エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第281話
「くそっ! 何でこんなことに……」
魔人大陸の侵攻を目指すエヌーノ王国の先兵部隊。
彼らは指示されたように、魔物が比較的生息していない場所に拠点を作ることに成功した。
拠点完成を本国へ知らせる少し前から、事態は少しずつ変化を迎え始めた。
ここでの総合指揮を任された隊長の男は、自身も顔色が悪い中、不可解な思いで拠点内の現状を見ている。
「うぅ…………」「……あぁ………」「…………うっ」
呻き声を漏らしながら、多くの兵が寝たきりの状態になっている。
病によるものなのか顔色が悪く、元々は屈強な者ばかりだった兵たちは、全員がやせ細っている。
「ここを選んだのが失敗だったのか?」
今思うと、拠点制作は順調でも、食料調達の方が上手くいかなくなりだしたのがこうなることへの始まりだった。
拠点となる場所の捜索をする時、この周辺の魔物の調査はしっかりとした。
しかし、拠点がある程度出来上がり始めると、食料調達の部隊の者たちが次々と戻らなくなるという問題が起き始めた。
ここの魔物は強く危険ではあるが、訓練を積んだ兵が隊を築いて当たれば、何とか狩ることができるものばかりだったはずだ。
だが、調達部隊が戻らないことが気になり捜索に出ると、魔物の死骸と共に調達部隊の兵たちの遺体や遺品が発見された。
そのことから、魔物の仕業によるものだと分かり、部隊の人数を増やしてことに当たるようにしたのだが、それでも魔物によって潰されてしまうことが続いた。
本国から持って来た食料は少ないとは言っても、切り詰めればしばらくはもったが、さすがに兵たちは空腹に耐えられなくなり出した。
とは言っても、未確認の魔物によって食料調達に出ることは危険すぎるため、遠くに探しに出かける訳にはいかない。
これ以上の兵の損失は、エナグア王国を攻める際に人手不足となりかねないため、仕方がないので何とか近場で小物の魔物を狩り食い繋ぐしかなくなった。
正にジリ貧状態だ。
こうなってくると、隊長の男はここを拠点に選んだことが間違いだったと思えてくる。
「隊長! ほとんどの者が原因不明の病にかかっております。このままでは……」
全滅もあり得る。
比較的症状の軽い者が隊長に進言する。
しかし、兵たちが暮らすための簡易的な小屋の作成を担当している彼も痩せており顔色が悪い。
拠点の外で行動する訳でもない彼らすらそうだということは、どうやら病に感染していない者はいないようだ。
「我慢だ! 我慢するしかない。もう少しでエヌーノから本隊が来る」
拠点の完成は、伝所用の従魔によって本国へ知らせてある。
恐らくは、もうここへ向けての出発準備はできていることだろう。
本体が到着すれば治療薬によって全員助かるし、食料の方も周辺の魔物の一掃狩りでどうにかなる。
今の状態で下手に外へ狩りに出るよりも、これから来る健康な兵に任せた方が確実なはず。
自分も苦しい状況だが、それまで我慢することが最善だと選択したのだった。
「予定通りだな……」
人族たちの拠点内を、離れた地点から見ながらバレリオは笑みを浮かべた。
最初の食料調達班の襲撃は成功が続いた。
しかし、いつまでも続けていては、魔物のせいなどではないということがバレるかもしれない。
そのため、次の策を開始することにした。
「弱っているから、多少の異変も気付かないかもな……」
このように、ケイが少しわざとらしく呟いたことによって始めることにした策だ。
最初何を言っているのかと思ったが、数人がすぐに気づくことができた。
人族の者たちが積み上げた物を一気に崩すと言っても、もっと弱らせた方が苦も無く崩せる。
そのためには、空腹で判断力が鈍っている今、もっと弱らせる方法がある。
「元々弱い毒だから気付きにくいうえに、腹が減っていては無理だろう」
バレリオたちが行ったのは、弱い毒を人族の拠点に振りまく事だった。
ケイが世話になっている家の兄弟の弟であるラファエルが従魔を手に入れたことによって、兵の中にも従魔を手に入れる方法を求める者たちがいた。
人族は愛玩用として持つことが多く、獣人はそもそも従魔を持とうとしない。
そういったところで、魔人は従魔については寛容なようだ。
魔物を従魔にするには、数人で痛めつけて無理やり契約するという方法もあるが、その場合なかなか言うことを聞かないことが多い。
最初から言うことを聞く魔物となると、1対1で実力差を見せつけるなり、生まれたばかりの魔物を育てて契約するという方法がある。
ここの大陸の魔物となると強力な魔物が多いので、どの方法でもなかなか難しい。
なので、強くなくてもいいのならという理由で、ケイもその者たちと一緒に魔物の捕獲に同行した。
そして手に入れたのが蝙蝠の魔物が数匹だった。
しかし、それがあったから、この作戦を決行することができたと言ってもいい。
この大陸には、フリオ・オンゴと呼ばれるキノコが生息している。
そのキノコは、ちゃんと処理すれば食用として使用できるのだが、そのままだと胞子に弱い毒がある。
その胞子を嗅ぎ続けると、抵抗力の弱い者は風邪に似た症状に襲われ苦しめられる。
従魔にした蝙蝠に指示を出し、人族の拠点の上空で集めた胞子を撒かせまくった。
空腹で抵抗力の落ちていた人族たちには効果てきめん、しかも毎日のようにやったからほぼ全員が毒によって行動不能にすることができた。
「そろそろ攻め込む頃合いだな……」
これで好きなように奴らを始末できる。
バレリオたちは、当初の予定通り掃討作戦へと移行することにしたのだった。
