エルティモエルフォ ―最後のエルフ―
第131話
人族に攻め込まれたが、何とか追い返すことができたケイたち。
それから1か月経ち、一応前のように平和な島に戻ったことを伝えに、ケイはカンタルボス王国のリカルド王に会いに来た。
「えっ? 今なんと?」
報告をしたケイに対し、リカルドは思わぬ提案をしてきた。
それを聞いたケイは、自分の耳を疑うようにリカルドへ聞き返した。
「ケイ殿たちの島に攻め込んで来た、たしか……リシケサ王国と言っただろうか?」 
「はい……」
3度の襲来で、島のみんなも嫌でも覚えてしまった。
そのため、リカルドの問いに対し、ケイはすぐに返事をする。
「奴らに報復をしておこうと思ってな……」
「…………………」
やはり、聞きなおしても同じ内容だった。
ケイはリカルドの言っている意味が分からず、返す言葉が見つからなかった。
もちろん、言っている意味は分かっている。
意味というより、理由が分からなかった。
「我々にそのつもりは無いのですが?」
ケイが言うように、こちらから攻め込むということは考えたこともなかった。
もしもまた攻め込まれるようなことがあった場合、ケイ自身の考えとしては、敵の数次第では島の放棄をすることに躊躇しないと思っている。
たしかに、転生してから何十年もこの島で過ごしてきたので、愛着のようなものはある。
だが、島のみんなの命に比べれば、たいしてこだわるような事ではない。
簡単に攻め込むと言うが、そもそもそんな兵が島にはいない。
カンタルボスから来ている駐留兵は、数はたいした人数ではないし、以前のように戻ったと言っても、食料等のことからまだ増やせる状況でもない。
攻め込めるという発想が、ケイの中で浮かばないのは当然である。
「それは駄目だ。また攻めてくる可能性がある」
素直に自分の思いを告げたケイに対し、リカルドは難色を示す。
人族はしつこい国が多い。
獣人大陸にもちょこちょこ面倒事を持ち込んでくるので、一度ガツンとやらないと、再度ここへ攻め込んでくる恐れがある。
今回はなんとかなったが、次は滅ぼされるかもしれない。
「それに、完全にケイ殿たちエルフがいるとバレたのだ。リシケサだけでなくて他の国も狙ってくるかもしれないぞ」
リシケサだけがエルフを狙っているのではない。
人族大陸の東側はともかく、西側に位置する国はどこも狙ってくる可能性がある。
そんなのいちいち相手にしていたら、カンタルボス王国でも身がもたない。
「これを期に、エルフはエルフでも昔とは違うと知らしめた方が良いのではないか?」
「なるほど……」
たしかに、人族の国はリシケサだけではない。
リシケサが、追い返されたという恥を他国へ知られないようにするとは思うが、人の口に戸は立てられない。
きっとそのうち、他の国に知られることになるだろう。
もしかしたら、もう知られている可能性もあるかもしれない。
そう考えると、リカルドの言うことも正しい。
「軍はうちが出す。ケイ殿とレイナルド殿とカルロス殿には恐怖を与える象徴として参戦してもらいたい」
「……分かりました。帰って相談した後、また訪問させていただきます」
あまり気ノリしないが、いつ、どこの国が攻めて来るかもしれないと怯えて暮らすより、一発キメて2度と関わりたくないと思わせる方が得策だろう。
軍もカンタルボスが出してくれるようだし、取りあえず、島に帰ってこのことを相談して決めた方が良いだろう。
そう思い、ケイはこの話を持ち帰ることにした。
「出来れば早めに決めてもらえるとありがたい」
「分かりました」
リシケサの撤退という恥が他国へ知れっ渡っていけば、今度は自分たちがと思う国が準備を始めるだろう。
その準備には時間がかかるとは言っても、国の経済力によってどれだけの期間でできるか分からない。
そう考えると、準備を始める前や、大量投資をして後戻りできなくなると言うようなことになる前に攻め入るのがいい。
リカルドの言うように、速く決断した方がいいことだ。
ケイもそのことが分かっているので、了承したのだった。
“バンッ!!”
