エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第233話

「約500人って所か? フゥ~……」


 刀を抜き、ゆっくりとケイへ向かってくる剣術部隊の者たち。
 ざっと見た感じの数に、ケイは思わずため息が出る。
 剣術部隊に入るような者たちだ。
 パッと見た感じだと、全員が魔闘術を使えるようだ。
 流石、エリートといったところだろうか。
 そんなのを相手に戦わなければならないとなると、気が重くなってくる。


「あいつ、この人数を相手にするつもりか?」


「おいおい、冗談だろ?」


 剣術部隊はいくつかの隊に分かれるが、このように多くの人数が集まるのは珍しい。
 強力な魔物や、町や村が潰れるような魔物の大繁殖くらいの時しか集まらない数だ。
 それゆえに、ケイがやる気になっているのが鼻についたのか、若い隊員が軽口をたたいていた。
 周囲の者たちも似たようなことを思っているのか、それを咎める者はいない。


「行けー!!」


「「「「「ウォーーー!!」」」」」


 どこからともなく声が上がる。
 それを合図にするように、剣術部隊の者たちは走り出した。
 ケイだけでなく、1ヵ所に集まっている八坂たちの方にも向かっている。


「キュウ! あっちを任せる!」


【うんっ!】


 八坂の方にはまだ戦える者もいる。
 蛇や大砲の攻撃を受けて怪我した者たちの中には、回復薬で治った者もいる。
 少しの間放って置いても、自分たちの身を守るくらいの抵抗はできるはずだ。
 しかし、ケイは念のためキュウをそちらへ向かわせた。
 その指示を受けたキュウは、ケイの肩の上から風魔法を使って八坂たちの方へと移動した。


「一番乗り!」


「あの世にな!」


“パンッ!”


 血気に逸ったのか、若い隊員が我先にとケイへと迫る。
 速度が自慢なのかもしれないが、その程度でケイに刃が届くわけがない。
 刀が振られる前に、ケイは至近距離から銃撃を脳天に放ってあっさり仕留める。


「食らえ!」


“ドンッ!!”


 魔闘術の使い手に接近されたら、ケイでも怪我を負ってしまうかもしれない。
 なので、近付く前に一発お見舞いすることにした。
 放ったのは水魔法。
 迫り来る剣術部隊の者たちの上空に、ケイは巨大な水球を発射させた。


「「「「「っ!?」」」」」


 それを見た剣術部隊の者たちは、上空に飛んで行った水球に首を傾げる。
 攻撃をしてくると思っていたら、明後日の方向に飛んで行ったからだ。


「んっ?」


 不発の攻撃に気を止めることなく、剣術部隊の者たちは突き進む。
 すると、上空から水滴が落ちてきて、一瞬雨かと思う。
 しかし、天候は晴れていた。
 なので、勘違いかと思ったが、水滴は一定範囲にシャワーのように降り注いできた。


「ハッ!!」


“バチッ!!”


「っ!? まさか?!」


 中には気付いた人間もいたようだが、もう遅い。


「「「「「ギッ!?」」」」」


 続いてケイの魔銃から放たれたのは電撃。
 少し前にキュウが放った動きを止めるための電撃などではなく、食らった者を感電死させるための電撃だ。
 その電撃が流れやすくするために放ったのが、先程の水球だった。
 イメージ通りに事が運び、一気に数十人の敵が黒焦げになって息絶えた。


「このっ!?」


 仲間を殺されたことに腹を立てたのか、ケイの所へ先頭がたどり着く。


「うぐっ!?」


 迫る速度をそのままに放った鋭い突きが迫るが、それをケイはしゃがんで躱す。
 そしてそのまま懐に入ると、鳩尾目掛けて蹴りを放つ。
 腹に攻撃を食らった敵は、そのままケイへと迫る仲間の所へ飛んで行く。


「「っ!?」」


“パンッ!!”


 迫って来る敵たちは、仲間が飛んできたため、咄嗟にそれを受け止める。 
 しかし、その瞬間は完全に無防備。
 蹴とばした男共々、ケイの弾丸の餌食になる。


「死ね!」「オラッ!」


“パンッ!!”“パンッ!!”


