エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第244話
“パンッ!!”
「フゥ~……、これで終わりだな?」
逃げた敵を追いかけ、何とか始末することに成功したケイ。
確認のために探知を広げてみるが、何も引っかかる者はいない。
比佐丸たちのことも心配なので、ケイはそのまま踵を返した。
「お疲れ様です」
「おぉ、ケイ殿!」
比佐丸たちの所に戻ると、ちょうど彼が敵を撃ち倒したところだった。
戻ってみると、比佐丸たちの方が敵を押していることに、ケイは内心意外な思いをする。
敵の剣術部隊の者たちはかなり能力の高い者たちの集まりなのだが、そんな彼らを、失礼ながら比佐丸たちが上回るほど強いようには思っていなかったからだ。
「何かあったのですか?」
よく見ると、ケイは敵の剣が少し鈍いことに気が付いた。
どうやら、それが有利になっている要因のようだが、ケイがいなくなっている間に何かあったのだろうか。
疑問に思ったケイは、その理由を比佐丸に尋ねた。
「坂岡が死んだことに加えて、側近の30人もこの世から去ったと教えてやったら、戦意を喪失したようで……」
「なるほど」
追っていたはずの比佐丸たちが来たことで、ケイの言う通り坂岡たちの身に何かが起きたのだと敵の者たちも気付いたらしい。
さらに、坂岡に付いていた精鋭たち30人も全滅したということを告げられ、心に動揺と迷いが生じたようで、それが彼らの剣を鈍らせていたようだ。
逆に、美稲の剣士たちは勝機を感じて勢いに乗っている。
それにより、実力を如何なく発揮しているため、有利にことを運んでいるのかもしれない。
「とは言っても、元々我々よりも上の者たちです。仲間の援護をお願いしてもいいですか?」
「分かりました」
比佐丸の言う通り、敵は剣筋が鈍っているとは言っても、美稲の剣士たちは簡単には倒せない。
勢いに乗っているとは言っても、美稲の剣士たちも怪我と疲労をしている。
アドレナリンが出ている今は良くても、その内体が付いてこなくなるはずだ。
そうならないうちに倒してしまおうと、ケイは比佐丸と共に他の仲間の援護に向かうのだった。
◆◆◆◆◆
「ワハハハハッ!!」
美稲の町から北にある奧電の町。
その更に北に位置する同竜城では、女を侍らせてはしゃぎ回る者がいた。
この西地区の領主を任されている大名の綱泉佐志峰だ。
将軍家の血を引きながらも無能として扱われてきた彼は、どういう訳かこの西地区の綱泉家に養子として入る事ができた。
西地区は田舎だとは言っても、大陸との取引で様々な品が手に入る地域でもある。
酒と女、更には趣味の魔物収集と、やりたい放題にできて佐志峰には天国のようなところだろう。
「上重様!」
「何事だ?」
酒に酔い、女と共に踊り回っている佐志峰を、部屋の片隅で1人の男が静かに見つめていた。
八坂を屠るように坂岡に命令した張本人である上重だ。
突然の部下の入室に、上重は睨むように問いかける。
「剣術部隊の者が……」
「何だ? ファーブニルを止められなくて困っているのか?」
当然上重は坂岡率いる剣術部隊の者たちが、八坂をこの世から消すために動いているのは知っている。
その剣術部隊の者たちのことで慌てて報告に来るということは、念のために使うことを許したファーブニルの捕縛くらいのものだろう。
勝手にそのように解釈した上重は、面倒くさそうに部下に話す。
「ちゃんと魔力を封じる鎖の魔道具を渡しておいただろ?」
坂岡には捕縛用の魔道具を持たせていた。
魔物の収集に必要なため、佐志峰が持っていたものだ。
上重には大抵のことは都合よく使える佐志峰は、飾りの大名としては本当に楽でいい。
しかしながら、魔物の収集に関してはどこから情報と道具を手に入れているのか、全部を把握できていない。
それがファーブニルの入手だ。
魔物の収集関係以外は特に問題がないので放置しているが、ファーブニルほどの魔物を手に入れてくるなどという事を考えると、それもそろそろ考えものとなってきている。
今回のことが終了したら、上重は佐志峰の魔物収集を制限するつもりでいた。
「……全滅しました」
「……………………何?」
坂岡たちのことを忘れ、佐志峰の魔物収集をどのようにやめさせるかを考え始めた上重に、部下の男は言いにくそうに報告した。
