エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第246話
「次に、ケイ殿にお聞きしてよろしいでしょうか?」
善貞が織牙家の生き残りで、姫の駆け落ち事件は決して織牙家の不義理によるものではなかったということが分かった。
その話が一先ず終わった後、八坂は次にケイのことへと話題を変えることにした。
「……う~ん」
「んっ?」
聞かれたケイは、唸りながら善貞の顔を見つめる。
目の合った善貞は、何故見られているのか分からず首を傾げる。
「……善貞には退室してもらいますか?」
「えっ?」
たまたまとは言え、八坂はケイがエルフだと知っている。
そして、ケイの反応から善貞へ身分を明かしていないのだと察したため、退室をさせるべきか提案する。
「……いや、このままでいいです」
先程の織牙家のことを聞いて、別に善貞に聞かれても問題ないと判断した。
そのため、ケイはこのまま話をすることにした。
そして、八坂へ質問をどうぞと手のひらを向けたのだった。
「単刀直入にお聞きします。ケイ殿の奥方のお名前は?」
「……美花です」
その質問で、ケイはエルフということだけでなく、美花のこともバレているのだと理解した。
しかし、せめてもの抵抗として、言葉少なに答えを返す。
「家名は?」
誤魔化しは効かないようで、八坂は追撃のように聞いてきた。
完全に分かってて聞いてきているような気がする。
「…………織牙です」
「っ!?」
生前の美花から聞いた話だと、両親は駆け落ちして、母は織牙の名字になったという話だった。
なので、美花の正式な名前は織牙美花。
織牙の嫡男と綱泉の姫君の間に生まれた一人娘だ。
ケイから発せられたその家名に、善貞が目を見開いて驚く。
まさか、たまたま知り合ったケイと深い縁があるとは思ってもいなかったからだろう。
「彼女とご両親は先代の綱泉殿に追っ手を送られていたらしいので、家名は名乗らないようにしてましたが……」
「そうですか……」
綱泉の先代が追っ手を送っていたのは、八坂の先代も知っていた。
しかし、その追っ手も帰らずじまいとなり、姫たちの行方はとうとう分からなくなってしまった。
そのため、それ以降の捜索は諦めざるを得なくなってしまった。
「じゃあ! 織牙の血を引く者が俺の他にもいるのか!?」
ケイと八坂の話を聞いていた善貞は、まさか問題の大叔父が生きていたとは思ってもいなかったし、子供がいるなんて思わなかったため強く反応した。
織牙家の生き残りはもう自分しかいないと思っていたからだ。
「いるよ。俺の子や孫が……」
「孫? お前何言ってんだ?」
ケイの奥さんということで、美花の年齢を計算していなかったか、孫という言葉を聞いて、善貞の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
見た目がどう考えても20代のケイに、孫がいるなんて想像できなかったらしい。
「俺はエルフだ。見た目はこうでも年齢は50を越えている」
「えっ? 50? エルフ?」
妻の美花と同じ織牙の一族である善貞なら構わないだろうと、ケイは自分がエルフだということを告白する。
そして、普通の人族に見えるように横着している耳のカバーを外して、自分がちょっと違う人種だということを見せた。
善貞からすると、見た目が20代だというのに、年齢が50過ぎているということだけでも理解できないというのに、エルフという聞いたことがない言葉に、クエスチョンマークは増える一方だ。
「長命でこのように耳が長いのが特徴の一族のことだ。元々少数民族だったのだが大陸の人間に迫害を受けて、一族といっても純粋なエルフはもう俺だけだがな……」
「……………………」
説明を受けても、善貞は全てを理解できなかった。
しかし、なんとなく分かった事がある。
自分は日向の西地区の人間という小さい範囲内のことだが、ケイは大陸という大きな範囲という規模で、自分と同じように厳しい環境の中を一人で生き抜いてきたのだと。
