エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第220話

「……部下が迷惑をかけた。私は今回の魔物討伐の任を受けた坂岡源次郎と申す」


 不愉快な態度だった男を伸して、部隊の者たちはケイを睨みつけてくる。
 しかし、そんな彼らを止めて、1人の男性がケイのいる所へ歩み寄ってきた。
 かなりの美丈夫で、身に着けている細かい装飾品から他の者たちとは立場が違うように思える。
 そして、ケイと目が合うと男は礼儀正しく自己紹介をしてきた。


「ケイ……です。大陸からきた冒険者です」


 ケイも、名ばかりとは言っても一国の王という立場。
 アンヘルの名を言うか悩み、変な間ができる。
 しかし、敬語を使うことを悩んだようにして何とか誤魔化そうとする。
 流石に慇懃な態度で来た者に対し、無礼な態度で返すわけにはいかない。
 ケイも源次郎に対して、丁寧な言葉で自己紹介した。


「この子たちは従魔のキュウとクウです」


「随分可愛らしい従魔だな」


 ケイの側にいるキュウたち従魔を紹介すると、源次郎は笑顔でキュウたちを見つめた。
 手入れは結構頻繁にしているのでキュウたちの毛並みはケイにとって自慢でもある。
 そんなキュウたちを褒められ、ケイは内心源次郎への好感度が上がった。


「彼は? 日向の者に見えるが?」


「あぁ、彼はたまたま知り合い、道案内を頼んだ太助という者です」


「……太助です」


 源次郎は当然残りの善貞へ目を向け、ケイに問いかける。
 そして、ケイは何故か善貞を太助という名で紹介した。
 そのやり取りを、善貞は僅かに焦っていた。
 ケイ特製のマスクをしているお陰でバレるとは思わないが、出来ればこの者たちに素性をバレたくない。
 バレる可能性を少しでも減らすためにの打ち合わせをケイとする時間もなく、どうするべきか悩んで来たのだが、ケイがしれっと別の名で紹介された。
 それに乗っかり、善貞は自分を太助と名乗った。


「……帯刀している所を見ると浪人か?」


「はい」


 あとで善貞に聞いた話だと、この国で帯刀しているのは大名などに仕えている武士の者たちと、そう言った職につけず、魔物を狩って小遣いを稼いでいる者に別れるそうだ。
 浪人とは、大陸で言う所の冒険者に近いが、結局は職につけなかった者のため、先行きが暗いまま生きているに過ぎない。
 そのため、嫁になろうとする者もおらず、はっきり言ってはみ出し者というレッテルを張られた者のことをいうらしい。
 それはさておき、源次郎の問いに善貞は短い返事をする。


「それにしてもお主なかなかやるな。義尚をあっさり静めるとは……」


「腕っぷしには多少の自身があるもので……」


 態度が悪く、腹を立てて刀を抜いたため、ケイに攻撃されて気を失った男は、どうやら義尚というらしい。
 源次郎も義尚の態度が少々良くないと思っていたので、いい薬になったと思っている。
 しかし、態度が良くないとは言っても、この剣術部隊に入るほどの実力の持ち主。
 一応精鋭の一人を一撃で倒したことを源次郎が褒めると、ケイは大したことないように返答する。


「さて、挨拶も済んだし、改めて魔物のことを聞いていいか?」


「えぇ……」


 ここまで来て、ケイたちを引き留めたのも任務のことがあってのことだ。
 ケイとしては、元々聞かれれば答えるつもりはあったので別に構わない。
 そもそも、仲間に介抱されている義尚が、最初からちゃんと聞いていれば無駄な手間をかけずに済んだのだが、その愚痴は源次郎に免じて言わない。
 そして、ケイは猪の群れの討伐をしたことを説明したのだった。


「なるほど……、信じられんがその猪の群れをお主が倒したのか……」


「はい」


 ケイの説明を受け、源次郎は納得したように頷いた。


「嘘だ! 源次郎様、いくら何でも大繁殖した群れを1人で倒せるわけがありません!」


 話している最中に目を覚ましたのか、義尚がケイの話を否定してくる。
 たしかに信じられないのも仕方がないが、またも勝手に決めつけて来たのには、学習しない男だと思う。


「これが一応証拠になります」


「……これは?」


 義尚のツッコミを無視し、ケイは魔法の指輪から黒焦げのうり坊を取り出した。
 見た目は焦げたうり坊だが、どことなく形が違う。
 そのため、源次郎はケイにこの物体の説明を求める。


「大繁殖の元凶となった猪です。見た目はうり坊ですが、これが念話を使っていたのを確認しました」


「ほう……」


 出されたうり坊は、たしかに普通のとは形が微妙に違うが、死んでしまっていては、確認するためにちゃんとした所へ持って行って調べてもらわないと分からない。


「持って行っていただいて構いません」


「いいのか?」


「えぇ」


 猪の群れの討伐というかなり危険なことをやってのけたのに、その元凶を渡すなんて手柄を放棄するようなものだ。
 それをあっさりと渡されたことに、源次郎は意外そうに問いかけてきた。
 立ち寄った月和村で、討伐依頼を源次郎たちに出したのは聞いていた。
 そのため、猪の群れを倒してから討伐部隊が来てしまった時の事を考えて、ケイは念のため取って置いたに過ぎない。
 奧電に着いた時にまだ討伐部隊が出発していなかったなら、出発をしなくていいと伝えるためにどこかに提出するつもりでいたため、渡してしまっても全然構わない。
 源次郎の問いに返事をしたケイは、そのままうり坊の死骸を源次郎に渡したのだった。


「そこの2人! 確認に行って来てくれ!」


「「ハッ!!」」


 義尚ではまたおかしなことになるかもしれないと思ったのか、源次郎は近くにいた2人に指示を出し、ケイが倒した猪の群れのあった所へ確認に行かせた。
 その指示を受けた2人は、了解したように頭を下げた後、馬に乗って走り出した。


「嘘を言っているとは思わぬが、きちんと確認しないとならぬのでな」


「大丈夫です。理解してます」


 確認に行かせたからと言って、義尚のように全く信じていないという訳ではない。
 討伐完了の報告をする上でも、群れがいた場所などの情報の確認が必要になって来る。
 そのことを告げる源次郎だが、立場上色々あるのだろうと、ケイはちゃんと理解しているつもりだ。


「坂岡様! その者の言う通り猪の骨が大量に埋められた場所が確認できました」


「そうか」


 確認に行った2人は、ケイたちがとどまっていた場所へと戻ってきた。
 そして、ケイの言ったことが本当だったことを源次郎へ報告したのだった。


「本来は我々の仕事だったのだが、お主のお陰で危険な手間が省けた。感謝する!」


「いえ、当然のことをしたまでです」


 報告を受けた源次郎は、感謝の言葉と共にケイに握手を求めて手を出してきた。
 感謝されて断るのもおかしいので、ケイは源次郎の手を握り、握手をする。


「これからお主たちはどうするのだ?」


「奧電へ向かうつもりです」


 事も済んだことだし、源次郎たちは奧電に戻ることにした。
 馬たちの休息も十分済み、これまで来た道から反転させて出発といったところで、ケイたちに行き先を尋ねてきた。
 それに対して、ケイは正直に答える。


「ならば、我らと共に行こう!」


「「…………えっ?」」


 その源次郎の誘いに、ケイだけでなく善貞も驚きの声が思わず出たのだった。





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