それもそのはず、彼もその情報が信じきれていないからだ。
その報告を受けた上重は、何を言っているのか理解できず、数秒間思考が停止した。
「何を言っているんだ? あれほどの戦力を使うことを許したというのに、剣術部隊が全滅をするわけがないだろう!?」
部下が言っていることの意味がようやく理解できた上重は、段々と声を荒らげていく。
余程信じられないことなのだろう。
「信じられませんが、真のことです。八坂が将軍家へ謀反の知らせを送ったという情報を得ました。」
「待てっ!! 全滅した上に八坂を仕留めていないだと!? そんなバカな!!」
上重にとって、更に信じられない言葉が続いた。
全滅だけでも信じられないというのに、八坂が生きているという報告だ。
何のために危険な魔物まで使う許可を出したのか分かったものではない。
「どうした? 上重……」
「殿……」
声が大きくなったため、さすがに佐志峰も異変に気が付き、酒で赤らめた顔で上重に問いかけてきた。
この現状を話したところで何の役にも立たないくせに、関係ないから話しかけて来るなと上重は言いたくなる。
しかし、飾りでも大名の佐志峰に、上重は頭を下げる。
「まぁ、何が起きたか知らないが、お主に貸した魔物はちゃんと帰ってくるのであろうな?」
「……えぇ、それはたしかに……」
「そうか? それならいい……」
こんな時でも魔物の方が気になるのかと、改めて役立たずだと上重は内心で佐志峰のことを蔑む。
そんな上重のことは気にせず、佐志峰はすぐに女たちの元へ戻っていった。
「殿! 少々席を外させていただきます」
「おうっ!」
ここで話していると気が散って仕方がない。
なので、上重は佐志峰に断りを入れて、部下と共に退室をしていった。
もう酒と女に意識が行ったのか、佐志峰は軽い返事をした。
「……巨大蛇とファーブニルはどうした?」
「両方とも、死んだと報告を受けております」
「……何だと? 何から何までふざけたことを……」
部屋を変えて座った上重は、対面に座った部下に問いかける。
全ての剣術部隊の者たちを殺したと思っているケイたちだが、僅かながら生き残っていた者はいた。
北に逃げたのに、ケイの誘導でファーブニルに攻撃をされた者たちだ。
大半の者は死んでおり、ケイたちが生存確認に来た時には魔物に喰い散らかされていた。
そんな中、辛うじて生きている者が1人、片足を折っただけで済んだ者が1人、擦り傷だけで軽傷という奇跡的な者が1人の合計3人が生き残り、途中で1人息絶えたが、何とか生き残った二人が報告をしに来たのだった。
その報告に、上重はこめかみに血管を浮きあがらせる。
自分の思い通りにならないことばかりに、怒りが我慢の限界に来ていた。
そのせいか、彼の中で何かが切れてしまったのかもしれない。
「どういたしましょう? 他領の大名たちは、これ幸いにと攻めて来る可能性があります」
八坂が生きており、魔物を使って市民に被害を受けさせるとこだった。
そんなことをして、いくら領主が将軍家の血を引いているとは言っても、何もしない訳にはいかない。
国民感情のためには、軍を送って粛清する必要がある。
日向の他の地域が全て敵だということだ。
「くっ!! もしそうなれば、殿の魔物を全部解き放ってでも応戦するしかない」
「っ!? そんなことをしたら完全に日向全土を敵に回します!」
「……それがどうした?」
「っ!?」
巨大な相手が敵になったというのに、強気な姿勢をとる上重に、部下の男は慌てて忠告をする。
しかし、部下の男はそこでようやく上重の目がおかしくなっていることに気が付いた。
「全軍を叩き潰して、殿に征夷大将軍になって貰えばいい」
「…………」
現実を見ているのか怪しいが、言っていることもあながち間違いではない。
佐志峰の収集した魔物の中には、ちょっとやそっとの兵数では倒せないような強力な魔物も数体いる。
それを使えば、敵の数など恐れるに足らない。
そのため、部下の男はなんとなく上重の意見に聞き入ってしまった。
「とにかくお前は少しでも多く兵を集めろ!」
「……かしこまりました」
上重に付いているこの部下も、恐らくは粛清対象に入る事になるかもしれない。
それならば勝ち目がないとは思いつつも、上重の指示に従うしかない。
そう思った男は、頭を下げるとすぐに退室して行ったのだった。
