エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第304話

「……グ………グゥ……!!」


「うっ! うわっ!!」


 グールだけでなくゾンビやスケルトンまで出て来たことで、人族の兵たちは手が足りなくなっているようだ。
 それでも少しずつ後退しながら数を減らしていっているのは、よくやっていると言って良いだろう。
 しかし、それでも被害を受けている。
 今も1人の兵が運悪くゾンビに群がられ、生きたまま肉を食いちぎられ悲鳴を上げていた。
 あの数に一斉に襲われてしまったのなら、助かることは無いだろう。


「あれだけいるとゾンビも面倒だね?」


「火力のない場合はそうだな……」


 グールとは違って再生する訳ではないので、物理攻撃が通用する分ゾンビの方が相手にするのは気が楽だと思えるが、集団で襲われてしまうとゾンビもなかなか相手にするのは面倒そうだ。
 単体の戦力なら当然グールの方が強くても、魔族の指示を受けて連携してくるゾンビは厄介な存在になっている。
 移動をしながら眺めているが、人族の兵がやれているのを見ると自分が同じように襲われた時のことを考えて、ラウルは気分が悪くなってくる。
 しかし、ケイはそうではないらしく、なんてことないように言っている。
 火に弱いという弱点があるという時点で、ケイには余裕があるのだろう。
 膨大な魔力を有するケイならば、強力な火炎で町の建物ごと焼いてしまえばあっという間だ。


「じいちゃんならそりゃ簡単だろうさ……」


 ケイの発言を聞いて、ラウルは白けたように呟く。
 はっきり言って、もうこの世界にケイの魔力量を超える生物がいるのか疑わしく思えてきた。
 その魔力を使った魔法は、1人で1国を相手に出来るのではないか。
 人族は必死に戦っているが、ケイなら今いるアンデッドの魔物を一発で焼き払うことができるはず。
 当然ケイが人族のためにそんなことをしてやることは無いだろうが。


「あまりゾンビに人を食わせるのは良くないな……」


「何で?」


 捕まえた人間を多くのゾンビが食らっている。
 それが芳しくないようだ。
 その理由がよく分からず、ラウルは首を傾げる。


「グールは食屍鬼。ゾンビが多くの人間を食べることで進化した姿だという話だ」


「えっ!! マジで!?」


「証明はされていないがな……」


 魔物が条件を満たしたりすると、上位の魔物へ進化すると言われている。
 しかし、証明されたわけではないので、本当かどうかは確定していない。
 その中でも、ゾンビがグールへ進化するという説が存在している。
 そんなこと聞いたことなかったラウルは、ケイの説明を受けて嫌そうな表情になった。
 物理攻撃が効くゾンビなら、多少多くても刀と魔法で相手にすることは問題ない。
 しかし、魔法で焼き殺さないといけないグールは、魔力の量が勝敗のカギになる。
 下手に無駄打ちしたら魔力が尽きて、グールの餌食になってしまう。
 グールと戦うなら、数が少ない方が良いに決まっている。
 そのため、グールが増えてしまう前にさっさと魔族を倒し、ゾンビの召喚を止めたい。




「ここでいいかな!」


「遠くない?」


 ラウルを連れてケイがたどり着いたのは、背の高い建物の屋根。
 恐らくは宿屋だろう。
 かなり離れた所にいる魔族の2体を狙うには十分な位置だ。


「こいつを使えば大丈夫だ」


「っ?」


 この距離からの攻撃となると狙撃。
 しかし、ラウルは普通の銃しか持っていない。
 狙いを付けるナには少し離れている。


「これは……ライフル?」


「昔に魔族と戦った時と同じだ。その時はレイナルドがやったが、今回はお前がやれ!」


 ケイが魔法の指輪から取り出したのは、以前も使ったライフル銃だ。
 エルフは接近戦で戦うよりも、魔力を使って連距離で仕留める方が危険も少ない。
 魔人たちのためとは言っても、なるべく危ない橋は渡りたくない。
 なので、遠くから倒してトンズラかますのが手っ取り早い。
 昔はレイナルドに手伝ってもらったが、今回はラウルにやってもらうしかない。
 2丁取り出したライフルの片方を、ケイはラウルに投げ渡した。