「そのエルフの住み着いた島が獣人の国との同盟によって、国として認められたと聞いております」
「……よくその情報を手に入れましたね?」
補足のように付けたした八坂の言葉に、ケイは意外に感じた。
日向の国からしたら、大陸のさらに西にできた小さな島国のことだ。
そんな情報を仕入れても、何の関わりも持たないはずなのに、八坂がそんな離れた国の情報を仕入れているとは思わなかった。
色々と目聡いところが見え隠れしていて、八坂を只者でないという印象をしていたが、その思いは更に深くなった。
「噂を聞いて、実は織牙の生き残りの保護のために、数人ほど大陸に送っておりました」
「なるほど……」
どうやってケイたちの国のことを知ったのかと思ったら、八坂の説明で納得いった。
どうやら、八坂は情報が重要だということをよく分かっているらしい。
織牙の生き残りがもしかしたらいるかもしれないという可能性は、八坂は誰よりも知っていた。
上重派の方にもその噂が出てきた出どころまでは分からないが、その者が八坂以外の者に見つかってしまった時の事を考えたら、危険にさらされてしまうかもしれない。
そうならないように、先代綱泉公が昔送った追っ手の報告を元に、再捜索をさせていたらしい。
その過程で、エルフの生き残りの存在と、そのエルフに潰されたという国があるという噂を聞いたという報告も受けていたらしい。
「大陸ではなく、まさかこんな近くにいるとは思いませんでしたが……」
八坂の中で織牙の生き残りの心当たりは、美花のことだったのかもしれない。
そのため、大陸に情報収集に行かせたのだろうが、日向の国にその生き残りがいるとは思わなかったため、日向国内の捜索はしなかったらしい。
「灯台下暗しとはこの事ですね」
「全くです」
まさにその通りの言葉をケイにいわれ、八坂は笑みを浮かべたのだった。
「ところで、ケイ殿はこれからどうなさるのですか?」
聞きたい話も聞き終わったため、八坂はケイの今後のことが気になった。
小国とはいえ一国の王であるケイが、1人で動き回られるというのは気が気でない。
ケイの実力は知っているので、余程のことでもない限りは大丈夫だとは思うが、この世には何があるか分からない。
外交的な問題になるようなことには避けたいというのが八坂の考えなのだろう。
「とりあえず、この西地区の行く末を見てから他の地域を見て回りたいと思っています」
「1人でですか?」
案の定、1人で動くつもりでいるケイに、八坂は少し困ったように問いかける。
「こいつらがいますよ」
もともとケイは、アンヘル島から自分は一人だと思っていない。
八坂の問いに答えるように、ケイの側でおとなしくしているキュウとクウを撫でて答えを返す。
「従魔だけでも心配なのですが……」
たしかにキュウとクウというケイの従魔も、かなりの戦闘力を持っていることは分かっているが、所詮は魔物。
どうしても不安に思ってしまう。
「あのっ!」
「「んっ?」」
ケイは一人でも大丈夫だと思っているが、八坂は一人で動かれることにどうしても不安が生じている。
そんな二人の様子に、善貞が手を上げて会話に入って来た。
「俺が付いて行くのではどうでしょうか?」
「何で?」
織牙の家の裏事情が分かり、これから善貞は八坂に保護してもらえばいい。
そうすれば織牙の名前はともかく、一族の復興はできるかもしれない。
ここで分かれるのが善貞には一番いいことだと思ったのだが、ケイの観光に付いてくるなんて何か意味があるのだろうか。
「お前、俺に魔闘術教えてくれるって言っただろ?」
「……あぁ、でも別に……」
たしかに魔闘術を教えるようなことを言ったが、それは織牙家の縁を感じてのことでしかなかった。
八坂に保護してもらえば稽古などできるだろうし、その内魔闘術も使えるようになるはずだ。
実際数秒くらいなら使えるようにはなったのだから、もうケイに教わる必要もないだろう。
「……お前でいいか」
「何だよそれ!」