「フゥ~……、これで終わりだな?」
逃げた敵を追いかけ、何とか始末することに成功したケイ。
確認のために探知を広げてみるが、何も引っかかる者はいない。
比佐丸たちのことも心配なので、ケイはそのまま踵を返した。
「お疲れ様です」
「おぉ、ケイ殿!」
比佐丸たちの所に戻ると、ちょうど彼が敵を撃ち倒したところだった。
戻ってみると、比佐丸たちの方が敵を押していることに、ケイは内心意外な思いをする。
敵の剣術部隊の者たちはかなり能力の高い者たちの集まりなのだが、そんな彼らを、失礼ながら比佐丸たちが上回るほど強いようには思っていなかったからだ。
「何かあったのですか?」
よく見ると、ケイは敵の剣が少し鈍いことに気が付いた。
どうやら、それが有利になっている要因のようだが、ケイがいなくなっている間に何かあったのだろうか。
疑問に思ったケイは、その理由を比佐丸に尋ねた。
「坂岡が死んだことに加えて、側近の30人もこの世から去ったと教えてやったら、戦意を喪失したようで……」
「なるほど」
追っていたはずの比佐丸たちが来たことで、ケイの言う通り坂岡たちの身に何かが起きたのだと敵の者たちも気付いたらしい。
さらに、坂岡に付いていた精鋭たち30人も全滅したということを告げられ、心に動揺と迷いが生じたようで、それが彼らの剣を鈍らせていたようだ。
逆に、美稲の剣士たちは勝機を感じて勢いに乗っている。
それにより、実力を如何なく発揮しているため、有利にことを運んでいるのかもしれない。
「とは言っても、元々我々よりも上の者たちです。仲間の援護をお願いしてもいいですか?」
「分かりました」
比佐丸の言う通り、敵は剣筋が鈍っているとは言っても、美稲の剣士たちは簡単には倒せない。
勢いに乗っているとは言っても、美稲の剣士たちも怪我と疲労をしている。
アドレナリンが出ている今は良くても、その内体が付いてこなくなるはずだ。
そうならないうちに倒してしまおうと、ケイは比佐丸と共に他の仲間の援護に向かうのだった。
◆◆◆◆◆
「ワハハハハッ!!」
美稲の町から北にある奧電の町。
その更に北に位置する同竜城では、女を侍らせてはしゃぎ回る者がいた。
この西地区の領主を任されている大名の綱泉佐志峰だ。
将軍家の血を引きながらも無能として扱われてきた彼は、どういう訳かこの西地区の綱泉家に養子として入る事ができた。
西地区は田舎だとは言っても、大陸との取引で様々な品が手に入る地域でもある。
酒と女、更には趣味の魔物収集と、やりたい放題にできて佐志峰には天国のようなところだろう。
「上重様!」
「何事だ?」
酒に酔い、女と共に踊り回っている佐志峰を、部屋の片隅で1人の男が静かに見つめていた。
八坂を屠るように坂岡に命令した張本人である上重だ。
突然の部下の入室に、上重は睨むように問いかける。
「剣術部隊の者が……」
「何だ? ファーブニルを止められなくて困っているのか?」
当然上重は坂岡率いる剣術部隊の者たちが、八坂をこの世から消すために動いているのは知っている。
その剣術部隊の者たちのことで慌てて報告に来るということは、念のために使うことを許したファーブニルの捕縛くらいのものだろう。
勝手にそのように解釈した上重は、面倒くさそうに部下に話す。
「ちゃんと魔力を封じる鎖の魔道具を渡しておいただろ?」
坂岡には捕縛用の魔道具を持たせていた。
魔物の収集に必要なため、佐志峰が持っていたものだ。
上重には大抵のことは都合よく使える佐志峰は、飾りの大名としては本当に楽でいい。
しかしながら、魔物の収集に関してはどこから情報と道具を手に入れているのか、全部を把握できていない。
それがファーブニルの入手だ。
魔物の収集関係以外は特に問題がないので放置しているが、ファーブニルほどの魔物を手に入れてくるなどという事を考えると、それもそろそろ考えものとなってきている。
今回のことが終了したら、上重は佐志峰の魔物収集を制限するつもりでいた。
「……全滅しました」
「……………………何?」
坂岡たちのことを忘れ、佐志峰の魔物収集をどのようにやめさせるかを考え始めた上重に、部下の男は言いにくそうに報告した。
それもそのはず、彼もその情報が信じきれていないからだ。
その報告を受けた上重は、何を言っているのか理解できず、数秒間思考が停止した。