魔人大陸の侵攻を目指すエヌーノ王国の先兵部隊。
彼らは指示されたように、魔物が比較的生息していない場所に拠点を作ることに成功した。
拠点完成を本国へ知らせる少し前から、事態は少しずつ変化を迎え始めた。
ここでの総合指揮を任された隊長の男は、自身も顔色が悪い中、不可解な思いで拠点内の現状を見ている。
「うぅ…………」「……あぁ………」「…………うっ」
呻き声を漏らしながら、多くの兵が寝たきりの状態になっている。
病によるものなのか顔色が悪く、元々は屈強な者ばかりだった兵たちは、全員がやせ細っている。
「ここを選んだのが失敗だったのか?」
今思うと、拠点制作は順調でも、食料調達の方が上手くいかなくなりだしたのがこうなることへの始まりだった。
拠点となる場所の捜索をする時、この周辺の魔物の調査はしっかりとした。
しかし、拠点がある程度出来上がり始めると、食料調達の部隊の者たちが次々と戻らなくなるという問題が起き始めた。
ここの魔物は強く危険ではあるが、訓練を積んだ兵が隊を築いて当たれば、何とか狩ることができるものばかりだったはずだ。
だが、調達部隊が戻らないことが気になり捜索に出ると、魔物の死骸と共に調達部隊の兵たちの遺体や遺品が発見された。
そのことから、魔物の仕業によるものだと分かり、部隊の人数を増やしてことに当たるようにしたのだが、それでも魔物によって潰されてしまうことが続いた。
本国から持って来た食料は少ないとは言っても、切り詰めればしばらくはもったが、さすがに兵たちは空腹に耐えられなくなり出した。
とは言っても、未確認の魔物によって食料調達に出ることは危険すぎるため、遠くに探しに出かける訳にはいかない。
これ以上の兵の損失は、エナグア王国を攻める際に人手不足となりかねないため、仕方がないので何とか近場で小物の魔物を狩り食い繋ぐしかなくなった。
正にジリ貧状態だ。
こうなってくると、隊長の男はここを拠点に選んだことが間違いだったと思えてくる。
「隊長! ほとんどの者が原因不明の病にかかっております。このままでは……」
全滅もあり得る。
比較的症状の軽い者が隊長に進言する。
しかし、兵たちが暮らすための簡易的な小屋の作成を担当している彼も痩せており顔色が悪い。
拠点の外で行動する訳でもない彼らすらそうだということは、どうやら病に感染していない者はいないようだ。
「我慢だ! 我慢するしかない。もう少しでエヌーノから本隊が来る」
拠点の完成は、伝所用の従魔によって本国へ知らせてある。
恐らくは、もうここへ向けての出発準備はできていることだろう。
本体が到着すれば治療薬によって全員助かるし、食料の方も周辺の魔物の一掃狩りでどうにかなる。
今の状態で下手に外へ狩りに出るよりも、これから来る健康な兵に任せた方が確実なはず。
自分も苦しい状況だが、それまで我慢することが最善だと選択したのだった。
「予定通りだな……」
人族たちの拠点内を、離れた地点から見ながらバレリオは笑みを浮かべた。
最初の食料調達班の襲撃は成功が続いた。
しかし、いつまでも続けていては、魔物のせいなどではないということがバレるかもしれない。
そのため、次の策を開始することにした。
「弱っているから、多少の異変も気付かないかもな……」
このように、ケイが少しわざとらしく呟いたことによって始めることにした策だ。
最初何を言っているのかと思ったが、数人がすぐに気づくことができた。
人族の者たちが積み上げた物を一気に崩すと言っても、もっと弱らせた方が苦も無く崩せる。
そのためには、空腹で判断力が鈍っている今、もっと弱らせる方法がある。
「元々弱い毒だから気付きにくいうえに、腹が減っていては無理だろう」
バレリオたちが行ったのは、弱い毒を人族の拠点に振りまく事だった。
ケイが世話になっている家の兄弟の弟であるラファエルが従魔を手に入れたことによって、兵の中にも従魔を手に入れる方法を求める者たちがいた。
人族は愛玩用として持つことが多く、獣人はそもそも従魔を持とうとしない。
そういったところで、魔人は従魔については寛容なようだ。
魔物を従魔にするには、数人で痛めつけて無理やり契約するという方法もあるが、その場合なかなか言うことを聞かないことが多い。
最初から言うことを聞く魔物となると、1対1で実力差を見せつけるなり、生まれたばかりの魔物を育てて契約するという方法がある。
ここの大陸の魔物となると強力な魔物が多いので、どの方法でもなかなか難しい。
なので、強くなくてもいいのならという理由で、ケイもその者たちと一緒に魔物の捕獲に同行した。
そして手に入れたのが蝙蝠の魔物が数匹だった。
しかし、それがあったから、この作戦を決行することができたと言ってもいい。
この大陸には、フリオ・オンゴと呼ばれるキノコが生息している。
そのキノコは、ちゃんと処理すれば食用として使用できるのだが、そのままだと胞子に弱い毒がある。
その胞子を嗅ぎ続けると、抵抗力の弱い者は風邪に似た症状に襲われ苦しめられる。
従魔にした蝙蝠に指示を出し、人族の拠点の上空で集めた胞子を撒かせまくった。
空腹で抵抗力の落ちていた人族たちには効果てきめん、しかも毎日のようにやったからほぼ全員が毒によって行動不能にすることができた。
「そろそろ攻め込む頃合いだな……」
これで好きなように奴らを始末できる。
バレリオたちは、当初の予定通り掃討作戦へと移行することにしたのだった。
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