出た。
こんな罠を仕掛けたシェロブたちに向けるのが一番だ。
「死ねや!!」
全身に魔力を纏ったラウルは、シェロブたちに向かって両手を広げる。
そして、その両手から、無数の強力な魔力弾を発射した。
「「「「「っっっ!!」」」」」
自分たちに飛んでくる魔力弾に、シェロブたちは慌てる。
しかし、ラウルの大量の魔力弾により、成すすべなく蹂躙された。
逃げるどころか、反応することすらできず、囲んでいたシェロブたちは全滅することになった。
「ハァ~、こんなことになるなんて……」
シェロブたちを倒したラウルは、またも大きく息を吐く。
少しでも先へ進むという考えをしていたせいで、罠に気付くのが遅れた。
そのせいで火傷を負うことになった。
訓練で回復魔法を使えるようになっているため、この程度の火傷を回復することはできる。
しかし、こんなことを続けていれば、ケイが来るまでに命を落としかねない。
「……地道にいこう」
もう少しでも先にという意識をやめることにし、ラウルはここから先は確実に進むことにした。
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