エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第193話
「結構早く会うことになったな……」
ピトゴルペスに着いた翌日、宿屋でゆっくりとしたケイたちは、旅の資金を稼ごうと依頼を探しにグレミオに来たのだったが、建物の中に入る前でケイは足を止めた。
昨日町の中ですれ違った男が、グレミオ内にいることを探知したからだ。
何を考えているか分からないというのは結構不気味なことなので、ケイとしてもその男には関わりたくないと思っている。
【どうするの?】「ニャッ?」
足を止めて呟いたケイに、キュウとクウは不安になって問いかける。
主人であるケイに気を付けるように言われている2匹も関わりたくないが、旅を続けるにも旅の資金が必要になる。
野宿という手もあるが、宿屋で雨風凌いでゆっくり眠れる方が当然気分がいい。
そうなると、ここで依頼をこなして稼ぐのが手っ取り早いのだが、ここでグレミオ内に入ると何だか面倒臭くなりそうなので、どうしたものかと悩ましい。
「確か、ここ少し行ったところに村があったはずだ。そっちでも魔石を買ってもらえるだろうから、そっちへ行こう」
資金を稼ぐには、冒険者組合であるグレミオで依頼をこなし、その報酬として手に入れる方法と、倒した魔物の魔石を取り扱っている店に売る方法がある。
目の前に現れた魔物はあっという間に倒してしまうので、ケイの魔法の指輪の中には多くの魔石が入っている。
ただ、ケイたちの強さを本能的に察知するのか、強い魔物は姿を現さないため、良い値段になりそうな魔物の魔石が手に入らない。
そうなると薄利多売をするしかなくなるのだが、小さい魔石はたいした値段にならず、大金を手に入れようとなると、周辺の魔物を狩りつくす勢いで倒さなければならなくなる。
そんなことしたら、弱い魔物がいなくなり、強い魔物の相手をしなければならなくなった他の冒険者にしわ寄せが行き、多くの人間が命を落としかねない。
他の人間がどうなろうとはっきり言って関係ないのだが、自分のせいで死人が増えるのは気分が悪い。
なので、ほどほどにしているのだが、小さい村とかだとそれがより顕著になる。
稼ぐのには適してはいないが、急ぐ旅でもないので面倒なことになるよりかはいいだろう。
そう思ったケイは、近くの村に移動することを提案したのだった。
【わかった!】「ニャ~!」
ケイがそうすると言うなら、2匹は別に反対する理由がない。
なので、すぐにケイの提案に頷く。
「っ!? クウ!」
「フニャッ!?」
そうと決まれば、早々にこの場から離れようとしたケイだったが、すぐに表情に変化が起きる。
そして、すぐさまクウを捕まえて移動した。
周囲には、猫を捕まえて急に走り出したように見えただろう。
「おかしいな……」
先程までケイたちがいた場所に、グレミオの中から出てきた男が立ち止まる。
ケイが警戒していたアウレリオが、何だか違和感を感じて建物内から出てきたのだが、出た直後にその違和感が消えた。
周囲を見渡すが、昨日と同じくそこにはもう何も感じなくなっている。
そのことにアウレリオは首を傾げる。
「何かいたと思ったんだが……」
昨日の反応は、もしかしたら冒険者としてのブランクから来る間違いだったのかもしれない。
そう思って、アウレリオはとりあえずもう一日、この町中に手配書の者たちがいないかと探すことにした。
町から町へ移動を繰り返している所を見ると、グレミオで仕事をこなしているのではないかと思って探しに来てみたのだが、やはり直感には何の反応もない。
そのため、他の町へ移動しようかと考えていたところに、またも昨日と同じような感覚に襲われた。
しかし、またも空振り。
「…………もしかして」
またも自分の勘違いかとも考えたのだが、もう一つの可能性が頭に浮かんできた。
「まさか…………動きが把握されている?」
その浮かんできた考えとはこれだった。
昨日もそうだったが、アウレリオが反応してから周囲を探し始めるまでは少しのタイムラグがある。
その僅かな時間で反応が消えているということが間違いでないと仮定するならば、その僅かな時間でアウレリオから遠ざかっているということになる。
こっちの動きに気付いていないと、こんな芸当ができるとは思えない。
「そうなると、厄介だな……」
自分のことを避けている人間がいるという可能性があるというのは分かった。
そして、自分から逃げるような人間なんて、今追っている手配書の人間くらいしか思いつかない。
低い可能性として、冒険者として以前関わった人間ということもあり得るが、そんな才能のある人間に心当たりがない。
人間の成長や変化なんて、完璧に分かるなんてことはあり得ないが、確率からいってもやはりそうだ。
手配書の人間がこの町から東へ向かっているのはベラスコの情報から分かっているが、目的地がどこだか分かっていない。
どこかに行くつもりなのかもしれないし、ただ旅をしているだけかもしれない。
そうなると、追いかけるにしても間違えたらもう情報がなくなってしまう。
アウレリオの妻であるベアトリスを少しでも早く治してあげるためにも、行方を見失う訳にはいかない。
「キョエルタの村で確実に見つける!」
自分のことを避けているということは、2度のニアミスをしてこの町にいつまでもいるとは思えない。
恐らく、今日か明日にはこの町を離れるかもしれない。
東に向かっているということを考えると、ここから東南にキョエルタという村しかない。
西へUターンということもあり得るが、その場合はベラスコが送っている諜報員が発見してくれるはず。
アウレリオが取るべき選択は、キョエルタの村一択だ。
そうと決まれば善は急げ、アウレリオはすぐさま移動を開始したのだった。