「何度か練習しただろ?」


「え? う、うん……」


 アンヘル島で魔力の多い者には、遠距離攻撃の方法の1つとしてライフルの練習をさせていた。
 エルフのであるケイの血を継いでいても、世代を経ることで段々と魔力量は減ってきている。
 孫のラウルはまだかなりの量の持ち主だが、曾孫にまでなったら魔力量の多い魔人と同じくらいになってしまうのではないだろうか。


「……大丈夫か?」


「大丈夫だよ!」


 ラウルにも練習するように言っていたのだが、反応を見る限り何だか怪しく感じる。
 もしかして、練習していないのだろうか。
 念のため確認をしてみると、強い返事をしたのでとりあえず大丈夫だろう。


「強い方はじいちゃんが狙ってよ?」


「あぁ!」


 狙うにしても、ラウルは強い方の魔族をこの距離で撃ち倒すイメージが浮かばない。
 アンデッドを操っている方の魔族なら何とかなりそうだ。
 そのため、まだ何もしていないでいる様子の強そうな魔族の方を、ケイが担当することにした。


「タイミング合わせるぞ?」


「うん!」


 2人はライフルを構え、望遠の魔法で魔族へ照準を合わせる。
 ライフルと言っても、所詮は魔法によって弾を飛ばすため音は小さい。
 離れているので音に反応するとは思えないが、念のため打つタイミングを合わせて気付かれる可能性を減らすことにした。


「「せーの!」」


“パンッ!!”


 小さい声でタイミング絵を合わせ、ケイとラウルは引き金を引いた。
 シンクロしたように発射音が重なり、2丁のライフルから弾が飛び出した。


「「っ!!」」


「当たった!!」


「チッ!」


 距離的にはケイが狙った魔族の方が遠かったが、あまり時間さなくそれぞれの敵に着弾した。
 しっかりと狙って撃ったので大丈夫だと思ったが、ちゃんと敵に当たったことにラウルは思わずガッツポーズをした。
 それに対し、ケイは当たったにもかかわらず表情が渋い。
 ケイの狙った魔族は、腕に何か金属製の防具を装備していたらしく、飛んできた弾丸をそれを使って防いだようだ。
 魔力も多いが、反応の速さもかなりのもののようだ。


「ゲッ!」


「お前だけでも始末しろよ!」


 ラウルが放った弾丸が当たった魔族は倒せたと思ったのだが、どうやら狙った頭部ではなく肩に当たったようで、仕留めるまでは至っていないようだ。
 それを見たケイは、思わず文句が出てしまった。


「何だよ! 自分も始末失敗してんじゃん!」


「あれは敵を褒めるしかないだろ!」


 ケイも敵を狙って撃ったのにもかかわらず倒せていない。
 そのため、文句を言われたラウルは口を尖らせて言い返す。
 それを言われると痛いところだが、不意に飛んできた攻撃を防いだあの魔族の反応がすごいのだ。
 文句を言われるのは、納得しづらい。


「あっ! やべっ!」


「っ!!」


 ケイとラウルが軽く言いあっていると、魔族の2体が弾丸が飛んできた方向へ視線を向けていた。
 つまり、この場から発射されたことを察知されてしまったようだ。


「完全にこっち見たよね?」


「だな!」


 魔族がこっちを視認したとなると、もう一発とか言う前に、ここにいることが危険になって来る。
 この町の人間よりも先に、こちらに向かって来るかもしれない。
 そんな面倒なことになるのはごめんだ。


「よし! 一旦逃げるぞ!」


「了解!」


 居場所が特定されてしまっているのでは、これ以上ここにいる訳にはいかない。
 失敗したのなら即撤退。
 魔族がここに向かってくる前に、ケイたちは早々にこの場から去ることにした。
 そうと決まればと、早速転移の扉を出したケイは、ラウルと共にこの町から転移した。



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