話はひとまず終わり、次はいつケイたちの島に遊びに行けるだろうかとボヤくリカルドをなだめたりと、たわいもない話をした後、ケイがそろそろお暇しようとした。
そこへ、ケイたちがいる執務室の扉を勢いよく開けて、1人入室してくる者がが現れた。
「ケイ様!!」
「おやっ? どうもルシア嬢」
入室者はリカルドの娘のルシア王女だった。
ルシアの目当てはケイだったようで、パタパタとケイの近くへ駆け寄って来た。
リカルドとの仲がまた良くなったからか、彼の子供たちもケイと話す事が増えてきた。
それは彼女も同じだ。
「コラッ! ノックもせずに入ってくるとは失礼だろ!」
「ひっ!? すいませんケイ様、お父様」
ケイなら探知で気付くし、仲良くなったこの国で強襲されるようなことはないと信頼している。
しかし、ノックも無しに入って来たのは、王女としてたしかに良くない。
ちょっときつめにリカルドに怒られたことで、ルシアは体を縮こまらせた。
「まぁまぁ、リカルド殿、私は気にしませんから……」
こんな可愛い入室者なら、ノックなんて気にしない。
子供が好きなケイは、穏便に済ませようとリカルドをなだめた。
だからと言って、ケイはロリコンではない。
「ったく……」
客人であるケイが許しているので、リカルドとしてはそれ以上ルシアを叱れなくなる。
軽く不満げな顔のまま、リカルドはルシアから目をそらした。
「私に何か?」
「今日はラウルは来てないのですか?」
リカルドの怒りも一応治まったので、改めてルシアに入室の理由を尋ねると、帰ってきた答えはケイの思った通りだった。
カンタルボスに避難している間に、美花はレイナルドの息子のラウルをリカルドたちに紹介していた。
エルフのクウォーターのラウルは、特徴の長耳はなく、人族と同じ耳をしている。
しかし、獣人のハーフなので、母の特徴である尻尾が生えている。
ただ、エルフの特徴が全くないという訳ではない。
幼いながらに容姿は端麗だ。
それが要因という訳ではないとは思うが、年齢の近いルシアはラウルのことが気に入ったようで、短い間だがよく一緒にいたらしい。
「……すいません。今日は連れてきておりません」
「そうですか……」
ケイの返答に、ルシアはあからさまに落ち込む。
随分とラウルのことを気に入ってくれているようだ。
そんなに落ち込まれると、ケイはなんとなく申し訳なくなる。
「次来るときには連れてきますよ。よろしいですか? リカルド殿」
「う、うむ。ケイ殿がよろしければ……」
娘がこれ以上失礼なことをしないか心配なのだろうか、リカルドは急に口数が減っていた。
ケイの問いに対して、慌てたように返事をした。
「ありがとうございます! ケイ様! お父様!」
「あっ! コラッ! 走るな!」
聞きたいことが聞けて嬉しくなったのだろう。
ルシアは嬉しそうに礼を言うと、部屋から出て行ったのだった。
そこでも室内を走るという失礼なことをし、リカルドはルシアへ声をあげる。
「ケイ殿……」
「はい?」
子供は元気なのが一番。
ちょっとお転婆そうだが、そのうちルシアもマナーができるようになるだろう。
ケイは走っていくルシアをそのまま見送った。
すると、リカルドがケイに真剣な顔で話しかけてきた。
何か良くないことでもあったのかと、ケイは首を傾げた。
「ラウル坊にうちのルシアはどうだろうか?」
「…………………」
突然の言葉に、ケイは本日の2度目の思考停止に陥った。
「えっ? 今なんと?」
たしかに、ルシアはラウルを好いている様ではあるが、まだ子供の恋心でしかない。
もしかしたら、すぐに心変わりするかもしれない。
そのため、ケイは聞いていなかったように、またも2度聞きをすることになったのだった。
それから1か月経ち、一応前のように平和な島に戻ったことを伝えに、ケイはカンタルボス王国のリカルド王に会いに来た。