そう思って断ろかとも思ったのだが、同じ織牙なのだから、どうせなら美花が使っていた剣技を教えるのもいいかと思い、善貞を連れて行くことを了承したのだった。
善貞が織牙家の生き残りで、姫の駆け落ち事件は決して織牙家の不義理によるものではなかったということが分かった。
その話が一先ず終わった後、八坂は次にケイのことへと話題を変えることにした。
「……う~ん」
「んっ?」
聞かれたケイは、唸りながら善貞の顔を見つめる。
目の合った善貞は、何故見られているのか分からず首を傾げる。
「……善貞には退室してもらいますか?」
「えっ?」
たまたまとは言え、八坂はケイがエルフだと知っている。
そして、ケイの反応から善貞へ身分を明かしていないのだと察したため、退室をさせるべきか提案する。
「……いや、このままでいいです」
先程の織牙家のことを聞いて、別に善貞に聞かれても問題ないと判断した。
そのため、ケイはこのまま話をすることにした。
そして、八坂へ質問をどうぞと手のひらを向けたのだった。
「単刀直入にお聞きします。ケイ殿の奥方のお名前は?」
「……美花です」
その質問で、ケイはエルフということだけでなく、美花のこともバレているのだと理解した。
しかし、せめてもの抵抗として、言葉少なに答えを返す。
「家名は?」
誤魔化しは効かないようで、八坂は追撃のように聞いてきた。
完全に分かってて聞いてきているような気がする。
「…………織牙です」
「っ!?」
生前の美花から聞いた話だと、両親は駆け落ちして、母は織牙の名字になったという話だった。
なので、美花の正式な名前は織牙美花。
織牙の嫡男と綱泉の姫君の間に生まれた一人娘だ。
ケイから発せられたその家名に、善貞が目を見開いて驚く。
まさか、たまたま知り合ったケイと深い縁があるとは思ってもいなかったからだろう。
「彼女とご両親は先代の綱泉殿に追っ手を送られていたらしいので、家名は名乗らないようにしてましたが……」
「そうですか……」
綱泉の先代が追っ手を送っていたのは、八坂の先代も知っていた。
しかし、その追っ手も帰らずじまいとなり、姫たちの行方はとうとう分からなくなってしまった。
そのため、それ以降の捜索は諦めざるを得なくなってしまった。
「じゃあ! 織牙の血を引く者が俺の他にもいるのか!?」
ケイと八坂の話を聞いていた善貞は、まさか問題の大叔父が生きていたとは思ってもいなかったし、子供がいるなんて思わなかったため強く反応した。
織牙家の生き残りはもう自分しかいないと思っていたからだ。
「いるよ。俺の子や孫が……」
「孫? お前何言ってんだ?」
ケイの奥さんということで、美花の年齢を計算していなかったか、孫という言葉を聞いて、善貞の頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。
見た目がどう考えても20代のケイに、孫がいるなんて想像できなかったらしい。
「俺はエルフだ。見た目はこうでも年齢は50を越えている」
「えっ? 50? エルフ?」
妻の美花と同じ織牙の一族である善貞なら構わないだろうと、ケイは自分がエルフだということを告白する。
そして、普通の人族に見えるように横着している耳のカバーを外して、自分がちょっと違う人種だということを見せた。
善貞からすると、見た目が20代だというのに、年齢が50過ぎているということだけでも理解できないというのに、エルフという聞いたことがない言葉に、クエスチョンマークは増える一方だ。
「長命でこのように耳が長いのが特徴の一族のことだ。元々少数民族だったのだが大陸の人間に迫害を受けて、一族といっても純粋なエルフはもう俺だけだがな……」
「……………………」
説明を受けても、善貞は全てを理解できなかった。
しかし、なんとなく分かった事がある。
自分は日向の西地区の人間という小さい範囲内のことだが、ケイは大陸という大きな範囲という規模で、自分と同じように厳しい環境の中を一人で生き抜いてきたのだと。
「そのエルフの住み着いた島が獣人の国との同盟によって、国として認められたと聞いております」