「何を言っているんだ? あれほどの戦力を使うことを許したというのに、剣術部隊が全滅をするわけがないだろう!?」
部下が言っていることの意味がようやく理解できた上重は、段々と声を荒らげていく。
余程信じられないことなのだろう。
「信じられませんが、真のことです。八坂が将軍家へ謀反の知らせを送ったという情報を得ました。」
「待てっ!! 全滅した上に八坂を仕留めていないだと!? そんなバカな!!」
上重にとって、更に信じられない言葉が続いた。
全滅だけでも信じられないというのに、八坂が生きているという報告だ。
何のために危険な魔物まで使う許可を出したのか分かったものではない。
「どうした? 上重……」
「殿……」
声が大きくなったため、さすがに佐志峰も異変に気が付き、酒で赤らめた顔で上重に問いかけてきた。
この現状を話したところで何の役にも立たないくせに、関係ないから話しかけて来るなと上重は言いたくなる。
しかし、飾りでも大名の佐志峰に、上重は頭を下げる。
「まぁ、何が起きたか知らないが、お主に貸した魔物はちゃんと帰ってくるのであろうな?」
「……えぇ、それはたしかに……」
「そうか? それならいい……」
こんな時でも魔物の方が気になるのかと、改めて役立たずだと上重は内心で佐志峰のことを蔑む。
そんな上重のことは気にせず、佐志峰はすぐに女たちの元へ戻っていった。
「殿! 少々席を外させていただきます」
「おうっ!」
ここで話していると気が散って仕方がない。
なので、上重は佐志峰に断りを入れて、部下と共に退室をしていった。
もう酒と女に意識が行ったのか、佐志峰は軽い返事をした。
「……巨大蛇とファーブニルはどうした?」
「両方とも、死んだと報告を受けております」
「……何だと? 何から何までふざけたことを……」
部屋を変えて座った上重は、対面に座った部下に問いかける。
全ての剣術部隊の者たちを殺したと思っているケイたちだが、僅かながら生き残っていた者はいた。
北に逃げたのに、ケイの誘導でファーブニルに攻撃をされた者たちだ。
大半の者は死んでおり、ケイたちが生存確認に来た時には魔物に喰い散らかされていた。
そんな中、辛うじて生きている者が1人、片足を折っただけで済んだ者が1人、擦り傷だけで軽傷という奇跡的な者が1人の合計3人が生き残り、途中で1人息絶えたが、何とか生き残った二人が報告をしに来たのだった。
その報告に、上重はこめかみに血管を浮きあがらせる。
自分の思い通りにならないことばかりに、怒りが我慢の限界に来ていた。
そのせいか、彼の中で何かが切れてしまったのかもしれない。
「どういたしましょう? 他領の大名たちは、これ幸いにと攻めて来る可能性があります」
八坂が生きており、魔物を使って市民に被害を受けさせるとこだった。
そんなことをして、いくら領主が将軍家の血を引いているとは言っても、何もしない訳にはいかない。
国民感情のためには、軍を送って粛清する必要がある。
日向の他の地域が全て敵だということだ。
「くっ!! もしそうなれば、殿の魔物を全部解き放ってでも応戦するしかない」
「っ!? そんなことをしたら完全に日向全土を敵に回します!」
「……それがどうした?」
「っ!?」
巨大な相手が敵になったというのに、強気な姿勢をとる上重に、部下の男は慌てて忠告をする。
しかし、部下の男はそこでようやく上重の目がおかしくなっていることに気が付いた。
「全軍を叩き潰して、殿に征夷大将軍になって貰えばいい」
「…………」
現実を見ているのか怪しいが、言っていることもあながち間違いではない。
佐志峰の収集した魔物の中には、ちょっとやそっとの兵数では倒せないような強力な魔物も数体いる。
それを使えば、敵の数など恐れるに足らない。
そのため、部下の男はなんとなく上重の意見に聞き入ってしまった。
「とにかくお前は少しでも多く兵を集めろ!」
「……かしこまりました」
上重に付いているこの部下も、恐らくは粛清対象に入る事になるかもしれない。
それならば勝ち目がないとは思いつつも、上重の指示に従うしかない。
そう思った男は、頭を下げるとすぐに退室して行ったのだった。
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