 2人を始末したケイの左右から、他の敵たちが襲い掛かる。
 しかし、動きが直線的過ぎる。
 刀を振り上げた2人の心臓部分はがら空きの状態。
 ケイはそこを狙って左右へ弾丸を放つ。


「「っ!?」」


 心臓に風穴を開けられた2人は、そのまま前のめりに倒れた。


“ドカッ!!”“ドカッ!!”


 そのままでは邪魔なので、その2体の死体を蹴り飛ばす。


「「「「っ!?」」」」


 また飛んできた仲間に、向かって来ている敵は先程と違い今度は躱す。
 しかし、躱したら躱したで、後ろから走ってきている者たちは躱せず飛んできた仲間にぶつかってしまう。
 2人蹴とばして、直撃した4人が仲間に潰され気を失った。
 ケイとしては、都合のいい結果だ。


「1人、2人で攻めても無理だ! 一斉にかかれ!」


 足の速さがバラバラだから、ケイに襲い掛かるのもバラバラ。
 それでは、ケイに傷を着けることなど不可能。
 そう判断した敏い者もいるらしく、一斉攻撃を命令する。


「なら、一斉に死ね!!」


“ボッ!!”


 8人の敵が、ケイを包囲するように八方から一斉に斬りかかる。
 しかし、その瞬間、ケイは魔銃の引き金を引く。
 それによって、ケイの周囲の地面に変化が起きる。
 振動をしたと思った次の瞬間には、まるで地面から生えたかのように、針の形になって8人へと襲い掛かる。


「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」


 頭や体を針に突き抜かれ、一気に8人の命がこの世から消えさった。


「うっ!!」


 仲間のあまりにも凄惨な死に方に、若い隊員は怯み、二の足を踏む。
 ケイとしても、それを見越しての殺し方だ。


「怯むな! 新米どもは八坂の方を攻めろ!」


「チッ! 余計なことを……」


 ケイ相手に若手では通用しないと悟ったのか、ベテラン剣士から指示が飛ぶ。
 冷静なその指示に、ケイは舌打ちをして小さく呟く。
 できれば八坂たちの方に敵を向かわせたくないためだ。
 動きを見る限り、若手でも中にはまあまあの戦闘レベルをした者が混じっている。
 八坂たちの誰かが多少怪我をするくらいなら別に構わないが、キュウが怪我をしたらと思うと少し不安だ。


「ムンッ!」


“ドンッ!!”


「「「「「ギャッ!!」」」」」


 さっきから、ケイにとってイラつく指示をする者が紛れている。
 その者がどこにいるかは、声がした方を探知することで見つけられる。
 そういった者がいられると迷惑なので、ケイはその者がいる方向へ向かって高加熱の火球を発射する。
 発射された火球によって、その射線上にいる敵と指示を出していた者が一瞬で炭化した。


「キュウが無茶しないと良いんだけど……」


 キュウは、ケイに頼まれると一生懸命になり過ぎる所がある。
 八坂たちのことを頼んだため、彼らを守ろうと魔力の配分を考えないで戦いそうだ。
 昔、アンヘル島で噴火が起きた時、キュウの息子たちがそうだったように、命を尽くしてまでがんばることはしてほしくないと思っていたケイだった。












「このっ!」


「チッ!」


 ケイが無双している所から少し離れ、八坂たちの方も敵と戦っていた。
 こちらに来るのは若手を中心とした敵たちだが、剣術部隊に入るほどの実力を誇る若手のため、八坂たちでも手こずっていた。


【えいっ!】


「「「「「ギャッ!!」」」」」


 そんな中、キュウの魔法は八坂たちにとってかなり重宝した。
 ただの愛玩従魔かと思っていたら、一発で数人を無効化することに驚かされる。
 しかし、今はそれどころではない。
 迫り来る敵に対処するのでいっぱいいっぱいだ。


「変な魔物に気を付けろ! 厄介な魔法を放ってくるぞ!」


「「「「「おうっ!」」」」」


 キュウの放つ魔法を脅威に思ったのか、敵の中からこのような声が聞こえて来た。
 それに多くの者が返事をするが、近接戦闘しかない者たちには警戒しても対処のしようが無い。


【ハッ!】


「ぐっ!!」


 体が軽いキュウは、迫ってきた剣士の攻撃を受けまいと、風魔法を使って刀の届かない上空へと浮かんで行く。


【えいっ!】


 そして、上空から色々な魔法を放って敵を減らしていったのだった。





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