「えっ? 今なんと?」
報告をしたケイに対し、リカルドは思わぬ提案をしてきた。
それを聞いたケイは、自分の耳を疑うようにリカルドへ聞き返した。
「ケイ殿たちの島に攻め込んで来た、たしか……リシケサ王国と言っただろうか?」 
「はい……」
3度の襲来で、島のみんなも嫌でも覚えてしまった。
そのため、リカルドの問いに対し、ケイはすぐに返事をする。
「奴らに報復をしておこうと思ってな……」
「…………………」
やはり、聞きなおしても同じ内容だった。
ケイはリカルドの言っている意味が分からず、返す言葉が見つからなかった。
もちろん、言っている意味は分かっている。
意味というより、理由が分からなかった。
「我々にそのつもりは無いのですが?」
ケイが言うように、こちらから攻め込むということは考えたこともなかった。
もしもまた攻め込まれるようなことがあった場合、ケイ自身の考えとしては、敵の数次第では島の放棄をすることに躊躇しないと思っている。
たしかに、転生してから何十年もこの島で過ごしてきたので、愛着のようなものはある。
だが、島のみんなの命に比べれば、たいしてこだわるような事ではない。
簡単に攻め込むと言うが、そもそもそんな兵が島にはいない。
カンタルボスから来ている駐留兵は、数はたいした人数ではないし、以前のように戻ったと言っても、食料等のことからまだ増やせる状況でもない。
攻め込めるという発想が、ケイの中で浮かばないのは当然である。
「それは駄目だ。また攻めてくる可能性がある」
素直に自分の思いを告げたケイに対し、リカルドは難色を示す。
人族はしつこい国が多い。
獣人大陸にもちょこちょこ面倒事を持ち込んでくるので、一度ガツンとやらないと、再度ここへ攻め込んでくる恐れがある。
今回はなんとかなったが、次は滅ぼされるかもしれない。
「それに、完全にケイ殿たちエルフがいるとバレたのだ。リシケサだけでなくて他の国も狙ってくるかもしれないぞ」
リシケサだけがエルフを狙っているのではない。
人族大陸の東側はともかく、西側に位置する国はどこも狙ってくる可能性がある。
そんなのいちいち相手にしていたら、カンタルボス王国でも身がもたない。
「これを期に、エルフはエルフでも昔とは違うと知らしめた方が良いのではないか?」
「なるほど……」
たしかに、人族の国はリシケサだけではない。
リシケサが、追い返されたという恥を他国へ知られないようにするとは思うが、人の口に戸は立てられない。
きっとそのうち、他の国に知られることになるだろう。
もしかしたら、もう知られている可能性もあるかもしれない。
そう考えると、リカルドの言うことも正しい。
「軍はうちが出す。ケイ殿とレイナルド殿とカルロス殿には恐怖を与える象徴として参戦してもらいたい」
「……分かりました。帰って相談した後、また訪問させていただきます」
あまり気ノリしないが、いつ、どこの国が攻めて来るかもしれないと怯えて暮らすより、一発キメて2度と関わりたくないと思わせる方が得策だろう。
軍もカンタルボスが出してくれるようだし、取りあえず、島に帰ってこのことを相談して決めた方が良いだろう。
そう思い、ケイはこの話を持ち帰ることにした。
「出来れば早めに決めてもらえるとありがたい」
「分かりました」
リシケサの撤退という恥が他国へ知れっ渡っていけば、今度は自分たちがと思う国が準備を始めるだろう。
その準備には時間がかかるとは言っても、国の経済力によってどれだけの期間でできるか分からない。
そう考えると、準備を始める前や、大量投資をして後戻りできなくなると言うようなことになる前に攻め入るのがいい。
リカルドの言うように、速く決断した方がいいことだ。
ケイもそのことが分かっているので、了承したのだった。
“バンッ!!”