「……よくその情報を手に入れましたね?」
補足のように付けたした八坂の言葉に、ケイは意外に感じた。
日向の国からしたら、大陸のさらに西にできた小さな島国のことだ。
そんな情報を仕入れても、何の関わりも持たないはずなのに、八坂がそんな離れた国の情報を仕入れているとは思わなかった。
色々と目聡いところが見え隠れしていて、八坂を只者でないという印象をしていたが、その思いは更に深くなった。
「噂を聞いて、実は織牙の生き残りの保護のために、数人ほど大陸に送っておりました」
「なるほど……」
どうやってケイたちの国のことを知ったのかと思ったら、八坂の説明で納得いった。
どうやら、八坂は情報が重要だということをよく分かっているらしい。
織牙の生き残りがもしかしたらいるかもしれないという可能性は、八坂は誰よりも知っていた。
上重派の方にもその噂が出てきた出どころまでは分からないが、その者が八坂以外の者に見つかってしまった時の事を考えたら、危険にさらされてしまうかもしれない。
そうならないように、先代綱泉公が昔送った追っ手の報告を元に、再捜索をさせていたらしい。
その過程で、エルフの生き残りの存在と、そのエルフに潰されたという国があるという噂を聞いたという報告も受けていたらしい。
「大陸ではなく、まさかこんな近くにいるとは思いませんでしたが……」
八坂の中で織牙の生き残りの心当たりは、美花のことだったのかもしれない。
そのため、大陸に情報収集に行かせたのだろうが、日向の国にその生き残りがいるとは思わなかったため、日向国内の捜索はしなかったらしい。
「灯台下暗しとはこの事ですね」
「全くです」
まさにその通りの言葉をケイにいわれ、八坂は笑みを浮かべたのだった。
「ところで、ケイ殿はこれからどうなさるのですか?」
聞きたい話も聞き終わったため、八坂はケイの今後のことが気になった。
小国とはいえ一国の王であるケイが、1人で動き回られるというのは気が気でない。
ケイの実力は知っているので、余程のことでもない限りは大丈夫だとは思うが、この世には何があるか分からない。
外交的な問題になるようなことには避けたいというのが八坂の考えなのだろう。
「とりあえず、この西地区の行く末を見てから他の地域を見て回りたいと思っています」
「1人でですか?」
案の定、1人で動くつもりでいるケイに、八坂は少し困ったように問いかける。
「こいつらがいますよ」
もともとケイは、アンヘル島から自分は一人だと思っていない。
八坂の問いに答えるように、ケイの側でおとなしくしているキュウとクウを撫でて答えを返す。
「従魔だけでも心配なのですが……」
たしかにキュウとクウというケイの従魔も、かなりの戦闘力を持っていることは分かっているが、所詮は魔物。
どうしても不安に思ってしまう。
「あのっ!」
「「んっ?」」
ケイは一人でも大丈夫だと思っているが、八坂は一人で動かれることにどうしても不安が生じている。
そんな二人の様子に、善貞が手を上げて会話に入って来た。
「俺が付いて行くのではどうでしょうか?」
「何で?」
織牙の家の裏事情が分かり、これから善貞は八坂に保護してもらえばいい。
そうすれば織牙の名前はともかく、一族の復興はできるかもしれない。
ここで分かれるのが善貞には一番いいことだと思ったのだが、ケイの観光に付いてくるなんて何か意味があるのだろうか。
「お前、俺に魔闘術教えてくれるって言っただろ?」
「……あぁ、でも別に……」
たしかに魔闘術を教えるようなことを言ったが、それは織牙家の縁を感じてのことでしかなかった。
八坂に保護してもらえば稽古などできるだろうし、その内魔闘術も使えるようになるはずだ。
実際数秒くらいなら使えるようにはなったのだから、もうケイに教わる必要もないだろう。
「……お前でいいか」
「何だよそれ!」
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