ピトゴルペスに着いた翌日、宿屋でゆっくりとしたケイたちは、旅の資金を稼ごうと依頼を探しにグレミオに来たのだったが、建物の中に入る前でケイは足を止めた。
昨日町の中ですれ違った男が、グレミオ内にいることを探知したからだ。
何を考えているか分からないというのは結構不気味なことなので、ケイとしてもその男には関わりたくないと思っている。
【どうするの?】「ニャッ?」
足を止めて呟いたケイに、キュウとクウは不安になって問いかける。
主人であるケイに気を付けるように言われている2匹も関わりたくないが、旅を続けるにも旅の資金が必要になる。
野宿という手もあるが、宿屋で雨風凌いでゆっくり眠れる方が当然気分がいい。
そうなると、ここで依頼をこなして稼ぐのが手っ取り早いのだが、ここでグレミオ内に入ると何だか面倒臭くなりそうなので、どうしたものかと悩ましい。
「確か、ここ少し行ったところに村があったはずだ。そっちでも魔石を買ってもらえるだろうから、そっちへ行こう」
資金を稼ぐには、冒険者組合であるグレミオで依頼をこなし、その報酬として手に入れる方法と、倒した魔物の魔石を取り扱っている店に売る方法がある。
目の前に現れた魔物はあっという間に倒してしまうので、ケイの魔法の指輪の中には多くの魔石が入っている。
ただ、ケイたちの強さを本能的に察知するのか、強い魔物は姿を現さないため、良い値段になりそうな魔物の魔石が手に入らない。
そうなると薄利多売をするしかなくなるのだが、小さい魔石はたいした値段にならず、大金を手に入れようとなると、周辺の魔物を狩りつくす勢いで倒さなければならなくなる。
そんなことしたら、弱い魔物がいなくなり、強い魔物の相手をしなければならなくなった他の冒険者にしわ寄せが行き、多くの人間が命を落としかねない。
他の人間がどうなろうとはっきり言って関係ないのだが、自分のせいで死人が増えるのは気分が悪い。
なので、ほどほどにしているのだが、小さい村とかだとそれがより顕著になる。
稼ぐのには適してはいないが、急ぐ旅でもないので面倒なことになるよりかはいいだろう。
そう思ったケイは、近くの村に移動することを提案したのだった。
【わかった!】「ニャ~!」
ケイがそうすると言うなら、2匹は別に反対する理由がない。
なので、すぐにケイの提案に頷く。
「っ!? クウ!」
「フニャッ!?」
そうと決まれば、早々にこの場から離れようとしたケイだったが、すぐに表情に変化が起きる。
そして、すぐさまクウを捕まえて移動した。
周囲には、猫を捕まえて急に走り出したように見えただろう。
「おかしいな……」
先程までケイたちがいた場所に、グレミオの中から出てきた男が立ち止まる。
ケイが警戒していたアウレリオが、何だか違和感を感じて建物内から出てきたのだが、出た直後にその違和感が消えた。
周囲を見渡すが、昨日と同じくそこにはもう何も感じなくなっている。
そのことにアウレリオは首を傾げる。
「何かいたと思ったんだが……」
昨日の反応は、もしかしたら冒険者としてのブランクから来る間違いだったのかもしれない。
そう思って、アウレリオはとりあえずもう一日、この町中に手配書の者たちがいないかと探すことにした。
町から町へ移動を繰り返している所を見ると、グレミオで仕事をこなしているのではないかと思って探しに来てみたのだが、やはり直感には何の反応もない。
そのため、他の町へ移動しようかと考えていたところに、またも昨日と同じような感覚に襲われた。
しかし、またも空振り。
「…………もしかして」
またも自分の勘違いかとも考えたのだが、もう一つの可能性が頭に浮かんできた。
「まさか…………動きが把握されている?」
その浮かんできた考えとはこれだった。
昨日もそうだったが、アウレリオが反応してから周囲を探し始めるまでは少しのタイムラグがある。
その僅かな時間で反応が消えているということが間違いでないと仮定するならば、その僅かな時間でアウレリオから遠ざかっているということになる。
こっちの動きに気付いていないと、こんな芸当ができるとは思えない。
「そうなると、厄介だな……」
自分のことを避けている人間がいるという可能性があるというのは分かった。
そして、自分から逃げるような人間なんて、今追っている手配書の人間くらいしか思いつかない。
低い可能性として、冒険者として以前関わった人間ということもあり得るが、そんな才能のある人間に心当たりがない。
人間の成長や変化なんて、完璧に分かるなんてことはあり得ないが、確率からいってもやはりそうだ。
手配書の人間がこの町から東へ向かっているのはベラスコの情報から分かっているが、目的地がどこだか分かっていない。
どこかに行くつもりなのかもしれないし、ただ旅をしているだけかもしれない。
そうなると、追いかけるにしても間違えたらもう情報がなくなってしまう。
アウレリオの妻であるベアトリスを少しでも早く治してあげるためにも、行方を見失う訳にはいかない。
「キョエルタの村で確実に見つける!」
自分のことを避けているということは、2度のニアミスをしてこの町にいつまでもいるとは思えない。
恐らく、今日か明日にはこの町を離れるかもしれない。
東に向かっているということを考えると、ここから東南にキョエルタという村しかない。
西へUターンということもあり得るが、その場合はベラスコが送っている諜報員が発見してくれるはず。
アウレリオが取るべき選択は、キョエルタの村一択だ。
そうと決まれば善は急げ、アウレリオはすぐさま移動を開始したのだった。
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