話はひとまず終わり、次はいつケイたちの島に遊びに行けるだろうかとボヤくリカルドをなだめたりと、たわいもない話をした後、ケイがそろそろお暇しようとした。
そこへ、ケイたちがいる執務室の扉を勢いよく開けて、1人入室してくる者がが現れた。
「ケイ様!!」
「おやっ? どうもルシア嬢」
入室者はリカルドの娘のルシア王女だった。
ルシアの目当てはケイだったようで、パタパタとケイの近くへ駆け寄って来た。
リカルドとの仲がまた良くなったからか、彼の子供たちもケイと話す事が増えてきた。
それは彼女も同じだ。
「コラッ! ノックもせずに入ってくるとは失礼だろ!」
「ひっ!? すいませんケイ様、お父様」
ケイなら探知で気付くし、仲良くなったこの国で強襲されるようなことはないと信頼している。
しかし、ノックも無しに入って来たのは、王女としてたしかに良くない。
ちょっときつめにリカルドに怒られたことで、ルシアは体を縮こまらせた。
「まぁまぁ、リカルド殿、私は気にしませんから……」
こんな可愛い入室者なら、ノックなんて気にしない。
子供が好きなケイは、穏便に済ませようとリカルドをなだめた。
だからと言って、ケイはロリコンではない。
「ったく……」
客人であるケイが許しているので、リカルドとしてはそれ以上ルシアを叱れなくなる。
軽く不満げな顔のまま、リカルドはルシアから目をそらした。
「私に何か?」
「今日はラウルは来てないのですか?」
リカルドの怒りも一応治まったので、改めてルシアに入室の理由を尋ねると、帰ってきた答えはケイの思った通りだった。
カンタルボスに避難している間に、美花はレイナルドの息子のラウルをリカルドたちに紹介していた。
エルフのクウォーターのラウルは、特徴の長耳はなく、人族と同じ耳をしている。
しかし、獣人のハーフなので、母の特徴である尻尾が生えている。
ただ、エルフの特徴が全くないという訳ではない。
幼いながらに容姿は端麗だ。
それが要因という訳ではないとは思うが、年齢の近いルシアはラウルのことが気に入ったようで、短い間だがよく一緒にいたらしい。
「……すいません。今日は連れてきておりません」
「そうですか……」
ケイの返答に、ルシアはあからさまに落ち込む。
随分とラウルのことを気に入ってくれているようだ。
そんなに落ち込まれると、ケイはなんとなく申し訳なくなる。
「次来るときには連れてきますよ。よろしいですか? リカルド殿」
「う、うむ。ケイ殿がよろしければ……」
娘がこれ以上失礼なことをしないか心配なのだろうか、リカルドは急に口数が減っていた。
ケイの問いに対して、慌てたように返事をした。
「ありがとうございます! ケイ様! お父様!」
「あっ! コラッ! 走るな!」
聞きたいことが聞けて嬉しくなったのだろう。
ルシアは嬉しそうに礼を言うと、部屋から出て行ったのだった。
そこでも室内を走るという失礼なことをし、リカルドはルシアへ声をあげる。
「ケイ殿……」
「はい?」
子供は元気なのが一番。
ちょっとお転婆そうだが、そのうちルシアもマナーができるようになるだろう。
ケイは走っていくルシアをそのまま見送った。
すると、リカルドがケイに真剣な顔で話しかけてきた。
何か良くないことでもあったのかと、ケイは首を傾げた。
「ラウル坊にうちのルシアはどうだろうか?」
「…………………」
突然の言葉に、ケイは本日の2度目の思考停止に陥った。
「えっ? 今なんと?」
たしかに、ルシアはラウルを好いている様ではあるが、まだ子供の恋心でしかない。
もしかしたら、すぐに心変わりするかもしれない。
そのため、ケイは聞いていなかったように、またも2度聞きをすることになったのだった。
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