エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第360話
「あと5分の1って所か……」
魔王サカリアスを封印した結界内のダンジョン。
そのダンジョンを攻略を、2匹の従魔と共に始めたケイ。
現在、80層のボス部屋を攻略し、拠点へと戻って来た。
以前倒した40層のフロアボスであるリザードマンの言うことが正しければ、あと20層攻略することでダンジョン核へと辿り着くはずだ。
「それにしても、最初の時のように攻略できなくなってきたな」
【……うん】「……クゥ~ン」
攻略を開始してから2ヵ月経った今、攻略は80層までしか来ていない。
ダンジョンの半分までは1か月で攻略できたのだが、そこからケイたちの攻略速度が少しずつ落ちていったのだ。
そのことをケイが呟くと、従魔のキュウとクウがしょんぼりしたように返事をした。
「下層に進むにつれて魔物が強くなっているから仕方がない。お前たちのせいではないよ」
攻略開始当初、たしかにキュウとクウは活躍していた。
しかし、下層に進むにつれて、2匹は出てくる魔物を簡単に倒せなくなっていった。
どうやら、そのせいで2匹は攻略速度が落ちているのだと思っているのかもしれない。
主人であるケイのために頑張らなくてはならないというのに、迷惑をかけているのではないかと落ち込んでいるのだろうか。
もしもそうだとしたら、2匹の勘違いだ。
出てくる魔物を簡単に倒せなくなったのは、単純に魔物が強力になっていっているからだ。
最近は、ここ以外のダンジョンなら、最下層のフロアボスとして出てきてもおかしくないような魔物がゴロゴロと出てきている。
そんな魔物を相手に手こずりつつも倒せているのだから、2匹は充分に役に立っている。
なので、落ち込むようなことなどは何もない。
「元気出せ」
【うん!】「ワフッ!」
しょんぼりしている2匹を励ますように、ケイは優しく撫でてあげる
ケイに撫でられるて何だか嬉しくなってきた2匹は、気分が立ち直ったのか、嬉しそうに返事をしたのだった。
「そう言えば……」
ケイは、先日孫のラウルが定期連絡に来た時のことを思いだした。
その時に、ケイが他のダンジョンの攻略をする手助けがしたいと言ってきた。
魔王復活を阻止するために、ここ以外にもあと3つ攻略しないといけないダンジョンが存在している。
ここのダンジョンをこのまま順調に攻略できたとして、3ヵ月はかかる見込みだ。
他のダンジョンの難易度も同じだとして、全部のダンジョンを攻略するのに1年かかるという計算だ。
今はレイナルドに王の座を明け渡しているとは言っても、初代国王であるケイは多くの国民から慕われている存在だ。
あまり長い間留守にされるのは、国民としても心配でしょうがない。
少しでも早く、ケイの帰国を求めているはずだ。
だからといって、ダンジョン攻略を放置しておく訳にもいかないため、どうにもならずに悩ましいことだ。
それを少しでも解決させるために、ラウルは自分が動くと言い出した。
「俺が西のダンジョンの攻略を始めておくよ」
動くといってもどうするつもりなのかケイが問いかけると、ラウルはこう返答した。
魔王を封印した結界内は、結界魔法を使用した術者しか出入りできない。
そして、ラウルが出入りできる結界は、魔王アマドルを封印した西の結界だ。
その結果内に入り、拠点となる場所の確保と、ダンジョンの上層部の攻略を開始しておくという話だった。
「ここを攻略して西のダンジョンを攻略する時、転移で送れば先に進めるでしょ?」
「なるほど……」
結界内を自由に出入りできるといっても、転移で出入りすることはできないことが確認できている。
しかし、結界内にあるダンジョンを進み、ダンジョン内のどこかに転移することは可能だ。
そのことから、ラウルが少しでも西のダンジョンの攻略を進め、ケイが攻略を開始する時に、転移で送って途中から先に進むという方法がとれるということだ。
途中から攻略できるのなら、攻略の時間も短縮できるというものだ。
たしかに良い案だと思い、ケイは思わず納得してしまった。
「じゃあ、父さんに言って開始するよ」
「あぁ……、しかし……」
「ん? なに?」
ケイが納得したのを見て、ラウルは早速西のダンジョンの攻略を開始することにした。
エルフ王国は、ケイの息子でラウルの父であるレイナルドが取り仕切っている。
そして、その補佐をレイナルドの弟であるカルロスが補佐している。
最近はレイナルドの息子でラウルの兄であるファビオも手伝いをするようになっていて、国内は何の問題もなく回っている。
レイナルドとカルロスの関係のように、次期国王となるファビオの補佐をおこなうべきなのだが、今は特にやることもないというのがラウルの現状だ。
なので、自由に動く時間があるため、ダンジョン攻略の手助けを申し出たのだ。
自分の案に賛成してくれたというのに、攻略開始を告げるとケイが難色を示した。
その理由が分からず、ラウルは問いかける。
「お前ルシアとカミロはどうするんだ?」
「大丈夫。説明してから向かうし、たまには国に戻るから」
「そうか」
ダンジョン攻略をするのはいいが、ラウルには妻も子もいる。
妻のルシアは、ケイの友人のカンタルボス王国の元国王であるリカルドの娘で、カミロはラウルの息子だ。
彼女たちをおいて、危険なダンジョンに向かうというのがケイには心配だった。
しかし、ラウルは自分のようにずっと攻略に付きっきりになるという訳ではないようなので、ケイは少し安心した。
「充分に気を付けろよ」
「分かっているよ」
ダンジョン攻略の手助けをしてくれるのはケイとしてもありがたいが、はっきり言って結界内にできたダンジョンは超危険だ。
たしかにラウルは戦闘面で優秀だが、やはり孫の心配をしてしまう。
ラウルもケイが心配して言っているということは分かるが、孫とも言っても妻も子もいる身。
もういい加減子ども扱いは勘弁願いたいため、ラウルは少し困った表情で返答した。
「じゃあね」
「あぁ」
【バイバイ!】「ワウッ!」
話が終わったことで、ラウルは西のダンジョンの攻略を開始するべくケイの下から去る。
その背中を、ケイはキュウとクウと共に見送ったのだった。
「あいつ無茶していないといいんだけどな」
あの時見送りはしたが、思い出すとやはり心配になる。
「まぁ、大丈夫だろ」
出現する魔物が魔物だけに、ケイはラウルには無茶しないように言っておいた。
ラウルも返事をしていたし大丈夫だろう。
「ラウルの心配より、自分の心配だな」
80層まで来たが、今後も魔物が強力になるはずだ。
そのことを考えると、自分たちの方が危険かもしれない。
ラウルの心配よりも、自分たちの方が気を付けるべきだと肝に銘じたケイだった。
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