エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第191話
「アウレリオいるか?」
「ベラスコか……、何の用だ?」
キャタルピルの町の少し外れにある小さな家に、ある男が尋ねる。
ケイたちを追っている商会の会長の秘書をしている、ベラスコという男だ。
ノックをして家の中を入っていくと、すぐにベラスコの目的の相手に会うことができた。
この家の主人のアウレリオだ。
ベッドに横になっている女性に、水を与えていたところのようだ。
「すまんが、うちの会長の依頼を受けてほしくてな……」
「……場所を変えよう」
会長の命令を受けて高ランクの冒険者へ依頼をするとなった時、ベラスコの頭に浮かんだのがこのアウレリオだ。
今は冒険者としての依頼はこなさず、近隣の魔物を狩って資金を得るだけの生活になっている。
ここで仕事の話をするのは、アウレリオにとって都合が悪い。
なので、外で話をするように促した。
「……分かった」
ベラスコもアウレリオの状況が分かっていて来たので、その指示に素直に従った。
「……お前も分かっているだろ? 俺の状況を」
「あぁ……」
近くのカフェに入り、改めて仕事の話を始めると、アウレリオは遠回しにベラスコに断りの言葉を言ってきた。
アウレリオが冒険者としての仕事をしなくなった、というより出来なくなったのは、彼の奥さんのことが関係している。
そのことと、断られるのが分かった上で、ベラスコは今回アウレリオに頼むことにしたのだ。
今の商会に入ってすぐの頃、ベラスコとアウレリオは出会った。
下っ端の下っ端として働いていたベラスコが仕事で他の町へと商品を運んだ帰り、魔物に襲われている所を救ってもらったというのが出会いだ。
それ以降も何度か護衛の仕事を頼んだりしたこともあり仲良くなったが、アウレリオはあっという間にランクが上がっていったため、それ以降は仕事を頼むことはなくなっていった。
ベラスコにとっては命の恩人という思いがまだあり、その恩を返していないとずっと心に残っていた。
アウレリオが結婚して、冒険者として更に高みに登っていくと思っていたのだが、その奥さんが突如病にかかった。
足先から壊死していく原因不明の病で、両足を切断することになってしまい、現在は寝たきりの状態だ。
それ以降、SSランクまで上り詰めていた仕事をやめ、アウレリオは奥さんの看病をするために遠出をしなくなった。
この世界には欠損した四肢を再生する魔法があり、奥さんの足も再生しようと思えばできる。
教会に行けば再生魔法をしてもらえるが、かなりの金額を要求される。
冒険者として高ランクにまでいったアウレリオなら、資金集めはそれ程苦にならないため、再生してもらうことはできる。
しかし、医者に診てもらったが、奥さんの病気は原因がいまだによく分かっておらず、完治はしていない。
病気が治っていないため、魔法で再生したとしてもまた壊死して切断をするということの繰り返しになる。
その苦痛に耐えられず、奥さんはかなり精神的に参ってしまい、最近はアウレリオとも話さなくなりつつある。
看病をしているアウレリオはこの病気の完治を目指しているが、その為の薬が手に入らないと分かり、もうどうしていいか分からなくなっている。
なんとか奥さんの看病をしているが、いつアウレリオの心が折れてもおかしくない状況だとベラスコは見ている。
「お前の状況を分かっていて依頼をする」
「無理だ!」
アウレリオの状況が分かった上で、ベラスコは依頼しようとするが、アウレリオは眉間にしわを寄せて再度断る。
苦しみと怒りが混じっているような表情だ。
「話を聞け! お前にとってもいい話だ!」
「…………どういうことだ?」
これ以上下手に頼むと殴られかねない雰囲気だが、ベラスコもちゃんと依頼を受けてもらうための理由を用意している。
そのため、拳を握りしめているアウレリオに、怒りを抑えるようなジェスチャーをする。
「依頼を受けてくれれば、俺がお前からの条件として、奥さんの病気を治すための情報を探してもらうように会長に頼んでやる」
「グレミオの情報網でも見つからないのに、商会の情報網なんて当てになるかよ!」
冒険者組合であるグレミオは、人族大陸全土に支店が置かれている。
もしもの時には、協力し合って解決にあたるため、色々な情報の共有がされている。
その中には病気などの情報もあり、アウレリオは奥さんの足を治すための情報を求めた。
しかし、帰って来たのは、完治のための薬がないとのことだった。
大陸全土のグレミオでも駄目だったことなのに、その大陸の南の部分に多くの支店を置いているだけの商会では、薬の情報を得ることなど不可能のようアウレリオには思えた。
「商会だからこその情報網がある。病気とは違うが、以前もグレミオでは入手できなかった素材を、会長がどこからか手に入れたということがある。もしかしたら、会長なら病気の原因や薬の情報が手に入れられるかもしれない。可能性は低いが、ゼロではないと思う」
