エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸

第125話

「ハッ!」


「くっ!?」


 セレドニオの剣がケイの肩を掠める。
 遠距離戦をしていては無駄に時間がかかるため、接近戦を選んだのはケイの方だ。
 だが、圧倒的に有利という訳ではない。
 2人の攻撃が僅かにだがケイに掠り、傷の数を増やしている。


「がっ!?」


 剣を振って体制が崩れたセレドニオに対し、ケイは反撃に出る。
 セレドニオの顔面に蹴りを叩きこもうと、左足を上げる。
 すると、セレドニオは左腕を上げてその蹴りを受け止める。
 そのままケイが銃口を向けると、セレドニオはバックステップして距離をとった。
 蹴った感触からすると、恐らく防いだ左腕はヒビが入ったのではないだろうか。
 その証拠に、セレドニオは左手を体で隠すようにしている。
 ケイの銃撃の方は警戒されているので2人には当たらないでいるが、打撃攻撃の方は躱しきれず直撃しているため、2人は怪我が増えてきている。


「オラッ!!」


「っ!?」


 セレドニオの相手が一旦済んだと思ったら、今度はライムンドが槍を振り下ろし、斬りかかって来た。
 ケイは体を半身にしてそれを避ける。


「ハッ!!」


「くっ!?」


 攻撃を避けてもライムンドの攻撃は続き。体重の乗った拳がケイの顔面に迫る。
 ケイはそれを腕を上げて防ぐ事に成功する。
 しかし、かなりの威力の拳に、防いだ腕が軽い痛みと共に痺れる。


「くらえやっ!!」


 腕が痺れて手の動きが鈍い。
 それがバレていたのか、ライムンドはそのまま槍で突きを放ってきた。


「ぐっ!?」


 体を回転させて躱そうとするが、ケイは躱しきれず三叉の槍の残ったていた横の刃で横っ腹を浅く斬られる。


「このっ!!」


「うごっ!?」


 避ける時の回転の力を利用して、ケイは回し蹴りを放つ。
 それがライムンドの腹に入り、吹き飛ばした。


「くぅ……」


 2人と距離がとれたことで、ケイは斬られた横っ腹を抑えて顔を歪める。
 傷は浅いとは言っても、2人相手に体中を少しずつ怪我を負わされ、ケイの服は赤く染まってきている。
 ケイの攻撃も当たっているので、2人も弱ってきてはいるが、ケイの動きの方がどんどんと鈍くなってきているように思える。


『くそっ!! 魔力が足りない。やっぱり考えが甘かったな……』


 魔法が得意なエルフの一族。
 距離を取って強力な魔法を放って敵を討つのがセオリーなのだが、現在のケイは魔力がかなり減っている。
 60人程の人間を長距離転移したことで、いつもの10分の1もない状態だ。
 できる限り省エネモードで戦っているが、この2人相手にこれではさすがに無理があったのかもしれない。


『何か、いい方法がないか……』


 このままでは、2人に勝てるかどうかは微妙だ。
 例え勝てたとしても、すんなり他の兵たちが引いてくれるかは分からない。
 魔力が尽きれば、ケイは普通の兵の1人と同等程度の戦力しかなくなる。
 その状態で囲まれれば、あっという間に捕まるか殺されるだろう。
 できる限り魔力をつかわず、今の戦力を維持できないかと、ケイは頭をフル回転させていた。


「ハッ!!」「ダリャッ!!」


「……ったく、考える時間を寄越せっての!」


 交互に向かって来ていたセレドニオとレイナルドだが、アイコンタクトでもしたのだろうか、2人同時にケイへと接近してきた。


「ハッ!!」


「っ!?」


 迫り来る途中、ライムンドは魔法を放った。
 ただの魔力球のため、ケイはその攻撃を不思議に思う。
 その程度の魔力球が効くとでも思ったのだろうか。
 しかし、魔力球はケイの足下の地面にぶつかり、土煙を舞わせた。


「ハーッ!!」「くらえっ!!」


 狙いは土煙で視界を遮っての攻撃かと思ったが、それは通用しないことは分かっているはず。
 何をする気なのかとケイ思っていると、途中で足を止めた2人は魔力を合わせて魔法を放ってきた。
 無数の氷の棘のような物を作り出し、それをケイに向かって放出してきた。
 ケイと息子たちには簡単にできる魔法だが、人族が氷魔法を使うのは結構難しいらしい。
 2人が出したこの魔法も、ライムンドが水を出して、それをセレドニオが冷やすといった、2人の連携があっての魔法のようだ。


「ぐあぁっ!?」


 躱そうにも、今のケイの魔力では躱せるほどの速度が出せない。
 それでも魔力を多く出して、懸命に防御を高める。


「ハハハ……」


「その両手では自慢の武器も使えまい?」


 魔法攻撃の結果を見て、ライムンドは笑顔を見せる。
 その後のセレドニオが言ったように、ケイの両手には氷の棘が貫通し、両手がもう使えない状況になっていたからだ。
 メイン武器である銃を落としていないのが不思議なくらいだ。


「万事休す…………か?」


 この状態では足しか使えない。
 魔力も少ないなか、これ以上この2人と戦う術が思いつかない。


「これ以上は戦えまい? 私たちに怪我を負わせたのは許しがたいが、貴様は貴重なエルフだ」


 セレドニオの言いたいことは分かる。
 どうせ国に連れて帰って奴隷なり、実験なりするつもりなのだろう。


「命ばかりは奪わないでやろう。今すぐ魔闘術を解け!」


「まぁ、ちょっと腹いせはさせてもらうがな……」


 セレドニオと違い、ライムンドは何発も殴られたりしたことを許すつもりはない。
 回復師もいることだし、ハーフの2人同様に、いたぶるつもりでいるようだ。


「……………………」


“フッ!!”


 2人の言葉を聞いたケイは、俯いて少し考えた後、痛みで震える腕を動かし銃をホルスターにゆっくり戻すと、纏っていた魔力を解除したのだった。





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