エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第141話

「失礼します!! 奴ら陛下が地下にいることに気付いたようです!!」


「チッ!!」


 足音に反応して地下牢入り口付近で敵の接近を確認した兵が、王であるベルトランのいる隠し部屋に入って来た。
 その隣の部屋では、床に魔法陣が描かれた部屋で魔導士たちが魔力を込めている最中だ。
 それを小窓から眺めつつ、その報告を受けたベルトランは舌打ちをする。


「時間が足りない! どうにか時間を稼がないと……」


 封印を解くには、もう少し時間がかかる。
 この隠し部屋が見つからないという可能性にかけるには、都合がよすぎるため、何としても時間を稼いで封印を解く時間を稼ぎたい。


「そうだっ!!」


 時間を稼ぐ方法を考えたベルトランは、ある方法を思いつく。


「牢の中には罪人がいるだろ?」


「はい……」


 突然の敵の強襲で、牢の中の罪人のことは誰もが忘れていた。
 ここの上の牢にいる2人は、罪人とは言ってもまだ使い道があるため、本来なら緊急時は他の場所へ移動させたりする。
 しかし、建国祭の警備でほとんどの兵が出払っていたため、移動させることもできず、今もそのままの状態になっている。


「こうなったら罪人でも構わん。牢に入っている者を出してしまえ!!」


「しかし……」


 城内の牢に入っているのは殺人などの凶悪犯で、大抵は労働奴隷として使う予定になっている。
 あとは刑を執行する期日を待つだけなのだが、今は敵を足止めすることに使える。
 そのため、ベルトランはそいつらを開放することを決定した。
 しかし、命令された兵は渋い表情をし、ベルトランの考えに反論をのべようとする。
 たしかに、奴隷として使い潰すことが決まっていると言っても、所詮は凶悪犯の奴らは使える。
 ただ、奴らにはまだ奴隷紋が付けられていない。
 その状態で牢から出したなら、敵と戦わずに逃げ出す可能性が高い。
 それでは何の時間稼ぎにもならない。


「構わん!! もしも敵を撤退させることができたら釈放してやるとでも言っておけ!!」


「りょ、了解しました!!」


 兵の者が意見を言う前に、ベルトランは強い口調で命令する。
 牢の者たちが戦わずに逃げる可能性もあるが、城の外には王都に散らばっていた兵たちが集まって来ているはず。
 そんな包囲のなかを抜け出せるわけがない。
 城から逃げ出そうとも、すぐに捕まるか、始末されるだけだ。
 敵を始末できるなら、これほど国のためになることはない。
 そうなれば、ベルトランは本気でそのまま釈放してしまってもいいとさえ思っている。
 そのため、ベルトランは牢の鍵を開けてくるように兵に指示を出し、それを敬礼で答えた兵は、慌てて隠し部屋から飛び出していったのだった。












「んっ!? 何だ? 貴様ら……」


 リカルドを先頭にし、その少し後ろについて階段を下りてきたケイたちだったが、牢が立ち並ぶフロアに着いた時、2人の男が更に地下へと続く階段を塞ぐように待ち伏せていた。
 ボーダーの上下に、足にはチェーンのついた鉄球が付けられているところを見ると、恐らくこの2人は囚人だろう。
 その男たちに対し、リカルドは問いかけた。


「おぉ! 獣人なんて初めて見るぜ……」


「こいつらを殺れば釈放だってんだろ?」


 リカルドが問いかけているにもかかわらず、2人は無視するように話し合う。
 久々に牢の外に出られて気分が高揚しているせいもあってか、テンションが高い。


「こいつら、牢に入れられていた者たちでは?」


「なるほど……」


 返答してこない2人に対し、リカルドはこめかみに血管を浮かべていて、今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。
 ケイはその姿から察知していたので、彼らが囚人だということをリカルドへ伝えた。
 獣人国ではこのような格好をさせないのだろうか。


「っ!? そいつエルフじゃねえか!?」


「なにっ!? マジかよ……」


 リカルドへ伝えた時に気が付いたのだろう。
 囚人の2人は、ケイを見てまたもテンションが上がった。


「………………」


 そのノリが更にリカルドの怒りに火を注ぐ。
 拳を握ったリカルドは、2人に一歩近寄り注意を引き付ける。


「邪魔をするな。死にたくないだろ?」


「「………………」」


 見下すように嘲笑いながらリカルドが告げると、囚人の2人はさっきまでの笑みを消してリカルドを睨みつけた。


「……獣風情が舐めた口を利いてんじゃねえよ!」


「城の奴らに言われたからとかじゃなく、てめえら単純に気に入らねえわ……」


 リカルドの態度が相当頭にきたらしく、2人は釈放のことなど忘れて本気になったようだ。
 どうやらこの囚人たちは口だけでないようで、いつの間にか魔闘術を発動させていた。


「父上! こいつは俺たちに任せて、ケイ殿と共に地下へ……」


 そこで前に出てきたのは、エリアスとファウストだった。
 魔闘術を使える相手となると、いくら連れて来たカンタルボス兵が精鋭だと言っても危険だ。
 かと言って、ケイたちエルフに無駄に魔力を使わせるわけにはいかない。
 それに、この先に何か強力な何かが封印されているらしいし、もしもそれが解かれた時を考えると、リカルドが行かないとケイが戦わなければならなくなる。
 逃走用の転移のために、ケイに魔力を使わせるわけにはいかない。
 そのことを考えると、この2人の相手は自分たちがした方が良いと判断したのだ。


「任せて大丈夫か?」


「「もちろん!」」


 父の問いに、2人の息子は自信ありげに頷く。
 それを見たリカルドは、ケイと目を合わせて頷き合うと、囚人2人の背後にある階段に向かって走り出したのだった。





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