「…………分かった。まずはその手配書をくれ」
ベラスコは熱くアウレリオを説得する。
正直ベラスコは、この仕事を利用して昔の恩を返せるかもしれないと思っていた。
しかし、ここまでアウレリオが追い込まれているとは思ってもいなかったため、今では本気で会長に頼むつもりだ。
その熱意が伝わったのか、アウレリオはとりあえず話を聞いてくれることになった。
「何だこれ? お前んとこの会長はケセランパサランなんかにこだわっているのか?」
「……俺も何でそこまでとは思うが、会長が狙って外したことはない。きっと何かの結果をもたらすはずだ」
アウレリオが言うように、ベラスコも正直ケセランパサランなんてペットにする以外何の価値もない魔物にしか思えない。
会長の目利きも、今回は外れるのではないかという思いもある。
しかし、それ以上に会長の凄さを側で目の当たりにしてきているため、その思いも僅かにしか浮かんでいない。
説得力としては弱いが、ベラスコも商人としては少々有名になりつつある。
アウレリオもそんなベラスコが言うのであればと、渋々納得した。
「Aランクを何組か送ったが、あっさり失敗している」
「そんなのできるような人間なんてある程度いるだろ?」
ベラスコは、これまでこの依頼を失敗した人間たちを説明する。
どのような人間を送って、分かっている範囲の情報で敵のことを少しでも分かってもらう為だ。
しかし、帰ってきた質問は、ズレたものだった。
「……お前のように天才ならそう思うかもしれないが、まともな人間はSSランクまで行くまでにどれだけの鍛錬が必要なのか分からないだろ?」
「そうなのか?」
S以上のランクになるには、まともな訓練じゃ慣れないのが一般常識だ。
しかし、一気にランクアップしていっただけあって、天才のアウレリオは一般人のことが理解できない。
「受けてくれるか?」
「ケセランパサランの奪取だけで良いんだろ? だったら、受けるさ!」
僅かな可能性でも、妻の病を治すための情報が得られるのならアウレリオとしてはやるしかない。
色々な説明後のベラスコからの承諾確認に、頷きを返したのだった。
「全ての手配は俺に任せろ!」
「あぁ、頼んだ!」
SSSランク取得も目前まで行っていた程の実力を持つアウレリオなら大丈夫だと、ベラスコは安堵した。
そして、すぐにアウレリオが依頼へ向けて動き出せるように、奥さんの看病をしてくれる人間の手配などを開始した。
アウレリオと諸々の話し合いをし、翌々日には出発させることができたのだった。
「ベラスコか……、何の用だ?」
キャタルピルの町の少し外れにある小さな家に、ある男が尋ねる。
ケイたちを追っている商会の会長の秘書をしている、ベラスコという男だ。
ノックをして家の中を入っていくと、すぐにベラスコの目的の相手に会うことができた。
この家の主人のアウレリオだ。
ベッドに横になっている女性に、水を与えていたところのようだ。
「すまんが、うちの会長の依頼を受けてほしくてな……」
「……場所を変えよう」
会長の命令を受けて高ランクの冒険者へ依頼をするとなった時、ベラスコの頭に浮かんだのがこのアウレリオだ。
今は冒険者としての依頼はこなさず、近隣の魔物を狩って資金を得るだけの生活になっている。
ここで仕事の話をするのは、アウレリオにとって都合が悪い。
なので、外で話をするように促した。
「……分かった」
ベラスコもアウレリオの状況が分かっていて来たので、その指示に素直に従った。
「……お前も分かっているだろ? 俺の状況を」
「あぁ……」
近くのカフェに入り、改めて仕事の話を始めると、アウレリオは遠回しにベラスコに断りの言葉を言ってきた。
アウレリオが冒険者としての仕事をしなくなった、というより出来なくなったのは、彼の奥さんのことが関係している。
そのことと、断られるのが分かった上で、ベラスコは今回アウレリオに頼むことにしたのだ。
今の商会に入ってすぐの頃、ベラスコとアウレリオは出会った。
下っ端の下っ端として働いていたベラスコが仕事で他の町へと商品を運んだ帰り、魔物に襲われている所を救ってもらったというのが出会いだ。
それ以降も何度か護衛の仕事を頼んだりしたこともあり仲良くなったが、アウレリオはあっという間にランクが上がっていったため、それ以降は仕事を頼むことはなくなっていった。
ベラスコにとっては命の恩人という思いがまだあり、その恩を返していないとずっと心に残っていた。
アウレリオが結婚して、冒険者として更に高みに登っていくと思っていたのだが、その奥さんが突如病にかかった。
足先から壊死していく原因不明の病で、両足を切断することになってしまい、現在は寝たきりの状態だ。
それ以降、SSランクまで上り詰めていた仕事をやめ、アウレリオは奥さんの看病をするために遠出をしなくなった。
この世界には欠損した四肢を再生する魔法があり、奥さんの足も再生しようと思えばできる。
