エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第203話

 主人であるケイがいつものようにいなくなった後、従魔のキュウたちはすることもないので、宿屋の2階の部屋でのんびりと昼寝をしていた。


【…………?】


 ベッドの上でウトウトしていたキュウだったが、部屋に近付く気配を感じ薄く目を開く。


「ZZZ……」


 その気配に気付いていないのか、キュウがいることで完全に安心しきっているからなのか、クウの方は全く目を覚ますことなく眠っている。


【クウ! おきろ!】


「…………ワフッ?」


 部屋の近くに来た気配は、何故だか動かない。
 それに違和感を感じたキュウは、眠そうにしていた目を開き、眠っているクウを念話で起こす。


「ワウッ?」


【ごはんじゃない! だれかきた!】


「っ!?」


 起こされたクウは寝ぼけているらしく、キュウにお昼の時間なのかと尋ねる。
 たしかにこの数日、キュウがクウを起こすのは、主人のケイが帰って来てお昼を食べる頃。
 いつもと同じように御飯の時間だと思っても仕方がないかもしれないが、今はそんなことを言っている時ではない。
 鼻を使ってそのことに気付いたクウは、警戒心を上げ、黙って外の様子を窺いだした。


“カチッ!!”


 ちゃんとカギをかけていたのに、どういう訳だか鍵が開く。
 宿屋の従業員という可能性もあるが、ケイは明日までの契約をしてちゃんと料金も払っている。
 契約では、ケイの許可なく従業員は入らない決まりになっている。
 商売は信用第一。
 スペアの鍵を持っているからと言って、その契約を破り、信用を失うようなことをする者はこの宿屋の従業員にはいない。
 つまり、


「っ!? やっぱりいたぞ!!」


「マジか!?」


 扉が開いて姿を現したのは、従業員など柄はなく2人組の男だった。
 2人とも身長はケイより少し大きいくらい。
 そのうち片方は、程よく全身に筋肉が付いた短髪の細マッチョ。
 もう1人は、短いロッドを持っている魔法使い風のロン毛
 この宿では一度も見たことがない。
 何をしに来たのか分からないが、態度や口調を見る限り冒険者のように見える。


【クウ! こうげきしちゃだめだぞ!】


「ワンッ!!」


 この2人組の目的が何なのか分からないが、キュウのことを見ている所を見ると、手配書の件で来たのかもしれない。
 しかし、まだ確定していない上に、理由なく村や町中で従魔が人に攻撃をすると、主人であるケイに罰則が与えられてしまう。
 なので、キュウはクウに攻撃をすることを禁止する。
 クウも分かっているので、キュウの言葉に了解の返事をする。


「でもいいのか? ベラスコの指示を無視して……」


「いいんだよ。無視したからこいつを見つけられたんだから……」


 扉の前を陣取り、2人組はキュウたちを無視して話し合いを始める。
 内容を聞く限り、アウレリオにケセランパサランの捕獲を依頼したベラスコ。
 そのベラスコから出されていた指示を、無視してこの村に来たようだ。
 ベラスコが出した指示とは、このキョエルタの村から東側の村や町で手配書の男を捜索しろという指示だった。


「さっさと捕獲して……」


「あっ!?」


 話し合っていた2人がキュウたちに目を向けると、いつの間にか2匹はいなくなっていた。
 扉は2人に立ち塞がれている。
 なので、キュウたちは2人が話し合っている間に、静かに窓を開けて飛び降りていたのだった。


「くっ!!」


「っざけんな!!」


 逃げられたことに気が付いた2人組は、慌てて開いている窓から外を眺める。
 すると、黒い毛玉を頭に乗せた柴犬が、村の道を走って宿屋から離れて行っているのが見えた。
 油断したとはいえ、あんな魔物にあっさり逃げられたことに、2人は腹を立てて追いかけようとする。
 しかし、ここの窓はキュウやクウならともかく、大の大人が通り抜けられる大きさではない。


「ハッ!!」


“ボンッ!!”


 一刻も早く追いかけたい2人組のうち、ロン毛の男が短絡的に爆発の魔法を窓へと放つ。
 それによって窓は吹き飛び、大きな穴が開いた。
 爆発の影響で僅かに火災が発生した。


「行くぞ!」


「おうっ!」


 これで人でも通れるようになったため、2人の男はキュウたちを追いかけようと、宿屋から跳び出した。


「何だ!?」


「宿屋が爆発した!!」


「あの2人だ!!」


 爆発なんてすれば、当然大きな音が鳴る。
 宿屋の近くにいた村の住人たちは、煙が上がる穴から出てきた2人組の男に視線が集中する。


「……おいっ! どうする?」 


 村人が集まり始め、短髪の男は慌てる。
 キュウたちを追いかけようにも、村人たちが数人で宿屋を破壊した犯人である2人を取り囲んでいるため、邪魔されて出来ない。
 こうなると考えもせずに魔法を放った長髪の男へ、抗議の目を向けた。


「……証拠は隠滅しよう!」


「……なるほど」


 短髪の男は魔法の指輪をしていたらしく、急に槍を取り出す。
 少し長めの槍で、持って歩くには色々と不便なため、魔法の指輪に収納しているのだろう。
 長髪の男の方はと言えば、短気な性格のようで、すぐさま囲んでいる村人に向けて手のひらを向け、魔力を集め始めた。


“ドンッ!!”


「ぐあっ!」「ごあっ!」「うがっ!」


 手に魔力が集まると、長髪の男は無言で村人たちへ爆発魔法をブッ放つ。
 何人もが吹き飛び、大怪我を負う者も出た。


「ハッ!!」


「ぎゃあ!」「ぐへっ!」「おがっ!」


 短髪の男の方も、取り出した槍で村人たちを斬る・刺す・殴るで仕留めていく。


「道が空いた!」


「追うぞ!」


 それによって、囲んでいた村人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。
 2人組の目的はケセランパサランの捕獲。
 村人が逃げたことで、キュウたちを追いかけることができるようになった。
 そうなれば村人なんてどうでも良い。
 2人はキュウたちを追いかけるために、その場から走り出したのだった。





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