教会に行けば再生魔法をしてもらえるが、かなりの金額を要求される。
冒険者として高ランクにまでいったアウレリオなら、資金集めはそれ程苦にならないため、再生してもらうことはできる。
しかし、医者に診てもらったが、奥さんの病気は原因がいまだによく分かっておらず、完治はしていない。
病気が治っていないため、魔法で再生したとしてもまた壊死して切断をするということの繰り返しになる。
その苦痛に耐えられず、奥さんはかなり精神的に参ってしまい、最近はアウレリオとも話さなくなりつつある。
看病をしているアウレリオはこの病気の完治を目指しているが、その為の薬が手に入らないと分かり、もうどうしていいか分からなくなっている。
なんとか奥さんの看病をしているが、いつアウレリオの心が折れてもおかしくない状況だとベラスコは見ている。
「お前の状況を分かっていて依頼をする」
「無理だ!」
アウレリオの状況が分かった上で、ベラスコは依頼しようとするが、アウレリオは眉間にしわを寄せて再度断る。
苦しみと怒りが混じっているような表情だ。
「話を聞け! お前にとってもいい話だ!」
「…………どういうことだ?」
これ以上下手に頼むと殴られかねない雰囲気だが、ベラスコもちゃんと依頼を受けてもらうための理由を用意している。
そのため、拳を握りしめているアウレリオに、怒りを抑えるようなジェスチャーをする。
「依頼を受けてくれれば、俺がお前からの条件として、奥さんの病気を治すための情報を探してもらうように会長に頼んでやる」
「グレミオの情報網でも見つからないのに、商会の情報網なんて当てになるかよ!」
冒険者組合であるグレミオは、人族大陸全土に支店が置かれている。
もしもの時には、協力し合って解決にあたるため、色々な情報の共有がされている。
その中には病気などの情報もあり、アウレリオは奥さんの足を治すための情報を求めた。
しかし、帰って来たのは、完治のための薬がないとのことだった。
大陸全土のグレミオでも駄目だったことなのに、その大陸の南の部分に多くの支店を置いているだけの商会では、薬の情報を得ることなど不可能のようアウレリオには思えた。
「商会だからこその情報網がある。病気とは違うが、以前もグレミオでは入手できなかった素材を、会長がどこからか手に入れたということがある。もしかしたら、会長なら病気の原因や薬の情報が手に入れられるかもしれない。可能性は低いが、ゼロではないと思う」
「…………分かった。まずはその手配書をくれ」
ベラスコは熱くアウレリオを説得する。
正直ベラスコは、この仕事を利用して昔の恩を返せるかもしれないと思っていた。
しかし、ここまでアウレリオが追い込まれているとは思ってもいなかったため、今では本気で会長に頼むつもりだ。
その熱意が伝わったのか、アウレリオはとりあえず話を聞いてくれることになった。
「何だこれ? お前んとこの会長はケセランパサランなんかにこだわっているのか?」
「……俺も何でそこまでとは思うが、会長が狙って外したことはない。きっと何かの結果をもたらすはずだ」
アウレリオが言うように、ベラスコも正直ケセランパサランなんてペットにする以外何の価値もない魔物にしか思えない。
会長の目利きも、今回は外れるのではないかという思いもある。
しかし、それ以上に会長の凄さを側で目の当たりにしてきているため、その思いも僅かにしか浮かんでいない。
説得力としては弱いが、ベラスコも商人としては少々有名になりつつある。
アウレリオもそんなベラスコが言うのであればと、渋々納得した。
「Aランクを何組か送ったが、あっさり失敗している」
「そんなのできるような人間なんてある程度いるだろ?」
ベラスコは、これまでこの依頼を失敗した人間たちを説明する。
どのような人間を送って、分かっている範囲の情報で敵のことを少しでも分かってもらう為だ。
しかし、帰ってきた質問は、ズレたものだった。
「……お前のように天才ならそう思うかもしれないが、まともな人間はSSランクまで行くまでにどれだけの鍛錬が必要なのか分からないだろ?」
「そうなのか?」
S以上のランクになるには、まともな訓練じゃ慣れないのが一般常識だ。
しかし、一気にランクアップしていっただけあって、天才のアウレリオは一般人のことが理解できない。
「受けてくれるか?」
「ケセランパサランの奪取だけで良いんだろ? だったら、受けるさ!」
僅かな可能性でも、妻の病を治すための情報が得られるのならアウレリオとしてはやるしかない。
色々な説明後のベラスコからの承諾確認に、頷きを返したのだった。
「全ての手配は俺に任せろ!」
「あぁ、頼んだ!」
SSSランク取得も目前まで行っていた程の実力を持つアウレリオなら大丈夫だと、ベラスコは安堵した。
そして、すぐにアウレリオが依頼へ向けて動き出せるように、奥さんの看病をしてくれる人間の手配などを開始した。
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